『型世言』第25回
     「悪人は妻と財産を失い、
             善人は奥さんと資産を得る」


  翻訳→2005年度「中国文学基礎講読Bクラス(担当・上野隆三)」受講生一同
        =2005年度立命館大学文学部人文学科中国文学専攻2回生Bクラス24名一同。



  次々起こる災難と幸運はまったくもって測りがたい。ユラユラ揺れるロウソクの風前の光のよう。
  桑の田んぼが青い海へと変わるのはいつの日か。人生と言うのは天命に安んじて過ごすもの。
  塩田が果てなく広がる最も肥沃な土地。砂を焼き塩の素を作りますここはひとの集うところ。
  漁に塩に一山当てようとするひとばかり。そこがある日みぞに沈もうとは誰が知ろう。
  狂風と激水は高さ万丈。百万の生命たちまちに死す。
  ぼろ屋はすっからかんとなって魚や亀がプカプカと。「父ちゃん」「母ちゃん」どうして側におりましょう。
  波に追われ波に随いああ悲しいかな。ウキクサみたいに波のまにまを漂うばかり。
  生まれつきの乱暴者心はワニのごとく。危機に際してそこ冷酷な心のなんと残酷なことでしょう。
  金と玉とはもう自分の財布におさまったと見て。美人はジャブジャブ波間に躍る。
  ある日貧乏小僧が金持ちおじさんに早変わり。かの猗頓や陶朱とは似ても似つかぬ。
  なんと波間を漂った女性は。その乱暴者の婚約者であったのです。
  結婚したのにまた結婚したと言い。役所に訴えむだな裁判を起こします。
  あーあひとを失い財産もすっからかん。勝ったひとは自称幸の薄いひと。
  始めはピンチと信じていたがものを数え挙げるにおよんで。きりふだ使えば天の仕業になやむこともなし。

 天地の間の禍福というものは常ならぬもので、ひとつの考えだけを正しいと思い込んで突き進んではなりません。利のあるところには、実は害がひそんでいるものなのです。たとえば浙江省でありますが、杭州・嘉興・寧波・紹興・台州・温州といった町はみな海に面しております。この海からは、サンゴ・メノウ・夜光の珠・シャコガイ・タイマイ・鮫膀などが産出されます。これらはやはり簡単に手に入る品ではないので、普段人々が得られる大きな利益を生むふたつの物産といえば、海産物と塩でございます。毎日大小の漁船が海に出て、大きな魚や小さな魚にかかわらず、網を使い、捕ってきて売っております。更にまた、石首・マナガツオ・ヒラ・オコゼ・ウナギのようなものもあり、干物を作ります。イカ・海草・クラゲなども干物にいたします。その他にエビの卵・干しエビ・海苔・テングサ・ツバメの巣・フカヒレ・はまぐり・亀の甲羅・巻貝・風饌・トビハゼ・二枚貝・魚の浮き袋といったものは、どれもが海から取れものでございます、それらを食用品や商売の種としておりました。

 また沿岸一帯では、砂の上で各々場所を定めて分かれ、製塩業者ごとに分かれて砂を削り濃い塩水を絞り、その濃い塩水を長時間強火で煮詰め塩を作り上げ、商人に売っております。

 これら二つの職業は、魚は漁課、塩は塩課と、ただ国を満たすだけでなく、まださらに浜に住む人々と旅商人をも養い、なんとも莫大な利益を産み出すのです。

 はからずも崇禎元年七月二十三日に、各所で勢いのはげしい風と雨になり、省都と各府県の山と林は風害を受け、塀や家はぼろぼろに崩れて、木は抜け、砂は舞い上がりました。木と石の牌坊は全て風が吹くたびに一回、二回と揺り動かされ、山も崩れすべり落ち、圧死した人や家畜は多くを数えました。近海はさらにひどく、十七時頃、近海の人々が眺めると、海面の黒い風と白い雨の中から、一面の紅い光が輝いては、だんだんと遠くから近づいて参ります。風の音なのか、水の音かも分かりませんが、ただ雷のとどろきや虎が吠える声のようで、こちらへ近づいて参ります。それと申しますのは、

 「天に届かんばかりの激しい波が舞い上がり、荒波が大地を巻き上げてやってきた。雪の波は白く果てしなく広がって、山の頂のようになっては崩れ落ちて平らになる。銀の波は乱れ、山のように押し寄せては崩れ落ちる。一波、二波、三四波、鉄の壁・銅の垣根だろうと怖れるに足らず。五尺、六尺、七八尺、もう垣根の中に波が入ってきてしまいます。大声で叫ぶやら、騒ぐやらしているのは、きっと子を探し妻を捜しているのでありましょう。水面に浮動するやら、流れるやらで、どんな金持ちも貧乏の家も区別できませぬ。細い枝が海を覆っていると思いきや、これは千年の古木が根こそぎ抜けたまま流れているのです。葉が波に流されていると思いきや、これはとても長い堤防が水によって流されているのでした。耳一杯に、声を上げて泣く声の悲しいさまが聞こえて参ります。見渡す限り、水の激しい勢いが目に入ります。まさに、陸地はすべて海となってしまい、村には人っ子一人おりません。無残に死んだ物は遠方の海辺に迷い、先ほど死んだばかりの者は、鬼火となって泣いております。」

