※講演の内容に関しては、主な内容の抜粋となっております。また、用語に関しては担当者が適宜注釈を付けていることがあります。

第11回 講義概要

講師紹介

後藤 順一氏(株式会社博報堂 キャスティング&エンタテインメント局長)

1948年 兵庫県生まれ

1971年 慶應義塾大学商学部卒業 音楽業界を経て

1984年 (株) 博報堂 入社 営業職を経て現職キャスティング&エンタテインメント局長に

講義:「広告会社のキャスティング業務の昨日・今日・明日」

はじめに

広告会社におけるキャスティング業務は、広告のシンボルとなる人物やキャラクター、音楽などを最も効率的かつ効果的に設定し、起用する業務です。博報堂のキャスティング業務は以下の3分野に分かれています。

1.ブランディングにおける広告表現の役割

企業が顧客にとって価値のあるブランドを構築するための活動をブランディングと言います。ブランディングにおける広告表現では、ブランドの持つ世界観、価値、品質、効用を伝えそれを印象付けるバックグラウンドや登場人物の役割を設定することも重要です。サントリー『伊右衛門』のCMの例で見ますと、舞台を江戸時代の京都に設定しています。この場合京都は製品に品質保証感を醸成する場所という意味で、また主役の俳優二人の確かな演技力と高い好意度がブランディングに効果的であると考えて設定されています。

2.タレント広告が多い理由

日本は商品の特徴の差別化が難しいという市場環境のためか広告表現の差別化に頼る傾向があります。海外に比べ日本で広告にタレントが多く使われるのは、テレビ番組とCM共通のスターが生まれやすいという日本のメディアの特性や、合理的、直接的な表現よりは情緒的、婉曲的表現を好む日本人の特性も関係していると思います。商品特徴をダイレクトに伝えるよりも、タレントイメージなどに商品を乗せた広告表現の方が受け入れられやすいのではないかと思います。更にはテレビ広告において、15秒スポットが主体となっているため、その中での印象度をアップする必要があることも影響しているでしょう。

3.ブランデッド・エンタテインメント

最近の新しい広告宣伝手法として、映画、ドラマ、音楽、スポーツなどに代表されるエンタテインメント・コンテンツの中に、自然な形で商品やブランドを溶け込ませるブランデッド・エンタテインメントが注目されています。エンタテインメント・コンテンツの製作にブランドが関与するか、もしくはブランドの世界に上手くエンタテインメント・コンテンツを組み入れ、ターゲットに届けたいメッセージをコンテンツ自体に折り込んでいくものです。例えば大塚製薬『カロリーメイト』のCMは人気テレビ番組『24』をうまく利用した設定の中で商品広告を行っています。ブランド自体がコストを担い、主体的にエンタテインメント・コンテンツとブランドのメッセージをうまく融合させて生活者に対してコミュニケーションをとるこの方法は、欧米でさかんに取り入れられています。様々な情報が交錯し、必要か否かの情報選別が行われるようになった今、人々にブランドメッセージを届けるには従来の方法ではない新しい手法が求められています。1つのコンテンツであらゆるメディア、場、時間を使える「ワンコンテンツ・マルチユース」が効率的であると考えられていることも、この潮流を後押ししているのでしょう。

4.今後の課題

過去はモデル・オーディション業務が大半を占めていました。そして現在は、広告用コンテンツのキャスティング業務が多く占めていますが、今後はキャスティング業務から派生するエンタテインメント・コンテンツ・ライツ業務などのビジネス機会が増えていくでしょう。契約の形も、従来の日本型からシビアな欧米型の契約へと、リスク・マネジメント力の強化の流れも出てくるでしょう。また今後ますます活性化し新たなビジネス機会を多く含むWEB領域ですが、肖像権や著作権など権利をしっかり保護するための知識やスキルを持って対応していかなければならないと思います。

関連情報

ブランドらしさのつくり方―五感ブランディングの実践』博報堂ブランドデザイン(編集)、ダイヤモンド社、2006

地ブランド 日本を救う地域ブランド論』博報堂地ブランドプロジェクト(著)、弘文堂、2006

JASRAC寄附講座「コンテンツ産業論」(Home)