顧客満足論 第2回 Q&A
<基本的な理解に関して>
・ 顧客と消費者の定義で、顧客はサービスや物財を消費する前の対象で、消費者はサービスや物財を消費した対象なのでしょうか?
違います。レジュメをよく読んでください。可能性と現実というわけかたになっていると思うのですが。
・ 「消費」の説明のところで、「サービスや物財を生産する側は、客観的に把握できる「欲望」の内容ではなく、『顧客』が自分たちを『選択』するようになる必要に迫られることになる」ということは、「ニーズを把握するのではなく、作り出すことのほうが重要」ということですか?
違います。ニーズをつくりだす話をここではしていません。潜在的に存在するニーズを、いかにして自社の提供する製品やサービスを選択する形で顕在化させるかが課題なのだということです。
・ 企業成長の条件で「潜在的な顧客」というのがあったが、それは例えばどのような顧客のことを指すのか?
いま現在自分たちにとって顧客ではないが、顧客となる可能性のある存在のことです。
・ 顧客満足は、明日(未来)のことと授業で言ってましたが、スーパーなどのCSのあいさつなどは、現在に行っていることですが、CSには入らないのですか?
「あいさつ」をCSだと考えているのなら全くの間違いです。ただし、こうした間違いが世間には横行しています。前回講義で述べたように、顧客満足というのは基本的な戦略によって実行活動までを貫く一貫した展開が必要なのです。
・ 顧客満足とはヘビーユーザーをより多く獲得するための考えと思ったのですが、ライトユーザーに対してはどのようにすればよいのですか?
これからの講義で考えてください。
<効果と効率は両立するのか>
※「効果的効率主義」再論
「効果」と「効率」を単純に対立させてどちらをとるのか、という問題ではありません。「効率主義」とは、現在の展開を前提として、そのなかでどのように効率化していくのかを優先させる考え方です。つまり、ここでは製品やサービスの供給側の論理であり、顧客のニーズやウォンツの変化、社会のあり方の変化などを視野に入れることは、せいぜい現在の展開状況から視野に入る範囲にとどまり、通常は現状維持の保守的な方向にしかはたらきません。「効果」をとる考え方はまず顧客にとっての「効果」を考え、時には大胆な投資発想もしながら、そのなかで事業として成立させるためにどのような効率的運営を考えるのかということです。
・ 「効率」と「効果」というある種相反する概念を企業という巨大な組織の中でどう帳尻をつけるのか、誰がやるのかということが知りたい。結局、経営トップの手腕や発想にかかっているのですか?
・ 効率化すれば少ないリスクで安定的に利益を生み出せるので、企業はこの方向に走りやすいということですが、企業にとっては効果的にするよりも、こちらを続けていれば、安定的に利益を得られてよいのではないか。
・ オリエンタルランドの経営方法は、「効果的効率主義」の代表だと思ったのですが、そうですか?
・ ESや従業員教育への投資も「効果的効率主義」になりますか?
以上の質問については、上記の「再論」をもとにもう一度考えてみてください。
・ 効率優先主義から効果的効率主義がとられるようになったきっかけは、どのようなことなのですか?→競争店舗が増えてきたからだと考えているが・・・
そんなに単純なものではありません。今日の講義も聞いて考えてみてください。
・ コスト意識から投資発想へ転換を、と提言しているのですが、こうしたことを実施するには、トップのリーダーシップがなければできないのではないか?また、投資発想を行うことは、リターンだけではなくリスクも存在する。こうした投資の二面性をふまえ、なおかつPPMの様な分析ツールがなければ、実現させるのは難しいのではないでしょうか?
ここでは基本的な考え方の転換の必要性を強調しています。投資にリスクが伴うことはあたりまえです。しかし、PPMの役割が過度に強調された結果、ヤマト運輸のような大胆な「喜びの投資」ができなくなったことへの反省がここにはこめられています。
<「喜びの投資」と「捨てる思想」>
・ コストだけ減らして今まで以上のサービスはできない、というのは納得できるが、例外もあると思う。逆に投資していても結果が出ない場合もあると思う。プロセスが大事だと思った
もちろん、間違った方向に投資していれば成功しません。また、コスト削減はもちろん必要ですが、それが自己目的化してもたいていうまくいかないということが重要です。
・ 顧客とは、自分たちの提供するものを消費する可能性のある人と理解したのに、「捨てる思想」の説明で「顧客に絞る」と聞いたので、混乱してしまった
矛盾はしていません。「自分たちの提供するものを消費する可能性ある人」を明確にし、やみくもに拡大しないことが重要なのです。
・ 「喜びの投資」はサービスの代表的な言葉と思うが、「捨てる思想」が同時に必要となってくる。ということは過去の蓄積を捨てても良い、ということが本当によいことなのか?
・ 「捨てる思想」には従来の蓄積を捨てる必要があるとおっしゃいましたが、昔から学べることも多いと思うが、なぜ捨てなくてはいけないのですか?