 臨海は言うまでもなく、海に通じる江河の港も、すべて等しく一丈あまりも水に浸かり、挙句の果てには家の中まで入り込み、腰掛けは漂い、箱は流され、どこもかしこも遮るものとてありません。逃げて出て行けば、水に溺れて死んでしまい、家の中にいれば、家屋に押しつぶされて死んでしまう。誰が逃れきれましょうか。それに、夜間に水が来てしまったら、眠ったまま溺れてしまい、裸の体を曝け出して水面に漂ってしまうのです。破壊された港と荒れた湾岸ひとつひとつに、それぞれ少なくとも百個の死体が打ち寄せられ、水は赤くそまり、血なまぐさいにおいを放ちました。また被害を受けた杭州・厳州・寧波・紹興・温州・台州の七府では数百万にのぼる家が流され、被害人口は数千万人にもおよびましたが、これらはすべて東南地方を襲った大災害のためでありました。このように海はまた、災害の集まるところでもあるのです。しかし、その間に貧しい者は富み、富める者は貧しくなり、多くの人々は大きく変わってしまいました。金銭を争う者や、物品を奪う物が、多くの事件を引き起こしました。なかには金儲けを企んで、結局のところ妻も財産も失ってしまう。また、人助けをしようとする者もおり、彼は人材も財産も手に入れることとなりました。これは人を戒めるのに極めて適した話でございます。

 さて、海寧県の北郷に、姓が朱の、朱安国という人がおりました。財産は普通の家庭の2つ分あり、年齢は20歳余りでございます。性格はきわめて残酷で凶悪で、しかも悪賢いのです。二年前、ここ海寧県の袁花鎮に住む鄭さんという未亡人の娘を婚約者にしようと決めて、二つの反物と十六両の銀を支払って、今年の十月を選んで縁組をすることになっておりました。彼の一族の中には、数十もの分家がありました。彼の族叔には、朱玉という人がおりまして、彼より二つ年下で、暮らし向きは貧しかったですが、人に親切にするのが好きでございました。朱安国は、彼が年下で貧乏なのをいいことに、いつも彼のことをいじめておりました。

 七月二十三日になると、海水がまず上の方から勢いよく落ちて参りました。東門の防波堤が崩れ、塔の先端は地面に崩れ落ちました。見渡す限りに水がどっと集まってきて注ぎ流れたのです。北郷の低い家屋は、人民・牛や羊・鶏や犬・桑や麻・稲・什器、それぞれ水に流れてすっかりなくなり、高い家屋は、水が二階の床板の上にまで達しました。朱安国はたいそうずる賢く、急いで一隻の船を探し求め、家財道具をすべて船中に運び、一本の極めて大きな木に近づけて繋ぎました。家の中の下僕と取り巻きに船を盗んで来させ、彼は自ら蓑と笠を着て、船の上に立って流れてくる物をすくいあげておりました。この時もうすでに時刻は遅かったのですが、水面をふと見ると二つの箱が浮き、それらを綱で結び付け、その上には十七八歳の女の子が乗っており、老婦人も体を箱の上に横たえているのが目に入りました。漂ってきて、朱安国を見つけると、遠くから叫びます、
「助けて、助けて!助けてくれたなら喜んで品物をもってお礼をします。」

 朱安国は考えます、「この二人の女は、必死にあの箱を気にかけている。きっとよいものが入っているのだろう。」あたりを見回すと人影がありません。彼は悪心を起こし、船を漕いで近づけますと、手にさおを持って、それで婦人をぶっ刺しました。婦人は転げて、慌てて綱のはしをよじりました。娘のほうも箱を揺さぶられて、水の中へまっ逆さま、必死で箱にしがみついております。朱安国はまた一発喰らわして、婦人の手めがけて、上下に懸命に喰らわします。婦人は手が痛くてちょっと力を緩めてしまいました。すると続けざまに二回もんどりうって、もうどこへ行ったか見えなくなってしまいました。朱安国は、急いで箱を取り上げました。ふと見ると、娘の方がまだ浮いたり沈んだりして、箱にしがみつきながら申します、
「旦那さん、どうかどうか、私の命を助けてくれれば、箱をすっかりあなたにあげます。私はあなたの女中になります、だからどうかそうしてください。」

 朱安国が見たところ、それはよい女であった。そして考えることには、「草を斬っても根を除かねば、芽はまた元のように生えてくる。もし私が彼女を生かしておいたならば、私が箱を奪ったことだけでなく、人命をも奪った咎を受けるかもしれん。やはり今回は、心を鬼にせねばならん。」そして申しますには、
「私にはもう嫁がいる、お前に用は無い。」

