2002年10月24日
 
マーケティング論
第5回 マーケティング計画とマーケティング組織
 
 
 
 
 
X マーケティング計画とマーケティング組織
(この項もテキストはあまり使いません)
 
 
1.マーケティング計画
(1)SBUを単位とした全社的戦略計画のプロセス(復習)
 これまで、戦略についていろいろ説明してきましたが、ここでは実際の戦略立案プロセスにそってまとめてみます。
 
@全社的な理念や目標の策定
  いったい何をめざしているのかを明示する必要(ミッション・ステートメント)
 
A事業ドメインの策定
   →レジュメV3参照
 
B全社的戦略計画
  プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント〜SBU*1を単位として考える
   →テキストp91〜92参照
 
C事業展開の方向性の検討
  ・集中的拡大:既存事業の拡張。アンゾフの成長ベクトル→テキストp90参照
  ・統合的拡大:自社の事業を基本に他の企業を統合して拡大を図る。
          a)製品の流れに沿った統合(垂直統合)=供給側や小売り側の買収など
          b)市場に沿った統合(水平統合)=競合他社の買収など
  ・多角化的拡大:自社の既存事業に関連のあるところへの拡大と、そうでない場合がある
 
(2)SBUごとの戦略計画=事業戦略の策定
 では、個々のSBUごとの戦略計画である事業戦略および事業計画の策定にあたっては、どんなプロセスが必要なのだろうか。
@目的と目標
事業戦略においても目的は必要である=戦略の必要性(レジュメU1)。
  同時に、目的だけでなく実際の数値目標がないと、具体的に評価できない。つまり、戦略を
 具体的な計画としていくためには、目標を明確にする必要がある。
 
ASWOT分析
  目的を達成するために、その事業に関わる経営環境*1の分析を行う
  SWOT:内部環境の分析〜Strengths(自社の強み)、Weakness(自社の弱み)、
外部環境の分析〜Oppotunities(機会)、Threats(脅威)
   ※身近な例にも応用できる。
 
B三つの基本戦略
  事業戦略は以下の三つの戦略が基本の形となる
   ・コスト・リーダーシップ
製品やサービスの生産にかかる費用(コスト)を競合他社より下げる戦略。価格が同じなら利益が増える。あるいは、価格競争を仕掛けて他社よりたくさん販売する。
   ・差別化
他社よりユニークな製品やサービスを提供する。
   ・集中
特定の顧客層や特定の製品、あるいは特定の地域だけに限定することで、他の競争相手がその分野に入って来れないような力をつける。
 
(3)マーケティング計画とマーケティング・プロセス
@事業計画とマーケティング計画
事業計画の中核がマーケティング計画
 
Aマーケティング・プロセス(図1)
  ・環境分析:SWOT分析と同じ手法だが、「誰が顧客か」「顧客のニーズやウォンツは」な
        どが中心となる。
    ・目的と目標の策定
    ・マーケティング戦略の策定:STP戦略(次回説明)とマーケティング・ミックス(4P)
    ・具体的な行動計画
 
Bマーケティング計画の内容(表1)
 
 
2.マーケティング組織
 実際にマーケティング計画を実行する組織のあり方としてはどのようなものがあるだろうか。
 
(1)ライン・アンド・スタッフ組織(図2)
製造・販売などの基幹的業務を担当するライン部門と、人事・経理などラインを支援したり研究など専門的な業務を担当するスタッフ部門とから構成される。もっとも一般的な組織形態。
ライン部門は製品別、地域別、顧客別などで構成される。
 
(2)分権的組織(図3)
それぞれの部門に一括して権限を委譲し、それぞれの部門が独立採算またはそれに近い形で責任を持つ。一つの会社の中にいくつもの会社があるようなイメージ。なので、実際にはそれぞれの部門の中にライン・アンド・スタッフ組織がある場合が多い。事業部制が一般的だが、さらにそれを推し進めてほんとうに別な会社にしてしまう分社制、バーチャルな分社制であるカンパニー制などがある。一時非常に流行したが最近は見直しの傾向もある。
 
(3)プロダクト・マネージャー(PM)またはブランド・マネージャー(BM)制(図4)
それぞれの製品やブランドごとに企画開発から実際の販売、さらにそれを総括して次期の製品企画という一連の流れを、一人ないしは少数の責任者(マネージャー)のもとに製品別に担当する組織。同じ製品であっても別なブランドであれば社内でも競争がうまれる。
 
 
<質問への回答>
 
 
市場細分化戦略において、なぜ、人の形式的な属性よりも、やりたい「こと」、必要な「こと」という属性に注目するのか。人の形式的な属性とは何なのか?
 説明しましたが、人の形式的な属性、つまり性別、年齢、すんでいるところ、家族構成などではその人それぞれのニーズやウォンツを一概に決めつけることができないからです。
 
企業にとって戦略で最も大切なものは何であろうか?
最近の食品会社の不祥事はどんな戦略のもとで行われていたのだろうか?
資本主義社会の原理からすれば「利益」です。これは、イデオロギー的にはまったく反対の立場であるカール・マルクスとミルトン・フリードマンが共通して言っています。しかし、原理はさておき現実の社会の中では、「信頼」こそもっとも重要であるという意見も強くあります。さて、食品会社の戦略はどうだったのでしょうか。
 
多角化企業における資源配分の考え方として、PPMの考え方は、現状での事業のみに焦点が当てられ新規事業という観点が抜けています。資源配分における新事業の位置付けは、どのようになるのでしょうか?
必ずしも抜けてはいません。「金のなる木」で利益をあげて、「問題児」の育成に回すという発想は、新規事業への投資について、ボストン・コンサルタント・グループなりの基本的な考え方を示唆しています。
 
差別化戦略の定義について、差別化もしくは差異化とは「製品の品質」のみを指すのでしょうか。同じ製品でも価格・チャンネル・プロモーションを他と違う方法で行う戦略を「差別化」とは呼ばないのでしょうか?
今後のところで説明します。
 
企業が消費者を満足させながら市場活動をしているが、他方で、戦後、マーケティングを活発に行ったことで多数の問題も生じた。そこで、消費者問題や消費者運動でいう消費者とはどのような人々か?また4Pが消費者問題とそれぞれどのように結びつくのか?さらに、企業がマーケティングを続ける上で環境をどのように考えているのか?
消費者問題や消費者運動で言うところの消費者、とは前回の市場のところで説明した消費者市場に存在する消費者を直接にはさしています。もちろん、問題を提起する人たちはそのなかでも特に問題意識の高い人々である場合は多いのですが、その人たちだけのことを考えているわけではありません。消費者問題や環境対応については最終回の講義で集中して検討します。
 
購買プロセスを分析するには具体的にどのようにするのでしょうか?
購買先に影響を与える心理的要因は、具体的にどのように調べるのでしょうか?
具体的にはモニター調査やアンケートなどが主な方法です。

*1SBU(Strategic Business Unit):戦略事業単位。いろいろな事業を行っている、あるいはいろいろな製品群をもつ企業で、そうした事業や製品群をまとめて事業戦略を策定するのがふさわしいグループで単位としてまとめたもの。
*1経営環境(再掲):経営環境:企業などの組織が、その活動を行う上で関係してくるが自分自身ではコントロールできない組織内外の諸条件(影響を与えることは不可能ではないことが多い)。一般に外部環境と内部環境にわけられ、外部環境は法律、市場、文化などであり、内部環境とは組織構成員の価値観や組織の風土(組織文化)など。