2001/05/28
サービス・マネジメント論Q&A−第6回(5/21)分−
一 講義内容に関して
1 徹底した経営理念の元で、サービスを提供すれば本当にお客は喜ぶのか?
こういう単純化した問題の建て方はしないでください。「理念」をシステムの中心に置くことの意味を説明してきたはずです。経営理念そのものがまず適切でなければなりませんし、その理念を現実化するための戦略が必要です。そして、それを徹底するデリバリー・システムの構築が必要になります。理念が、顧客の満足につながるためにはいくつもの媒介が必要なのです。
2 イメージの戦略活用について詳しく教えて。
前回の講義でも説明したように、イメージはほっておけば一人歩きする危険があります。しかし逆に、意識的にイメージを作り出すことによってあらたな顧客層に積極的にアピールしたり、従来もたれていたマイナスのイメージを転換することも可能です。また、新しい商品やサービスをうちだす場合には積極的なイメージをひろげることを、最初から考えておかなければなりません。
こうしたことのためには、戦略的な方向性が明確でなければなりません。つまり、ターゲットとした顧客層や、そこにどのようなコンセプトを提示していくのかということが明確でなければ、実際の商品やサービスと食い違ったイメージが広がることになるのです。
3 イメージを顧客をひきつけることで「CM」はやっぱり有効的なのだろうか?また、CMを出すことによって、CM料がばく大にかかると思うけど割に合うのか?またCMでの売上成功率はどんなものだろうか?
CMの効果などについては「広告論」「マーケティング論」などで聞いてください。ただ、イメージづくりのためには単に狭い意味での広告だけでなく、店舗や設備、接客内容、「もの」を媒介にしたサービスにおいてはその「もの」自体の見た目等全体が統一的になっている必要があります。航空会社が沖縄キャンペーンにあわせて飛行機の機体や客室乗務員の制服をトロピカルデザインにし、機内サービスもトロピカルドリンクにするなどはその典型です。ただ、
4 イメージどおりでないないようだと不満な逆に大きくなるのだろうか?
5 悪いイメージをもたれた場合、そのイメージを打破するためには直接そのイメージに触れるか、間接的に周りから打ち破っていくのか、どちらが効果的なのか?
6 イメージを作り出す場合、どういう方法を使って、つくりだしていくのか、そのイメージはどうやって定着させていくのか?
直接的な方法は4,のところでもふれました。ただ、今日ではイメージは消費者の個人的なつながりの中で、つまり広い意味での口コミ(ネット上の掲示板などを含む)で急速に増幅することが少なくありません。このために、掲示板にいわば「さくら」を潜り込ませるなどの方法はすでに行われている可能性が高いです。また、イメージを定着させるためには反復的なイメージの「すり込み」が重要です。短期集中的なCMなどはこれがねらいです。
7 「構成員の判断を深部で規定する・・・」悪い意味でしばられるということ?悪い文化?サービス業における組織文化はどのようなもの?
縛られるというと言葉があまりよくないですが、まあそういう感じでとらえてもらってよいでしょう。ただし、「よくも悪くも」と理解してください。「いい文化」に染まることは悪いことではないでしょう。「悪い文化」とは、前回もいいましたが、官僚主義のようなものです。サービス業だから特別な組織文化があるわけではありません。このへんについてより詳しい理解は経営組織論を勉強してください。
8 「イメージ」と「ブランドイメージ」は同じ?
厳密には違います。「ブランドイメージ」とは、特定のブランドについて(この場合のブランドとは、「グッチ」とかの有名ブランドだけをさすわけではなく、ある商品やサービス、あるいはそれらの一群を共通して認識させるための名称などです)、そのブランドがどのように認知されているのか、ということですが、ここでイメージとしてとりあげているのはもっと多様な対象についての一般的なはなしです。
9 サービス・デリバリー・システムとは「サービスをデリバリーするシステム」と読めばいい?
10 イメージが極めてダウンしてしまった企業などはどのような手段で持って、以前築いた自社のイメージを回復させるのだろうか?
11 お金のない客は、寄せ付けないイメージを作るといった考えでは、本当に顧客のためのセグメントやコンセプトとは違ってくるのではないだろうか?
倫理的にいい悪いではないのです。お金のない客はターゲットにしないというセグメント戦略をとって成功すれば、それはそれでかまわないのです。「顧客」というのは抽象的な「消費者」一般ではなく、特定の集団です。人口統計的にセグメントを切ったときに、所得階層というのも当然一つの切り口になります。
12 顧客価値を基準にした組織理念や文化をどうやって従業員に認識させるのか?