 彼はそう言うなり、さおで箱を一押しすると、少女の体は箱から引き離されて水面を漂い、素早くもう一押しすると、少女は流されてしまいました。

  天まで打ち寄せる波がザーザー。
  母と娘は漂流しじつに胸が痛みます。
  なんと魚や龍が長江の流れに満ち溢れ。
  思わぬことに人の中にも悪どいオオカミがおりますとは。

 彼がゆっくりと箱を引き寄せてみると、厄介なことに箱の内側には水が一杯に入ってしまっていたので、必死になって船に引っ張り上げました。いくらか水を抜いて、下僕を呼んで船に積み込ませました。夜中まで忙しかったですが、とても上首尾でありました。

 さてあの少女は続けざまに何度かひっくり返り、五・六口水を飲んで、もう死ぬのだと思っておりました。ところが予期せぬ事に、一つの机が突き当たって来たので、死に物狂いで焦って片足で机を止め、身をその上に乗せ、波にゆられて流されて行くうちに、少女は、とある家の門前に突き当たりました。
 そこは正しくあの朱玉の家だったのです。朱玉は水が来るのを見ると、すぐに裸足になりました。裸足になったときには、水はすでに足のあたりまで達しており、急いでテーブルの上へ飛び上がると、水はすでにテーブルのあたりまで達しており、逃げねばならないが、家から逃げるに逃げられず、ただ上の階へ身を移す外に仕方がありませんでした。土塀の崩れる音が聞こえ、あたりの瓦が落ち、家もまたガタガタと音を立て、朱玉はたいそう焦っておりました。また何かが家にぶつかってきて大きな音をたてました。
 「畜生、もうこの家では支えきれんと言うのに、また木がぶつかってくるなんてどうしようもないぞ。」

 黒い影が見えたので内から窓を開けて見ると、机があり、その上に人がしがみついております。その人は窓が開いたのを見ると、蚊の鳴くような声で救いを求めました。朱玉は申します、
「私のこの家だって、水の中にいるのと同じようなもんだ。また揺れたりすれば、あなたみたいに水中に落ちるのは必然で、あんたなんかを助けている場合じゃないんだ。ええい、あんたも俺も運まかせだ、何とかなるだろう。みんな命を賭けて逃げてるんだ。逃げられなければ、また考えるさ。」

 そこで両腕で窓からその女性を死に物狂いで引き上げると、大量の水が滴り落ちました。テーブルはぶつかって動きませんでしたが、それでも引っぱりあげました。今夜は命がどうなるか分からず、一人は嫌というほど濡れて、壁際にしゃがんで水を吐いており、もう一人は、窓辺にもたれかかり水を見つつ焦れていると、夜明けになって雨もしだいに止み、水もだんだんと退いて行きました。朱玉は、楼上でおかゆを作って彼女に食べさせます。彼女に住居を聞くと、彼女は申します。
「姓は鄭、袁花鎮に住んでおりました。父は早くに亡くなったので、母が一人いるだけでございました。昨日、水がきた時、私たち母娘はいくつかの布・銀・銅銭・まわた・二十ほどの絹織物の衣服・首飾りを取り揃えました。また、相手の家が結納用にくれた十六両の金品と、柄物の羽二重二疋、それを小さな黒い箱に詰めて一つに縛り、我々親子はそれにつかまって水の流れるままに漂ってきました。前方の大きな木の下に来ると、船の中の一人の強盗が、母を水の中に押し沈め、また私を水の中に突き落として、箱は全て奪っていきました。その強盗は、あばた面で、二十歳くらいの若者、というような感じでした。もし、また彼を見つけたら、私は彼に返してもらうんです。あなたのおかげで幸いにも私は救われました、私の家はもう全て流されてしまい、母ももう死んでしまい、私には頼れる人おりません。あなたへのお礼の品物とてないので、とにかく私はあなたの女中となりあなたに仕え尽しとうございます。」

すると、朱玉は申します
「その人があなたの箱を奪った証拠はない。それに、あなたはもう婚約しているのなら、あなたを手に入れることなどできない。あと二日、あなたの実家の人や夫の家の人が迎えに来るのを待って、行きなさい。」
珠玉は家で彼女に食事を与え、彼女の服を干してやった。彼女には婚約者がいるため、その場の勢いでどうにかしてやろうといった気持ちはこれっぽっちも無かった。水が引くと、道端では人々が群がって話をしております「ある者がうまくやり、箱を二つ手に入れたそうだ。」「家財をいくつか手に入れた者がいれば、それらを流されてしまった者もいる。」「圧死しかけた者がいれば、幸運にも溺れ死ななかった者もいる。」

