2001/5/14
サービス・マネジメント論
−第5回 サービス・マネジメント・システム(1)−
1.経営戦略としてのサービス・マネジメント
(1)経営戦略とは
・経営戦略とは
「環境適応のパターンを将来試行的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」(加護野忠男)
@激しく変動する経営環境*1のもとでも、それに振り回されないよう企業(組織)の活動に 方向性やあり方に一定の指針を示す
A企業(組織)がその環境とどのような形で関係を持つのかを示す
B企業(組織)における意思決定の規範を示す
・経営戦略はなぜ必要か
常に変動し続ける「環境」へ適応し続けるためには、場当たりではいられない。
ただし、柔軟性が必要ではあるが。
(2)サービスにおける経営戦略の重要性
内部適応(内部環境への対応)と、外部適応(外部環境への対応)の整合性が形のある「もの」を作り出す場合と比べてより重要である。
→「サービス・マネジメント・システム」としてとらえることの重要性(前回講義)
なぜか:@「同時性」のもつ困難さと積極性
A「顧客との共同生産」にかかわる苦心と可能性
(3)サービス・マネジメント・システムにおける経営戦略
セグメンテーション:どんな「顧客(利用者)」を対象とするのか
サービス・コンセプト:どんな「サービス」を提供するのか
・・・これが、(1)の@〜Bの役割を果たす
(4)セグメンテーションが先か、コンセプトが先か
2.ターゲットを明確にする−マーケット・セグメンテーション(テキストp224)
〜では、セグメンテーションをどのように考え、定めたらよいのだろうか
(1)マーケット・セグメンテーションとは何か
*高元昭絋『マーケティング』p14〜16、『ベイシック経営学Q&A』p128などを参照のこと
・マーケット(市場、「いちば」ではない):ある特定のニード(need)*1やウォント(want)*2を共
有する潜在的な顧客の集合体
・セグメンテーション:区分、区分け
つまり、どのような特性を持つ顧客(利用者)の区分を対象とするかを考えることである。
例)セグメントを切り替えて生き残りをはかる別府温泉
(2)ターゲット設定の二つの方法
@人工統計的方法
年齢、性別、職業、教育水準、所得階層、家族構成など基本的なデータに基づく区分
(ただし、サービス提供者にとって必要な情報を確実に集めるためには工夫がいる。)
Aサイコグラフィック(心理性向的、psycographic)な方法(こちらがより重要)
共通するサービスのニードやウォントを有するグループをみつけること
人の形式的な属性よりも、やりたい「こと」、必要な「こと」の属性に注目する
例)ウィスキーを飲むのは年寄りだけか・・・キムタクのCM
男は美容院に行かないか
(3)サービスにおいてセグメンテーションがより重要なわけ
@サービスは大量販売型のやり方(マス・マーケティング)になじまないものが多い
例)飲食店、宿泊業、病院etc
A形のある「もの」は買い置きや転売ができるが、サービスの多くは「そのとき、その場で」必 要になる 例)タクシー、パソコンのサポートセンター
B「利益の80%は、顧客のうちの20%から得られる」という経験則 *数字はたとえ
例)ファミレスの品揃え・・・ロイヤルホストとエブリデイズ
3.サービス・コンセプト(テキストp217)
(1)サービス・コンセプトとは
顧客や利用者のニードやウォントに対応して、それを充たすサービスの内容(の根幹)
☆それぞれのコンセプトを考えてみよう
マクドナルドとモスバーガー
大学病院と近所の診療所
高級鮨屋と回転寿司
競争的な環境のもとにある場合は、より的確に顧客・利用者のニードやウォントをつかむこと のできる「ユニークな」コンセプトが必要になる
(2)サービス・コンセプトの種類
@特別な能力の提供
要するに「代行サービス」的なもの
成功するには条件がある(いずれかが必要である)
・顧客(利用者)が自分で活動するより
よい結果が得られる 例)クリーニング、オフィス賃貸料割引交渉代行業(?!)
