学生が綴った立命館大学における障害学生支援のいま この冊子は、普段支援を受けている、もしくは支援を行なっている学生によって作成されました。両者が一緒になり取り組んだことに、大きな意義がありました。 あるとき、サポートを受けている障害学生が、「いつもサポートをしてもらうばかりで申し訳ない」というようなことを言いました。その学生は今まで独力で勉強し、試験に合格して大学に入ってきたので、誰かの力を借りて授業を受けるという状況が受け入れ難かったのかもしれせん。そのため、大学で授業を受ける際も、自ら配慮をしてほしいと声をあげることはそう簡単ではなかったようです。実はこうしたことは多々あります。もちろん障害ゆえに困ることがあれば、自ら声をあげていかなければなかなか状況は変わりません。他の学生同様、大学生になれば、これまでのように保護者や教員が先回りして環境を整えてくれるといったこともなくなります。 障害学生に日々サポートを行う学生たちも、こうした障害学生の姿を目の当たりにし、ときに同じように戸惑い、考え始めます。はじめは「自分にも何かできることがあれば」という思いでサポートスタッフに登録するのですが、サポートを続けていくうちに、単に支援をする/受けるという関係性におさまり切らない何かが生まれます。学生たちが気付いた一つ一つのことは、日々続く支援の中から見出されたもの。そこで見つけた気付きや驚き、疑問は、大学にいる全ての人が聞くに値する言葉ではないでしょうか。 この冊子を作るために、学部・キャンパスを越えて11人の学生たちが集まり、何度も議論を重ねてきました。立命館大学の教職員、学生をはじめ、これから本学を受験する高校生など、あらゆる人に届けたいという想いが込められています。 たくさんの時間を割き考え抜いた執筆学生のみなさん、インタビューに快く答えてくださった教員、学生のみなさん、また勉強会や交流会でご意見をいただいた教職員のみなさん、支援室にかかわる学生、教職員、全ての人の力があって完成させることができました。この場を借りて、深く感謝申し上げます。 障害学生支援室 P1 大学と障害学生 目次 はじめに PART 1「学生のツマズキ-高校と大学の違いって?-」 7 高校と大学の違いって? 8 授業形態 受講者数 場所 時間割 質問 担当教員 まとめ 11 〈コラム①  教材作成における色覚バリアフリー〉 11 P2 PART 2「インタビュー 障害学生の学びをめぐって」 13 教員へのインタビュー 14 Interview01 山岡雅博先生(産業社会学部) 共感して、ふと軽く手を差し伸べていく Interview02 荒木寿友先生(文学部) 主体的な授業姿勢と「受身的な意欲」の違い Interview03 清水寧先生(理工学部) お互いの「鎧」をいかに取り払えるか Interview04 津熊良政先生(文学部) 意欲のある雰囲気の中で障害があっても受けやすい授業 Interview05 須藤圭先生(文学部) 大学生には価値観を問い直してもらいたい Interview06 平井豪先生(理工学部) 先生は「型」しか教えられない 障害のない学生へのインタビュー 19 Interview01 言ってくれないと自分からは助けられない・・・ Interview02 すべての学生が受けやすい授業の実現は難しい Interview03 授業が受けにくいと感じたら、もっとこうして!とみんなで言う Interview04 みんなに分かりやすいような板書や発言を 障害学生へのインタビュー 22 Interview01 サポートがあるから配慮しなくていいわけではない 視覚障害(全盲) Interview02 障害学生だからという理由で目立ちすぎるのは嫌だ 聴覚障害 Interview03 グループを作ることが分かると、その授業はとらない 視覚障害(弱視) Interview04 理想は他の学生と同じように安心して授業をサボれること 視覚障害(弱視) インタビューから分かったこと 24 P3 PART 3「私たちが学んだこと」 25 大学と「障害学生」 26 アメリカで映画を学んだ聴覚障害学生 日本の大学に立ちはだかる情報の「壁」 「大学で障害者が学ぶ」とは 「合理的配慮」で十分か 27 個別性を残す 学びの多様化への対応 解決策を一緒に考える文化を作る 28 障害者は無条件に困っている人? 