朱玉の隣人の張千頭が申しますには、
「うちの隣の朱さんは、幸運にも娘を手に入れたようだ。」

みなが申しますには、
「それは割りに合わないだろう、だって、娘一人分の食い扶持が増える。」

李都管が申します、
「問題ないじゃないか。その娘を捜しに来る者があれば、結局は食事代を払ってもらえるし、お礼も出る。捜しに来る人がいなくても、娘を売っちまえば損はしないだろう。」

張千頭が申すには、
「きれいな娘だったし、朱さんは今頃あわてているだろうな」

そこへ、ちょうど朱玉が出てきたので皆が申します、
「朱小官、鼻がペチャンコですよ、するってえと天から縁組を言い渡されたというわけですね」

すると朱玉は申します、
「とんでもない!あの女性は寝るときでさえ服を脱がないんです。私も彼女をからかう勇気はないですよ。」

すると李都管は、
 「このマヌケめ、お前がさらってきたのか、あっちが転がり込んできたのか知らねえが、天災で偶々出会ったってわけだ。その人の父ちゃん母ちゃんを捜し出して、ちょいと事情を説明して、正論を吐くことにしようぜ。」

すると朱玉が申します、
 「彼女は、袁花の鄭家の娘さんだ。母娘ふたりきりで、二つの箱につかまって流されてきたらしい。ある人が彼女の箱を奪おうとして、母親を水に突き落として溺死させ、彼女だけが生き残ったのだそうだ。それにこうも言っていた。すでに朱家と婚約を交わしているとね。だから、そんな事はできやしないよ。」

すると李都管、
 「どこの朱家だってんだい。この洪水でどこへ流されて行っちまったか分かりゃしないぜ。後日、吉日を選んで、一族郎党を招待して結婚しちまえよ。犬っころが骨を噛んで乾きを潤すようなまねはよせよ。」

そんな話をしているところに、ふと朱玉の母方の兄弟である陳小橋が、町からやってきていて朱玉の様子を見ておりました。そしてこれまでの話を聞いていてこう申します、
 「甥っ子よ。お前は一向に結婚しようとしなかったが、これは天の思し召しと言うやつで、佳きつれ合いを手配してくれたんじゃよ。わたしが仲人をしようじゃないか。」

 前日、朱玉が拾い上げた引き出しつきのテーブルと、五六両の銀が手もとにありました。陳小橋は資金を援助して、ブタとヒツジを買い、たくさんお酒を買い込んで、結婚式の用意をいたします。

 ところであの日、朱安国が奪った箱ふたつですが、開けてみるとたくさんの布や銅銭・銀や衣服が入っておりましたが、どれも目ぼしいものではございません。それで後悔して申しますには、
 「あの時にいっその事あの娘を捕らえておいたら、まだ銀何両かにはなったはずなのに。」

 また水浸しの羽二重両疋と銀一封を見て、なんだか見覚えがあるようでしたが、思い出せませんでした。しばらく楼の上にさらしておいて、何に使おうかと算段しておりました。そのとき、外で呼ぶ声が聞こえました。それは朱玉が、朱安国を結婚式に招待したのでした。朱安国はそこで祝い金を用意して、その日が来ると披露宴に行きました。ふと見ると、屋敷の中には親族の女性がおります。女性たちは花のようにきれいに飾り、繰り出しております。あの水害の時の光景とは全く違うものでございます。

  紅をさしておしろい塗ってその時ばかりは新鮮に。
  なよなよとした腰つきが何とも言えぬ好い感じ。
  くねる炉の香煙が映るところ。
  君山のうす霧が湘君を抱く。

 二人はお参りをして、親類にお目見えし、銃を放ち管楽器や打楽器が演奏されて、非常に楽しい雰囲気でございます。新婦はまだ楽しい中にも悩みがあるようです。

  ともしびの明りが煌々と粋な女を照らし出す。
  お堂いっぱいの人だかりめでたい儀式がむしろ悲しい。
  輿入れし幸いにも好きつれあいと一緒になった。
  親孝行を考えると断腸の思い。

 親族や隣人は同じ部屋に座って、数字当ての遊びをし、痛快に飲み食いしております。朱安国は、新婦に会うと見知っているような気がしたので人に尋ねてみると、水に流されてきたということでありました。それで、張千頭に尋ねてみますと、
「彼女は元々袁花鎮の鄭家の娘で、津波によって、母子二人は二つの箱に乗っかって流されてきて、強盗にあって箱を奪われ、二人は強盗に押されて落水し、母は溺死したんだ。女の子は族叔の朱玉に助けられ、彼女は彼に嫁ぎたいと心から願った。こういうわけで私たちは煽てて、彼に縁組させたのだ。」

