2002年12月5日
 
マーケティング論
第10回 価格戦略
 
 
 
 
 
Z 価格政策 (テキスト第7章)
 
1.価格とはなにか
(1)不完全競争市場における価格の意味(p120)
完全競争市場:競争価格=市場価格
不完全競争市場(=寡占市場):管理価格(≒寡占価格、独占価格)または破滅的価格競争
つまり、価格は必ずしも市場価格では決まらない
             →企業主導で価格が決められる場合(管理価格。通常市場価格より高い)
             →破滅的価格競争が起こり、市場価格を下回る場合
 
(2)管理価格
破滅的価格競争を回避するために、寡占企業間で暗黙あるいは公然と価格面で協調すること。
@カルテル
 
 
        A紳士的協定(談合)
 
 
        B価格先導制(プライス・リーダーシップ、狭義の管理価格)
                 ※価格先導制は、製品差別化が基礎となる。
                   →自社に有利な管理価格の水準をめぐる「価格競争」
 
 
 
(3)垂直的流通価格体系
管理価格としての「メーカー希望小売価格」をどう維持するか
→卸売業者、小売業者を拘束するために、双方が利益になる公然・非公然の手段を
         必要とする。
 
 
2.価格設定の方法
(0)価格戦略の二つの領域
   ・価格をどう設定するか
   ・設定した価格をどう管理するか
 
(1)コスト志向型価格設定法
コスト+利潤を基本として算出する。例)鉄道運賃
 利点:考え方としてわかりやすい。
 問題点:「適正な利潤」とは???
 
 
(2)競争志向型価格設定法
競合する企業がつける価格を基準にする。例)缶ドリンクの価格
 利点:業界の調和が損なわれにくい。
 問題点:コストや需要と価格が連動しないので、利益や損失ははかりがたい。
 
 
(3)需要志向型価格設定法
消費側の判断をもとに価格を決定する。
限界分析を基礎に利潤極大化を算出する手法と、消費者心理に基づく手法がある。
例)ジャスト・プライスではなく9,999円などとする
 利点:前者は論理的。後者は消費者の意識に適合的である。
 問題点:前者は現実には確定しづらい。後者は逆に消費者の意識に縛られる
 
 
3.価格管理の方法
(1)割引
販売業者が、メーカーの希望(想定)小売価格に含まれる自分たちの利益を削減して実際の
販売価格とすること。
 
 
(2)リベート
販売後に販売業者にメーカーや卸売から支払われる報奨金など。販売業者の協力をめざして、
    管理価格の維持にあたるものだが、実際には売上促進の報奨などと区別できなくなっている。
 
 
(3)再販売価格維持制度
ほんらい販売業者がもっている価格決定権をメーカーがうばい、価格を「定価」として固定
    することは公正競争の観点からよくないので禁止されているが、一部の商品についてはその
商品自体の性格から、再販売価格維持制度(再販)が認められている。
<質問への回答>
 
○自動車のカセットテープからCDへとのモデルチェンジは機能的陳腐化ですか。
 それが理由で買い替え需要を誘発するようなモデルチェンジが機能的陳腐化といえます。自動車の場合、オーディオの性能だけで買い替えを考える人は少数と思われるので、機能的陳腐化とみなすのは難しいでしょう。
 
○サービスとは何か。サービスにおける「製品」がちょっとわかりにくいので例をあげてもう一度お願いします。また、立ち食いうどんはサービスなのですか。
 サービスの定義を厳密に示すと「受け手に何らかの便益や効用をもたらす人、モノ、またはシステムの機能ないしは活動のみが提供されること」です。立ち食いうどんは、うどんという形のあるモノをつうじて、おなかをふくらませるという効用を提供する調理と供食という活動を提供しているので、サービスです。サービスにおける「製品」はこの活動または機能それ自体なのです。
 
○例えば会社の仕事のために個人で買ったパソコンは消費財と生産財のどちらに入るのでしょうか。個人で購入するものが消費財なのでしょうか。
 個人で買えば消費財です。第一に、マーケティングの観点からみても、4Pのすべてにわたって企業が製品を選択して購入して社員に支給する場合と個々人が自分の選択で購入する場合とではまったくことなります。第二に、経済学の観点からみれば、個人で買うということは給料、すなわ労働力の対価である賃金として支払われたお金から買うということです。賃金はすでに労働力のための費用として生産費用に含まれているので、賃金をもとでに購入されたものを生産手段の一部として考えるとおかしなことに(二重に計上されることに)なります。
 
○プロダクト・ライフサイクル中に巻き返しに成功した例としてPHSはどうですか。
 Air"H"などの通信サービスが軌道に乗ればそういえると思います。よい例を提供してくれました。
 