多様な個々にどれだけ向き合えるか 私たちにできること 29 教員ができること 周りの学生ができること 立ち止まって考えてみるということ 〈コラム② 合理的配慮とは―「配慮の平等」を手がかりに〉 32 付録1 座談会「障害学生の日常あれこれ」 33 付録2 教員のみなさんへ 今日からできる配慮例一覧 39 障害学生支援室FD 冊子の刊行に寄せて   学生部長 山本忠 42 京都における学びの伝統をいかに受け継ぐか 教学部長 德川信治 43 編集後記 44 P4 はじめに 「FD」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「FD」とは、FacultyDevelopmentの略で、「教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称」とされています。立命館大学においてもこれまで学生の参画のもと、教学環境の改善が取り組まれてきました。 しかしそれらの中に、障害学生の視点が含まれているものはあまり見つけられませんでした。そこで、障害学生支援室でサポートをしている/受けている学生が中心となって、「障害学生支援室発のFD」という視点からこの冊子を作成していくことにしました。こうしたことから、特に障害学生を中心とした教学環境の改善を述べています。 私たちは、これまで直接的な支援を通じて、障害学生が授業を受ける上で困っていることを改善できるよう活動してきました。例えば、聴覚障害の学生に対してノートやパソコンを用いて講義内容を伝える「ノートテイク/パソコンテイク」、視覚障害の学生に代わって板書を取る「板書代筆」です。この冊子ではこうした直接的な取り組みだけではなく、各学部、さらには全学的に取り組むべき課題があることを提起しています。 P5 こうした取り組みを進めていく上では、学生および教職員が、障害学生はどのようなことに困っているのか、あるいはどのような場面でどんな配慮が必要なのかを共有しておく必要があります。 そこで私たちは、障害学生の困りごとや具体的な配慮方法をいろいろな場面、立場ごとに取り上げました。そうしたことの中には、障害学生だけに限らない、より多くの学生に共通する困りごともあるということを述べています。目指すのは「誰もが主体的に学べる授業」ですが、それを実現するために「障害学生の困りごと」という視点から授業をとらえ直してみる試みです。ただし、具体的に「こうすれば障害学生の困りごとは解決出来る」という明確な答えは私たちにも分かりませんし、そのように答えが簡単に導きだせるものでもありません。 私たちはこの冊子のために、いくつかの勉強会や交流会に参加し、支援をめぐる現状や合理的配慮といった考えから障害学まで学びました。また、障害学生や教員へのインタビュー、障害学生の「生の声」を引き出すための座談会も掲載しています。 よりよい教学環境を実現するにはどうすればよいか。私たちなりに考えたこの冊子を通じて、ぜひみなさんも一緒に考えてみてください。 執筆学生一同 P7 PART1学生のツマズキ-高校と大学の違いって?- 私たちはまず、障害学生がどんなところでつまずきやすいのかを考えてみるために、高校と大学の授業の「違い」に注目することにしました。そこから見えてきたのは、つまずく理由や場面は、障害学生に限らず多くの学生にも共通しているということ。たとえば授業形態は、高校まではほとんど座学だけだったのに対し、大学では学生同士の議論が必要なゼミナールや実験が出てきます。こうした授業では教員の話を聞くだけでなく、他の学生とコミュニケーションをとる必要もあります。他にも高校と大学の違いから、学生はこれまでのやり方ではうまくいかず、初めてのことに戸惑う場面が多々出てきます。学生はどんなことにつまずきやすいのかみていきましょう。 P8 高校と大学の違いって? 学修内容が、高校では「広く浅く」だったのに対して、大学では「深く専門的」に変化します。また学問を深めるために、学生は様々な方法で知識に触れることも学びます。一方、このように学修方法が多様であることは、学びや知識を習得する方法が様々にあることを意味します。 学修方法や進度は十人十色になり、これに困惑する学生も出てきます。特に障害を持つ学生にとっては対応できないことも多くあります。 ここでは高校と大学における違いを一覧にし、どのような困りごとがあるのか考えてみたいと思います。 (構成者注:以下表「高校と大学の授業の違い」) 授業形態(高校の授業)講義中心(大学の授業)講義、演習、ゼミ、実験など多彩(大学生の困りごと)少人数授業では学生同士のコミュニケーションが必要 受講者数(高校の授業)数十人の固定クラス数人~数百人(大学の授業)授業ごとに様々(大学生の困りごと)大講義では教員の発言が聞こえにくく、板書が見えにくい 場所(高校の授業)ホームルーム(大学の授業)授業ごとに別の教室(大学生の困りごと)移動距離が長い、時間がかかる 時間割(高校の授業)全員共通(大学の授業)個人で選択(大学生の困りごと)学生同士の学修進度の足並みが揃わない 質問(高校の授業)しやすい(大学の授業)しにくい(大学生の困りごと)授業中に講義を中断して質問するのは難しい、質問するには休み時間は短すぎる 担当教員(高校の授業)教員免許が必要(大学の授業)教員免許は不要(大学生の困りごと)「教えられる」授業に慣れている学生にとっては、学びの変化に戸惑う (構成者注:表は以上) P9 授業形態 大学の授業形態は座学だけではありません。学生同士の議論が必要なゼミナールや実験もあり、他の学生と積極的にコミュニケーションをとる必要も出てきます。周囲の学生と自分の学力の差や相手との関係など、色々と手探りであるため、発言を遠慮し、上手くコミュニケーションが取れないこともしばしばあります。また、ときにはフィールドワークで学外に出ることもあります。見知らぬ土地での活動には、また多くの困難が出てくると考えられます。 特に障害学生にとって対応が難しいことも多く、例えば実験などにおいて、聴覚障害学生は何か異常な音がしても気付けないので危険であることや、学外ではバリアフリーの設備がないことも多いことから、肢体不自由学生の活動が困難なこともあります。普段接することのない学生同士のグループワークにおいては、教員が障害学生のことを把握している場合でも、周囲の学生は障害学生に対する適切な配慮や対応が分からず、意思疎通が難しいことも考えられます。 受講者数 大学では、授業ごとに受講者数も異なります。立命館には600人以上入る教室もあり、そうした人数の多い大講義室では教卓から学生の席まで距離があって、マイクの音量やモニターなどの設備が適切に使われていないことがあります。そうなれば、教員の説明は学生に伝わりにくくなります。 また、板書やモニター映像の配色によっては、色覚障害の学生にとっては判別が困難なことがあります。聴覚障害学生の場合には周囲の話し声が大きいと、それらが雑音となって先生の声が聞き取りにくくなります。また、聴覚障害学生のサポートとして、教員の説明をパソコンの画面上で文字として伝えるパソコンテイクがありますが、混み合った教室の中では、周囲の学生がキーボードのタイピング音に不快を感じたという話もあります。 P10 場所 大学の場合、授業ごとに教室が違うため、休み時間に移動が集中し時間がかかります。そのため、休み時間に教員へ質問をする余裕もありません。 とくに視覚障害学生や肢体不自由学生はエレベーターや通路も混雑するためより時間がかかり、次の授業に遅れてしまうこともあります。 時間割 大学では履修する科目を自ら選択します。学生は学修に必要な科目を自分で選択するため、学修進度にはバラツキが生まれます。 質問 講義の内容に疑問が生じても、「授業を中断してまで初歩的な内容を質問しては迷惑かもしれない」、または「恥をかくかもしれない」と学生は考えてしまいます。そのため教員からの適切な問いかけがない限り、講義中に質問することや意見を述べることが難しくなります。 担当教員 高校とは違い、教員は教育が専門ではなく、専門領域も様々なことから、多様な授業が展開されます。そこで学生に戸惑いが生じます。しかし、より良い授業環境を作るためには、教員の試行錯誤も必要ですが、学生も授業に参加する一員として改善を提案するなど、教員と学生双方の働きかけが必要だと考えます。 P11 まとめ 高校までとは違って、大学での学びの特徴は多様であるということです。授業形態だけでなく、ともに学 ぶ学生、学びの場所、時間の使い方まで、あらゆることが多様です。 そのため学生の一人ひとりが自分で考え、動いていかなければならず、またたった一つの「正解」があるわけではないことから、学生はひとりで不安を感じてしまう状況にあり、誰もが「困りごと」を抱える可能性があります。 ただし、誰もが「困りごと」を感じながらも、それを乗りこえていける学生もいれば、乗りこえることが難しくつまずいてしまう学生もいて、そうした「つまずき」が比較的見えやすいのが障害学生かもしれないということです。だからこそパソコンテイクや移動サポートなどの直接的な支援が存在するのですが、忘れてはいけないのは、「つまずき」はどの学生にもあり得るということではないでしょうか。