より少ない負担(時間・コスト・精神的負担など)でできること
例)チケット予約代行サービス、企業の経理業務請負サービス
・顧客(利用者)が持っていない能力が提供できる
例)非破壊検査、たいていの交通サービス
A資源*1の新しい結合
すでにあるものの組み合わせで、新しい活動や機能を提供する
例)長浜のまちづくり・・・古い建物とガラス工芸
東京湾の海ほたる
Bノウハウの移転
@の逆で、「自分でやりたい!」という人にノウハウを提供する。
例)ガーデニングスクール
フランチャイズ・チェーンの本部、たとえばコンビニなど
Cサービスとしての経営活動
経営活動そのものを提供してしまう
例)ホテル経営代行
アメリカの病院:医者に場所を提供している(ようなもの)
4.具体的なサービス提供の仕組み〜サービス・デリバリー・システム(p228)
(1)サービス・デリバリー・システムとは
製造業における生産と流通(販売)のシステムと同じ。しかし、サービスの特徴のところで述べたように、サービスはたいていの場合生産と消費が同時であるから、これを一体のものとしてとらえることが重要である。
例)生産と消費が同時であることを利用して品質を管理する・・・オープン・キッチン
(2)サービスの戦略とサービス・デリバリー・システム
(3)サービス・デリバリー・システムの構造(p229図)
・フロント(フロント・ステージ)
顧客に直接接するサービスを提供する従業員
(提供する「場」に着目した「サービス・エンカウンター」という言葉もよく使われる)
・バック・オフィス(バック・ステージ)
フロントの仕事を支援する
*フロント・ラインとバック・オフィスの関係〜映画「スーパーの女」
(4)サービス・デリバリー・システムの構成要素
@人材〜「真実の瞬間」を実現する従業員とは
「真実の瞬間」・・・顧客(利用者)にとって本当に価値のあるサービスを、サービスを提供するがわが個人と組織の能力を発揮して顧客(利用者)に提供しようとするその瞬間が決定的である。
*SASの「雪の日のコーヒー」のエピソードは、決して個人プレーではない
a)人材育成のいくつかの方法
ア)外側から従業員の行動を望ましい方向へ矯正する
イ)従業員が自ら内発的に望ましい行動がとれるように持っていく
・マニュアルや訓練によって「望ましい行動そのもの」を身につけさせる(形式陶冶)
・状況やコンテキストを理解して「望ましい行動」を自らつくりだしていくようにする
できれば、そうすることで従業員自身の成長、自己実現、満足へつながるように
b)従業員の役割
もちろん、サービス活動自体を行うことが第一義的な役割だが、そのうえで・・・
ア)顧客(利用者)のカウンセラー〜顧客の真の要求を理解し、明確化させる
例)「おいしいものが食べたい」のウラには
イ)顧客(利用者)のコンサルタント〜顧客に情報を提供する
例)ショウルダイス病院の患者オリエンテーション
ウ)客(利用者)とサービス提供組織との仲介者〜特殊な要求にどう対応するか
例)SASのチケットなしで乗客を通したチェックイン・カウンター
→重要なことは、これを判断できるできる従業員がいたこと(能力)
+
これができる職場の風土であったこと(組織)
エ)サービス活動のプロデューサー
例)あるデパートで・・・他の売場にお客を引き渡して、あとでさりげなく声をかける
オ)サービス活動の演技者
例)小さな温泉宿で
A共同生産者としての顧客(利用者)
顧客(利用者)もサービス・デリバリー・システムの構成要素である。
a)間接的参加:その場にいることの効果・逆効果
例)雰囲気作り
b)直接的参加:実際にサービス活動に加わること
ア)仕様の決定 例)理髪店
イ)共同生産(狭義の直接的参加) 例)セルフサービス
ウ)品質管理 例)オープン・キッチン
エ)エトスの保持:従業員のやる気を維持・喚起する
オ)サービスの発展:利用者側からの情報提供など
カ)マーケティング:要するに口コミ
よくできた直接的参加の例〜ベニハナ・オブ・トウキョウ
B技術と物的要素
サービスだからといって形のあるものの役割が小さいわけではない。
*1:経営環境とは、組織がそれ自身ではコントロールできない組織内外の諸条件をいう(影響を与えることは不可能ではないことが多い)。一般に外部環境と内部環境にわけられ、外部環境は法律、市場、文化などであり、内部環境とは組織文化、価値観などである。
*1:ニード(need)は、人間の基本的な満足に関する欲求。「おなかがすいている」「勉強したい」など。複数形ニーズ(needs)と表現されることが多い。
*2:ウォント(want)はニードを充たす具体的な要求。「ラーメンが食べたい」「大学に行きたい」など。複数形ウォンツ(wants)と表現されることも多い。
*1:ここでの資源(resouce)は、天然資源ではない。「経営資源」(俗に言うヒト、モノ、カネ)である。