CAREER

小説家としてして執筆を続け、広告代理店の経営者としても活躍<卒業生インタビュー企画Vol.2>

2021.11.09

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 「フェイク広告の巨匠」(2021/9/3幻冬舎)を出版し、多くの短編が海外の文芸誌に掲載されるなど、小説家として活躍されている牧野楠葉さんに、卒業生インタビューをさせていただきました。また、牧野楠葉さんは、起業家として広告代理店の会社も経営されるなど活躍の幅を広げておられます。
 小説家として活動することの大変さや、会社経営を手掛けることになった経緯、映像学部での学びが今にどう繋がっているかなど、多くの貴重な経験を話してくださいました。「学生時代にしておいた方が良いと思うこと」についても多くのアドバイスをいただきましたので、ぜひ最後までご覧ください。


-----映像学部に入学することになったきっかけや、在学中のご経験を教えていただけますでしょうか?

 立命館大学の映像学部を選んだのは、両親が映画好きで、映画評論の本を勧められて読んでいたのですが、なかでも蓮實重彥氏の本がおもしろいと感じ、そのことを周囲に話していくなかで映像学部を知りました。
 私は高校2年生の頃から小説を書いており、そのときからすでに将来は小説家になりたいと考えていましたから、映像学部では、小説を書くうえでのスキルを磨いたり、執筆に必要な知識を得ることを重視して授業を受けていたと思います。
 3回生のゼミ配属では、北野ゼミに所属したのですが、ゼミでは映画を観て、感じたことを論じることが多くありました。シナリオの構成を理解して咀嚼する力や、作品のポイントについて説明する力はそこで磨かれたと思いますし、今の執筆活動にも生かされていると思います。


-----卒業されてから、小説家「牧野 楠葉」としての活動と「株式会社Kuzuha」の会社経営を両立されていますが、そうなるまでの経緯を教えていただけますか?

 卒業後は、広告代理店に就職し、2年間ほどセールスライティングの仕事をしていました。執筆活動は卒業後も続けていたのですが、小説を書くことを仕事として生活していくことは本当に厳しいと感じたため、現実的な話ですが、まずは生活基盤を固めるために稼げる仕事をしようと考え、そのために会社を起業しました。
 「やりたいこと(小説家)をやるために起業した」ということです。
私の会社では、漫画LP(漫画形式で描かれた商品紹介のWEBページ)の制作などを行っており、まず、私が販促のためのストーリーを考えてラフを書きます。それを漫画家さんに依頼して漫画を収めてもらったものを、WEBページとして制作してお客様に納品するという流れです。
 小説家としては、短編が多数、米国の文芸誌に英訳され掲載されました。例えば、2019年には米オンライン文学誌「Ragazine」に「あの娘」の英訳が掲載されましたし、2020年には短編小説「彼女は二度」がThe Shanghai Literary Review誌に掲載されました。
 そして、この2021年9月に、短編小説の「フェイク広告の巨匠」を幻冬舎から出版することができました。


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-----仕事のやりがいや大変と思われることは何でしょうか?

 経営している会社では、商品の販促に繋がるようなストーリーを考えるわけですが、それが世の中に出て、狙い通りの結果につながったときは素直に嬉しいですね。
 小説家として、作品を出して、読者の感想など何かしら周りの反応を感じてやりがいを感じている点と、経営で感じるやりがいは、似ているのかもしれません。
 一方で大変と思うことは、たくさんありますが、具体的な話をしますと、広告の仕事は、対象の業界によってルールが様々で、例えば、健康食品を取り上げた広告ページの制作の場合、二ヶ月ほど前に薬事法が改定されたことで、有効性や安全性の表現はこれまで以上に慎重に扱う必要がでてきました。その業界の状況やルールを踏まえたシナリオを考え、漫画LPなどの形にしていくことは、大変なことの一つです。

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-----振り返っての映像学部での学びが仕事でどう生かされていますか?

