2003年10月30日
 
マーケティング論
−第五回 市場の選択(3)標的市場の選択(3章)−
 
 
<前回の復習〜戦略とドメイン>
(1)経営戦略とは
「環境適応のパターンを将来志向的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」(加護野忠男)
 @激しく変動する経営環境1のもとでも、それに振り回されないよう企業(組織)の活動に方向性やあり方に一定の指針を示す
 A企業(組織)がその環境とどのような形で関係を持つのかを示す
 B企業(組織)における意思決定の規範を示す
常に変動し続ける「環境」へ適応し続けるためには、場当たりではいられないことから、企業にとって戦略が重要であるといえる(柔軟性は必要だが)。
(2)企業戦略と事業戦略
企業戦略:多角化した企業において、多様な事業全体を包摂した戦略。
事業戦略:個々の事業分野ごとの戦略
例)JR各社の場合はホテルや百貨店にも多角化していますが、それら全体を包摂したものが企業戦略、個々の鉄道、ホテル、百貨店それぞれの戦略が事業戦略です。
(3)ドメインとは
企業の生存領域。ただし、二つの要素がある
 @事業領域としてのドメイン:現在どういう領域にいるか。客観的に示すことが可能。
 A戦略領域としてのドメイン:今後どういう方向へ向かうかを示す。
   これを明確に示すのも経営戦略の役割。
   特に多角化を進める際に重要。
(4)企業のアイデンティティ
理念や目標を基盤とする企業の自己認識。ドメインとして表現されることもある。
特に多角化が進んだ企業ではアイデンティティが確立していないと、企業が空中分解状態に陥る危険がある。
 
<質問に答えて>
(1)先週の講義内容に関して
@ドメイン
ドメインを決めて企業イメージを確立することで売上に大きく関係するのですか。
 売上や利益に直結するというよりはむしろ企業の存続・成長の基盤だといえるでしょう。
○企業ドメインが変化していくことはあるのでしょうか。もしあるのなら、それは、企業側が変えようとして変わるものなのか、知らず知らずのうちに自然と変わっていくのか、それともそれ以外なのですか。企業ドメインを変えることも戦略の一つなのでしょうか。
 ドメインはしょっちゅう変更するようなものではありませんが、環境が大きく変化した際には適宜変化させていくことが必要です。ドメインが明文化されている場合には自然に変わっていくことはありませんが、
ドメインを明確にせずにアイデンティティクライシスに陥った会社はどうなってしまうのですか。
 日常的な業務が即滞るわけではないでしょうが、戦略的な意志決定だけでなく、現場でのさまざまな意志決定がうまく行えなくなるので、徐々に状況が悪化していくと思われます。
○ドメインについてですが、ある一つの企業の生存領域は一つではなく、いくつかあるというようなことを言ってましたが、そのいくつかの生存領域というのは全て関連のある分野だけなのでしょうか。
 例外はありますが原則的にはそうあるべきでしょう。
 
A企業戦略・事業戦略
○企業戦略と事業戦略について、事業戦略は企業戦略に基づいていると言われますが、この2つの方向性が入れ替わってしまうことや逆転してしまうことはないでしょうか。
事業戦略が企業戦略と食い違ったり、事業戦略だけが発展・成功して独立や孤立してしまうこともありますか。企業戦略によって束縛され、事業が自由に研究・開発・営業できないという問題は起こらないのですか。
 「事業戦略だけが発展し」ということはありません。企業全体と無関係に個別の事業だけが発展することはあるでしょう。また、企業戦略に個別の事業が縛られて動きにくくなることはあるでしょう。そのときには、あらためて企業戦略を見直す必要があります。
○企業全体の方向性を決めるというのは、企業理念を決めることとは違うのでしょうか。
 理念と目標は企業によっては一体のものとなっていますが、一般には直接方向性を規定するのは目標でしょう。
 
