2003年11月12日
 
マーケティング論
−第七回 市場の分析(2)競争と流通の分析(6章)−
 
 
 
<質問への回答>
1.市場データ分析
二次データの情報があるにもかかわらず、一次データを調査利用する場合もあるのでしょうか。
 むしろ一般的です。
データを集める時、集めたいデータが既にあるのが二次データということですか。
 そのとおりです。
データ収集の電話調査で、全国で調査したとあるデータでも、年齢と同じように、ある地域に偏ってしまうことがあるのですか。
 年齢あるいは階層については、電話する時間帯やそもそも固定電話をもっているかどうかなどによって電話調査では偏りが生じやすいですが、地域については事前の準備をきちんとすれば偏りは防げるでしょう。
電話でのデータ収集ではあまり幅広い年齢層、業種の意見は集められないということだったが、幅広い年齢層、業種の一部に偏りのないデータを集める方法はあるのでしょうか。
 ほかの方法と組み合わせます。
最近、テレビで見たのですが、選挙の投票に関する世論調査で「どこの政党を支持するのか。25,000人に電話調査をした」とありました。この25,000人はどうやって選ばれた人達なのでしょうか。
 電話帳などをもとに、ランダムに抽出します。厳密にランダムにするために抽出の方法も決まっています。
アンケートは対象が限定されますが、例えば、ある特定のアンケートについて、何十社もが同じアンケートを行い、その何十社全てのデータをもとに新しくデータを作り直した場合も、完全に信用し切れないものなのでしょうか。
 調査の手法と対象は、調査の目的にもよります。たとえば、インス1回生の講義に対する意見をきくアンケートなら、この講義の受講生を対象としてとっても大筋問題はないでしょう。
データ収集のところで、留置調査とありましたが、どういう調査か教えてください。
 これはテキストに出ています。
データ収集は片寄りがあるといけないのは分かったのですが、どのような方法が集めやすいのですか。
 データの集め方は集める目的にもよります。
情報収集には、お金と時間がかかると思うので、それよりも他の事にお金や時間を使った方がいいのではないでしょうか。
 そんなことはありません。情報収集せずに市場に対して働きかけるのは、地図を持たずに登山するようなものです。結局は時間と資金を膨大に無駄にします。
結局、無差別に情報収集をすることは不可能なのでしょうか。
 簡単ではありませんが、不可能ではありません。
企業のデータ収集の時、大企業であると資金の面で広範囲で調査ができるが、資金力が少ない企業はどうしても地域を絞らなければならないと思うのですが、意見の偏りを避けるにはどうすればいいでしょうか。
 テキストにあるように調査は多様な手法があります。目的に応じて効率的な調査を行えばよいのです。たとえ対象をしぼるにしても「地域」だけが絞る要素ではありません。
データの基本的注意で、限定された中でのデータを全体のデータにしない、とありましたが、例えばテレビの視聴率はどういった方法を用いて極力データを全体のデータに反映させているのでしょうか。
 今回の不正事件は論外として、統計学上必要なばらつきを確保した多様な家庭に調査機を配置することでデータの正確さを維持することになります。たとえば調査対象となる家庭が何軒(この場合テレビをもつすべての日本の家庭の数)に対して、調査の結果を有意(意味がある)とするためには、どのようなばらつきをもって何軒を調査しなければならないかは、統計学で算出することが可能です。
 
