2003年12月4日
マーケティング論
−第十回 市場への対応(2)価格(9章)−
<質問への回答>
4.ブランド・マネジメント
(1)ブランドとはなにか?
ブランドというものは、その製品を買うことももちろんですが、安心を買うことでもあるのですか。
そういう場合もあります。
野菜や果物の産地もブランドと考えられるのでしょうか。
そういえるでしょう。
私は、例えば高級な商品を「ブランド」と言い、スポーツ商品など比較的安い商品に対しては「メーカー」と言って、言い分けています。そもそも「ブランド」と「メーカー」に差はなかったのですか。もし差がないとすれば「ブランド志向」という言葉は間違った使い方なんですか。
日常会話で用いる用語法と、専門的に用いられる用語法は違います。日常用語では「盲腸」ですが、病院では「虫垂炎」というのと同じです。どちらが正しいとか間違っているというわけではありませんが、きちんと使い分ける必要があります。
ソニーのVAIOはパソコン以外にもパソコンの機能を拡張するVAIOのロゴがついた製品があり、「VAIO」または「SONY」というブランドでパソコンを買う人がいると思いますが、そうではなく、「VAIOのパソコンを買えば拡張しやすい」と拡張性に魅力を感じ購入する人もいると思います。この場合もブランドのもつ一貫性の保証または品質保証に当てはまると考えてよいですか。
その人にとって「拡張性=VAIO」というイメージが確立しており、周辺機器の購買にあたっていちいち他社製品と詳細に比較しない、という購買行動をとっているなら、その人にとってはVAIOというブランドがある種の品質保証として認識されているといえるでしょう。
(2)誰がブランドを発信するか〜PBとNB
PBは宣伝などのコストが安くで済むと述べてらっしゃいましたが、ユニクロなどはダイエーなどGSのPBとは違い宣伝広告をたくさんしているのでコストはかかると思うのですが。
消費者むけ製品のNBはたとえばゴールデンアワーに多数のCMを放送するなど、全国を対象に大規模な宣伝が不可欠です。ユニクロなどはPBとNBの中間的な性格をもつといえますが、それでも宣伝の規模としては通常のNB製品よりかなり小規模でしょう。
なぜPBが安いのか、の部分でメーカーは製造するだけ。小売業者が努力してコストを下げるということでしたが、宣伝費などは変わらないように思うのですが、どこを努力するのですか。
メーカーが販売する場合、全国へむけて販売し、しかも系列店などを別にすれば販売ルートを直接もっていません。したがって、漠然とした対象むけて大量の宣伝をおこない、次回説明しますが卸売業者や小売店に中間マージンを払うなどが必要となります。これに対してPB製品はこうした中間的な費用がかからないのはもちろん、スーパーなど小売店が自店に必要な範囲で宣伝すればよいので、効率的に宣伝できるわけです。このほか、小売店が確実に売れると判断した量だけ発注できるので売れ残りや在庫ロスが少ない、配送が効率化できるなどの利点があります。
(3)なぜ「ブランド」で買ってしまうのか
・ブランド・ロイヤルティ
高校生の時、ヴィトンの財布やかばんが流行り多くの人が持っていました。しかし、その後エルメスが流行りだしヴィトンを持っていた人達の多くがエルメスのかばんを持つようになっていました。これはブランド・ロイヤルティを持っていることになるのですか。
ある特定のブランドを継続的に購入することが、ブランド・ロイヤルティの表現だと考えられます。エルメスが流行してもヴィトンを買うことがブランド・ロイヤルティだといえるかもしれません。
ブランド・ロイヤルティとブランド・エクイティの違いが分かりません。2つとも強力なブランドは売り上げが安定するということなのでしょうか。
ブランド・ロイヤルティは顧客がそのブランドに忠誠心があること、俗に言えば「はまっている」ことであり、ブランド・ロイヤルティが高いブランドは安定的な顧客を確保しているので、ブランド・エクイティが高く評価されるということです。
ロイヤルティを持つ顧客に対して、高級ブランドはコレクターズアイテム的なものを販売したりしますが、デザイナーズブランドではない無印はやはりそういった商品を販売することはしないのでしょうか。やはり量を売ることが目的であるのでしないのでしょうか。
別に量をうることが目的だからというわけではなく、対象としている消費のあり方が違うからです。たとえば、「シャープ」も立派なブランドであり、ブランドロイヤリティもありますが、シャープがコレクターズアイテムを発売しても関心をもたないでしょう。「ブランド」=DCブランド、というようなイメージではなく、ブランドの定義に即して考えてみてください。
・ブランドイメージ
ブランドは品質保証の表現であることは分かりました。しかし、何らかの不祥事があった場合、そのブランドに悪いイメージがつき、ブランド名だけで、全ての商品の売上は落ち込むはずである。商品名を変えただけで同一商品が爆発的に売れることがあるが、例えば「雪印」のように一度傷を負ったブランドがそのブランド名を変えることにより、悪いイメージをめぐり去り、イメージを一新することは可能であろうか。
ブランドとして認知されることが企業にマイナスの影響をもたらすことはあるのでしょうか。