そこで朱安国は尋ねます、
「袁花鎮のどこの鄭家だ?」

張千頭は答えます、
「知らん。」

そこで、朱安国は申します、
「私が以前婚約した相手も袁花鎮の人で、それも鄭家だった。一回も行って見ることはしなかったが、どういうことだろう?」

朱安国は心の中で「まさか、彼女ではあるまいな?」と思い、お開きになる前に、急いで引き返しました。
こちら朱玉夫婦は、自ら親戚をもてなして酒宴がお開きになると、二人はベッドインいたします。ちょうど互いに二日を過ごしただけで、特に頑張ったわけでもなく、本当に何も為さずに妻を得たのでありました。

 朱安国は帰って、箱の中を見てみると、それは銀魂と手の込んだ絹織物、まさしく結納の品として贈ったものであり、非常に不愉快になりました。その夜は眠れず、袁花鎮の鄭家の場所まで行くと、瓦のかけらひとつとして落ちておりませんでした。再び町中へ行って、仲人だった張箆娘を訪ねました。張箆娘は髪結いやうぶ毛処理ができる人で、かつらやおしろいも売っているおばあさんでした。袁花鎮の鄭家が水に流されたことを話題にしますと、張箆娘は申します、
「これもまた運命ですよ、私を恨んでくれますな。」

朱安国は申します、
「私の親戚が横取りしたんだよ。行って確認して下さい。」

すると張箆娘、
「私はあの娘が小さい時から知ってるんだよ。絶対見分けられるよ。」

そこで二人は一緒に行くことになりました。先に張おばあさんが入ると、ちょうど朱玉は不在で、それが鄭氏だと分かるとこう申しました、
「お嬢さん、あなたいつここに来たんだい?」

鄭氏は答えます、
「私は洪水の日に漂流してきたんです。」

張篦娘は、
「お母さんはどこにいるんだい?」

すると鄭氏は泣いて答えます、
「一緒に河を漂流してきたのですが、強盗に押されて河で溺れ死んだのです。」

すると張篦娘は、
「かわいそうに、かわいそうに。ここは誰の家で、あなたはここに住んでるの?」

鄭氏が答えます、
「この家は朱さんの家です。彼は私を救って下さり、みんながおだてて、私を彼のところへ嫁がせたのです。」

張篦娘は、
「なんて大胆な結婚相手でしょう。あなたが本来嫁ぐべき夫はここにいるというのに。それはこの家の甥ですよ。彼は申し開きをしなければいけません。」

 鄭氏は驚いて声が出ませんでした。張篦娘は一杯のお茶を飲んで立ち去ります。朱玉が帰って来ると、鄭氏は彼に説明しました。朱玉も慌てて、李都管に愚痴をこぼします。しかし李都管でもどうしようもありませんでした。

朱安国は真実を知ると、すぐに朱玉の家に怒鳴りこみます。
「叔父さん、あんたは行方がわからなくなった女性を収容して役人に知らせず、それだけでも罪があるというのに、そのうえ自分の妻にしてしまった。道徳にかかわることなのにどうしてくれるんだ?」

朱玉はまさに返す言葉もなかったが、ちょうど鄭氏が中から彼の様子を見て、急いで出てきて、
「盗賊め、なんとお前だったのか?お前は私の母を殺し私の箱を奪い、今度は縁組まで邪魔しに来たのか!」

朱安国は頭をもたげて見ると驚いて、
「幽霊が出た!」
それからこんなことをわめき立てました、
「こうなったら、明日県の役所に訴えてやる!おじが甥の嫁さんを横取りするなんて!」

家に帰って、一晩思い返して申しますには、
「私は彼が嫁を力ずくで自分のものとした事を訴えるのだが、仲人が証人となってくれる。彼は私が財物を奪うために人を殺害したと訴えるだろうが、具体的な証拠は無い。ましてや、まず私が先に訴え、彼が後から訴えるようにすれば、先に水場を押さえれば、相手は干上がっちまうってなもんで、昔からいう、先手必勝ってやつだ。」

近隣の親戚は、朱玉に結納の金品を返すように勧めましたが、それよりも先に朱安国は一枚の起訴状を作り、県の役所へ訴え出ます、

   「人倫の消えうせた悪賢い事件でございます。わたくし天啓六年二月ごろに、仲人の張氏に頼んで礼厚く鄭敬川の娘を妻として招きました。ところが凶暴な叔父の朱玉は、その女の容色を狙い、まだ嫁としてめとっていないのに乗じて、棒を持って全てを強奪し、悔い改める様子もなく、繰り返し激しく殴ったのでございます。悲しく思うのは親族同士がいさかいあうこと、人倫の規則も喪失し、強きをたのんで悪賢いことばかりをし、法律で許す事はできません。どうかこの悪人をお取り除き下さい、どうぞ恩徳をお垂れ下さい。」