 学部時代は、本当に多くの映画を観ていました。私はメロドラマの映画が好きなのですが、北野ゼミで先生からメロドラマ的な想像力を鍛えたほうがよいとご指導いただき、関連する書物をいくつか紹介していただき勉強したことも印象に残っています。私は、広告のシナリオはまさにこのメロドラマだと思っていて、主人公がハッピーエンドで終わるシナリオをつくるので、ここでも学部での学びが繋がっています。
 それから、映像学部では1回生から映画制作を行う経験ができますが、グループで作品を作り上げ身に付いたマネジメント力が、会社でプロジェクトをマネジメントするときに経験が生きています。これは社会人になってからでないと実感が持てないことの一つだと思います。

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-----現在されている仕事で、求められる人材や能力はどのようなものですか?
 
 私が経営する広告業界は、流行の変化が激しいので、それに如何に素早く対応できるか、そういう意味での柔軟性は重要だと思います。インプットしたものを素早くアウトプットできる方は有利だと思います。
 また、それを磨くためには、まず行動することです。苦手意識がありいろいろと考えてしまう人もいるかもしれませんが、自分がなりたいものがあるのであれば、まずはやってみる、という気持ちが大切だと思います。


-----学生時代にしておくと良いと思うことはなんでしょうか?

 コロナ禍で未だ様々なことが制限されていますが、それでも映画は自宅でもいつでも観ることができるはずです。私は今でもよく一日に映画を3本観ます。また、ただ鑑賞するのではなく、論じるポイントを意識して、感性を磨くことをお勧めしたいです。私はキム・ギヨンという1960年代の映画監督が好きなのですが、例えば『下女』という作品であれば、頻繁に「階段」が出ててくるのですが、作中の下女と家族の間にあるこの階段には、どのような意味があり、どのように表現されているのか、という観点で論ずることができます。
 それから、小説家として思うことは、学生のうちに、様々な教養科目を履修したり、哲学書を読むなど、幅広く学んでおくべきだったと思っています。小説を出版し、書評が掲載されるなどで反響が出てくると、より多くの方がそれぞれの観点で作品を読むので、様々な勉強をしておくことが大切と感じます。
 「学生時代の勉強する時間が如何に貴重であったか」を痛感しています。
それから、「読書会」はしたほうが良いと思います。読書会を通じて、他人の観点や視点を知ることは重要で、自身にとって大きなメリットですね。学生時代のうちにできるだけ多く読書会を経験しておくことをお勧めしたいです。
 社会人になってから、映画と読書のための時間を作ることができなくなる方は多いです。私は起業したことで、ある程度の自分の時間のコントロールができるほうだと思いますが、やはり私の同期の卒業生でも、社会人になってから時間をとれず映画を観なくなったという人はいます。
 それから、SNSの活用は必須です。映像作品であれば尚更ですね。SNSにアウトプットして、周りの方の感想等を通して現実を知ることは重要です。そもそも見てもらえないことも多々あると思います。作品でなくても、論考でもなんでもいいと思いますので「まずやってみる」です。
 SNSなど使える武器はなんでも使うことです。私もSNSは最大限活用していますし、出版した小説をいろんな方に献本させていただくなど、できることは何でもしています。


-----最後に、映像学部生に向けてのメッセージ・エールをお願いします

 映像学部生のなかには、卒業後も小説など芸術分野の活動をしたいと考えている方が多いと思いますが、芸術の世界だけで生計を立てていくことは、かなり難しいと思ってください。リアルな話ですが、自分がしたい活動のために安定した収入を得る仕事について、そのうえで活動時間をつくることが望ましいと思います。卒業後は「芸術分野の活動を続けるための時間をつくること」が想像以上に大変です。私は自分の活動時間をつくるために起業をして、こうして小説家の活動ができていますし、起業という選択肢は考えてもいいと思います。起業のために、WEBライティング、プログラミング、語学などのスキルを磨くことも重要だと思います。
 また、自分が目指しているものをより明確にしていただきたいと思います。小説を書きたいと思ったとして、それは本を一冊だけ出版できればいいのか、連載を持ちたいのか、専業でずっと仕事をしていきたいのかなど、どこを目指すのかを明確にすることで、いま何をすべきかが見えてきます。
自分が目指すものに向かって今の時間を有効に使い、全力でがんばっていただきたいと思います。




<著書>
フェイク広告の巨匠 (2021/09/01 幻冬舎)