2.消費者行動分析
昔、流行ったタマゴッチは消費者行動分析において、消費者のインタラクションの理解をもとにした製造だったのでしょうか。
 「たまごっち」の場合はまさに自然発生的流行といえるでしょう。まれなケースです。
欲求段階説で自己実現の欲求すらも満たされたら人はどうなるでしょうか。
 いちがいにはいえないですが、自己実現欲求というのは達成されて終わりというものではなく、継続的に活動することで満たされることが多いようです。
個々の消費者の行動や意識の理解、消費者のインタラクションの理解とあるがこれらは両方同時に考えなければいけないのでしょうか。
 そのとおりです。これも調査の目的次第ですが、一般論としては個々の消費者の行動や意識を理解したうえで、それがインタラクションによってどう影響をうけるか、を考えることになるでしょう。
現代の日本のようにいろいろとみたされていると、欲求段階説の下の方の欲求はほとんど満たされていると思うのですが、それをどうやって使うのですか。
 どう使うか、ではなく人の欲求がそういう段階的な発展をとげることが一般的だということです。たとえば、レストランに行ってメニューに値段がでていなければ、最終的にいくら請求されるかわからないので、財布が豊かでなければ、いわば「安全の欲求」が脅かされている状況になるわけです。
消費者を客観的に見るということですが、自らも一消費者である以上、主観が交じることは否定できないと思うのですが、消費者のインタラクションの理解において、影響しあうと考えると、自らも影響されるのではないでしょうか。
 だからデータを重視するわけです。たとえば、友達が発熱しているかどうか手で触って調べると自分の体温に影響されてはっきりしないでしょう。だから体温計を使うわけです。
 
3.その他
日本の携帯電話メーカーが中国市場に進出しようとして苦戦を強いられているという話をテレビで見たことがあるのですが、日本のメーカーは中国市場のニーズをうまくつかめなかった大きな要因のようです。他に日本のメーカーが他国市場に進出しようとしてしたマーケティングの失敗、また逆に他国メーカーが日本市場でのマーケティングの失敗はありますか。
 それぞれ、多数あります。自分で調べてみませんか。上回生配当の「国際マーケティング」の講義でもふれられると思います。
よくファッションなどは、前もって流行を宣伝しますが、あれはどうやって情報を得ているのでしょうか。
 人々の指向性がどのような方向に動いているのかを把握し、その方向をにらみながら企業側が流行させたいものを押し出していく形になるかと思います。人々の指向を把握するためには単にファッションの嗜好だけでなく好ましいイメージやライフスタイルなど多様な調査をします。
セブンイレブンでNEWSのCDが独占販売されます。CDショップではなく、近くのコンビニで販売、CDショップにいけない人達が買ったりできるとはおもうんですが、店頭でわざわざ予約しないといけないし、男性は多分購入しにくいと思います。利点もあるのですが、売上は伸びないと思うのですが、これはどういうマーケティングなのかがわかりません。どうでしょうか。
 「限定」ということで希少性や話題性をねらっているのでしょう。よくあることです。
ニッチについての話がありましたが、日本人が流行に流されやすいように、さまざまな企業がニッチに集まるような流行のようなものがマーケティングにもあるのでしょうか。
 さまざまな企業が集まるような市場はニッチとはいえないでしょう。
Auはニッチを見つけて新しいデザイン重視の携帯を作りましたが、ドコモや他のメーカーはニッチをもつけられなかったのでしょうか。それともニッチ戦略をする必要がなかったのでしょうか。
 おそらく後者でしょう。
マーケティングを専門的に取り扱う会社はあるのですか。
 多数あります。ホームページなどで「マーケティング調査」をキーワードに探してみてください。
秋になるとサスペンスなどの文庫が売れるというのは、消費者のインタラクションによるものなのでしょうか。
 ある現象が単一の理由だけで起こるとはあまり考えない方がよいです。
カメラ付き携帯の例に顕著なようにある一社が開拓した市場に他のライバル社達が次々となだれ込んでくるのは許される行為なのでしょうか。また、それに関する法律などはあるのでしょうか。
 技術的な、あるいはビジネスモデルとしての独自性と画期性があれば特許がとれます。そうでなければ、基本的には自由競争です。
音楽業界において、一昔前はカセットテープによる音楽提供が主流でしたが、最近は完全にCDになっています。数年前にもCDからMDへ、という動きがありましたが、消費者に受け入れられず、失敗に終わりました。原因はどこにあるでしょうか。
 この変化のとらえ方が必ずしもあたっていないのではないかと思います。CDはむしろレコードの代替であり、MDがカセットテープの代替でしょう。それは録音が可能かどうかというところにかかっています。その意味ではMDはいまも機能していますが、CDーRなどがMDの普及以前にひろがりつつあるということでしょうか。
現在はカメラ付き携帯が主流になっていますが、将来はドコモのフォーマの様なテレビ電話が主流になっていくのでしょうか。それともテレビ電話はニッチ戦略に過ぎないでしょうか。
 この辺は私自身も見通しはもっていません。みなさんで調査してみませんか。
なぜ一つの企業が市場を独占してはならないでしょうか。競争性がなくなり、発展性に欠けるからでしょうか。
 発展性が欠ける、価格が企業の都合だけで操作される、などの理由があります。経済学はむしろ後者を問題にするでしょうが、経営学では前者も問題です。
現在、日本の市場はアメリカをモデルとした市場へと動いているのですが、このアメリカ式の市場をモデルとすることで、今の日本市場はうまく機能していけるのでしょうか。
 いかないでしょう。たとえば、私も全部正しいとは思いませんが松原隆一郎『消費資本主義』(ちくま新書)などの分析があります。
 