 県知事は決定を下し、公文書を出しますと、ふたりの役人を派遣いたします。まずは朱安国の家にやって参りました。すると宴会をひらき、たくさんの賄賂を贈ります。お金を握らせて、朱安国は、自分が久しく結婚を望んでいたのに、朱玉が無理やり自分のものにしてしまったのだと言います。役人はそんな事情を聴取し終わると、今度は朱玉の家へとやって参りました。役人は、朱玉が小者であるのに目をつけて、
 「おじさんが、甥の嫁を横取りするなんざ、倫理に関わることですぜ。あんたの話によれば、天災で迷子になった女を引き取ったと言うが、それだって有罪だぜ。こりゃあ一大事だ。」

 朱玉はいそいで大宴会をひらいて接待をいたします。また李都管に彼らの接待をお願いしました。李都管は、こう言う公務には手数料がいるものだと心得ておりましたので、九銭を取り出して半分ずつ賄賂として贈りました。すると役人は、それを李都管に突き返して、こう申します、
 「とっととお友達のところへ行ってもっと持ってきやがれ。洪水が来なかったら、彼女を嫁にするのに一觔くらいの銀が必要だったはずですぜ。だからもっと俺たちを厚遇しなくちゃならん。」

 こうしてさらに一両二銭をぶん取られてしまいました。その後、正規の役人である董酒鬼には三銭、助役の蒋独桌には五銭を支払って、朱玉に対して訴えを起こす事を約束しました。朱玉は人に頼んで一枚の訴状を作ってもらい、そして県の役所に次のように訴えました、

   「賊を非難し言い掛かりに反論します。私は貧乏ですが分に甘んじて暮らして参りました。今月起こりました水害によって家を失った哀れな鄭氏の娘さんを、相談の上、妻に娶りました。しかし朱安国はなんという悪人でしょう、彼は鄭氏が避難するのに乗じて、彼女の箱二つを奪い取り、さらに彼女の母を殺したのです。朱安国は鄭氏の訴えを怖れて、それで文書を草して罪を着せたのです。親族の朱鳳・陳愛・李華らを捕らえて早く尋問し、賊を滅ぼし濡れ衣を晴らしていただきたく、ご恩をいただきまして控訴いたします。」

 県知事はこれも受領し、犯人を一斉に呼び集め、揃って地べたに伏した。聞き取りをした役人が公文書を差し出し、役人が名前を呼んだのを受けて、まず原告である朱安国を参上させた。朱安国が申すには、
「私はもともと天啓六年、結納品として反物四匹と財金十六両を贈って鄭氏を嫁がせ妻としました。そこの張氏を仲立ちとして、現今十月の縁組を約束したが、思いもかけず水害に遭い、憎むべき族叔が機に乗じて不義を働いたのです。」

謝県知事は、それを聞いて尋ねてこう申します、
「まさか水害が家に押し寄せたのに乗じて、彼は彼女を手に入れたと言うのではあるまいな?それは不義を働いたというものだ。」

そこで張篦娘を呼び寄せて質問いたします、
「朱安国が鄭氏を娶ったというのは本当か?」

張篦娘は答えます、
「わたくしめがはなむけをいたしました。」

県知事はこう質問いたします、
「その婦人は確かにこの鄭氏であったか?」 

張篦娘が答えます、
「へえ、確かに。」

そこで朱玉を呼び寄せて、
「おまえはどうして甥の妻を引き止め、あろうことか不義をはたらいて、力ずくで自分のものにしたのか?」

朱玉が答えます、
「七月二十三日のことです。わたくしが我が家でなんとか大水をのがれておりましたところ、かの婦人が漂流してきて、自分は袁花の出身で、母子で二つの黒い箱を携えてきたが、その財物を奪おうとした輩に母親は殺されてしまい、自分だけが残されてしまったと話し、わたくしに救いを求めました。わたくしは彼女を家の中に助け上げ、彼女の家族がたずねてくるのを待つことにいたしました。五六日過ぎましたがいっこうに来る人はいませんでした。彼女が申しますには、家には人がいないのであれば、恩に報いたいので、どうか下女にして下さいとのことでした。そして、親族や隣人である朱鳳等が、わたくしが結婚していないと言うことで、わたくしに妻として娶らせましたのでございます。わたくしは彼女が甥の妻であるとは知らなかったのです。結婚式の後、鄭氏は朱安国が彼女ら母子を水に突き落とし、箱を奪った者であると知り、告発しようとしたところ、朱安国が逆に訴えたのです。」

すると県知事は申します、
「お前が、甥の嫁であると知らなかったとしても、それでも迷子の娘を捕らえるべきではなかった。」

朱玉は答えます、
「私も家に置くことを承知しなかったのですが、妻は行くところが無かったのです。」

県知事は鄭氏を呼んで質問いたします、
「あなたの母親が在世のころには、もう朱安国と婚約していたのかね?」

鄭氏が答えます、
「すでに朱家と婚約をしておりましたが、それが朱安国であるかどうかは知りませんでした。」

すると張箆母が言います、
「これはわたしが取り持った婚約だよ、知らなかったわけないさ。」

鄭氏は申します、
「贈り物は確かに頂きました。柄物の羽二重二疋と、十六両の銀、箱の中に確かにありましたが、これは強盗に奪い去られて、私は水の中に突き落とされてしまったのです。」

