リゾート経営論
−第6回 地域開発戦略としてのリゾート−
0.前回講義へのコメントから
(1)日本のリゾート開発の歴史に関して
○阪神は経営に関してかなり保守的なのでリゾート開発にも遅れたと思う。
○阪急はどのような所をリゾート開発したのか?私の考えでは阪急は鉄道よりもバスにかなりの力があるように思うがどうだろうか?
○私鉄経営の成功例として、阪急があげられる場合が多い。しかし今回この授業では取り上げられなかったが、リゾート経営という視点で考えた場合あまり成功しなかったのか。
最初の二つは出発点の認識がまちがっています。阪神はたしかに基本的に鉄道沿線を大きく離れる展開をしてきませんでしたが、最初に六甲山のリゾート開発を企業として大規模に手がけたのは阪神グループです。阪急は出遅れています。阪急グループの大規模なリゾート開発としては丹後リゾート(京都府との共同開発)がありますが、成功していません。
また、大手私鉄企業グループにおいては福岡の西鉄をのぞき交通部門では鉄道が主でバスが従です。この位置づけは一貫して変化していません。
○日本での戦前から戦後にかけてのリゾート開発はわかったが、そもそものリゾートの始まりはなんだったのか?
○投資としての「リゾート開発」が招いた投資回収を目的としていたため本質的には「リゾート開発」を本気でやろうとしていなかったというのは宮崎のシーガイアにも共通するのではないか。
(2)リゾート経営の手法に関して
○コンセプトの策定で、オランダ村が「物語」に乗ったものとして挙げられていましたが、例えば伊勢戦国時代村といった日本の歴史を基本にしているような場所も「物語」に乗っていると言えるのでしょうか?(それ程繁盛しているようには思いませんが・・・)
○ハウステンボスとオランダ村は同じイメージであるのになぜ至近距離に二つの施設をつくったのですか?ディズニーの場合は相乗効果が期待できそうですが、長崎の場合両方行こうという魅力が薄いと思います。
○コンセプトにストーリーが必要なのはよくわかりました。ただ、TDLにどのようなストーリーがあるのかがよくわかりません。なぜ日本の千葉、浦安なんでしょうか。
「物語」というのは単におはなしがあればいいというものではなく、そこへ来た人がその物語にどれだけ「はまる」ことができるかです。もともと人々がもっているイメージを呼び覚まし、そこにはまりこんでしまうだけの「世界」を作ってしまったのがTDL、ハウステンボス、あるいはカナダのニューファンドランド島(「赤毛のアン」ですね)です。TDLはキャラクターの魅力で、ハウステンボスやニューファンドランドはその場所がもっている吸引力をいかしています。TDL、ハウステンボスについてはまたふれます。
○今後リゾート開発を行う上で大衆化を目指すべきなのでしょうか?それとも、目指さないべきなのでしょうか?あるいは大衆化を非大衆化で、すみ分けをはかるべきなのでしょうか?
○見てまわる観光から行動するようなものに増えているという部分があったんですが、それは観光者の数が増えたんですか?それとも、今まで観光や休息していた人がそのような行動をするような旅行に興味が移ったんですか?
○初期投資回収のために短期的、長期的な財務の組み合わせが必要だということだったが、
東京ディズニーランドの短期的な投資回収の例にはどんなものがあるのか?
○リゾートのために町づくりするのと町づくりの一環としてリゾート開発をするのとではどちらが
うまくいくのでしょう?
○能動的なプランを組むことで、個性的な経験ができるという魅力があるが、そういったプランのためのコストは高くなり、不満は生じないのか?
○「観光リゾート計画論」は90年代から変わっていないという事だったが、この米テロによってもこれから変化していくことはないのだろうか。
○「国内旅行と海外旅行の使い分けが進む」というような点がより顕著になるのだろうか。
○海外旅行者の激減はこれからも進むのだろうか。
今回の同時テロと報復戦争の影響は長期にわたる危険性はありますが、基本的には外在的要因であり、観光やレジャー、リゾート需要をめぐるトレンドに変化を与えるものではありません。長期の不景気が続く可能性もありますが、先進国における社会のあり方の趨勢そのものが逆転・激変するとは考えられません。むしろIT化、グローバル化との関連で見ていく必要があります。
1.地域開発とは
(1)地域開発とはなにか
@今日における地域開発の意味
「地域において持続可能な発展(Sustinable Development)を実現するとりくみ」ではないか。
※「持続可能な発展」とは?
