【伏見区母親大会・分科会】
2001年1月28日
立命館大学経営学部
助教授  近藤宏一
 
 
コミュニティ・バス(循環バス)の実現へ向けて
 
 
はじめに
 コミュニティ・バスとは何か
 
1.ムーバス〜武蔵野市の挑戦
(1)ムーバスとは何か
東京都武蔵野市が1995年から運行を開始したコミュニティ・バス
吉祥寺から東側、JRの南北にわたる半径1kmほどの区域を走る
(2)ムーバスの概要(別紙)
(3)突破された障害
「独立採算制」への抵触
   運賃100円では、民間ベースでは採算がとれない(ランニングコストも出ない)
   初期投資(車体、バス停など)のほか、年2千万円以上の補助金が必要
       〜福祉バスではない、という前提では異例
   対応:事業採算性そのものは追求する(利用者のあるところに、なるべく安上がりに)
      運輸省を「テストケース」として説得する
狭い道路をバスが走ること
市がもとめる車体がない
(4)なぜこれができたのか
  @地域の高齢者の足の保障、をはっきりと中心課題に据えてとりくんだこと
  A同時に、単なる福祉バスではなく、地域の人々に積極的に利用されるものにしたこと
    徹底した調査・分析〜高齢者の行動調査、グループインタビューなど
    放置自転車との関係にも着目
  B市長のリーダーシップと、自治体に権限がないことでも積極的に取り組んできた実績
  C財政上の措置についての柔軟な発想
    多くの寝たきり老人を抱えて財政負担するより、バスにお金をかけて寝たきりを防ぐ、
    という発想。
 
2.ひろがるコミュニティ・バス
(1)いくつかのパターン
@路線形態〜どのような目的か、によって違ってくる
  都心型   :都心の商業活性化などが目的。京都市の100円バスなど
  都市周辺部型:都心周辺の不便なところを結ぶ。ムーバスなど
  近郊型   :郊外の団地などと駅やバスターミナルを結ぶ。東京都足立区、北九州市など
  公共施設型 :病院や役場などと駅などを結ぶ。
  ローカル型 :路線バスの廃止されたあとなどに走る。
  観光地型  :観光スポットを結ぶ。
A車両など〜利用実態と道路条件で決まってくる
  小型バス
  乗合タクシー(ワゴン車、一般のタクシー)
B運行形態〜どのような地域かによって決まる
  路線バス型:時刻表と路線が決まっている形
  デマンドバス型:ある程度決まっているが、電話などで呼ぶと近くまで迎えに来る。
(2)成功するコミュニティ・バスのカギは
 @地域の人々のどのようなニーズにこたえるか、はっきりしている 例)ムーバス
 A路線や運行形態を状況に応じて柔軟に変化させている 例)岩手県大東町
 B地元のバスやタクシーの事業者をうまく利用している 例)愛知県長久手町
 C単なる交通手段でなく、地域の活性化のためという目的をおく 例)金沢市
 
3.考える必要があること
(1)運行形態
  誰が、どういう目的で乗るのりものか、に応じた形態
   (「循環」「バス」にこだわる必要なし・・・乗合タクシーなども)
(2)誰でも乗れる運賃−独立採算制はもはや限界
  欧米では補助を出すのが当然。日本でも「100円バス」が普及
  ただし、「100円」が絶対ではない・・・なぜ100円にするのか、を考えることが必要。
  安ければ安いほどよいか?
(3)「乗りやすく、魅力的なバス」へ−高齢者、障害者も視野に入れて
@車体
  小型化:費用が安い、小回りが利くので、需要が少なくてもOK。あるいはいっそタクシーに
  リフトバス
  低床化:単に「乗りやすく」するだけでなく、乗降時間も短縮される
      短期的には、歩道にきっちりつけられれば渡り板程度でもずいぶん違う
A路線やネットワーク
  気軽に乗れるために:高齢者の歩行距離は、だいたい100m〜200mが限度
    →バス停間隔の短縮、裏通りまで入ってくるこまめな路線網
  ネットワーク化:幹線ー支線のネットワークが一般的
  誰のための路線かはっきりさせて、それにふさわしいシステムを
B乗り場、乗換など
Cできれば低公害車
 
おわりに
<ムーバスの概要>
 
(1)運行状況
車両は小型車(乗車定員29名。座席定員15名)
運行時間8−18時、15分間隔(吉祥寺駅北口0,15,30,45)
運賃は100円(シルバーパスはきかない。学齢前の幼児は無料)
運行は関東バスに委託(関東バスの一般路線バスとして運行)
(2)ムーバスの成果
・増え続ける利用者 
・買い物客の増加:買い物に出る回数が増えた、買い物が便利になった、という声が多数
・自転車からムーバスへ転換
  ムーバス以前 自転車 36%、徒歩35%、一般バス16%
  ムーバス以後 ムーバス 42%、自転車23%、徒歩22%、一般バス5%
・高齢者ほどムーバスを利用している
・運転手のサービスも向上している
(3)どのような工夫がされているか
@車体
低公害、小型
電動ステップ 
  階段の段差 歩道橋(福祉施設の目安) 150mm
        ムーバス         160mm
        一般路線バス       220-250mm
        低床車          180-200mm
  路面からの高さ 通常車体 350〜380mm
          ムーバス 200+180mm(補助ステップ採用)に分割
シートの工夫
  横向き座席 幅515-525mm(新幹線430mm) 荷物をおけるように
握り棒
運転しやすさ  ATとアクセルインターロック
デザイン
A運行システム
  短いバス停間隔 通常400〜500mのところを200m原則で
  昼間のみの運行 利用者対象を最初から限定し、それに応じたシステムを作る
            通勤・通学者はおおむね自力で移動を確保できる、という前提
  定時隔運行   待たずに乗れる
  住宅地の狭い道路にもきめ細かくはいる
          大通りのバスとの住み分け
          大通りの渋滞の影響を避ける
          そこに住んでいる人々のための「町内会バス」をめざす
          結果として低速運転=やさしい運転、に