競争戦略(概説)
08/Apr/2004 近藤
 
0.経営における戦略論の位置
(1)4つのキーワード
 ・競争戦略:基本的な活動方向
 ・マーケティング戦略:市場との関係
 ・経営組織:戦略に対応した組織のあり方(外部との提携を含む)
 ・経営理念:方向を決定づける価値観、指向性
 ※ポーターは、テキストp7の図表Ⅰのような、理念を戦略に含む考え方を肯定している。
 
(2)営利企業と非営利組織
 ・本質的な違いはある・・・だが、どこに線をひくかについて定説はない
 ・実際の運用における「組織行動」としての共通性
 ・「もっとも典型的なものの、完成された形態を分析し示唆を得る」
    それゆえ、経営学では営利企業組織を念頭において分析する。
 
1.競争戦略とはなにか
(1)競争戦略(competitive strategy)
「競争優位」を実現する戦略。通常、多角化企業においては各部門ごとの事業戦略を対象としており、全社戦略(企業戦略)については、競争戦略の考え方をふまえながらも独自の枠組みを必要とする。
戦略を「地図」にたとえるとわかりやすい(青島+加藤、2003)。
 
(2)競争優位(competitive advantage)
長期間にわたってある産業(またはある業界、ある戦略グループ)内で優れた収益性を確保すること。
 ※戦略グループ:それぞれの競争次元上で、同一または類似の戦略をとっている企業群
 
(2)(経営)戦略(strategy)
例:「企業の将来像とそれを達成するための道筋」(青島+加藤、2003)
「環境適応のパターンを将来指向的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」(加護野、1985,1996)
 目標(or理念)-戦略-戦術という階層でとらえるのが一般的。
    ※ポーターは目的-手段ととらている(p8)が、大きく異なるものではない
 また、企業(組織)をとりまく環境との関係や意思決定の指針というニュアンスも含まれる
    ※テキストp8,図表Ⅱおよびp9,図表Ⅲ参照
「戦略」というコトバの語源はクラウゼヴィッツの『戦争論』だといわれるが、経営学の世界で一般的になったのは、おそらくA.チャンドラーの有名な規定「組織は戦略に従う」(Chandler, 1962)からであろう。
 
2.「戦略」概念の変遷と深化~キーワードにみる
(1)「戦略」概念の発見
 「見えざる手」(アダム・スミス)から「見える手」(チャンドラー)へ
 「企業は意識的に正式な戦略計画を活用することで市場をコントロールしうる」(ドラッカー、  1954)
 
(2)初期のキーワード(第二次世界大戦前後)
 経験曲線:累積生産高が倍増すると直接労務費は一定比率で減少する・・・「学習効果」
 独自コンピタンス:その組織に特有の特徴づけが、組織を効率化する
 
(3)独自コンピタンスをめぐる議論(1960年代)
 ①SWOT分析
  企業の内的能力(独自コンピタンス)と外部環境の適合が注目される
   内的能力:強み(Strengths)、弱み(Weakness)
   外部環境:機会(Opportunities)、脅威(Threats)またはリスク
 ②独自コンピタンスか、顧客ニーズか
   レヴィット:独自コンピタンスより顧客ニーズが重要
   アンゾフ:顧客ニーズに対応した新製品は、既存製品との「共通項」が必要
          →製品-市場マトリックスの構築
 
(4)経験曲線とポートフォリオ分析(1970年代)
 ①経験曲線
   累積生産量の増加に伴ってコストが減少する→市場シェア重視の議論へ
 ②BCGマトリックス
   ポートフォリオ分析のはしり。相対市場シェアと市場成長率にもとづく
※多角化企業を戦略的事業単位(Strategic Business Unit = SBU)にわけることが普及してきたことが背景
   以後、ポートフォリオ分析が流行し今日でも利用されるが、80年代には批判が高まった。
 
(5)構造的な競争理解へ
 80年代に、業界の構造や進展との関係で全体的に競争を理解し、戦略を考えようという方向性が強まる→ここで登場するのがポーターの議論
 
3.「競争戦略」で学ぶこと
基本的フレームワーク(テキスト第Ⅰ部)
①「業界」の構造を分析する(1)
   5つの構造要因から業界を分析し、自社の位置をつかむ
②競争の基本戦略を構想する(2)
   3つの基本戦略またはその組み合わせ
③自社に対する業界の動き方を把握し、対応を検討する(3~8)
   自社の戦術的な行動の指針を得る
※テキストでは、これをふまえて業界環境別、戦略デシジョン別の競争戦略の具体的な事例をとりあげているが、この講義では基本である第Ⅰ部のみをとりあげ、あとは各自で読むことを期待している。