ブランドのイメージが固定化されると、企業や製品を変化させることが難しくなる側面があります。また、共通のブランドで多数の製品がある場合、一つの製品に問題が生じるすべての製品に対する信頼が失われ、その回復は非常に困難です。既存のブランドを破棄して新ブランドをゼロから展開するにしても、現在のブランドで信頼回復をはかるにしても、多大な努力が必要です。森永は、砒素ミルク事件から立ち直りましたが、これは回復に成功した希有な例です。回復を可能にした一つの要因は、責任を認め被害者に対して補償をきちんと行ってきたことがあるでしょう。
ブランドについて、企業がブランドとして確立する気が全くないのに世間でのブランドイメージが定着した場合、それもブランドと言えるのでしょうか。
そのとおりです。名前を付けて(あるいは「名前がない」という「名前」で)市場に製品を送りだした以上、それはブランドとして一人歩きする可能性があるのであって、その結果について企業はほんらい無頓着ではいられないのです。ほったらかしていてマイナスイメージだけが定着したらどうするのか、ということです。
OEMを他企業に製造させるとブランドイメージが低下することはないのですか。
ふつう、誰もこれがOEMかどうか気にしないでしょう? そのブランドへの期待や信頼を裏切らない品質などが保証されていればいいわけです。
(4)売り手の側から見た「ブランド」〜ブランド・エクイティ
ブランド・エクイティはどんな経済社会の国によっても成り立っているのでしょうか。
すべてとはいえませんが、市場経済が一般的な国では通常なりたつでしょう。
ユニクロはブランドですよね。ブランドじゃないと分かるんですが、ブランドなら資産価値を持っているのに何であんなに安いのでしょうか。
ブランドに価値があるからといって、それがただちに価格に反映されるわけではありません。ブランド・エクイティはたとえば企業自体を買収する場合の価格評価などに関係してきます。
売り手にとってのブランドエクイティが買い手にとっての品質保証につながるのでしょうか。
ブランド・エクイティはブランドが企業などにとって資産としての価値をもつということであり、買い手に対する意味を含んでいません。
吉野家などの牛丼屋やファミレスなどでもブランド・エクイティがあると言えるのですか。
もちろんです。たとえば、キラーテナントの話をしましたが、同じようなおしゃれカフェでも、スターバックスはキラーテナントとして評価され、タリーズがそうでもないという違いは、ブランドの価値によるところが大きいわけです。
ブランド・エクイティとなるまでは様々は戦略を取らなければいけないと思いますが、特別な戦略はあるのでしょうか。
ブランド・エクイティを達成する特別な戦略があるわけではありません。ブランドとしての地位を確立した結果としてエクイティが得られるのです。
(5)ブランド戦略
・ブランド戦略:基本的視点
日本人はブランド好きといわれているが、ある程度豊かな国で人種によってモノを買う事に考え方の違いがあるなら、国によってマーケティングは全然違ってくるのですか。
基本は同じです。具体的な展開の仕方が違ってくるだけです。
商品でなく、ブランドを買わせることも、その企業のマーケティング戦略になるのでしょうか。
もちろんです。むしろ、場合によってはそのほうが重要です。
品質保証の表現の能力をブランドに頼らず、自らの目でチェックするような手強い消費者に対するマーケティングはどのようなものがあるのでしょうか。
性能そのものを、データを含めて積極的に開示し、弱点もふくめて率直に説明することでむしろ信頼を得ることでしょう。
ブランドといわれる会社の製品がブランドとして確立しているために、自分達の売り出す製品を制限してしまうという事は、実際あったのでしょうか。
希少性がそのブランドの価値の源泉になっている場合、たとえば高級DCブランドの衣服や宝飾品などは、そうした販売手法がむしろ一般的です。
・ブランド戦略:個別のケース
スターバックスは都会の感じで地方で流行するとすれば、あまりつくり過ぎないほうがいいのではない
でしょうか。地方であっちこっちにあると、他の飲食店と変わらない、普通になってしまうと思うのですが。
まさにその通りで、規模拡大とイメージの維持はいつも相反する危険性をはらんでいます。これはかつての高級DCブランドのいくつかが、あまりに種類・量とも拡大しすぎてブランド力を失ったことにもしめされています。
高級ブランドではヴィトンやシャネル、グッチなどでほとんどのシェアが占められていますが、そこに新たに参入する場合どのような努力が必要ですか。
一言でいえるようなものではないでしょうね。高級ブランドの戦略についてはたとえば、長沢伸也『ブランド定刻の素顔』日経ビジネス人文庫、を参照してみてください。
高級ブランドのグッチも無印良品と同様に多様な商品を出していますが、日本に入っていません。それはニーズがないからでしょうか。
単に売れないからなのか、戦略的にそうしていないのか、流通や輸送に制約があるのか、などいろいろな理由が考えられます。調べて見ませんか。
パソコンのプリンターはキャノンだと思っていましたが、最近ではセイコーエプリンも売り出されています。少し前までエプリンがセイコーの子会社だと知りませんでした。どうして、セイコーは一般的に知られわたっているのに、セイコーというブランドを表に出さずに売り出したのでしょうか。エプリンが売り出している「ツヨインク」も時計の精密な技術があったからできたと聞きましたが、分野が違うからでしょうか。ブランドの低下の危惧からでしょうか。
