2003年11月6日
マーケティング論
−第六回 市場の分析(1)消費者行動分析(4・5章)−
<質問への回答>
1.標的市場と市場細分化に関して
(1)全般
マス・マーケティングと OneToOneマーケティングを同時に行う企業もあるのですか。
一つの企業であっても事業部単位、あるいは製品単位で別なマーケティングを展開する場合はあります。たとえば、家電メーカーでは蛍光灯の電球はせいぜい2,3種類しか用意していませんが、同じメーカーがパソコンではone to oneにとりくんでいるというケースが見られます。
マス・マーケティングには限界が生じると思いますが、そうなったら次はどうしていくのがいいのですか。例えば携帯電話についてですが、今カメラ付きなど、多様な種類が広まり、これ以上ないほどの機能が付いてます。これから先どうなっていくのでしょうか。これもマス・マーケティングというのですか。
マス・マーケティングは成長後期から成熟期において限界が生じるとのことですが、そういった時期にはマス・マーケティングは行わないほうがいいのでしょうか。
まずマス・マーケティングとは何かをよく理解してください。市場のニーズに対して単一または少数の製品・サービスでこたえることができる場合に、マス・マーケティングの手法がとられます。携帯電話は機能的には多彩になっていますが、実際には個々の製品の差異は少なく、販売手法としてもマス・マーケティング的です。今後はセグメンテーションが必要でしょう。
(2)ターゲット・マーケティング
一つのセグメントに集中するか、複数のセグメントに集中するか、という判断がありますが、第3者と組んで一つのセグメントを攻撃することはあるのでしょうか。
複合的な製品の場合はありうるでしょう。実際には複数の企業などが連携して複数のセグメントに対応することで、全体として市場支配力を強めるといった手法のほうが多いと思われます。
将来的にセグメントごとの企業が増えれば統合的企業は消えてしくのでしょうか。
必ずしもそうとはいえません。実際にはセグメントごとの対応といっても多くの製品においては基本機能や部品・原料が共通していることが多く、また研究開発は統一的に進めた方が効率的であるなどの面があります。
単一の市場セグメントに集中するか、複数の市場セグメントに対応するか、の判断は複数の市場セグメントに対応した方が利益があるとおもうのですが、単一の市場に集中することの強みはどこですか。
どちらがより利益があがるかは一概にはいえません。単純な発想をしないようにしましょう。
集中型マーケティングは、分化型マーケティングよりあたりはずれは大きいのですか。
集中型の場合、集中した先の市場の動向に左右されやすいと言うリスクはあります。
分化型マーケティングの中である単一の市場に重点をおいた場合、分化型と集中型どちらになりますか。
実際には、うえの質問への答えにある集中した場合のリスクを回避するため、集中型のマーケティングに重点をおいている場合でも周辺の別なセグメントに対応していることはあります。
(3)これからはOneToOneマーケティングか
現在、集中型やOneToOneマーケティングが安定的に伸びていると言っていましたが、どうして大企業は、資金面から見ても手を伸ばしてやっていける、むしろ安定的利益をのばせるのに、なぜやらないのでしょうか。
現在でも製品やサービスの性格によってはマス・マーケティングや分化型マーケティングが有効な分野は少なくありません。また、大企業でもone to oneマーケティングに乗り出しているところも増えてきました。企業の規模とマーケティング戦略のあり方は一義的に決まっていません。
OneToOneマーケティングの例としてオーダーメイドを言いましたが、オーダーメイドと言うと高いイメージがありますが、それでもこの頃は売れ筋がいいと聞かれるのですが、これは時代の流れでしょうか。
衣料品におけるオーダーメードは、単に個別対応だからではなく、縫製や布地にもコストをかけているので高級ということになるのです。オーダーメード衣料品が売れているということはone to oneマーケティングの重要性を示す傾向ではありますが、one to oneと高級品が売れることは直接の関係はありません。