そこで次のPART では、自分とは異なる様々な立場から大学での学びをとらえてみるために、「教員」、「障害のない学生」「障害学生」のそれぞれに直接インタビューをすることにしました。 コラム① 教材作成における色覚バリアフリー パワーポイントスライドや、ポスターを製作する際には、多くの人が見やすいものにする必要があります。その一つの例として、色覚障害の人に対する配慮があげられます。日本人女性の約0.2%、男性の約5% が色覚障害を持っており、色覚障害の人にでも見やすい資料を作ることの重要性は高いと言えます。色覚障害の多くは「赤緑色弱」であり、赤と緑の間で区別をつけることが難しいとされています。つまり、グラフの線を赤や緑を用いて区別しても、色覚障害の人には同じ様な色の線に見えます。こうした問題をどのように解決すればよいのでしょうか? その解決のヒントが幾つかあります。まず、「色」だけで区別をつけるのではなく、「形」でも区別をつける方法です。例えば、点・マーカーの形を変えたり、点線・鎖線など線の種類を変えたりするのです。また、色覚障害の人にはどのように見えているのかを擬似的に確認出来るサイトもあります。このような「色覚バリアフリー」は、色覚障害の人のみならず、より多くの人が読みやすい資料を作ることにもつながります。 確認できるサイト:vischeck : http://www.vischeck.com/vischeck/(英語) 参考文献 :宮入賢一郎・横尾良笑 : 『トコトンやさしい ユニバーサルデザインの本』(日刊工業新聞社、2007)高橋佑麿・片山なつ :『 伝わるデザインの基本 よい資料を作るためのレイアウトのルール』(技術評論社、2014) (理工学部2 回生・難波巧) P13 PART 2 インタビュー 障害学生の学びをめぐって PART1 で見えてきた学生の「つまずき」。 私たちはここで、教員・障害のない学生・障害学生の三者にインタビューを行い、それぞれがどんな風に大学での学びをとらえているのか見ていきます。インタビューでは、まず教員に理想の授業というものを聞き、これまで行ったことのある障害学生への配慮についても聞いてみました。学生には、自分が受けて良かったと思う授業について、それを障害学生が受講していたとするとどうだったと思うか聞きました。そして最後に障害学生には、実際に授業を受けていて困ったことや、してもらって良かった配慮について聞いてみました。これらのインタビューから、「すべての学生にとって学びやすい環境」とはどういうものか考えてみましょう。 P14 教員へのインタビュー インタビューをしたのは、障害学生が受講する授業を担当したことのある教員6 名です。まずは教員側が、どのような授業を理想と考え授業作りをしているのか聞いてみることにしました。その際、障害学生がその授業を受講しているという状況もあわせて考えてもらいました。また、これまで障害学生へ行った配慮例を具体的に聞いてみることで、教員が障害学生を含む学生に対してどのような思いを抱いているのか聞いてみました。 ※ インタビューは障害学生が受講した授業の担当教員に行なったため、学部が集中しています。 Q1 先生が考える「理想の授業」または「誰もが学べる授業」を教えてください。 Q2 先生が行った障害学生への配慮を教えてください。 Interview 01 共感して、ふと軽く手を差し伸べていく 山岡 雅博 先生(産業社会学部) 教職系の授業で聴覚障害・視覚障害学生が受講 A1 誰もが学べる授業とは、平たく言えば「支え合い」のある授業です。「かわいそう」じゃなくて、共感してふと軽く手を差し伸べていくのが大原則です。障害学生も、その周りの学生もできること、できないことを開示して、「なんや、それくらいやるよ!」という関係を作ることが大事です。 A2 障害学生を知らない人はどのようにサポートしていいか分からないので、本人の「○○ができない」という声がほしいです。情報のハンデを補う対策さえあれば、双方向の学びが普通の気遣いとしてできます。聴覚障害のある学生については、周りの学生にできるだけ口を大きくあけてその学生の方を向いてディスカッションに臨むよう指示しました。でも周りの学生も、議論がヒートアップするといつも通り話してしまい、その学生が話に入れないこともありました。個人や障害の種類によって教員のやるべき対応は変わってくるので、まずは情報を伝えてほしいですね。 