 
<前回の続き>
5章 消費者行動分析
3.消費者のインタラクションを理解する
・新製品の普及過程研究:購買時における他人の影響を把握する
最初に購入する人(イノベーター)よりも他の人に影響を与えるオピニオン・リーダーが重要であることなどを解明
・準拠集団の研究:購買時における、個人が所属する各種の集団の影響を把握する
  ※消費行動におけるプライベートとパブリックの問題
 
4.ポストモダン消費者行動分析
消費者の行動を一つ一つの要素に分解して分析するのではなく、感情や経験を重視。
    「消費それ自体が目的」というような行動に注目する。
 
※第7章(流通分析)の内容は、第11章のところであわせてとりあげます
第6章 競争分析
 
0.競争分析の意味
競争は、「ビールはどれがよく売れるか」といった単純なものではない。
「構造」として理解することが重要。
 
1.競争構造の諸側面
ポーターの5つの競争要因(p126図)
水平的要因:競争業者(すでに業界内にいる)、新規参入業者、代替品
垂直的要因:売り手、買い手、
ここでは「競争業者」および「新規参入業者」を扱う
 
2.業界の競争構造の分析
(0)なにをどう分析することが必要か
構造が行動を規定し、それが成果を規定する(産業組織論の基本的考え方)
→構造を分析することで、競争他社の行動を決定する要因もわかる
→全体的な競争の強さがわかる
(1)集中度
集中度:業界の売上が上位企業に集中している度合い。独占度を示すといえる。
集中度の持つ意味:集中度の違いによって競争のパターンが違う
(2)参入障壁
参入障壁:ある企業が魅力的と思える業界で新たに事業を始めようとするときに
         障害となる要因。障害要因が多ければ「障壁が高い」という。
参入障壁の持つ意味:これから競争が激しくなるかどうかを考える上で特に重要。
  あるいは、これから自分たちが参入していけるかどうかも。
主な参入障壁:教科書でチェックしておくこと
(3)参入阻止戦略
自分たちの優位な地位を守るためには、参入阻止戦略をとる。
 
3.業界の競争戦略の分析
(0)競争戦略の分析とは
競争がどういった状況にあるか(他社の動き、相互関係)をさぐる
詳しくは経営戦略論などで学ぶこと
(1)戦略グループ
同じような戦略をとる複数の企業グループ
これをマップ(p138図)化することで、業界の地図が描ける
(2)移動障壁
戦略の転換を阻害する要因。
これが高いか低いかで自社と他社の行動がどう制約されるかわかる。
 
4.変化する競争構造
ここは、とりあえずキーワードの意味はおさえておくこと。
    特にマーケティングでは「代替品」の意味を正しく理解することが重要。