正確にいえば、過去の蓄積にふりまわされたり、こだわったりしてはいけないということでしょう。
・ 「捨てる思想」のところで説明していた、セグメントとセグメントの間を見つめなければいけない、というのは具体的にどういうことなのですか?ターゲットを絞らずに、いろんなニーズに答えるということでしょうか?
違います。セグメンテーションを行って、自社の事業の対象となる顧客層を明確にしたり、顧客層ごとに異なった対応(たとえばそれぞれに対応した別な製品を発売する)が必要なのですが、セグメンテーションは通常サービスや製品を提供する主体の側から行われます。従って、提供側の視点に拘束されたかたちで顧客層を認識することが多く、そこから実際には潜在的に顧客となる可能性をもった層が見落とされる可能性があるのです。
・ 投資を行うためには、先を見越すということでデータがいると思うのですが、それが顧客満足と関係してくるのですか?
データは必要ですが、ここではデータと顧客満足の関係については特に論じていません。
・ ISOの推進活動の中で無料セミナーを開催するプランも立てているが、これも「損して得取れ」だと考えているがどうか?
「損して得とれ」という意味ではそうですが、テキストで強調されている「喜びの投資」とは単なる先行投資ではありません。
<マーケティング的な発想>
・ マーケティングとは、「明日何をすべきか今考えること」と言っていたけど、「明日のために今何をすべきか」だと思う
考えることなしに行動してもうまくいかないとは思いませんか?
・ マーケティングには遊び心というものも必要だと思う。遊び心を追求していけば、事業成長、事業成功につながると思う
最近よく言われる言い方ですが、「遊び心」の前提としてきちん整理された思考が必要だと思っています。遊び心だけでうまくいくとは思えません。
・ マーケティングよりもセリングの方が古い考えと思っていいのですか?
日常的な営業の現場ではいまでもセリングは行われています(売ろうとしなければ売れないのは当然です。しかし、ここでは戦略的発想をセリングの視野で行ってはならないことを強調しています。
・ 非営利組織の事業運営についての期待と存続のための「事業」との兼ね合いの困難さをどう処理、対処していくのか、ということをよく考える。相手を求めることを把握し、効果を目指すことで効率を得る、ということは重要だと思うが、不特定多数を相手に事業をしている場合にのみ言えることであり、特定の利益・効果を目指す場合には当てはめにくいのではと感じる
特定の人々を対象にする場合、は、そういう人々の求めることを把握し、それを効率的に提供することがむしろ容易だと思うのですが、どうでしょうか。
<その他>
・ 行列ができているラーメン屋を見て、「そんなんなら店を広くしたらいいのに」と思ったが、店を広げてつぶれた例もあるらしい。顧客のニーズを知ることは難しい
行列があるからうまそうだと思うことはありませんか?
・ 新しい需要を引き出すのにはリスクを伴うと思うので、プライスリーダー的な企業でないと難しくないですか?
第一に、新しい需要を引き出すことが必要だとは言っていません。潜在的なニーズを自社へむけて顕在化させることが必要なのです。病院の例であげた改善は、別に新しい需要でもなんでもありません。第二に、もし新しい需要を引き出すことに成功したのであれば、先行した企業は価格競争にまきこまれませんから、プライスリーダーである必要はまったくありません。もし経営戦略論のテキストをもっておられたら、再読をおすすめします。
・ 例に出ていた「京都市バスは赤字」の理由は何ですか?京都市バスのドライバーの顧客に対する態度は最低だと思う。交通機関はある程度の需要があるから、顧客満足に対する意欲が少ないとは思うが、悪い印象をもつ顧客が増えると赤字につながることもありえるのでしょうか?
原理的に、今日路線バスが運賃だけで採算をとることは非常に困難です。民間バスでも大半が赤字であるか、きわめて労働条件が悪いか、利益のあがる路線だけに絞って運行しているかのいずれかです。この問題を抜きにしてバスの赤字を論じることは本来困難です。そうした状況の中で、経営者の発想がどれだけ赤字を減らすかに集中している場合、顧客のニーズに応えることも、顧客の満足度を向上させる上では不可欠な従業員満足の実現にも意識が向かないことが多いのが現状です。バスやタクシーのドライバーのように、直接的な労務管理が難しい場合、従業員満足の実現は特に重要です。バスの場合、これは単に労働条件の問題だけでなく、路上駐車の削減による走行環境の改善まで含んだ総合的な対策が必要です。
【講義の進め方に関して】
・ レジュメと教科書をもう少しリンクさせてほしい。板書もしてほしい
おおむねリンクしています。板書は必要なときしかしません。なぜ板書が必要ですか? 板書を筆写することがノートをとることだと考えているのなら、ぼつぼつ考えを変えてください。
・ 理工学部の学生だが、レポートが書けるか、またこの先理解できるのかが不安だ。プレゼンテーションが行えない場合のレポートはどのようなものになるのでしょうか?
例年、成績上位は理工学部生です。安心してください。
・ 5月6月に公務員の試験があるので、プレゼンができないと思う。できるだけ早く個人レポートを内容を教えて欲しい。
個人レポートのテーマは5月はじめに掲示します。