マーケティング論 第14回
質問への回答
 
2.三つの基本戦略
マーケティングの4Pの前提として、3つの基本戦略のどれを選択するかという、競争戦略を考える必要があることはわかりますが、コストリーダーシップと差別化を融合させようとする戦略を、企業が取ることはないのですか。
 ありえないとはいえませんが、必要ないですね。どちらかで市場で優位にたてるならそれでよいのです。また、コスト・リーダーシップ戦略をとらなくてもコストを抑える努力自体は必要です。
 
「パフォーマンス」には客観的に判断できないものがあるといいましたが、例えば何でしょうか。
 テキスト260ページ参照。
 
3.製品ライフサイクル別戦略
製品ライフサイクル別戦略の中のデファクト・スタンダードにおいて、近年MDの何十倍ものデータを収めることができるディスクの開発案をSONYかどこかの企業が他社に出して、そのディスク対応の機器の開発を呼びかけたと聞いています。こういった事を行うことは、デファクト・スタンダードではよく見られる事なのでしょうか。
 電器・電子製品のデファクト・スタンダード獲得戦略においては、企業間の連合をいかに強力に組織するかが重要です。
 
デファクト・スタンダードは純粋に消費者が選択して決まるものなんですか。国家が介入することはないのですか。
 上記のように、企業(連合)間の市場支配力が決定的です。また、国家が標準を定めればそれはもはや「デファクト(事実上の)」ではなく、単なる「スタンダード(定められた標準)」です。
 
デファクト・スタンダードにおいて、プレーステーション本体も、それを言えるのでしょうか。また、シェアが高いとそれが標準に近いと言えるのでしょうか。
 単純にそうはいえません。ある同様の機能に対していくつかの規格が競争した結果、ある規格がほぼ完全に市場を制覇した状態がデファクト・スタンダードです。
 
4.競争地位別戦略
(1)リーダー
どうして競争地位がリーダーになれば身動きがとりにくくなるのですか。逆に何回か失敗作を出してしまっても強みというか、力があるので動きやすいのではないのですか。
 試行錯誤のしやすさはありますが、全体として方向転換を図るような場合はやはり難しいと言えます。
 
(2)チャレンジャー
従業中に先生はモスバーガーとマクドナルドは全く別の戦略をとっているとおっしゃられましたが、実際、ハンバーガーの形やジュース、コーヒーの入れ物の形もほとんど同じような感じがします。やはりそれでも両者が違うと言い張るのには大きな理由が他にあるからでしょうか。
 再三述べていますが、商品形態ではなく、実質的な意味において、つまりテキスト168ページにあるような意味での「製品」として何を売っているのか、が違うのです。どういうときにそれぞれの店に行くのか、周囲の人に聞いてみるとわかると思いますが。
 
チャレンジャーはリーダーに追いつくことを目指していますが、もし、追いついて、追い越した時チャレンジャーだった企業は、リーダーの戦略に変更してしまうのでしょうか。それとも、今までどおりの戦略で経営を行うのでしょうか。
 これはケース・バイ・ケースですが、まったく修正なしにすむことは少ないでしょう。ただ、キリンを乗り越えたあとのアサヒが依然としてラガーに対するスーパードライの優位性で差別化を図っているように、成長の原動力となった方向性がすぐに激変するわけではないでしょう。
 
チャレンジャーがリーダーに追いつくことは実際には可能でしょうか。差別化を徹底するだけでは追いつくには厳しいのではないでしょうか。
 一般論ではいちがいにいえませんが、典型例が上記のビール業界のケースです。これについてはいろいろな本で紹介されていますから読んでみて下さい。
 
競争地位別戦略のところで、リーダーが成長期に入っている商品へも同質化対応ができるのは、資金がたくさんあるからですか。例えばフィットに続いたイストもそうなのでしょうか。
 販売力、ブランド力もあります。無名メーカーがシングルヒットとした製品を、大手はホームランにすることができるのです。技術力や生産力の優位はもちろんです。
 