(1)従業員の活動を、組織理念や文化に照らして評価するシステムをつくること。
(2)具体的なデリバリー・システムの設計や運用を組織理念や文化に即したものとすること。
(3)トップ・マネジメント(最高経営者)が常に組織理念や文化を体現すること。特にこれについてはヤン・カールソンの『真実の瞬間』をぜひ参照してください。トップの本来やるべきこととは何か、ということが鮮明に示されています。
こうしたことを通じて、究極のあり方としては、組織理念や文化ということをスローガンとして全社員が唱和する、などということをしなくても、いわば「不文律」のように適切な組織文化・理念が浸透することが理想です。「気がついたら、そういう生き方になっていた」というような。
13 イメージはサービスというが、イメージを「作られる」とは客にとって有益なことか?
客にとって有益かどうかは別問題です。というのは、当然この場合のイメージはサービスを提供する側のビジネスにとって有利なイメージとして作られるからです。サービスの受け手の側の立場としては、自分たちの持っているイメージが適切なものかどうかということを常に意識しておく必要があります。ただ、一般論としていえば以前より格段に消費者(サービスの受け手)は賢明になっており、かつてのようにサービスや商品を提供する側が、実体とかけ離れたイメージを一人歩きさせることは難しくなってきています。その意味では、実体を適切に認識させる積極的なイメージをつくりだすことは、誤ったあるいはゆがんだイメージが広がることよりはサービスの受け手の側にとってもプラスになるということができるでしょう。
14 イメージの持つ意味は大事だが、イメージだけが先走りして本来の商品の価値はそれに見合うものでなければ必ずしも効果がなくなるのだろうか?
15 よりよいサービスを提供するには、セグメント・コンセプトなどのどれかひとつがかけてしまうと成り立たないのか?
16 イメージ、デリバリーはサービスの考え方が強く依存していると思うが、「イメージ」はどのように分析すればいいだろうか?
17 イメージが実際のものからかけ離れた商品、サービスも多々あるとは思うが、それが故意な場合はJARO(公共広告機構)以外に取り締まれるのか? 罪になるか? その境目の判断は?
虚偽など、あきらかに不当な表示は処罰されます。しかし、イメージというのは多くの場合具体的な内容をともなうものではなく、また前回の講義でも述べたようにイメージというのは一方では受け手のほうが「勝手に」つくりだすものでもあるので、規制や処罰の対象になりにくいといえます。
二 具体例について
<TDLがらみ>
1 TDLでアンバサダーホテルを建てた意味は?何の利益を目的としているのか?
2 10の謎はLAのTDLやオーランドのTDLにも通用しているのか?
違います。TDLは確かにLAのディズニーランドを母胎としていますが、日本での展開にあたって日本の顧客層をつかむために独自の工夫を加えています。LAのディズニーランドとTDLの両方に行った人はいますか? いたら印象の違いを聞いてみたいのですが。
3 TDLはそこまで徹底してイメージを作る必要があるのか?本当に大人が満足しているのだろうか?
個別にはいろんな意見があるでしょうが、客層の多様さ、リピーターの多さなどを考えれば、少なくとも従来の「遊園地」の対象と考えられてきた顧客の像を大きく転換させたのは確かでしょう。そこでは、やはりその「世界」に「はめる」ことに成功してきたといえると思います。
4 TDLのエリアごとに地面の色が違うのはどうして?やっぱり非日常性を演出しているの?
5 TDLのような楽しむためだけのサービスでいいのか?トイレの中の鏡はあったほうがいいと思うが・・
何度も繰り返していますが、倫理の問題ではないのです。たとえどんな場所であれ自分の化粧直しをわすれない人は、TDLの顧客ではない、といってもよいでしょう。そんなことを忘れさせて、徹底してディズニーの世界にはまってもらうのがTDLのコンセプトなのです。そのことで、日常から解放された楽しさを「また味わいたい」と思ってもらいたいのです。
6 大人が魅力を感じる対象と、子供が魅力を感じる対象は違うもんだと思うが、片方だけを満足させるテーマパークは比較的簡単だけど、TDLのように両方を満足させるには具体的に前者とどう違うのか?
