顧客満足論
−第三回 V.現代の顧客満足−
 
 
 
 
V 現代の顧客満足(テキスト第2章)
 
1.顧客満足論の発展と系譜
 
(1)1950年代−認識の時代
  ドラッカー:「利潤」から「顧客創造」へ
          〜事業の「継続性」の観点から、次の成長のための新たな顧客創造の必要性
           を強調            ※この考え方の正当性と限界
     ↓
    「マーケティングの時代」を準備する考え方となる
         (アメリカでは60年代からマーケティング全盛となる)
 
(2)1960年代−理念定着と体系化の時代
  マーケティング全盛の時代
   ○「マーケティングの4P1)」の確立(マッカーシー、1960)
   ○マネジリアル・マーケティングという考え方(ケリー&レイザー、1962)
      〜マーケティングは販売の「現場」ではなくトップマネジメントの課題である
   ○顧客志向による「事業の定義」の必要性(レヴィット、1962)
      〜自分たちのやっている仕事が「事業」ではない!
  ※しかし、まだ「顧客満足」のマーケティングが理念や哲学としてのみ理解されていた。
 
(3)1970年代−社会価値導入の時代
  急成長の「ツケ」がまわってくる→消費者運動などがもりあがる
   ○ソーシャル・マーケティングという考え方の発生(レイザー&ケリー、1973)
      〜直接の顧客以外の「社会」を視野に入れる必要性
      〜不満(dissatisfaction)への対応
     ↓
    企業が本当に「真の」顧客満足を達成しているかどうか、ちゃんと測定・評価すべき
    であるという反省を生む
  ※ただし、石油ショック以後の経済停滞のなかで十分にはソーシャル・マーケティングの考え   方はひろがらなかった
  ※いっぽうで、「非営利組織のマーケティング」という課題が認識される
 
(4)1980年代−競争結果としての顧客満
   ○市場が拡大しないもとでのゼロサム型2)競争→「競争優位」3)の絶対化
      市場シェアや利潤を評価基準とした経営戦略指向の強まり
     ↓
     結局は「市場の価値」に基づく競争優位の意義が理解されてくる
     この時代は、「競争優位の結果としての顧客満足」という理解が支配的
   ※なぜ1970年代から一見後退したようにみえる状況になったのか
市場の拡大がほぼ限界に達して、主要な製品やサービスについてはほぼ「成熟期」に入った
 ↓
既存市場におけるシェア4)の奪い合いが重視されるようになった
(反社会的なことをやることが再び容認されるようになったわけではない)
 
 (5)1990年代以降−関係性(リレーションシップ)を通じての顧客満足
    ○長期継続的な組織・人間関係を基盤とした取引の優位性〜単純な競争モデルからの脱却
      ↓
      信頼性、関係性の重視へ
    ※背景 @市場そのものの不透明性、不確実性の強まり
        Aサービス化の強まり・・・生産と消費の同時性というサービスの特質から、
                      ・「接点」における関係性構築の意味
                      ・「顧客との共同生産」的要素の拡大、など
        B自社の力を、流通業者・供給業者・その他関連業者、さらには競合他社、顧客
         との戦略的提携によってより高めていく方向性。
 
 
 
2.現代の顧客満足−dissatisfactionとunsatisfaction
 
どちらも、「顧客満足」が重視された時代であるが
 1970年代:dissatisfactionの時代〜「不満」→怒りを沈静化する必要
 1990年代:unsatisfactionの時代〜「満足でない」→一見消極的。仕掛けていくことが可能
表3−1
(テキストp50)








 
        dissatisfaction     unsatisfaction
性格
 
・「不満」「怒り」
・マイナスの満足
・「満足ではない」
・ゼロの満足
顧客行動
 
・コンシューマリズム
・公害告発運動、他
・これしかないから仕方なく
・よくないので買い控え
企業対応

 
・消費者相談窓口
・オンブズマン制度
・公害防止対策
・戦略的に仕掛ける満足
・満足推進
 
顧客効果
 
・マイナスをゼロにする
(怒りの鎮火)
・ゼロをプラスに
 (喜びの創出)
企業効果 ・顧客の維持(企業の存続) ・顧客の創造(企業成長)
 
 
3.戦略的顧客満足の必要性−なぜ戦略か?
 
限られた経営資源のなかで企業の成長をめざすために顧客満足を追求するためには、戦略5)が必要である。では、ここで戦略とはなにをさすのか? 
 (1)選択性:不確実な環境のもとで最適と考えられるひとつの代替案に「かける」
        →「あれもこれも」ではない
 (2)競争優位性:常にライバル企業との相対的な競争優位のための顧客満足として考える
          ※「ドリルか、穴か」の問題がここで関わってくる
         同時に、dissatisfactionへの対応とは異なる、選択的な判断が必要
 (3)投資発想:コストではなく投資として追求される →未来志向と言い換えてよいかも
          例)スカンジナビア航空の1980年代の経営改革、ヤマト運輸の例
 ※加えて、「正しい方向付け」を「正しく行っていく」こと
       表3−2
       テキストp56を一部改訂



 
選択性
 
・いくつかの「よい代替案」からの選択
・適度のリスクをもつ
競争優位
 
・「独りよがり」でない顧客満足活動
・革新的な仕掛け
投資発想
 
・コストとの違い
・「損して得取れ」
 

1)4P:製品(product)、価格(price)、プロモーション(promotion)、チャネル(place)のこと。これらそれぞれがマーケティング活動の一部分をなすが、それらをばらばらではなく統合して行うことでターゲットを明確にしたマーケティング活動を行うことができる。プロモーションとは宣伝など製品やサービスを提供する側と提供される側とのコミュニケーション、チャネルとは製品やサービスを顧客に届けるルートのこと。
2)ゼロサム型:ゼロサム(zero-sum)ゲームとは、参加者の損得の合計が常にゼロになるゲームのこと。つまり、勝ったものがいれば、その勝った分負けたものが必ずいる状態。
3)競争優位:長期間にわたってある産業(またはある業界、ある同一の指向性をもつ企業群)のなかで優れた収益性を確保すること。
4)「シェア」:市場の中で、その企業あるいはその製品が占める割合、比重。例)「キリンビールは以前はビール市場で圧倒的なシェアを誇っていた。」
5)「戦略」:もともとは20世紀初頭のドイツの軍人クラウゼヴィッツが著した『戦争論』で示された概念。今日経営学においてはでは、「企業の将来像とそれを達成する道筋」あるいは「環境適応のパターンを将来志向的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」などと定義される。一般に目標(または理念)−戦略−戦術という階層で捉えられる。