すると県知事は申します、
「あなたはすでに朱家からの結婚の申し入れを受けたのだから、さらにほかの人と連れ添ってはならん。」

そこで鄭氏が申すには、
「旦那様、私はその時この強盗めに財物を奪われ、命も奪われそうになったのです。もし朱玉さんが助けてくれなかったら、もはやこの身は朱家に嫁ぐことはできなかったでしょう。」

それに対して県知事は、
「道理から言えば、彼も手厚く娶っているし、お前の私情もある、がしかし朱安国と一緒になるのがやはり正しいと断ぜねばなるまい。」

鄭氏がさらに申します、
「旦那様、彼は私の財産をのっとり、私の母を殺し、また私をも殺そうとしたのです。これは仇であって、私は死んでも従いません。」

すると県知事は、
「本当にそんな奇妙なことがあるのか。」
と言い朱安国を呼びつけ、尋ねます、
「どうして財物を奪い、命を奪おうとしたのか?」

朱安国は叩頭して
「決してそのような事実はございません。」

鄭氏が申します、
 「あなたは、船を大樹に止めて、まずわたしの母を突き落とし、その後わたしを突き落としましたね。あれは確かにあなただったわ。それにイボイボのある小僧が船を操っているのも見ました。あなたまだ罪を認めない気?たぶんあの時盗まれた箱とその中身は、あんたの家を捜索すれば出てくるはずよ。」

すると朱安国が言います、
 「南無阿弥陀仏。もしもそんな事をしたのであったら、黄病になって死んだっていい。朱玉のところへ嫁に行きたいばっかりに、そんな事をでっち上げやがって。」

県知事は言います、
 「だまらっしゃい。」
そうして鄭氏を呼んでこう申します、
 「ふたつの箱がどんなものであったか申してみよ。すぐにお前らふたりを護送して取りに行かせるぞ。」

鄭氏がそれに答えます、
「ひとつは白銅の鍵で、後ろのほうのちょうつがいを外すと開くしくみでした。もうひとつは黄銅の鍵で、後ろのほうのくさびを押し込むと開くしくみでした。」

県知事がさらに質問いたします、
「箱の中はどんなものがあったのか?」
そうして鄭氏に報告させて、メモを作りました、

   「糸が百二十両、合計七車。…(中略)…桑田の証書一枚。」

 中には、ちょっと失念してしまったものもありました。県知事は二人の役人に、朱安国と鄭氏とを連れて、実証検分に行かせました。
「この二つの箱があるならば私は朱安国に罪をいいわたす、もしなければ鄭氏は嘘をついている。」

 役人が、鄭氏と朱安国とを護送して、朱安国の家へやって来ると、やはり二組の箱が目に入りました。鄭氏は「まさしく私のものだ」と申します。朱安国は「いや、違う」と申します。すると役人が申すには「違うかどうかは、県知事の前で争ってもらう」。そしてすぐ部下にかつがせて、県知事のところに走って行かせました。朱安国は依然として争う姿勢を崩さす、鄭氏のほうでも頑なに「私のものだ」と言い張りました。謝知事が申します、
「朱安国、官吏に申しつけてお前にも一覧を書かせる。お前が書いたらわたしが中身を調べるとしよう。」

すると朱安国は、
「わたくし、洪水のせいで一カ所にまとめてしまってごちゃごちゃになってしまったからはっきり覚えていないんでございます。」

すると県知事は
「ではつまりこれは彼女のものだったと言う事になる。」

朱安国は仕方がないので、適当に何件かを報告いたしました。そしてちょっと開いてみるなり、謝県知事が申しますには、
 「見るまでもなく、これは鄭氏のものだ。」

すると朱安国は叩頭して申します、
 「これは確かに小生のものでございます。どれがわたしが苦労して手に入れたものではないとおっしゃるのですか。」

そこで、謝県知事が申します、
 「こっちへ引っ立てろ。こやつめ、お前の箱であれば水に浸かってはおらぬはずだ。彼女のものであれば水に浸かっているはずだ。この布や衣服を見てみやがれい。どこに水しみのないものがあるってんでい。これでもまだしらを切るつもりかい。」

 そうして銀や銅銭を取り出して数えてみますと、全て誤りありませんでした。謝県知事は、朱安国を引っ立てて行かせようといたします。するとかえって、朱玉が跪いてこんな風に申すのです、
「わたくしの族兄はこんな奴ではございますが、彼にはまだ妻がおらず、もし県知事さまが彼を処刑してしまえば、彼の子孫は絶えてしまいます。奪い去られた財産はもう官のもとにございます。それに私の妻子はまだ生きております。どうか県知事さまご厚情をお下しいただきますように。」