確実なことはいえませんが、時計のセイコーにはファッション性も含めたブランドイメージがあるので、コンピューターなどを同じブランドで売り出しても、時計、パソコン双方のユーザーに対してブランドイメージの混乱を招くと考えたのではないかと思われます。なお、セイコーエプソンはプリンタでは以前から有力メーカーです。
(6)サービスとブランド
モノとサービスの根本的な違いは「形があるかないか」といっていましたが、モノにブランドがあるのならば、サービスにもブランドはあるのでしょうか。またあるのなら具体例を教えてください。
百貨店に格差があるとは感じませんか。品揃えも値段もかわらないのに大丸は高級、近鉄は庶民的というイメージがあるでしょう。これもブランド・イメージの違いだと考えられます。
ディズニーランドやガストはブランドと言えるのですか。また、ブランドなら、PBになるのですか。
ブランドです。また製品そのものではないので、NBかPBかということにあまり意味がありません。
(7)その他
・その他
日本ではコカコーラがブランド・エクイティとなっていますが、アメリカではペプシもブランド・エクイティとなっているとおっしゃってましたが、どうしてアメリカでは2つのブランド・エクイティができたのでしょうか。
アメリカではペプシのほうがコカコーラより市場シェアが大きいと述べただけです。ただ、別に一つの分野で力のあるブランドが二つ並び立つことはよくあることで、不自然ではありません。日本のビール業界などもそうで、それぞれにエクイティもあるといえます。
高級ブランドというのは、庶民だとあまり頻繁に買えるものではないので庶民的なクラスのモノの方が大量に売れるから総売上的にはブランドじゃない方が高いような気がするのですが、どうでしょうか。
高級ブランド製品は、単位あたりの利益率が非常に高いのです。いっぽう日用品など単価の安い製品は大量に売れるにしても利益率が非常に低く、またそもそも大量に売ることではじめて利益が得られるのです。
5.製品の分類
サービスはモノと比べて基本的に非耐久性と考えればよいのでしょうか。
そのように分類するテキストもありますが、私はサービスと形のある製品を分類する延長線上でとらえるべきではないと思います。
レストランの接客はサービスですが、食事はモノとは考えないのでしょうか。
モノを媒介としたサービスだと考えられます。詳しくは来年の「サービス・マネジメント論」で。
消費財は、最寄品、買回品、専門品と分類されていました。それぞれ消費者の買い方は違っていました。やはり、それぞれマーケティングの行い方も変わってくるのですか。
もちろんです。
生産財はあまりブランドが重視されないとありましたが、耐久性・生産性が良いのは○○社のものだといったような企業ブランドを重視したりすることはないのですか。
信頼性はもちろん重要ですが、生産財の場合は最終的にはやはり性能と価格を客観的に評価して購入するのがふつうです。
生産財の分類についてですが、会計では機械や装置などは資産ですが、なぜ資本財なのですか。
講義で言い間違えたために混乱をうみ、申し訳ありません。機械や装置は会計上は「資産」に分類されますが、経済学上は「資産」という概念はなく、資本に含まれます。
第9章 価格対応
1.価格設定の基本方針
(0)価格を考える前提
利益と需要のバランス
(1)コストに基づく価格設定方針
@コスト・プラス法
変動費+(固定費/見込み販売数量)+利益=価格
※変動費
固定費
A損益分岐点法
価格を高くすれば、少ない販売数量で利益が出る
価格を下げれば利益を出すためにたくさん売らなくてはならない
→見込み販売数量と、目標利益との関係でこの二つから価格を設定する
(2)需要に基づいた価格設定方針
「消費者はいくらなら買ってくれるか」から価格を判断する
(3)競争に基づいた価格設定方針
競争相手との関係で価格を判断する〜実勢価格、入札価格など
2.新製品の価格対応
(1)上澄み吸収価格戦略
発売当初に、価格にそれほど敏感でない(高くても買ってくれる可能性がある)顧客に販売して開発コストを回収する戦略。すぐには他社から同様の製品が発売されないことが条件。
例)DVD、液晶テレビ
(2)市場浸透価格戦略
需要の価格弾力性が大きい(人々が買うかどうかを価格次第で判断しやすい)場合、発売当初から低価格で販売して、市場を確保しようとする戦略。規模の経済性などからたくさん作ればコストが下がり利益が見込める製品に多い。 例)食品、低価格衣料品
※導入価格との違いに注意
3.製品ミックスを考慮した価格対応
@プライス・ライニング戦略:1000円なら1000円でそろえて、統一感やグレードの明確化を狙う
A抱き合わせ価格戦略:パッケージでセットした価格。通常単品の組み合わせより割安。
Bキャプティブ価格戦略:同時に購入する他の製品やサービスで利益を得ることを狙う
4.心理面を考慮した価格対応
5.割引による価格対応
省略
6.需要の弾力性
どのくらい価格を上下させると、どのくらい販売量が変化するか考える必要。別の製品の影響もある。