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秋季公開講演会を終えて・・・

人文科学研究所主催
「秋季学術シンポジウム」について

人文科学研究所前所長 服部 健二

「731部隊研究から見た科学(者)のあり方」神奈川大学経営学部教授 常石 敬一 氏

人文科学研究所が主催する立命館大学の公開講演会は、1952年5月8日の南原繁「世界的危機と日本の独立」に始まりました。多くの研究所や研究センターが活動している現状を踏まえて、来年度からは衣笠研究機構が主催となりますので、人文研主催としては、今回が最後となりました。一つの区切りとなる今回の講師として、常石敬一先生をお迎えできたことは、よかったと思います。なぜなら人文研は、学問研究の成果を社会に、市民に還元するという考えから、公開講演会や土曜講座を開催してきたのですが、成果を還元するというときに、学問研究のあり方の反省と、問題点の自覚なしには、学問の営みは成立しないからです。その点、1936年ハルビン平房で成立した旧日本軍の731部隊の多くの医学者が、その用意周到な学問的方法によって、マルタと呼ばれる捕虜に対する人体実験を行ったことを、厳密な資料批判を通して科学社会学の対象として取り上げてこられたのが常石先生です。そのお話の内容は、研究所のありかたが大きく変わろうとしている状況にあって、改めて考えさせられるものだったといえます。

講演は、まず石井四郎部隊長を頂点とする731部隊の成立から解散までの概要説明にはじまり、軍医による毒物の効果についての初期の人体実験について、ソ連崩壊後の情報公開によって明らかとなったハバロフスク裁判の資料をもとにした紹介が行われました。また、部隊が結成され民間研究者の第一陣として、京大医学部のスタッフが、第二陣として京都府立医大のスタッフが主力として参加したことも指摘されました。次に、部隊での研究活動の一端を、解剖したマルタの標本を持ちかえったある医師の協力でまとめられた米軍のレポートや、別の医師の証言による、青酸カリを使った人体実験や凍傷の人体実験の状況が紹介されました。そして、最後に日本の戦後の医学界が、ドイツの医学界と違って、まだこうした事実に対する検証を行っていないこと、凍傷の人体実験を行った医学者が戦後文部省の科学研究費をもらって、同じ研究内容を動物実験に変えて行った事実、講師の表現ではマネーロンダリングならぬ情報ロンダリングというべき事実などを指摘されました。

講師は、同じく731部隊を扱った作家森村誠一の小説『悪魔の飽食』のように、人体実験を道徳的に批判して、それを悪として突き放してしまっては、なぜそれが悪なのか、どこが悪なのか、そして、科学者としての用意周到な手続きによる日常的な科学の営みがどうして、そういうことを生み出したのか、そういう科学の営みとは、ひいては人間とはなにか、こういった問いが欠けてしまうと繰り返し強調され、その真摯な問いかけは、250名近く集まった聴衆に感銘を与えました。

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