P15 Interview 02 主体的な姿勢と「受身的な意欲」の違い 荒木 寿友 先生(文学部) 教職系の授業で様々な障害学生が受講 A1 誰もが学べる理想の授業を一言で言うなら、学生が主体的に学ぼうとしている授業。意欲的に授業に取り組んでいると言っても、黒板を写してるだけでは「受身的な意欲」という感じがします。教室に来て着席したら満足して、「さあ授業をしてください」って、それは主体的じゃない。学生が授業内容にツッコミを入れられるような授業は主体的と言えると思う。 A2 体の筋肉が動きにくく、大学に来るのが困難な学生がいたのですが、出席に対する配慮の他に、授業を組み立てる時に使った本やDVD を貸して、レポートを出してもらいました。 あとは周りの学生と合わせることが苦手な発達障害と思われる学生への配慮は難しかった。障害があるのかはっきりしなかったけど、そのときは全体にわざわざ伝えるようなことでもないと思ったので、数人にだけ「配慮と支援が必要な学生だから」と伝え、学生同士で助け合えるようにしました。 Interview 03 お互いの「鎧」をいかに取り払えるか 清水 寧 先生(理工学部) 学科専門の講義で視覚障害学生が受講 A1 アドリブ要素のある授業にしたい。過不足なく情報を伝えたうえで、学生から質問をもらい、それについて教員も考えるようなライブ感のある授業。 学生も「バカな質問じゃないか」と発言を自重してしまうし、教員も質問に答えられなければ「恥ずかしい」と思うかもしれないけど、そういうお互いの体面を保つためにつけている「鎧」をいかに取っ払って活発に議論し合えるかが問われると思います。 A2 視覚障害の学生に対しては、配布物や黒板の字を大きくして見やすくなるようにしました。障害が理解の引っ掛かりにならないようにと考えて。ただ、障害といってもいろいろなタイプがあるので、どこに困っているのかが分からなかったりもします。また、学生自身も模索状態だと思います。なので、お互いにコミュニケーションが必要です。ただ、最初はお互いに遠慮してしまうので、できるだけ大学生活の早い段階から意思疎通をしていきたいです。 P16 意欲のある雰囲気の中で障害があっても受けやすい授業 Interview 04 津熊 良政 先生(文学部) 英語の授業で聴覚障害学生が受講 A1 みんなが学修内容を理解した状態で前に進む授業であることが大切で、学修意欲がある集団を作るために、まず学ぼうとする雰囲気を作ることで、障害があっても受けやすい授業になるのではないでしょうか。障害があっても他の学生と同じように授業を受け、英語力が向上することが理想です。 A2 初めはリスニングとリーディング中心の授業であれば、難しいのではないかと思いました。でも受講していた障害のある学生は、熱心に努力していたし、ノートテイクなどのサポートがあったので問題ないようでした。私が行った工夫といえば、宿題を少し作り替えたこと。またリスニングの授業は教科書のスクリプトを初回に渡しました。理解度をチェックするためのリスニング問題は、すべて穴埋めにして日本語訳を付け加えました。また、簡単な手話を身につけようとも思いました。リスニングテストを実施した時は、障害のある学生の解答用紙を見て、書けていないならリップリーディング(※)ができるようにしました。 ※ リップリーディング  聴覚障害の学生が話し手の口の動きから、何を話しているか読み取ることができるようにする話し方。 P17 Interview 05 大学生には価値観を問い直してもらいたい 須藤 圭 先生(文学部) 「京都学概論」(大講義)で聴覚障害学生が受講 A1 大学生には、基礎知識を踏まえたうえで自分で考えを深めていってもらって、価値観を問い直してもらいたい。教わって知る知識、自分自身で問い直して考えること、この二つのバランスが取れる授業をできることが理想。授業に対する思いとしては、なるべく分かりやすい授業をしようと思っていて、それが結果的に様々な立場の人への配慮になればいいと思います。 A2 人によって配慮も異なってくるから、相談に来てくれるといいですね。 以前、受講していた障害学生が「聞き取りにくいんです」と申し出てきてくれたことがありました。そのときは自分が授業の時に使用する「講義ノート」を渡したりしました。また議論をするのは大学では大切なことなので、教員が障害学生のいるグループのところに行ってアドバイスをして助けてあげるだけでなく、学生自身が自分たちで考えサポートしていくことも必要だと思います。そこではあまり障害学生というのは意識しない方がいいかもしれません。 