定義:「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代の
ニーズを満たす」こと(1992年リオデジャネイロ「地球サミット」宣言)
環境、社会、経済の3つの面からとらえる(OECD)
A発展と衰退のサイクル
成長のなかに衰退の芽がある→図参照 例)オーランド(フロリダ)
図はコトラー他著、井関監訳『地域のマーケティング』東洋経済、p5参照
(2)どうやって地域の優位性を確立するか
@地域の自己認識
自分たちの地域がどういう状態にあるのか:発展、衰退、再生の可能性の有無など
自分たちの地域の強みと弱みを把握する
地域の「目玉」とサービスの適切な組み合わせの実現が必要〜リーダーシップ
A地域を売り出す市場をつかむ
住民を含むどのような人たちにとって魅力ある地域を作っていくのか
Bどのような材料で地域を売り出していくか
・イメージづくり
・「目玉」〜ハコモノを作ればいいと言うわけではない。
・インフラの整備
・人〜ホスピタリティ、教育・文化水準、治安など
(3)地域の優位性の打ち出し方
@「買い手」はどういう選択を行っているのか?
・選択する人は誰なのか
・選択肢(競争相手)はどこなのか
・なにを優先して選択しているのか
・事後の評価はなにによって決まるのか
A地域を戦略的に評価し、マーケティングしていく
・自分たちの地域をどのように評価するのか
・ビジョンと目的を設定する〜ほっといても成長するとして、それでよいのか
・戦略をつくる〜戦略とは、やることと「やらないこと」を決める基準である
B問題点を改善する
Cイメージをつくり、うちだす
※イメージづくりのガイドライン:実態との整合性、信用されること、単純、魅力、目立つ
2.「リゾート法」型開発の破綻
(1)なぜ「リゾート」だったのか
※1987年5月 総合保養地域整備法(リゾート法)
27府県、4,138,000ha(国土の約10%)
地域の側の理由:内需拡大を求められたこと(バブルと事情はいっしょ)
過疎地域の地域振興の必要性←→農林業の不振
地方自治体の土地斡旋政策
企業側の理由:だぶついた資金の投資先
3点セットの論理〜投資回収しやすいと考えられた
(2)リゾート開発が地域にもたらしたもの
@環境破壊〜ゴルフ場の農薬汚染
A土地の値上がり
B地元負担の増大〜水道、消防
C地元雇用は増えない
(3)具体的な地域に見る傷跡
@北海道〜リゾート企業の相次ぐ破綻:アルファ・トマム、洞爺ウィンザーホテルetc
A越後湯沢〜リゾートマンションの乱立による地域崩壊、危険地域への建設問題など
B九州〜シーガイアにみられる過剰投資、国有林売却など自然破壊
C沖縄〜土地の乱買収、開発に伴うサンゴの死滅・水質悪化
3.これからの地域開発の考え方
(1)アスペンとトマムー二つの山岳リゾート
アスペン〜別紙(著作権に関わるためwebには載せられない。省略)
旧鉱山にかかわる人的ネットワークの活用、世界的イベントの誘致、
地域の既存文化をいかす、定住人口の増加をめざす → 国際的リゾートへ
トマム 〜1984年開発開始、1987年タワーT竣工、1988年リゾート法指定・・・1998年破綻
ビジネスに不慣れな行政と単一の(しかもオーナー支配)外来企業中心、
地域との結びつきがない、過剰な設備投資 → 破綻へ
(2)内発的発展のメカニズム
※「内発的発展」とは(宮本憲一による)
@地元の技術・産業・文化を土台に、地域内の市場を主な対象として地域住民が学習・計画・経営すること。だが、地域主義ではない。大都市圏、政府との関連を無視して地域が自立できるものではない。
A環境保全の枠の中で開発を考え、アメニティ福祉、文化、地元住民の人権の確立を求める総合目的を持つこと。
B産業開発を特定業種に限定せず複雑な産業分野にわたるようにして、付加価値があらゆる段階で地元に帰着するような地域産業連関をはかること。
C住民参加の制度をつくり、自治体が住民の意志を体して、その計画にのるように資本や土地利用を規制しうる自治権を持つこと。
(3)「観光が観光を破壊する」をこえて
参考文献
大野隆男『リゾート開発を問う』新日本出版社、1991.
コトラー,K.、ハイダー,D.、レイン,R.著・井関利明監訳『地域のマーケティング』東洋経済新報社、1996。
森本正夫監修、塚本珪一・東徹編著『持続可能な観光と地域発展へのアプローチ』泉文堂、1999。
今後の予定
第7回(11/ 2) 環境と開発:エコツーリズムの可能性と課題
第8回(11/ 9) リゾートビジネスの現状@
第9回(11/16) グループ学習日(各グループ単位でレポートの準備に取り組み、作業報告
書を提出。報告書は来週配布)
※近藤は出講しません。各グループで自主的に取り組んでください。
レポート準備で必要な質問などはこの前後の期間に個別対応。
アポイントメントはkondok@ba.ritsumei.ac.jpまで
(11/23) 休日
第10回(11/30) 3回生報告@
第11回(12/ 7) 3回生報告A ※2回生グループレポート提出締切
第12回(12/14) 3回生報告B
第13回(12/21) 3回生報告C ※全回生個人レポート提出締切
第14回( 1/11) 3回生報告D、まとめ
補講はありません。