教育人間学専攻は、学校や家庭の内外を問わず、今日私たちの社会の至る所でますますその複雑さと切実さの度合いを亢進させている教育をめぐる問題事象、病理現象について、理論的にも実践的にも根本から捉え直していくことを、その教学の基本姿勢としています。この姿勢の前提には、これらの問題や病理の解明や解決を目指すには、対症療法論的あるいは技術論的視点からのアプローチではもはや決定的に不充分であるとの認識があります。教育学をはじめとする教育にかかわる既存の諸学は、その専門分化が近年著しく、自己の専門領域の壁を厚く高くすることで閉鎖性を強めてきました。これらの諸学は専門の枠内に頑なに閉じこもるなかで、教育をめぐる問題や病理についてのアクチュアルな実践感覚と統合的な理論形成への関心を、知らず知らずのうちに放棄してきたのです。
教育人間学専攻は、こうした諸学の閉鎖性を互いに突き破り、「教育における人間への問い」と「人間における教育への問い」を、「こころ」の問題を媒介として、循環させつつ考究していこうとしています。そして、この考究の深化を通して、現代における人間と教育とのかかわりについての根底的かつ包括的な理論的展望を切り開き、それに基づく斬新で実効性の豊かな実践的知見と技法を明らかにすることをその教学理念としています。すなわち、教育人間学専攻における教学の基本的性格は、「現代の教育をめぐるさまざまな問題についての人間学的総合研究」であり、より端的に述べれば、「新しい教育的人間観の創出を目指す研究」です。人間と教育とのかかわりに関する基礎理論研究としての「人間形成」、学校内外における教育の現代的課題に向けての臨床的・実践的アプローチを追究する「臨床教育」、心の仕組みや変容に焦点づけた健やかな生活のあり方を解明する「心理健康」、これらの3領域は、学部レヴェルにおける教育人間学専攻の教学理念の具体化です。
博士前期課程においては、この教学理念を、理論的にも実践的にもより高度かつ多様に展開し、「教育についての人間学的総合研究」としての性格をさらに鮮明にすることが求められています。また、教育をめぐる今日の問題や病理が、ややもすればセンセーショナルにないしは過度に人々の不安を煽るような論調で語られがちである現状に鑑みれば、大学院哲学専攻教育人間学専修の教学において最も重要なのは、教育をめぐる流行事象の表層的な激しさや華々しさに惑わされ、短期間で「教育効果」を測れると謳う乱暴な知見や安逸な技術を求めることではなく、「人間と教育」への問いを、腰を据えて徹底的に問い抜く研究力量の形成です。 |