顧客満足論 第7回
質問への回答
0.前回以前について
・前回の質問の説明で、「朝夕全員で理念の唱和」という手法は古くて正しいとは思わない、と書かれていますが、経営者側が何を求めているかを従業員に示すのは大事なことだと思います。
従業員に理念を示すことは重要ですが、朝夕全員で「唱和」するという、いわば外部から形を押しつけるやり方にはもうあまり効果がないだろうと思っています。それよりは、日々の意思決定や、評価基準などによって自然とその理念が組織内に浸透していくことが重要です。
・料理説明を紙に書いて渡すという話ですが、何度も分けて料理説明をすると、話がそのたび途切れますが、こういうときは、最初と最後の2回でいいと思うのですが?
まさに、いちいち料理説明をすることがていねいなようでかえってサービス向上につながっていないことから、説明は紙で渡して、仲居さんにはもっと必要なサービス活動に集中してもらうことで規模拡大とコスト削減を両立したのです。
・美容師さんが、シャンプーの講習会が今度あって、こんなことをしたら、個性をつぶす、と言ってましたが、これについてどう思いますか?
本来、基本を知ることなしに応用はできません。以前も話したかもしれませんが、ピカソは前衛的な抽象画で有名ですが、しかしその基礎にはデッサンなどごくごく基本的な技能において卓越していたことがあると言われています。つまり、優れた応用能力の土台には、基礎をきっちりこなすことができる力量が必要なのです。ピカソは晩年、世界平和の活動のためにと求められた時に、非常に写実的でありながら感動的な鳩の絵を描くことで、彼の基礎的力量は不変であることを示しました。
1.関係性マーケティングについて
(1)基本的概念について
●交換パラダイムはもう成り立たなくなったといいますが、高価なものを買う時、顧客は値段以上、少なくとも同等の価値を求めると思うのですが。
●刺激―反応パラダイム・交換パラダイムと関係性パラダイムを分けていましたが、関係性パラダイムの中に刺激―反応パラダイム・交換パラダイムが含まれると思います。もしくは、前の二つのパラダイムの発展型が関係性パラダイムであるのではないかと思います。
「パラダイム」というコトバは、ここでは、「ある時代に支配的な考え方」という程度で理解してください。したがって、いくつかのパラダイムが同時代に併存していることはありえます。今日でも刺激−反応パラダイムや交換パラダイムの考え方で認識可能な状況は広範に存在しています。ただ、関係性パラダイムにおける新しい考え方が現在においてはもっとも重要であるということです。
・交換パラダイムで、企業(送り手)と顧客(受け手)が相互に価値を交換することで・・・とありますが、企業と顧客の価値交換って何ですか?漠然としていてつかめません。
売り手から見れば「販売」、買い手から見れば「購入」というのは、形態で見ると買い手の貨幣と売り手の製品やサービスを交換することです。しかし、一定額の貨幣とある製品やサービスはなぜ交換できるのでしょうか。
ここでは売り手は「貨幣」が必要であり、買い手はなんらかの製品やサービスが必要であるからこそ交換がなりたつという前提条件があります。売り手にとっては「貨幣」を得ることでなんらかのプラスの意味があり、買い手にとってはその製品やサービスのを手に入れることでなんらかのプラスの意味があります。この「なんらかのプラスの意味」を、「使用価値」または「効用価値」といいます。テキストでは「価値」をこの意味で使っています。売り手であれ買い手であれ、自分が相手に渡したものの価値よりも自分が受け取った価値のほうがより有用であるからこそ交換するのです。
なお、交換が成り立つからには製品やサービスのあいだにある共通の尺度で測ったときに等価であるとみなされることが必要です。実際には一つ一つの製品やサービスを一対一で対応させていちいち等価であるかどうか検証するのは非常に困難です。そこで、貨幣がその交換の仲立ちをすることになりますが、いずれにせよ「価値が等しい」からこそ交換されるわけです。これは「交換価値」といわれます。この「交換価値」に客観性があると考えるのがマルクス経済学で、交換当事者双方が主観的に納得していればよいと考えるのが近代経済学であるというと、ちょっと乱暴すぎるかもしれませんが。
(2)長期的関係とは
・長期的な関係とは、顧客にあてはめた場合、リピーターのことを指しているのですか?
おおむねそうです。
・関係性マーケティングのところで、長期的な「関係性」に注目とありますが、これは、特定顧客を増やしていこうという考えなのですか?交換パラダイムで一回一回の交換で確実に・・・とありましたが、これは、潜在顧客中心のマーケティングということですか?
「特定顧客」の意味がわかりませんが、継続的に取引をする顧客を増やすことで、最終的に利益を拡大していくということです。交換パラダイム的発想は潜在顧客云々というよりは、取引を一回限りのものとして考え、その取引で確実に利益を出していくことを重視することです。
●インターネットが普及している今、むしろ短期的な関係の中で利益を追求するという戦略は通用しないのか?
