2003年11月26日
 
マーケティング論
−第九回 市場への対応(1)製品(9章)つづき−
                      
 
 
<質問への回答>
1.マーケティングにおける「製品」とは何か
(1)「製品=便益の束」
「製品=便益の束」とありましたが、100円均一の店は通常製品が持つ実態部分に「安さ」という中核部分をプラスしたものと考えてよいのでしょうか。
 「安さ」そのものだけが求められることはあり得ないと思います。「安い○○」ということになるでしょう。
 
製品の求められる便益をこえたものを提供するということで、「喜ばせる仕掛け」がありましたが、マクドナルドのハッピーセットやくら寿司のびっくらポンなどがこれにあたるのですか。くら寿司のびっくらポンは子供など一部のひとにしか便益をこえたものを提供したということにはならないのではないかと思いますが、
 その人たちがセグメントとして重要であれば、一部であれ重視して対応する必要があります。それぞれの顧客がそれぞれの便益を求めているのですから、顧客に応じて提供する便益の内容を違えていくのはむしろ必要なことです。
 
昔、フォードはT型の大量生産によって利益をあげていましたが、その後GMの多品種少量生産が成功し、フォードはGMに抜かれてしまうということがありましたが、これはフォードが製品=便益の束という考え方が間違っていたからなのでしょうか。
 フォードは別に自動車の便益をまちがっていたわけではありません。求められる便益の内容の変化に対応していなかっただけです。
 
(2)ラインとアイテム
製品ラインと製品アイテムは、製品ラインが決まって製品アイテムが決まるのが普通だと思いますが、逆に製品アイテムが決まってから、この製品ラインでいこうということもあるのですか。
 ラインとアイテムはどちらが先に決まるというものではありません。
 
製品ミックスはフルラインの大きい会社でないと、困難なんでしょうか。
大企業のほうがフルラインで、中小企業がパートラインという傾向はありますか。
フルラインとパートラインを製品ミックスの点から見てみると、どちらが総合的に有利でしょうか。
現在、コカコーラ、サントリーなど、たくさんの企業がフルラインを選択していつように思いますが、これは、パートラインよりもフルラインの方が利益が上がるからなのでしょうか。それとも単なる他社への競争心からきたものなのでしょうか。
 フルラインかパートラインかの判断は、企業の規模だけでは決まりません。むしろ製品と市場の性格によって決まるといえるでしょう。どちらが有利というものではありません。フルラインでれば市場全体に強い影響力を与えることができますが、利益率が低いまたは不採算の製品や部門を抱えることにもなります。利益率の高い部分に特化してパートライン戦略をとれば、売上げ額の面では他社より少なくても高い利益をあげることができることもあります。
 
フルライン・パートラインという言葉はトヨタの車の生産段階でも聞いたことがありますが、具体的にどんなものなのでしょうか。
 クルマでいえば、乗用車、軽乗用車、トラック、バスなどの車種はもちろん、乗用車のなかでも大型、中型、小型、スポーツタイプなど多様にそろえる(100%すべてでないにせよ)のがフルラインで、そのうちの一つまたはいくつかにとどめるのがパートラインです。
 
フルライン・パートラインの選択はどのような理由で判断されるのでしょうか。
 自社の能力と、どちらがより利益に結びつくのかという二つを大きくは検討します。
 
2.新製品開発
「アミノ」系の飲料水が多く販売されていますが、味もあまりかわらないものを企業側はどう主張して客を得るでしょうか。また、競争社が多いのに企業は果たして利益になるのでしょうか。
 ある製品が売れるということは、類似製品も売れる可能性があります。アミノ飲料が売れているときに、駅の自動販売機にアミノ飲料が入っていればそこで買ってもらえますが、なければアミノ飲料がある別社の販売機に出会うまで消費者は購買を待つ可能性があります。従って、やはり流行のアイテムは商品としてそろえておかないと・・・ということになるわけです。
 
一部の地域で限定発売して、様子を見て、全国に発売するということがあるとおっしゃっていましたが、限定だから購入してしまうという消費者がいたり、地域によっても違いがあるだろうし、その限定発売の結果が必ずしも信用はできないと思うのですが、実際はどうなのでしょうか。
 そうした傾向はもちろん読み込んだ上で判断するわけです。
 