B多角化
ソニーも、最初は電子的なものを作っていたのにネット産業にも乗り出して失敗したという話を聞きました。ソニーのように規模が大きくなるにつれて目標を見失うがちになるでしょうか。
 規模が大きくなるとドメインや目標が混乱する原因は増えます。
垂直統合をするのには、お金がかかると思うんですが、もうけはこっちの方がいいでしょうか。
○ユニクロが垂直結合することによって、流通などの面のコストをうかしているという意味でしょうか。
 テキストにもあるように往々にして利益にはつながらないようです。ただ、コストの削減や、状況に応じて迅速な生産調整を行うことがより容易であるなどの利点はあります。ユニクロの場合はコスト削減というよりも後者でしょう。
多角化した企業における一貫性とは例えばどんなものでしょうか。
 シナジーが利用できる、一定の企業イメージやドメインの範囲のなかにあるなどでしょう。
企業アイデンティティ、ドメインにとらわれず、多角化している企業は成功するでしょうか。
 絶対に成功しないとはいえないでしょうが、あくまでアイデンティティやドメインは企業の存続・成長の基盤だと理解してください。
多角化に失敗した場合のその企業はもう再建できないのですか。
 いちがいにそうとはいえませんが、厳しいのは確かです。
多角化せずに成功している企業はありますか。
 多角化は成功の必要条件ではありません。
○シナジー効果ということが、例えば製造業者が集約型の多角化をすると経営資源を新しくする必要がなくて有効的に活用できるということならば、非関連多角化をやりたがる企業は何を意図しているのですか。
○非関連多角化は知識も乏しいだろうし、リスクが高すぎると思うのですが、なぜ企業は、行うでしょうか。
 ひとつは、ある分野の参入が容易で利益率が非常に高い場合。もう一つは、現在の自社の事業に限界があり、何らかの大きな突破が必要である場合。あるいは、余剰人員を吸収する必要がある場合などです。
市場選択の自由度が高いとなぜ成長に貢献するでしょうか。
 低コストで利益率・成長率の高い市場に機敏に進出できるからです。
経営資源の活用度が高いと成長に貢献するとはコストが抑えられるという意味ですか。
 そのとおりです。
多角化を進めることで失敗するというリスクも大きいはずなのに、企業が多角化を進めるようとするのは、その企業がマーケティングに自信があるからなのでしょうか。
 多角化の理由はさまざまで、たとえば市場関連多角化の場合と技術関連多角化の場合ではそうとう状況が違います。単にマーケティングに自信があるからではありません。
企業がアイデンティティクライシス陥った場合の解決方法は多角化を肯定する新しい方針を打ち出すか、多角化をやめるかしかないのでしょうか。ただ、多角化を途中で止めた場合社員の不信を招くと思うのですが。
 社員の不信をかってかえって混迷した企業もあれば、社員の不信をおそれてブレーキをかけなかったために失敗した企業もあります。必要なときには撤退する勇気と、その際によく構成員の理解を得ることを両立させることは困難ですが、それをやりきることが経営者の任務だといえるでしょう。
ファストリテイリングは食品分野にも進出したが実際のところ、ユニクロには野菜はおいていないし店舗も見られないのですが、これでも非関連型多角化なのですか。
 こういうパターンこそが非関連型多角化です。同じ店舗を利用して同じ消費者を対象に展開しているのなら市場関連多角化ということになります。
事業多角化とブランド拡張は、同じ意味でしょうか。
 これは違います。ブランドのところも学んで考えてみてください。
 