○テキストP109非耐久材のところの「試用期間」というのはどういうことでしょうか。「使用」は違うのでしょうか。
 
 
○サービスは無形の便益を提供する機能または活動ということですが、どのように消費者を「おまけ・タダ」というイメージをいだかせるに至ったのですか。
 もともとサービスには「奉仕」という意味があり、英語でも「無償奉仕活動」というニュアンスで「サービス」という言葉を使うことがあります。そのあたりが原因と思われますが、日常用語としては「じゃあ、リンゴ一個サービスしときます」などという使われ方をするので、「おまけ・タダ」というイメージがつきまとうのです。しかし、一方英語ではより広く「活動」一般にも「サービス」という言葉を用います。たとえば、バスや列車などが頻繁に運行されることを"frequent service"といいます。経営用語としての「サービス」はこちらからきています。
 
○ユニクロも買い替えを促進させる政策を行っていると思いますが、それならばどの計画的陳腐化に当てはまるのでしょうか。特に、低価格などはどの計画的陳腐化に当てはまるのでしょうか。
 価格戦略は、なによりもターゲットとなる市場との関係でまず規定され、低価格であるかどうかは買い替え需要を誘発する手段というよりはもっと基本的な決定に属します。
 ユニクロの買い替え促進策の評価については、まず具体的に考えてみてください。そのうえで、質問してもらえればこちらも答えます。
 
○競争他社との優先順位を確立する上で、その製品に対し一番に乗り出すのと、二番手以降で参入するのとでは結果は異なってくるのではないでしょうか。独占を達成するにあたり、この点は重要ではないでしょうか。
 もちろんそのとおりです。プロダクト・ライフサイクルのモデルは、基本的には市場に最初に新製品を投入した企業を念頭において作られています。というのは、このモデルは「プロダクト」のライフサイクルであって、企業の、ではないからです。最初に市場に新製品を投入した企業は、いっぽうで先行者利得(ほかにだれも売り手がいない商品を市場が求めている場合、価格は売り手が一方的に決めることができるので、高い利幅を設定することができる。従って、通常以上に高い利益を得ることができること)の可能性がある反面、他方では製品開発や流通チャネル確保のために高いコストを投下しなければならないという負担もあります。たとえば、M社がいろいろ工夫して開発したハンバーガーの新製品を、L社はほんとど苦もなくまねすることができます。
 
○IT関連商品を購入するにあたり、消費者は企業の戦略に乗せられていると思う。そこで消費者が結果として企業の戦略にそむくことも増加してくることも考えられる。すると需要が減少する傾向が生じた場合において企業はどのように対応するのでしょうか。
 一般論での回答は難しいです。たとえば、パソコンは次々と性能を上げて機能的陳腐化をはかっていますが、あまりにテンポが速いため、徐々についていけないユーザーがうまれてきています。この場合、機能的陳腐化ではない戦術をとっていくという方向性もありますが、従来とられてきた高性能化・多機能化とは異なった方向性での機能改善(使い勝手の改良など)による買い替えの促進などもありえるので、いちがいにはいえません。
 
○テキストがマルクス経済学の視点から書かれているので、基礎科目のテキストとしては偏っているのではないか。
 2chあたりで煽られたのものではなく、まじめな意見であることを前提に回答します。
 大前提として、大学の講義の内容は「絶対正しいもの」ではないということです。基礎科目の内容は、「今後学んでいく上で理解しておいて欲しいこと」ではありますが、唯一絶対のものとして押しつけているわけではありません。
 そのうえで第一に、何らかの基礎理論に立脚しようとすれば、それは必ず一定の学問的立場に「偏る」ということです。マルクス経済学なら偏っていて、新古典派経済学は偏っていない、ということにはなりません。マルクス経済学に対して批判があるように、新古典派にも、ケインズ主義に対しても批判があります。学問のあいだの自由競争によって、徐々に世の中の動きが解明されていっているのです。
 第二に、もし「偏っている」というのを現在の資本主義システムに対して批判的である、ということから言っているのであれば反論があります。資本主義を是とするか否とするかを問わず、現状を単に肯定することは社会の発展につながりません。批判精神をもって社会を分析することが学問の役割であり、その分析結果をもとに社会の発展の方途を探ることが必要なのです。その意味で、あらゆる学問は批判的です。
 また、実際のマーケティング活動のうえでも、現状に批判的であることはなによりも重要なことです。批判とは、悪口をいうこととは違います。このテキストを選んだ一つの理由は、企業のマーケティング活動に対して必要な批判的視点をもっているからです。
 第三に、マルクス経済学は基本的には資本主義経済の分析を行う学問であることを理解しておく必要があります。現状に対する批判も、単にイデオロギー的あるいは価値観のレベルでの批判ではなく、資本主義経済の分析の結果として導かれているものであることに留意する必要があります。
 マルクス=左=共産党などという非常に古い図式にこだわらず、広い視野で多様な見方を知り、そのなかから自分なりの視点や考え方を作っていってもらえれば、必ず社会生活の上で有用であると私は考えています。