Interview 06 先生は「型」しか教えられない 平井 豪 先生(理工学部) 複数教員で担当していた実験の授業で視覚障害学生が受講 A1 ぼくは質問のある授業が良い授業だと思ってます。それぞれの背景や理解の深さは人によって全然違う。結局は本人次第で、先生は「型」しか教えられない。とにかく一つでもキーワードを頭に刻んでもらって、後は自分で興味持って勉強してもらいたい。「これが面白いんだ」、「これが分かればあそこまでいける」という道標だけは伝えたい。 A2 障害学生が受講していることは学科長からのメールだけで知ったので、聞いたときは障害学生がどういう状態か全然分かりませんでした。授業ではスライドをコピーして配る、実験ではiPad のカメラ機能で拡大して目盛りを見てもらったり、あとはグラフ用紙を拡大して渡したくらいです。「相手の気持ちに立って考える」とは言いますが、想像力には限界があるし、実際自分がその身になってみないと分からないので、ちょっとしたことでもすごく負担になっているのかな…とは思いました。学生との壁をあまり作らないようにはしています。 P18 まとめ 教員からは、障害学生が授業を受ける際、何ができて何ができないのか分からないという話が聞かれました。障害の種類や状況によって必要となる配慮は異なるため、障害学生の状況を少しでも早く知り、授業作りに役立てたいと考えていることがうかがえます。 また、周囲の学生と障害学生の関係についての言及も多くありました。障害のある学生とどのように接するかを、ともに学ぶ学生が考えることそれ自体が学びの機会になるということです。同時に、教員と学生との間のコミュニケーションが大切だと考える方も多くいることが分かりました。 P19 障害のない学生へのインタビュー 障害のない学生にとって、これまで受けてきた中で印象に残っている授業について聞いてみました。それをもし障害学生が受講していたとすると、同じような感想を持てていたでしょうか。こうした視点から、いま一度、大学での学びについて考えてもらいました。 ※ インタビューは障害学生が受講した授業を一緒に受講していた学生に行なったため、学部が集中しています。 Q1 あなたが今まで受けた授業の中で印象的だった授業を教えてください。 Q2 またそれを、障害学生が受講していたとするとどうだったと思いますか? Interview 01 言ってくれないと自分からは助けられない・・・ 文学部/ 3 回生 A1 語学の授業です。文法中心の授業で、先生が細かいことも板書してくれるので分かりやすかったです。 A2 聴覚障害があったら厳しいかもしれません。レジュメが詳しかったり、個人的に教えてあげたりすれば授業を理解できるのかなとは思います。でも、困っているように見えても、自分から言ってきてくれないとなかなか自分からは(助けることは)やらないと思う。自分自身がコミュ障だし、どう手伝ったらいいか分からないから。初対面の人にいきなり助けには行きにくい。でも何か言われたら、例えば先生の話を聞いて重要だと思ったことを書いてあげる、自分のノートを見せてあげるぐらいならできると思います。 P20 Interview 02 すべての学生が受けやすい授業の実現は難しい 文学部/ 2 回生 A1 「実習地理学」という図や図形をいくつも描くものでした。 A2 PC 操作をしないといけない授業だったので、身体障害のある学生にとっては受けづらかったと思います。視覚障害の学生にとっては、図を描くので大変だと思います。ただ、平面では分かりにくくても立体図形などを使うと手で触ることができるので、少し分かりやすくなるかもしれません。 ただ、すべての学生が受けやすい授業の実現は難しいと思います。それでも manaba+R の掲示板など、情報を分かりやすいところに提供するのはいいのかなと思います。 Interview 03 授業が受けにくいと感じたら、もっとこうして! とみんなで言う 理工学部/ 2 回生 A1 少人数で1 冊の本を輪読し、議論する授業です。普通、先生が一方的に話す授業が主ですが、これはそうじゃなかったので楽しかったです。 A2 録音をさせてもらうのも一つの方法だと思います。自分が弱視だったとしたら、前に行くしかないとしても目立つのであまり行きたくないですね…。あと、教卓の上のものや、OHC(書画カメラ)とかはどけてほしいと思います。授業が受けにくいと感じた時は、もっとこうしてほしい!というのをみんなで言っていくのが大切だと思います。 