(4)OneToOneマーケティングのリスク
OneToOneマーケティングは、消費者のニーズに答えるという面では、素晴らしいマーケティングですが、生産効率がおとり、高コストで高価格になるのではないでしょうか。
単純にそうとはいいきれません。たとえば完全に製品をカスタマイズして販売しているDellのようなケースでは、在庫費用や売れ残りロスを非常に減らすことができます。問題は、one to oneに対応した生産・販売システムを統合的に作り出すことです。
OneToOneマーケティングの先のマーケティングにはどのようなマーケティングの形があるのでしょうか。その時の社会にあわせたマーケティングの形がやはり出てくるのでしょうか。
あるかもしれませんが、一つの時代がある程度完成しないと次の時代を見通すことは困難です。
(5)具体例
シャープの利益の増大しているというニュースを見ましたが、これは「液晶テレビ」に消費者のニーズがあると判断し、集中型マーケティングを行った結果、成功した例と考えてもよろしいでしょうか。
利益の発生源は多様であり、ただちに液晶テレビに結びつけるのは危険です。ただ、シャープが液晶技術に力を入れた成果が今日現れつつあるのは確かでしょう。
ユニクロが何十色も出しているフリースは市場細分化と言えるのですか。
フリースの色分けが、デモグラフィックあるいはサイコグラフィックな指標からセグメントを設定し、その一つ一つに対応していると考えられるでしょうか。
デルコンピュータは一人一人に合ったパソコンを売っているが、デルのパソコンを買うには、ある程度のパソコンの知識がないと、どのように注文すればいいのかよくわからないが、それは逆の効果にはならないか。
まさにそこがカギなのです。従来のパソコンメーカーのマーケティングでは、ある程度パソコンの知識はあるが、かといって自作するほどではないという、非常に広範に潜在していた市場のニーズをとらえきれていなかったのです。パソコンがある程度普及したからこそこうした市場がうまれていたのです。この話、何かににていると思いませんか?
2.市場細分化の考え方と発展、に関して
どの分野の市場であっても市場というものは異質需要の結合体なのですか。全ての人が同質の需要をもつ細分化不可能な市場はないのでしょうか。
当然存在します。考えてみてください。
34.市場細分化の基本軸・体系に関して
人口動態的特性軸と社会心理的特性軸への優先順位は企業によって違うのですか。
企業ごとではなく、製品やサービスそれ自身の特徴、あるいは市場の構造によって異なります。
社会心理的特性軸のサイコグラフィック変数は主観データであり頼りにできるものではないと思いますが。
消費者の消費は主観的なものです。主観的な選択の総体として市場が存在するので、「主観」を客観的に把握することが重要です。
市場細分化軸の体系のところで、ライフステージが人口動態的特性軸でライフスタイルが社会心理的特性軸と別の体系になるのはどうしてですか。ある特定のライフステージで生きるから、特定のライフスタイルが生まれる、というように、2つは関連ある同系統のものだと思うのですが。
同じライフステージにあっても、ライフスタイルが違えば消費のあり方は違ってきます。
狙いの年齢層を広げることは簡単にできるのでしょうか。
簡単ではないでしょうね。
デモグラフィック変数とサイコグラフィック変数の2つのデータを組み合わせて分けるのですか。
単独で用いる場合も、組み合わせる場合もあります。
ライフスタイルのところの「年齢によっても違う」という場合の「年齢」は人口動態的特性軸の年齢でしょうか。
「世代」という方が適切でしたね。
5.市場細分化の手続き
市場を防衛するということはどういう意味でしょうか。
次回の講義で詳しく話しますが、競争相手が同じ市場にアプローチしている場合、全体として競争相手の活動する範囲を狭める必要があります。そのために、自分が主要なターゲットとしていないセグメントに対しても支配力を及ぼしておくなどを行います。これが市場防衛です。
6.その他
ブランドには強いブランド力があるので、 OneToOneまではいかないと思いますが。
ブランドのもつ意味と、one to oneの意義とはまた角度が違います。ブランドのところの講義も聞いて考えてみてください。
