※講演の内容に関しては、主な内容の抜粋となっております。また、用語に関しては担当者が適宜注釈を付けていることがあります。

第12回 講義概要

講師紹介

今野 敏博氏(株式会社レーベルゲート 代表取締役社長)

1957年 6月24日生まれ

1981年 CBSソニー入社(現ソニー・ミュージックエンタティンメント) 洋楽宣伝、邦楽制作などを経験。邦楽ディレクターとしては、坂本龍一、南佳孝、ECHOES、カステラなどのアーティストを担当。その後ビデオ制作、CD-ROMの制作を経てデジタルネットワーク部の責任者の時に、「着うた」「着うたフル」などのサービスをプランニング。

2005年4月 (株)ソニー・ミュージックネットワーク代表取締役就任

2006年6月から 現職に

講義:「音楽配信ビジネスの現状と展望」

はじめに

レコード産業はテクノロジーの進化と共に大きく変化してきました。テクノロジーの進歩が音楽の作り方を変え、新しい音楽を生み出します。レコード産業は最新のテクノロジーで音楽を録音し、世の中に広め、ユーザーに届ける産業です。

1.有料音楽配信とCD売り上げ

2006年は音楽配信の市場基盤が確立された記念すべき年です。2006年1月から9月までの実績で、音楽配信はCDシングルとほぼ同じ売り上げを記録しました。年末までの統計ではCDシングルを抜く可能性もあります。この音楽配信の勢いは音楽ビジネスにおいて非常に大きな流れとなって、今やデジタル配信なきには音楽業界は語れない状況になりました。音楽配信の内訳で90%を占めるのが携帯電話による配信です。音楽業界は他の業界に比べてデジタル化されやすく、また「携帯大国」と言われる日本の携帯電話の進化、マルチメディア化がこの状況を支えているのでしょう。CDのミリオンセラーが出にくいこの時代、100万ダウンロードを越す『着うた』が登場しているのは、音楽と親和性の高い携帯電話が多くの人々のライフスタイルに取り入れられ、楽しまれているからだと思います。

2.PCでの音楽配信のしくみと問題点

パソコン配信は、サーバーにある著作権保護された音楽をインターネットを通じて課金し、パソコンに取り込ませるものです。音楽製作に携わる人々の権利を守るためにきちんと著作権保護された音楽を届けるしくみ(DRM=Digital Rights Management)を構築しています。現在日本のパソコンによる音楽配信は、アップル系、ソニー系、マイクロソフト系の3社に分かれ、各社のフォーマットには残念ながら互換性がありません。パソコン配信を普及させるためには利用者にとって不便なこの問題を解決することが必要です。またパソコン配信の支払いにはクレジットカードやプリペイドカードが必要なことも、携帯電話ほど簡単な利用ができない理由の一つでしょう。

3.新しい音楽配信

音楽ビデオクリップを携帯電話で見られるビデオ配信サービスや、放送波やコンポを利用したダウンロードなど新しい配信サービスやダウンロード方法が試されています。今後さらに様々なチャンネルが増えてくるでしょう。しかし新しい技術やサービスを人々に受け入れてもらうには、今のマーケットや世の中のニーズに沿いながら少しずつ着実に市場を広げていくことが重要だと思います。『着うた』や『着うたフル』がこれ程浸透した理由も、遅すぎず、また早すぎず通信環境に沿いながら顧客ニーズに同期してきたことが成功の鍵だったのではないかと思います。

4.音楽配信の利点

まず在庫を持たなくても良いことが大きな利点です。またレコードと比べてリリースするのにあまり時間とリスクがかからないこと。ライブをその場でレコーディング、トラックダウンして1時間後に有料配信といったこともできます。レコードに比べて気軽にリリースすることができるため、バージョン違いの音源も配信することができ、ダウンロードの多かったバージョンを将来的にCDに入れるといったことも可能です。さらに多彩な「windowing」が可能なこと。「windowing」とはもともとハリウッドで使われていた映画ビジネスの用語で、作品公開のチャンネルを少しずつ最も利益が上がるように時間的にコントロールすることです。今まで音楽業界では基本的にシングル発売とアルバム発売という二つの「windowing」しかありませんでした。ところが今は、シングルに先駆けて『着うた』で先行配信、別バージョンや『着ムービー』、『着うたフル』の配信など様々な「windowing」が可能です。音楽が色々な場所で、色々なチャンネルを通じて人々に届き、また最もいい形でミュージシャンの方に返すことができる、そういったことはやはり配信なしでは実現しなかったことです。今やどのコンテンツもパソコンや携帯電話を無視することはできない時代だと思います。

5.今後の音楽配信と展望

今後、ますます携帯電話とパソコンの融合が進み、違いを意識せずどちらを使っても同じようなサービスを受けられる時代が来るのではないかと思います。またインターネットラジオなど、ダウンロードだけではないサービスも充実していくと思います。各配信フォーマットの互換性や配信音源の高音質化などの問題点もありますが、CDでもパソコンでも携帯電話でも音楽が聞ける、色々なサービスが自然にみなさんのライフスタイルに溶け込む状況が進んでいます。音楽業界は今、変わろうとしています。音楽配信がCDシングル盤をおそらく越すであろう今年は画期的な年です。音楽だけでなくすべてのことに言えますが、皆さんには色々な環境変化の中で、それぞれをよく見ながら自分に最も良いサービスとは何かを考えていってほしいと思います。

関連情報

音楽配信サイト「モーラ」 http://mora.jp/

音楽SNS http://playlog.jp/

国内最大のSNS http://music.mixi.jp/search_music.pl

音楽配信 iTunes Store http://www.apple.com/jp/itunes/download/

携帯配信サイト レコード会社直営 http://recochoku.jp/index.html

JASRAC寄附講座「コンテンツ産業論」(Home)