すると、謝県知事はが申すことには、
「彼は財産を奪い、人の生命を脅かした。それはもう起こってしまったのだ。許すことはできない。」

群集もまた跪いて申し上げます、
「県知事さま。この間の洪水で、みなが流れてきたものを手に入れました。もしそれらの物を盗品とみなしてしまえば、失くした物の訴えが続いて気が気ではなくなりましょう。鄭氏の話によれば、彼女の母を殺したとはいえ、証拠は無いではありませんか。」

そこへ、朱安国が頭を下げて申しますことには、
「実は、彼女の箱が私の船にぶつかって、それで彼女は水の中へ振り落とれたのです。彼女を押してもいませんし、そんな老婦人は見たこともありません。私の妻は、謹んでおじの朱玉に差し上げますので、わたしの命だけは許してください。」

そこで、県知事は言います、
「横暴な奴だ、そのうちまた朱玉に危害を加えようとするのだろう、許すことはできん。」

朱安国はまた頭を下げて申します、
「もし朱玉が後日事故に遭おうものなら、全て私がこの命で償います。」

親族は隣でまた頭を下げて許しを求めました。県知事は早速、審判を下しました、

    「朱安国は危機に乗じて、利益を狙い、お金を拾う事は考えても、人を助けることは考えなかった。そうして婚約を済ませていた妻は、朱玉の手に落ち着いたわけであるが、これは天が悪人を咎めて、そのつれあいを奪ったのである。その人は失い、思いがけなくも既に手に入れた財産は、二度と手にできなくなってしまった。朱玉は溺れる者を救って妻を得、鄭氏はその恩に感じて身を委ね、その情愛の筋道は順である。鄭氏の財産は、これを鄭氏に還し、朱安国の結納金は、またこれを朱安国に還さねばならない。事態は常ならざるところなので、法をもって深く定めがたく、しばらく置くこととする。以上いくつかの立案により、この訴訟の結果を示す。」

 そして県知事は申します「これは財物のために生命を奪う行為で、本来なら重く処罰するべきだが、まさにこの災害の時、鄭氏はまだ生きているし、箱も還ってきた、奪われていたとは言え。そこでそなたの罪を許し、ひとまず厳しく追求はしないことにする。朱安国、彼には誓約書を書かせ、朱玉に危害を加えることは許さない。その時にはお前を立件し、三院に申し述べよう。」みんなは懇ろに礼を述べて出て行きました。そこで朱玉と鄭氏は喜んで、いくつかの物を受け取って家に帰りました。家に着くと、隣人や宗族、また朱安国に御礼をしました。朱安国は面子が立ちませんでした。朱玉は、美人な嫁を手に入れました。また、まとまったお金も手に入れ、とても楽しく暮らしました。

  やさしい気持に天は応え。
  織姫を瑶池から出させます。
  金に絹に箱に満ち。
  悪どい薄情者は恥じ入った。

ただ朱安国だけが雷のようなため息をついて、
「初めは、ただ財産を求めることのみに気を取られ、人を求めることを考えなかった。まさか婦人を義弟に渡してしまうとは思ってもみなかった。さらに、手に入れたはずの品物も少しも得ることが出来ず、逆に訴えられ、また何両かの銀を取られた。取り返してきた結納の金品も半分使ってしまった。」

 まる一日悩み恨んで、体の調子を悪くし、黄疸にかかって死にかけました。村の人は、彼を腹黒い進歩のない奴だと宣伝しました。朱玉の方は、彼は忠義に厚く慈愛に満ちた人間だと言って、みな進んで彼に手を貸しました。

 こんな風ですから、ずる賢く貪欲な者は、人と財産を失い、親切に救助した者は、人と財産を得たことは、明らかでしょう。災いと幸せに門はなく、ただ人が自ら呼び寄せるのであります。

 だから当時、江西の楊溥内閣は、その祖先が江西で洪水に出くわした時、人は箱を奪い、彼はただ人を救ったと申します。その後、楊閣老が生まれ、閣老の称号が贈られたのです。これは朱玉の事件のひとつの証であります。

 また、福建の張文啓と周という姓の人が、強盗を避けて山に入ると、ひとりの美女を見つけました。夜中、周は彼女を襲おうとし、張はそれを止めて、その女を護って送って行きました。ある村の旧家に至り、彼女を家に送り届けました。その女性は身に着けていた飾りの一部をお礼に差し出したが、彼は受け取りませんでした。後に黄氏という、その土地でよく知られて勢力を持っている姓の家があって、文啓を婿にと招きました。縁組の夜、妻をよく見ると、まさに山中のあの女の子で、彼女を護ったことは、まさに妻を護った事なのでした。朱安国の反対の例であります。ちょっとした善悪ですら、天の報いがないと言えないのです。

雨侯は申します、「財産には運命がある。君子のものは結局君子のところへ落着し、小人のものは結局小人のところへ落着する。これは必ずしも得失を測る助けにはならないが、凡庸の人の心を醒ますことくらいは出来るであろう。」

もどる