一般論ではないですね。TDLならTDLなりの、大人も子どもも、というコンセプトがあるわけです。あえていえばTDLは大人が童心に帰れる仕掛けを徹底したといえるでしょう。逆に、サービスの内容によっては子どもに背伸びしてもらうほうがいい場合もあるでしょう。もちろん、わりきってどちらかに特化してもそれが悪いわけではありません。
7 TDLで徹底して非日常の世界にしているがどれほど影響しているのか?マイナス面もたくさんありそう。
8 USJはTDLほどサービスが徹底されていないらしい、それはどのような点でなのか?
<その他>
9 SASの「雪の日のコーヒー」はどっちかというと状況やコンテキストを理解して「望ましい行動」を自ら作り出していくといった方法からきているのか?
そういうことです。「雪で出発が遅れたら乗客にコーヒーをサービスすること」なんていうマニュアルはなかったし、それどころかそういうことをすることは本来できない決まりだったのです。決まりを裏技でやぶってでも実行した担当者の「確信」は、自分はこの会社が必要とする行動をとっているというものだったはずです。そうした「確信」をつくりだすさまざまな手だて・・・うえの一ー12を参照・・・が必要になります。
10 デパートのランク付けは、何が原因で決まるのだろうか?なぜ電鉄系の百貨店は格が下がるのか?デパートにとっての不利、有利というイメージはどのように浸透していくのか、そこに関与するのがサービスなのか、それとも商品自体の質なのか、イメージとして導かれるそのプロセスは?
デパートのランクづけが何で決まるのかについて、厳密に研究したことはありませんが、戦前における成立のあり方の違いが原因と思われます。具体的には、呉服店系の老舗百貨店が都心に立地して長期継続取引をする顧客に対して相対的に高級な商品を中心に扱っており、後発の電鉄系百貨店は、鉄道沿線に新たに居住した近代中産階級(戦前の高級サラリーマン)家庭層を対象に展開してきたことの影響でしょう。この講義の内容との関連でいえば、客層をセグメンテーションによって仕切ることによって、イメージを作り出してきたということもできるでしょう。
11 レストラン、食堂は「作り出す」のほかに、「作りうる」とはならないのか?ピザのデリバリーは注文してから40分から60分かかる、これは「作る、売る」なのか、「作る出す」なのか?
「作り出す」と「作って、売る」というのは絶対時間ではなく作る過程と売る過程がシステムとして分離しているかどうか、です。ピザのデリバリーは注文を受けて作り始め、注文した顧客に特化したピザを生産し届けるという一連の流れがとぎれずに続きます。それに対して店頭で売っているできあいのピザは、特定の顧客を念頭に置かないまま作られ、たまたま店頭に来た人に売られます。「作る」過程と「売る」過程が分離しています。
12 映画が面白くなかったときのように、現実とのギャップの大きさにマイナスイメージをもたれてしまうのでは?
これはイメージのはなし? イメージによって作られた「期待」とのギャップだと理解すべきですね。期待と結果との「差」がマイナスになれば、サービスの受け手はマイナスの評価をします。それを周りに口コミでふりまけば、悪いイメージが広がることはあり得るでしょう。
13 よくできた直接的参加の例として、ベニハナ・オブ・トウキョウとあったが、具体的にはどういう具合にサービス活動に加わったのか?
ベニハナはNYにあった鉄板焼レストランですが、ここでは客と料理人が鉄板をはさんで向き合います。そして、客の注文に応じて料理人が軽妙なおしゃべりを交えながら華麗な「芸」として料理を披露します。客はいわばステージを眺める観客のように感嘆したり、料理人とおしゃべりをすることで単に食事をするだけでなく、よくできたショーを楽しむことができるのです。ここでは客が自然に料理人が演出するショーとしての食事、へ参加してしまうシステムができているのです。
14 従業員の役割のところのサービス活動の演技者―小さな温泉宿でとあったが、どういうことをさしているの?
15 イメージ作りのところの例であげたカナダのある島の観光開発の「暖かい島」とうアピールは誰を対象としたのか?国内?国外?国内なら別に「暖かい島」でもいいのではないか?
16 新しくオープンした店がよいイメージを作ろうとしたときマクドなどの有名な店に対抗するのはかなり現実的に無理なのでは?
17 ファストフードの中では一番すきなのはモスだが、一番よく利用するのはマクド、どうして?
16 共同生産者としての顧客のb)直接的参加のTエトスの保持って何?
18 天候のために、飛行機が途中で着陸するのは仕方ないが、その後の保証がないのは、コアサービスすら果たしてないことになるのではないか?