顧客満足論
-第5回 関係性マーケティング(1)なぜ関係性マーケティングか-
 
 
 
(テキスト第2章を参照のこと)
0.関係性マーケティングとは
(1)関係性マーケティングの定義
売り手と買い手1)の間のより長期的な「関係性(relationship)」に注目するマーケティングの発想。
企業と顧客との間のインタラクティブな双方向的コミュニケーションのなかから、具体的なウォンツが「共創的」に発生すると考える。(和田の定義をもとに、近藤が整理)
 
(2)なぜ関係性マーケティングか
 ①消費者(生活者2))のありようの変化・・・生活環境の充実、「個性化」・「多様化」
 ②小売構造の変化
 ③関係性構築のための技術基盤の進歩
①②はテキストでふれているが、③も重要。
 
1.生活者のありようの変化
 生活者サイドで見ると、大きく4つのが、「関係性」を必然のものとしている
(1)生活環境の充実
   「豊かな消費社会」の実現=生活における経済合理性の追求と裏腹。高度な便宜性社会の実現。
   生活のほとんどをアウトソーシングできるだけの状況。ex)インターネット生活実験
*ただし、この生活者像は「総体」にすぎないことに注意(p.43)
 
(2)生活者の「個性化」「多様化」
   バブル期に喧伝された「個性化」「多様化」が必ずしもうまくいかなかった→なぜか
①「多様性」の正確な理解が必要~むしろ「バラエティ化」?
「縦の多様性」と「横の多様性」(pp.44-45)
「バラエティ化」は若年層に特徴的(p.45)3) 
「個性化」と「バラエティ化」の同時並行(p.45)
    ②「多様化」「個性化」は生活全般に現れるわけではない
生活基盤形成部分・・・合理性最優先。「多様化」「個性化」は不要
生活の豊かさ形成部分・・・「多様化」「個性化」が現れやすい
③消費者の情報処理能力-限界と使い分け
消費者の認識できるブランド数にも、商品属性数にも限界がある。
しかもその限界は可変的
「生活基盤形成」部分:製品関与度が低い
「生活の豊かさ形成」部分:製品関与度が高い
④「多様化」「個性化」の範囲に関する二つの留意点
・「生活基盤形成」部分では依然として細分化されないマス・マーケットが存在
        ・「多様化」「個性化」といっても類似性のあるカテゴリーでくくることができる
このカテゴリーが自然発生することも重要=「自分なりの」群れ
 
(3)生活者の変化はどの方向へすすんでいるのか
・「生活基盤形成」部分:
合理的、効率的な購買・消費行動を行う。品質、価格、便宜性が依然として重要
・「生活の豊かさ形成」部分:
「自ら何かを創造する」「人と人との交わりを深め、広げていくこと」を重視
    ※「豊かさ形成」においても合理性、効率性は前提(酒ディスカウントの例、p.53)
 
2.小売構造の変化
小売構造における「集中化」と「業態融合化」の進展が、小売構造を大きく変化させることで、小売業対消費者、メーカー対小売業の二つの側面で「関係性」をクローズアップさせる。
 
(1)中小小売業の存立条件の変化
中小小売業が生き残る道としての「顧客との関係性重視」
中小小売業が生き残り可能である三つの理由(①市場スラックの存在②まちづくり政策との関連③「集中化」「業態融合化」によってかえって専門店の意義が高まる)のうち②③は、必然的に「関係性」重視を導く
②:地域との相互関係で存在意義を示すことが重要になる
③:顧客にとって「自分の店」になる必要がある
 
(2)大手小売業における競争要因の変化
規制緩和や「集中化」「業態融合化」の進展は、当初は大手小売業間の競争を激化させる。
最初はこのことで価格競争が激化するが、競争の結果寡占化が進展し、非価格競争になる。
顧客との長期的な関係性の強化が、競争優位獲得のための重要な要素になる。
 
(3)大手小売業とメーカーとの関係の変化
大手小売業による寡占化の進展は、流通システムにおける大手小売業の力を強大化する。
当初はメーカーと大手小売業とのあいだで綱引きがあるが、やがて双方が疲弊する。
流通システム全体の効率化を協調して進める方向になり、両者の長期的関係が重要になる。
※すでにあげたセブンイレブンの例など
 
3.関係性構築のための技術基盤の進歩
POSや顧客管理システムの向上により、長期的な関係をシステム的に構築することが可能になった。これらは「会員制ポイントカード」などでおなじみである。
販売履歴管理はもちろん、今日、多様な顧客管理が可能である。   

1)単に「関係性」という場合は企業とすべてのステークホルダーとの関係をさす(テキストpp.68-69)と和田は述べているが、マーケティングとして考える場合にはここまで拡張しない方がよい。
2)「生活者」とはあいまいな用語であるが、「最終消費者」とほぼ同義として考えてよいであろう。
3)現段階ではいっそう進んでいて、「バラエティ化の様相が年代で異なる」と理解すべきだろう。