ネットビジネスであっても、短期的に利益を追求する場合と関係性を重視する戦略とが両方ありえます。たとえば、リピーターになりうるお客さんにメルマガを送ってそのときそのときの売れ筋や話題商品などを紹介することで、広告をたくさんうたなくても確実に自社のほうへ眼をむけている顧客に情報を届けることができます。
・パソコンに必要な機能だけつけると言っていましたが、あとからほかの機能がほしくなったときは、どうするのですか?このような場合には、従来の、刺激−反応パラダイムや交換パラダイムのほうが良いのではないでしょうか?
DELLの例は「マス・カスタマイゼーション」の例としてあげたわけですが、こういう場合にこそ関係性マーケティングが重要になるのです。つまり、DELLは様々なオプションを追加的にも用意しており、顧客が必要なオプションを必要な単位でパソコンを購入したのと同じ方法で購入することができます。また、機能向上などがあった場合にはDMなどで知らせてくれます。
(3)応用編
●POSや会員カードは広く利用されているが、POSで管理されているのは売上や各部門別の売れ筋とかで、会員カードと組み合わせた顧客単位の管理をしていないと思う。会員カードを作ることで、顧客との関係構築と見ている場合が多いと思う。
会員カードを作っただけでは関係性を構築したとはいえないですね。会員登録することで長期的な継続取引に結びつくような関係をつくるための仕掛けが必要です。会員の購買動向をPOSでキャッチして、会員がより喜ぶような品揃えをするなどが必要です。
・会員カードを作るとき、スーパーなどでは無料のことが多いのですが、レンタルなどは有料のことが多いです。無料のほうが客も集まるし、顧客満足にもつながると思うのですが、有料のメリットを教えてください。
会員カードのねらい次第でしょう。会員特典などを多様に準備する場合は会員特典をうけるためのいわば手数料として会費を理解することができます。また、そうした会員特典を用意して有料のカードを発行すれば、入会者は会費のもとをとろうとして繰り返し利用するでしょうから、無料カードより来店頻度があがるかもしれません。
・関係性マーケティングの信頼を築いていた企業と顧客がいたとして、その信頼にひびが入るとすれば、それはやはり企業側に問題があるのでしょうか? それが顧客の場合、修復することは可能なのでしょうか?
一般論ではこたえられないですね。多くの場合企業側に原因があると思いますが。
・JTBの話を聞いて、誠実さ、信頼性を売りに行くというような話をされていましたが、このことを関係性マーケティングというのでしょうか?
旅行のようなサービスにおいて関係性は重要ですが、この話自体がそこに結びつくものではないように思います。
(4)顧客と個客
●顧客1人1人にサービスを行えば、企業はコストが上がって、逆に顧客満足にならないのではないでしょうか?
短期的にはそうですが、長期的な利益を見通すことが重要だというわけです。
・お客様の生活まで考えた接客は、過剰サービスと思われることはありませんか?
過剰かどうかは顧客の判断であり、顧客にとって過剰でないように行う必要があります。
・関係性マーケティングが行われるには、企業からのアプローチが必要であるが、顧客側からも必要だと思う。そうしたアプローチによって、「関係性」が得られると考えて良いのか?
いちがいにいえませんが、顧客側のアップローチが必要な場合もあるでしょう。
(5)社会貢献との関係
・関係性マーケティングが社会貢献につながることが納得できません。社会貢献は企業にとって利益につながらないと思うし、企業が社会貢献を行っているのを、あまり見たことがありません。
・社会貢献や顧客の「満足」を得ることを中心にやることで、企業の成長が得られるということですか?
・社会貢献というのは、結局自社の信頼を構築する手段の一つで、きれいごとに聞こえるのですが、どうでしょうか?
今日、バブル期のように派手なものは少ないとはいえ地道な社会貢献活動をたんねんに続けている企業は少なくありません。たとえば村田製作所は毎年優れた芸術活動を行う団体に助成を行っています。そうした活動はもちろん自社のイメージをよくするという意味もありますが、顧客だけでなく取引先、さらには社内においても自社の姿勢を示すことになります。現実にはそうした社会貢献活動と事業の質とが乖離しているケース(たとえば雪印)もあり、きれいごとに見えることもありますが、今日そうした活動を通じて社会全体との間で安定的な信頼関係を築いていくことは企業にとって不可欠であることにかわりはありません。
(6)その他
・美容院で最近カウンセリングなどを事前に行うところが増えていますが、これも関係性マーケティングによる顧客満足と考えていいのですか?
カルテを作って管理し、以前の状況などもふまえたサービスを提供することができるなら、そういえるでしょう。
・仲のいい店員のいる店では、薦められたものを優先して買ってしまうのですが、それも信頼からくる関係性マーケティングなのですか?