チャレンジャーが2つ以上ある場合はないのか。
 「2番手」というのはモデル的な言い方ですから、当然ありえます。
 
チャレンジャーの「同質化できない」とはどういうことなのか。
 チャレンジャーは差別化が基本戦略である場合が多いので、同質化してしまうと意味がなくなります。
 
(3)フォロワー
フォロワーよりもニッチャーのハーゲンダッツの方が利益はあるのなら、フォロワーよりニッチャーの方がよいのですか。
 どちらが利益があるのかはいちがいにいえません。また利益があっても手がだせない(たとえば商品開発力がない)といった場合も多いのです。
 
ビール市場でサッポロとサントリーがせっかく発泡酒をだしたのにリーダーのキリンがこれを発売した途端やはりキリンがトップの座をとってしまうという状況であれば3番手ぐらいの企業の差別化は意味はあるのか。結局ブランドの確立度が一番高い企業は何でも当たってしまうのか。
 多様な差別化が可能な製品なのか、それほど幅がないのかなど、単純には決まりません。
 
フォロワーの戦略は、知的財産権をリーダーが主張して、その商品やサービスビジネスモデルの独自性が保証されれば、役に立たない、または消えざるを得ないと思うのですが、現実としてフォロワー企業が生き残るにはどうしたらいいのですか。
フォロワーのものまねの戦略は何かの法律に引っかかったりしないのですか。またリーダーが訴えたりもしないのですか。
 リーダーやチャレンジャーの取り組みが、特許がとれるような製品やビジネスモデルとは限らないので、フォロワーが生き残る余地は一般論としてはあります。
 
ドコモは戦略がフォロワーに近いとことがあると思うのですが、でもシェアからしてリーダーと言えるのでしょうか。
リーダー企業の同質化競争とフォロワーのリーダーの模倣は様子を見てヒットしてから製品を出すという点では同じ戦略のような気がするのですが、差はなんなのでしょうか。
 ドコモはリーダーです。ドコモがものまねが多いという声をよく耳にしますが、あれは同質化とみるべきでしょう。リーダーの同質化は、他が成功させた製品などについて、いわば「成功を乗っ取る」わけです。販売力やブランド力などを生かして、最初に成功させた企業を駆逐します。それに対してフォロワーはあくまで落ち穂拾いで、リーダーと同じことをしながら、リーダーのとりこぼしたところを丹念にフォローすることで低コストで生き残ろうというわけです。
 
フォロワーはリーダーの模倣をしているだけでは、ずっとチャレンジャーやリーダーに追いつけないと思うのですが、どうでしょうか。
 追いつこうとはしていないでしょう。
 
(4)ニッチャー
経営状態によってリーダーの競争地位差別戦略を、ニッチャーなどに変えることもあるのでしょうか。戦略というものはそんなにたやすく変える事ができないと思うのですが、旅行業界で言えばH.I.Sはリーダーと言うよりニッチャーだと思うのですが、このまま良い業績が続けば、リーダー的戦略を展開することができると思うのですか。
 ニッチャーというのは狭い市場のなかのリーダーともいえます。HISはもうかなり以前からチャレンジャー的位置にあるでしょう。バックパッカーというニッチ市場だけを対象にしていた時代もあったわけですが、今はビジネスまでとりこんでいますから、海外旅行市場においてはもはやフルライン状態です。ニッチャーとして培ってきた企業としての力を生かして競争地位をあげようとしているわけです。
 
ニッチャーの中でもリーダー、チャレンジャー、フォロワーに分けることはできるのですか。
 ニッチャーは狭い市場のなかのリーダーです。狭い市場のなかでチャレンジャーやフォロワーがいることもありますが、通常リーダーとその他、くらいになるかと思います。
 
ニッチャーは「コスト集中」、「差別化集中」の2つの戦略しかとれないのでしょうか。
 ではなくて、コスト集中、差別化集中という戦略をとるのがニッチャーなのです。