(2)その他興味深い質問
中小企業は大企業に追随するように戦略転換を考えた方が良いのでしょうか。
 中小企業は大企業に追随することではなく独自の生きる道を見いだすことが重要でしょう。
ドラマの視聴率が低くてドラマの低迷化みたいな感じになっていますが、TV番組を作る時も、マーケティング要素などはあるのでしょうか。
 視聴者はテレビ局にとっては消費者の一つ(もう一つの消費者はスポンサー)ですから、マーケティングは当然行われています。
○イメージとはコミュニケーションの結果とありますが、コミュニケーションとは、広告のことですか。広告は、一方的なので、コミュニケーションとは思えないんですが。
 コミュニケーションとは広告のことだけではありません。製品やサービスそのものも含め、その他様々な企業と消費者双方からの発信と交流がコミュニケーションです。
任天堂は今ではゲーム機器を作る会社ですが、元々はトランプ花札を作っている会社なのですが、元々やっていた事業より新しい事業が大きくなってしまった場合、アイデンティティはどこへいくのでしょうか。
 当然、アイデンティティを変化させていくことになります。任天堂は成功例の一つです。
確かにオーディオ機器などの内容は大切だと思うのですが、そこそこの画像、音質、許容量であれば市場のニーズはデザインや安さに移ると思うのですが、企業はなぜ画像などにこだわるのでしょうか。
 積極的な理由があるとすれば、画像にこだわる消費者が多い場合。そうでなければ、ほかに差別化の要素がないか、企業が消費者のニーズを勘違いしている場合。
家電製品の話が出ましたが、世界をターゲットにした場合、貧困地域の人々のニーズに企業は応えることが出来ないのでしょうか。
 そんなことはありません。多くの家電メーカーは途上国市場にも進出を図っています。
「無印良品」は決められたブランドがないだけで商品を安くすることが出来るのでしょうか。
 無印良品は、一つにはブランドがないだけで安くなっているわけではないということ。第二に、最近の無印良品は安いことが魅力ではないということです。
バブルの話がでましたが、バブルの時には、やはりマーケティングは重視されていなかったのですか。
 戦略的な間違いがマーケティングにも反映していたとみるべきでしょう。
ニッチ戦略は、拡大が狙えなくても確実に利益を上げられるなら、やっている企業は多くあるのですか。例えばどんな製品や企業があるでしょうか。
 たとえば鉄道模型メーカー、珍しいエスニック料理の店、などが例としてあげられるでしょう。実際には多数存在します。
 
<第3章 標的市場の選択〜成熟市場における市場細分化戦略>
1.標的市場と市場細分化−市場空間の戦略的選択
 ・市場空間の選択の種類
@マス・マーケティング:品質が均一な商品を同一のブランドで大量販売
成長後期から成熟期において限界が生じる
A分化型マーケティング:複数の市場セグメントに対応
B集中型マーケティング:単一の市場セグメントに集中
COne to Oneマーケティング
ABC=ターゲット・マーケティング
ABのベースになるのが市場細分化マーケット・セグメンテーション
 
2.市場細分化の考え方と発展−異質需要の結合体としての市場
(1)市場細分化とは
消費者を一元的にとらえるのでなく、市場は異質需要の結合体であるととらえ、消費者を需要特性ごとに区分して把握しようとすること。細分化された個々の市場をセグメントという。
(2)セグメントの条件
@測定可能性
A到達可能性
B維持可能性
C実行可能性
 
3.市場細分化の基本軸−人口動態的特性軸と社会心理的特性軸 ※表3-1
4.市場細分化軸の体系−消費財市場の細分化軸
(1)人口動態的特性軸
   特性:年齢、性別、学歴、職業など。社会階層やライフステージも用いられる。
   変数としてはデモグラフィック変数。
   いくつかの注意点。 
(2)社会心理的特性軸
   特性:ライフスタイルなど
   変数:サイコグラフィック変数。ちゃんとした調査が必要。
 
5.市場細分化採用の手続き−市場設定のマーケティング手法
@市場全体での消費需要構造の把握〜同質的か、異質集合なのか
A異質集合なら、何を基準にすれば市場は細分化可能かを判断
B変数が見つかれば、その軸で市場細分化を図る
C一つのセグメントに集中するか、複数のセグメントに対応するか判断
  ※実際には、企業の市場でのポジションなどによっても影響される
 

1:経営環境とは、組織がそれ自身ではコントロールできない組織内外の諸条件をいう(影響を与えることは不可能ではないことが多い)。一般に外部環境と内部環境にわけられ、外部環境は法律、市場、文化などであり、内部環境とは組織文化、価値観などである。