※講演の内容に関しては、主な内容の抜粋となっております。また、用語に関しては担当者が適宜注釈を付けていることがあります。

第3回 講義概要

講師紹介

堀 義貴氏((株)ホリプロ 代表取締役社長)

1966年6月20日生まれ 東京都出身

1989年3月 成蹊大学法学部政治学科卒業

1989年4月 (株)ニッポン放送 入社

1993年6月 (株)ホリプロ 入社 AV制作本部制作二部主任

1995年7月 AV制作本部制作二部課長

1996年6月 取締役就任

2000年6月 常務取締役就任

2002年6月 代表取締役社長就任

特定非営利活動法人肖像パブリシティ権擁護監視機構理事、経済産業省コンテンツ産業国際戦略研究会委員、(社)日本音楽事業者協会常任理事、日本映像事業共同組合理事、実演家著作隣接権センター運営委員、他

講義:「アーティストの発掘、マネージメントとビジネス」

はじめに

今日はコンテンツビジネスの一番の根幹であるところのアーティスト、それもその裏方のマネージメントについてお話したいと思います。「エンターテインメント」というのは人間にとって必要不可欠なものではありませんが、もし実際になくなればおそらく多くの人が心の病を抱えることになるでしょう。平凡な日常を過ごしている中で、感動したり泣いたりするような出来事がないと人間は狭い感情のまま、泣ける自分、笑える自分というものを発見できずに歳をとってしまいます。「人が一生の内に経験できない喜怒哀楽を疑似体験してもらうのがエンターテインメント」だと思います。そして通常、人はおもしろいことがあったり、感動を知ったりすると人に伝えたくなります。「人に伝えたくなる」これがエンターテインメント業界の基本であり、それをシステマティックに会社にしているのがわれわれの会社です。このホリプロという会社をケーススタディにして「マネージメント」という発想から「エンターテインメントビジネス」についてお話ししていきたいと思います。

1. ホリプロの社訓 「文化をプロモートする人間産業」

われわれの仕事の最大の目的はお客さんに喜んでもらうことです。そのためにまずおよそ人間の感情に関するものはすべてビジネスにしています。喜怒哀楽というのは世代や性別、人種によって全部違い、われわれはそれぞれのジャンルや世代、それぞれの分野での一番を目指しています。人間の最も幸せな状態は、大声で話し、笑い、泣くことのできる、生まれてから3歳までの間といいますがエンターテインメントというのは大人になるにつれて失ってしまうこれらの部分を補う「サプリメント」であると思います。

2. ホリプロ流発掘・育成・プロモーション

ホリプロの具体的な仕事内容にタレントマネージメントがあります。タレントを発掘する際、スカウトする人材としてはすでに児童劇団等に通ってレッスンを受けている人は採用しません(「原石」至上主義)。それまでに習ったことを全部白紙にしなければならない作業を省くためまっさらの状態の人材を採用します。そしてその発掘した「原石」にいかに「付加価値」を付けて売るかがポイントになります。露出を多くして仕事をとるというのは初めだけで、ある程度露出して仕事が入ってくるようになるとその先のマネージャーの仕事は、入ってくる仕事をこちらが選んで断っていくという段階になります。なるべくいい時間帯の、いい扱いを受ける仕事にいかにして売るか。そこで脚光を浴びればそれが付加価値につながります。長い期間売るために、一時的な“ブーム”にしないことが重要です。タレントの要望を100%実行する「エージェント(代理人)」と違い、タレントから全権受諾してもらい、タレントにどんどん新しいことをやらせ、新しいタレント像を作り出して長い期間売り続けることがプロダクションの仕事です。

3. なぜ映像や演劇を製作するのか

アーティストマネージメント以外の仕事として映像製作や演劇製作があります。タレントというのは24時間働き続けることができない限界産業のため、その限界をいかにして増やしていくかを考えなければなりません。タレントを寝かせている間も収益を上げるためにライツ(権利)という考えが出てきます。

タレントを使って映画を撮っておけば、その先タレントが辞めてもそれを使用することができます。これがタレントにおける著作権ビジネスの発想です。タレントにオファーが来れば一緒に映画を作ることを提案し、こちらで自由に流通できるソフトを確保します。またテレビ局は「今現在売れている人」をほしがりますが、プロダクションは「これから売り出したい人」を出演させたいのでお互いのニーズは一致しません。ですから自分たちでドラマ制作を行いその中に売りたいタレントを入れます。仕事を待つのではなく最初からタレントに合ったものを作ることで主導権を握った形での作品作りができるという利点があります。

また番組やDVD、映画は必ず私的利用を越えた違法なコピーがされてしまうため、コピーできないソフトである演劇を積極的に製作しています。限られたキャパシティの中での作品のため作品自体の付加価値も上がります。公演の料金は高くなりますが、NGが許されない現場だからこそ俳優も真剣に取り組み、自然と俳優を育てることになります。現在のエンターテインメントを一流にするためには舞台出身の俳優を育てることが必要です。テレビドラマや映画など切り貼りで撮るやり方に慣れている俳優ではこの先中国や韓国には太刀打ちできなくなるでしょう。また高い公演料でも見に来る観客そのものにも付加価値が付き、観客を育てるということにつながります。自分たちの劇場を持ち、自分たちで作った舞台を自分たちのタレントで見せる。われわれが劇場をオープンさせる理由には、俳優や観客を育て、さらにその観客を通じてマーケットを育てるということを重視しているからです。

4. 文化人・スポーツ選手・アートに進出する理由

現在スポーツソフトが大変充実してきています。野球選手等の海外進出に伴い世界で活躍する選手がいるスポーツソフトがより強くなっています。スポーツ番組では解説者というよりもエンターテインメント性を持たせるために元スポーツ選手やタレントを出演させたり、ニュース番組においてはコメンテーターやBGMをさかんに使って番組を盛り上げるなど、スポーツ・ニュース番組のエンターテインメント化が進んでいると言えます。

5. 終わりに

近年韓国や中国のドラマの進出がめざましいのは、国を上げてエンターテインメントを応援、輸出しているからです。欧米や韓国の劇場は寄付で成り立っています。それらの国の場合成功者は文化のために寄付をするのがステイタスになっており、文化事業に寄付をした人には減税措置を与えるという国のシステムが成立しています。つまり国のお金を使わなくても劇場や美術館の運営ができます。このようなシステムが本当の意味で文化、芸術、エンターテインメントを育てることになります。今後、日本がアジアのエンターテインメント産業界で生き残るかどうかは国がどのように考えるかにかかってくるでしょう。欧米以外のマーケットで今後成長を期待できるのはアジア以外にありません。アジアの中で日本の優れた技術やアイデア、テレビ製作のノウハウをどのようにして伝えるか。日本で生まれたシステムであるプロダクションを育てるということも、アジアマーケットの中で日本が果たしていく役割として重要なことだと思います。

関連情報

いつだって青春:ホリプロとともに30年』(小学館文庫) 堀 威夫 著

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GREEキャリア 堀義貴氏インタビュー

JASRAC寄附講座「コンテンツ産業論」(Home)