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![]() 第3回NHK講座は、「バリバラ(障害者情報バラエティー)って知っている?」と題し、大阪放送局制作部チーフプロデューサーの日比野和雅さんを講師に迎えてお話を伺った。日比野さんの手がける「バリバラ~障害者情報バラエティー~」は、日常生活において障害者が本当に必要としている情報を楽しく届けることを目的に、恋愛、仕事から、スポーツ、アートなど多岐にわたるテーマを扱う。今回の講義では、これまでの障害者番組のイメージを大きく変えたともいえる当番組を実現するに至った経緯や、制作の裏側にある想いについてお話しいただいた。 日比野さんはこれまでに数々の美術番組を制作され、2009年に大阪放送局制作部のチーフプロデューサーとして、バリアフリーを扱った福祉情報番組「きらっといきる」の担当となる。その後「バリバラ」にて、放送文化基金賞、日本賞ノミネート、ギャラクシー賞奨励賞を受賞されている。 「バリバラ(バリアフリー・バラエティー)」は、2010年4月より「きらっといきる」において、月一回の番組内企画としてスタートした。これまでのドキュメンタリーにもとづく福祉番組では、制作側が障害者を取材する際に、何かしらの気遣いや距離感があったという。それにより、障害者の日常や素の面白い部分を取り上げることができず、障害者であろうが健常者であろうが変わらない部分をきちんと描いてこなかったという反省があった。そこに、「バラエティー的な要素を使うと何かできるんじゃないか」というアイデアが生まれたのだ。 日比野さんは、「きらっといきる」が11年目のころ、番組の担当となった。当時、番組内で「改革委員会」というものが立ち上がっていた。視聴者より、「『きらっといきる』に出ている主人公はハードルが高い」「がんばっているエリートの障害者だけが出ている」との声があり、「どうやったら番組を変えていけるのか」と改革を進めることになった。旧来の福祉番組にありがちな「障害者はかわいそう」「障害者はがんばっている」というイメージをどうすれば払拭できるのか。試行錯誤の日々が始まり、「一度、ドキュメンタリーではなく、バラエティーをやってみよう」という話が出た。取材現場では、しばしば障害者同士で素を出し合っている場面に遭遇するが、ドキュメンタリーでは描けない。しかし、バラエティーの要素を取り入れることで、それを描いていこうという取り組みだ。このようにして、月一回の「バリバラ」企画がスタートした。 「最強ヘルパー養成塾」という企画は、「バリバラ」の原点だ。重度の言語障害がある人の言葉を、ヘルパーを志す若者が聴き取るというクイズ企画である。障害者施設で実際に行われていることを企画に変えたものだという。反響では「普通に面白い」と肯定的な声が多いなか、反発の声もあった。しかし、日比野さんはこう答える。「障害のある方が自らやりたいと言っている。その本人の意思はどうなるんですか?」と。ここで重要なのが、「笑われる」と「笑わせる」の違いだ。出演者である障害者にとっては「笑われているのではなく、笑わせているのだ」というスタンスなのである。 このような番組を目にしたとき、視聴者には「笑っていいのか」という戸惑いが生まれる。なぜ、戸惑いが生まれるのだろうか。「障害者のことを笑っちゃいけない」という教育がなされ、無意識のうちに刷り込まれているからだ。それが障害者に対する距離感となり、気遣いとなってしまう。日比野さんは、ドキュメンタリーをバラエティーに変え、視聴者の戸惑いを減らすための工夫に取り組んできた。ナレーションをなくす、ツッコミや効果音を取り入れるなど、編集に苦労した結果、お笑い的なツッコミができるようになったのは画期的な瞬間だったという。 「テレビ番組を作っていくなかで、観る人の価値観を揺るがすというのが、メディアの一つの大きな力だ」と日比野さんは語る。日比野さんの使命は、視聴者の「障害者だから優しくしなきゃ」「助けてあげなきゃ」といった価値観を一気に揺るがすところにある。「バリバラ」を作っていくことによって何かが変わったという一つの手ごたえが、日比野さんにはあった。 日比野さんの取り組みは障害者の「リブランディング」だ。リブランディングとは、ブランドの再構築を指す。障害のある人たちは「できないから助けてあげる存在」と思われがちだが、「できない」という思い込みで取材をしていくと、そういうことはない。実際には、健常者以上にコミュニケーション能力が高かったり、楽しいライフスタイルを送っていたりするそうだ。そういった障害者の本当の姿をブランディングしていくのが「バリバラ」である。「このようなスタイルを進めていけば、もっともっと豊かでバリアフリーな社会になるのではないか」と日比野さんは語る。 最後に日比野さんは学生に対し、「みなさん、学生生活を送っていても色々と生きづらさを抱えてらっしゃると思うんですね。そういった生きづらさを抱えている人たちにとっても、何かしらバリバラの中からヒントが得られるんじゃないかと思っています」とメッセージを送り、講義を締めくくられた。 |
講師:日比野 和雅先生 大阪放送局制作部チーフプロデューサー。京都府出身。1990年に入局後、数々の美術番組を制作。バリアフリーを扱った福祉情報番組「きらっといきる」の担当となる。その後「バリバラ」にて、放送文化基金賞、日本賞ノミネート、ギャラクシー賞奨励賞を受賞されている。 |
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![]() 日常で障害者と関わる機会の少ない人たちにとって、「障害者は大変そうだ」「障害者は可哀想」といったイメージが生まれるのは自然なことかもしれない。しかし、そうした思い込みやイメージが障害者を苦しめる可能性もあるという事実に気付かされた講義であった。 講義で番組のVTRが流れたとき、受講生たちの間に笑いが生まれ、会場の空気が和らいだ。多くの受講生たちの心にあった、障害者に対する無意識のバリアが解かれたように感じた。そのような思い込みの存在を認知することが、理解への第一歩となる。「バリバラ」は、障害者に対する自分の中のバリアの存在に気付かせてくれる。こうした取り組みにより障害者の日常が広く認知されることで、コミュニケーションのあり方が変わり、押しつけではない真のバリアフリー社会が実現していくのではないだろうか。 |
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映像学部 1回生 |
番組以前に、もし自分が障がいを持っていたら明るくできないだろうなと思う中で番組に出演している人たちはに明るくしていることにびっくりしました。障がいをネガティブにとらえるのではなく、むしろポジティブにとらえることができていて自分も見習わないといけないなと感じました。 |
映像学部 1回生 |
今までは障がいそのものを笑っていいのかっていう自分がいましたが、番組の中では一つのコーナーとして笑うことができるという点で見方が変わりました。再び、番組を見ることでさらに障がい者への見方や考え方がさらに深まるという風に思いました。 |
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