「札幌で売れれば全国でも売れる」という話を聞いたことがあります。札幌が東京のミニチュア版だからとも聞きました。このように、「ここで売れれば大丈夫」みたいな所はあるのでしょうか。
 札幌がどうかはわかりませんが、サンプルとして適当な地域なり対象なりというのは人口統計的なデータなどからある程度判断して決めるわけです。
 
缶コーヒーでも、関西限定のものを売っていたりしますが、関西では評価が高くても関東や北海道では不評だったりする場合がありますよね。その場合、あきらめるしかないでしょうか。
 関西限定という場合には、むしろ限定ということで売り込んでいる場合が多いと思います。
 
 
3.製品ライフサイクル
(1)ライフサイクルとその限界
製品ライフサイクルはどの企業でも見られるものでしょうか。
 そうではないと申し上げた通りです。
 
缶コーヒーでもアイテムとしては衰退するものはありますか。
 現に消えていった商品があるとおりです。その意味では、「缶コーヒー」という製品群としては衰退していませんが、個々のアイテム単位ではライフサイクルがあるといえます。
 
コカコーラ・カップヌードル・カルビー等等は、発売当初から現在まで消えずに残って、人気を保ち続けています。こういった商品は成熟期がこれから先もずっと続いていくように思えますが、やはりいつかは衰退期がくるのでしょうか。
製品のライフサイクルに当てはまらないものの例がいくつかあったけど、それらが崩れていくときはどのようになるでしょうか。
 すべての商品がかならず衰退期を迎えるとはいえないのですが、逆にいま非常に寿命の長い商品があるにせよ、その商品が無限に生命を保つことができるとも保証できません。
 
キリンラガーやスーパードライは製品ライフサイクルに当てはまらず長年親しまれていますが、これはビール市場の集中度の高さと関係があるのですか。
 ビールでも短命なアイテムがあるように、集中度と製品の寿命は直結しません。
 
はちみつレモンのように復活する製品に関しては、一度衰退した商品がもう一度生産されるということですが、どうして一度市場から消えて人々から必要とされていないのに、再び復活することがあり得るのですか。服の流行のように繰り返すということでしょうか。
復活する商品をセレクトするのもマーケティングの範囲ですか。
復活する商品など、需要がないと復活はないと思いますが、どうやって見つけるのでしょうか。
 消えた製品のすべてが需要が完全になくなったことから消えたわけでもありませんし、意味づけを変えたことで新たな需要を喚起できることもあります。そうしたことを企画するのもマーケティングの役割です。
 
ある製品が衰退期に入った場合、企業はその衰退した製品を止めれば済むかも知れないが、直営農場などは大きな被害を受けると思います。実際日本でナタデココが大ブームの時、東南アジアには多くの生産工場などがあったそうですが、今ではそのほとんどが閉鎖したのではないでしょうか。そんな形でDevelopmentは進むし、そんなので幸せな・豊かな社会は実現できていると言えるのでしょうか。
 この点は、企業の社会的責任とも関わる点ですが、消費者も賢くなる必要があると思われます。その企業の製品を買わないなどの直接的な運動はもちろん、WTOなどの国際的規制のなかで、企業活動について必要なコントロールを国際社会によって行っていくことを求めていく必要があるでしょう。いま、世界的にはそうした運動がひろがっています。企業も、そうした運動を敵対視するのではなく、社会的な動向を先取りすることが長期的な成長をはかっていくうえで必要になるでしょう。
 
衰退した製品を復活させて売り出すのと、新製品を売り出すのとどちらがより企業側にとって好ましいでしょうか。
 どちらがよいとはいちがいにいえません。
 
(2)計画的陳腐化
計画的陳腐化とは、アイテムの寿命を縮めることでありラインの寿命を縮めることではないのでは。
 そういえるでしょう。
 
スタイルの陳腐化で自動車のモデルチェンジの例がありましたが、このような大きな買い物では消費者が購買意欲をかき立てるためには、すごい宣伝費が必要だと考えられます。宣伝費 < 利益となるのでしょうか。逆になり損してしまう場合もあると考えられますが。
 自動車のような耐久消費財の場合、積極的に買い換えを促進しない限り売上げがのびません。したがって、買い換えを促進するような広告展開は必須だといえます。
 