市場の細分化は、我々学生を消費者とする教育界にもやはり存在するのでしょうか。
あります。たとえばいろいろな学部や学科、インスティテュートなどを作るのもその一例です。
マクドナルドがそれぞれの商品を期間限定で安く売るのは、長期的に見てかなり有効なのでしょうか。
どうでしょうか。価格についての講義を聞いて考えて見ませんか。
今日のニュースでソニーが前年より業績が悪くなり、逆に、サンヨーやシャープが伸びたということを聞きましたが、ソニーはマーケティングを間違えたのでしょうか。それともただ前年が良すぎたからでしょうか。
マーケティングだけで業績は決まりませんから、多角的に検討する必要があります。単純に考えないよう努力してください。複雑なものを複雑なままうけとめ、丹念に分析・検討していく姿勢を身につけないと、いくら知識を集積しても無意味です。結論をあせらないでください。単純な結論をてっとりばやく求めようとばかりしていると、結局は非常に暴力的になります。
事業多角化とは逆に、他の事業から撤退して専門の分野だけに事業の規模を縮小する企業はあるのか。
もちろんです。たとえばかつてのGEの例は有名です。
「専門性のある旅行会社」に興味がありますが、私ならやはり激安ツアーに関心がいきます。高価な旅行にも人気があるのは、やはり現在の世界状況やテロ事件の影響と言い切れるのでしょうか。
高価格・高品質の旅行に人気があるのはテロや世界不況とは直接関係がありません。それ以前からの傾向なのです。かつてと異なり、多くの人がひとわたりの海外旅行経験をつんだ結果、もはや「有名なところを見て回る」だけが旅行のすべてではなくなり、多様な旅行のあり方が求められるようになってきたことの現れです。おや、これもどこかで聞いたような・・・。
あと、これからみなさんは市場のありようや企業や組織の活動を客観的に理解する必要があります。自分が興味があるかどうかではなく、市場がなにに関心をもっているかどうかを理解しようとする姿勢をもってください。
季節が変わる前の有名なファッションショーで、今年は、何色が流行するということがマスコミに流れる、その年は、その色が流行します。これは、消費者のニーズがある程度メディアに操られている結果だと思うですが、どうでしょうか。
流行をつくりだすことも重要なマーケティング活動です。ただ、消費者がまったく受け入れられないものをつくりだそうとしても無理です。基盤条件のうえにたって、いかに自分たちに有利な方向へ市場を誘導するか、がカギだといえるでしょう。
<本日の講義>
はじめに
第三〜五回:企業・組織がどのように自分たちが対象とする市場を選択するのか
第六〜七回:対象とする市場をどのようにして正しく認識するのか−消費者と競争相手の両面から
今回は消費者の分析について
4章.市場データ分析
0.基本的注意
1.データの種類
一次データ
二次データ
内部データ
外部データ
2.データ収集の方法
質問法:面接調査、電話調査、郵送調査、留置調査、ファックス調査、インターネット調査
観察法
実験法
3.母集団の設定と標本抽出
4.測定尺度の性質 省略
5.分析事例
5章 消費者行動分析
1.消費者行動とマーケティング
二つの方向性
・個別消費者の行動や意識を理解しようとするもの〜消費の動機や消費者の欲求をさぐる
・消費者のインタラクション(相互作用)の理解〜「流行」の仕組みなどの解明
いずれも心理学・社会学の成果を援用している
2.消費者を理解する
・S−O−Rモデル:刺激−生活体験−反応、でみる
・消費者情報処理研究:現在の研究の中心。消費者を情報処理装置ととらえる
・ライフスタイル研究:VALSなどライフスタイル別の消費傾向を解明するもの
3.消費者のインタラクションを理解する
・新製品の普及過程研究:購買時における他人の影響を把握する
最初に購入する人(イノベーター)よりも他の人に影響を与えるオピニオン・リーダーが重要であることなどを解明
・準拠集団の研究:購買時における、個人が所属する各種の集団の影響を把握する
4.ポストモダン消費者行動分析
消費者の行動を一つ一つの要素に分解して分析するのではなく、感情や経験を重視。
「消費それ自体が目的」というような行動に注目する。