そういった個別的な人間関係だけに頼るものは、組織的なマーケティング活動とはいえないでしょう。
・関係性マーケティングで信頼を築けた客は、優良顧客となり、高い収益につながるので、大切だと思いますが、新規顧客は関係性マーケティングの初期段階なのですか?
関係を作っていくべき顧客について言えばそうです。
2.ソリューション満足のマーケティングについて
(1)ソリューション満足の限界?
●ソリューションという言葉がもてはやされているが、顧客に問題を与えているように思う。本質的なものを見失っているような感じがしてなりません。
それは、ソリューションの意味をちゃんと理解しない活動が多いからです。
●ソリューションビジネスは1件1件違ったニーズを提案していくので、マニュアル化やシステム化が難しいと思う。そうなると、製品・サービスの質は飛躍的に増し、満足度も非常に向上すると思うのですが、量が量産するより大幅に減少し、売上が下がると思うのですが。そうなると、1件1件の料金を高く設定しなくてはならない。総合的に、ソリューションビジネスには限界があると思うのですが。
●個客に対応したサービスを行おうとすると、企業の経費がかさみ、利益は減るように思われます。それが不況ということにもつながるのでしょうか。
第一に、ソリューション満足実現のための活動の全てが顧客一人一人に店員がはりつくようなことではありません。だからこそ科学的運営法と人間的運営法の統合が必要なのです。第二に、長期的な関係の中で確実に利益を上げていくことは必要であり、そのための工夫が必要です。
・ソリューション満足が本当に必要なのか?あまり必要性を感じませんが。
なぜそう思いましたか? これでは質問になっていません。
(2)ワークショップ型
・ワークショップ型ソリューション=双方ソリューションということですか?
結果的にそういうことになります。
・ワークショップ型は買い手も売り手も問題を知らないということですか?それなら問題がない状態で満足を生み出すということですか?
・セブンイレブンの例で、「両方ともどうすればいいのかわかっていない」とはどういうことですか?
課題(この場合「アイスクリームをどうやって効率的に売るか」)ははっきりしていても、それを解決するために何をすればよいのか、つまり問題がわかっていないわけです。これに対して議論した結果商品開発と流通の改善が必要という問題が明らかとなり、今度はそれを具体的に解決するための相談が始まります。このように、課題をより具体化し解決できる問題におとしこんだうえで、それを解決していくプロセス全体をワークショップ型で進めるというわけです。
・ワークショップ型マーケティングのところで、この場合の両方というのは、客と売り手という接客の場面ではなく、企業と企業の間の売り手と買い手のことを言うのでしょうか?
企業間だけでなく企業(提供側)対個人でもありえます。
・ソリューション満足のマーケティング類型のCワークショップ型のところで、メーカー同士に情報がばれてしまってもいいのでしょうか? メーカーにとっては相手に自社の手を読まれるとまずいのでは?
・企業が共同で商品を作ることで、何が利点なのですか?
・セブンイレブンの例で、なぜ競争相手とわざわざ結びつきを持つのか良く分からなかったです。
その方がより長期的な利益につながると考えれば、競争企業間でも提携することは一般にありえます。お互いがもっている技術やノウハウ、販路などを共有した方がより大きな競争相手に対抗する上で有利であるとか、取引先との関係を強化することにつながるような場合がそうです。セブンイレブンの例では、アイスクリームメーカーは後者の理由から競争より協調を選んだわけです。
(3)その他
・「買い手は分かっているが、売り手が分かっていない」のところがあまりよくわかりませんでした。投資家と証券会社でも、やはり証券会社の方が知識は上なのではないでしょうか。
知識を提供することはできても、最終的に判断するのは投資家です。
・ソリューション満足の買い手、売り手の関係が、大学と大学の自治委員会の関係と似ているように思いました。その類型もそれぞれの形で様々な問題がこのソリューション満足に共通していると思うのですが、それでよいのでしょうか?
・キャリアセンターが低回生に向けてサービスを行う場合、提案型のソリューション満足なのでしょうか?
そういう側面はあると思います。
・solution businessとはいったい何ですか?
製品やサービスを単体で提供するのではなく、全体として顧客の問題解決にとりくむという姿勢を強調した企業がよく使うキャッチフレーズです。
・問題解決を提供するということは、ソリューション満足につながると考えて良いのでしょうか?なかには事情を聞かれたくない人もいると思うのですが、そういう人にはソリューション満足は実現しないのですか?
問題解決してほしい人(組織)と、問題解決を提供することで利益を得ようとする人(組織)がむすびついたところにソリューションの可能性が開けるわけですから、人や組織が問題解決して欲しくないとか、問題解決のための情報を提供したくないと言うなら、はじめからソリューション満足活動は成り立ちません。
・ソリューション満足のマーケティングは関係性マーケティングを成功させる1つの手法と考えてもいいのですか?
そういってよいでしょう。