4.その他
携帯では一年経てば解約料が要らずに新製品に買い換えができます。消費者の中には一年で携帯は買い換えるものという意識がありますが、この一年というのもマーケティングでしょうか。
 そういえるでしょう。
 
環境に悪い物質を使った品物を買わないようにするグリーンコンシューマーの行動は本当に実を結ぶのでしょうか。また、日本でも成功し得るのでしょうか。
 単に「買わない」というだけではなく環境適合的な商品を積極的に購入することが企業行動にはより影響をあたえるでしょう。
 
京都駅の伊勢丹が、前フードコートのあったところにいくつかのラーメン屋をいれて、大反響を受けていますが、私はしばらくすると、その中の1つか2つの店だけが売れて、あとの店は、逆に売れなくなると思うのです。それに、ラーメン屋は客の回転が早いので、若い人たちの遊び場所ではなくなり、おそらく若い人が遊びに来なくなると思います。だから、私は今までのようにフードコートのような若い人、というターゲットは変えないでした方がよかったのでは、と思いますが、先生はどう思われますか。成功すると思いますか。見解を聞かせてください。
 私も若者のたまり場としての意味からすればフードコートに意味はあったと思います。しかし、セガのアミューズメント施設がなくなったもとで、そもそも「若者のたまり場」というコンセプトが京都駅ビルで適合的なのかどうか、まで考える必要があります。また、なぜ「あとの店は逆に売れなくなる」と思いますか。
<前回講義の続き>
第8章 製品対応
4.ブランド・マネジメント (ここでは、テキストを少し離れます)
(1)ブランドとはなにか?
 高級ブランドだけが「ブランド」ではない
ブランドとは、「売り手の製品を識別し、競争相手と差別化するための、名前、用語、デザインなどおよびそれらの組み合わせ」
 ・識別を製品アイテム単位で行うことを意図すれば、製品名=ブランドとなる
 ・識別を製品群を単位で行うことを意図すれば、ブランドによってある製品群を表す
    例)WILL
 ・企業名も、その企業の製品全体を代表するブランドとなりうる
 
(2)誰がブランドを発信するか    
 @ナショナル・ブランド
    大手メーカーが自社の製品をブランドとしたもの。 例)PANASONIC(松下電器)
 Aプライベート・ブランド(PB。ストア・ブランドともいう)
    小売(または卸売)業者が自社の仕様でメーカーに発注してつくらせたもの。
     例)セイバーズ(ダイエー)、無印良品(良品計画)
    ※なぜPBは安いのか?
 
(3)なぜ「ブランド」で買ってしまうのか
 無名の製品にもいいものはいっぱいある。なのになぜ・・・?
    例:OEM(Original Equipment Manufactureing=相手先ブランド生産)の不思議
 @ブランドは品質保証の表現である
 Aブランドは一貫性の保証でもある   例)「無印生活」
 Bブランドそのものが消費の対象にもなる
    →この点、詳しくは石井淳蔵『ブランド−価値の創造』岩波新書、を参照
 
(4)売り手の側から見た「ブランド」
 @ブランドの持つ意味
   「ブランド・ロイヤルティ」の重要性
 Aブランドが「資産(エクイティ)」としての価値をもつ
 
(5)ブランドに関する決定のプロセス
 @ブランドか、ノーブランドか
 A誰のブランドにするか
 Bブランドの名前をどうつけるか
 C既存ブランドの拡張で行くのか、新規のブランドにするのか
 D既存ブランドはこれでよいのか〜リポジショニングの必要性
 
(6)ブランドを考える上での注意
 @ブランドの定義を広く解釈すれば、すべての商品にはブランドがある。しかし、それが「ブランド」として認知され定着するかどうかは、企業が意識的に取りくみ、それが市場に受け入れられた場合のみである。
 A「高級ブランド」は、「高級」な「ブランドイメージ」を確立することに成功したブランドであるといえる。そのブランドの実質とブランドイメージは必ずしも一致しない。
 
5.製品の分類
(1)有形の「モノ」とサービス 
   モノとサービスの根本的な違いは「形があるかないか」
   それ以外の違いは、上記の違いから派生する
 
(2)製品の耐久性からみた分類
   耐久財
   非耐久財
 
(3)消費財と生産財 
 @消費財と生産財の違い 
 A消費財の分類 最寄品、買回品、専門品
 B生産財の分類
    材料や部品/資本財/補助財・サービス財