P21 みんなに分かりやすいような板書や発言を Interview 04 理工学部/ 2 回生 A1 実験の授業です。そもそも実験をやりたくて大学に来たので。中でも自分で実験を作って、解決していく授業が面白かったです。 A2 自分で問題を見つけ、解決するプロセスを学ぶことに関しては、障害学生も問題ないと思います。ただ、聴覚障害学生だと、実験中に危険なことがあった時、とっさに「危ない!」と止めようとしてもすぐに伝わらないのは危ないかなと思います。 私は学生側も、真摯に授業を受けることが大切だと思います。例えば、授業中うるさければ、補聴器を使用している学生は雑音がひどくて困ると思います。それと、板書をする時は、みんなに見やすいように教員も学生も丁寧に書くのはもちろん、色にも気をつけた方がいいと思います。 まとめ 自分が受講して楽しかったり充実していたと思う授業が、必ずしも障害のある学生にとっても同じように感じられるものではないという回答がほとんどでした。ではどうすれば良いのかを聞くと、「自分にできる小さなサポートをしたい」という意見が目立ちました。ただ一方で、実際に障害学生に対して何が出来るかということを聞くと、そもそも考えたことがない、あるいは障害があることに気付いても、自ら働きかけることはなかなか難しいという声が多く聞かれました。その理由の一つとして、「障害学生」が具体的にどんなことに困っているのか分からない、障害学生に対して逆に気を遣い過ぎているということがあげられます。 P22 障害学生へのインタビュー 最後に、障害学生へのインタビューを行いました。これまで授業を受けていて困ったこと、あるいは良かっ たこと。障害学生は実際にどのようなことを感じながら授業を受けているのか、直接聞いてみることにしま した。 Interview 01 サポートがあるから配慮しなくていいわけではない 視覚障害(全盲)/ 4 回生 音声が外国語で、日本語吹き替えがない映像を見たときは、字幕が見られないので内容が分かりませんでした。資料も紙媒体だと読めないから眠くなってしまったり、「適当に三人組作って」と言われると、周りの様子が分かりづらいから困りました。先生の中にはグループを作る時さりげなく呼びかけてくれる先生もいて、そうしてもらえると嬉しいです。あと、映像を見た後にその説明を全体で共有してくれるような配慮も助かります。 理想の授業の形というのは特になくて、授業が受けられればいいわけで、その手段は何でもいい。レジュメを読むのはサポート学生でも先生でもいいわけです。けれど(障害学生支援室サポートスタッフによる)サポートがあるからといって配慮をサボる先生もいます。配慮することも含めてそれを前提に授業を作ってほしい。サポーターがいるからといって配慮しないのは、障害学生を無視しているのと同じだと思います。 Interview 02 障害学生だからという理由で目立ちすぎるのは嫌だ 聴覚障害/ 2 回生 レジュメやパワーポイントに、授業を理解するのに十分な説明がないと困ります。日本語音声で英語字幕の映像を見るときは、みんな笑っていても私は英語字幕で見ているので何が面白いのか分かりません。でも、スクリプトをくれたり、問題の形式を変えてくれた先生がいてとても助かったことがありました。ただ、「障害学生」だからという理由で目立ちすぎるのは嫌です。一人一人に声をかけてグループを作るように先生がお願いして回ることをされたのは嫌でした。だから私の場合、サポートがなくても受けることができる授業が理想です。スクリーンに先生が話す内容が映っているとか、サポートがなくても受けることができる授業がいい。 P23 Interview 03 グループを作ることが分かると、その授業はとらない 視覚障害/ 4 回生 先生からDVD やビデオを貸してもらえず、個人でも入手が難しい映像を見るときは、そのことを事前に伝えてほしいと思いました。また、ページ数を教えてもらえないとレジュメのどこをやっているのか分からなくなります。それと、コミュニケーションペーパーを出す時はすぐに出したいけど、どこに出すかが分かりません。だから、声をかけてくれる先生の存在はありがたいですが、グループを作ることが分かるとその授業はとらないようにしています。目立ちすぎると居心地が悪くなるので・・・。 先生の中には、授業の最初では私がいることを覚えていて配慮をしてくれるんですが、後半から私のことを忘れて配慮がなくなる方がいます。なので、先生には自分がいることを覚えておいてほしいです。 Interview 04 理想は他の学生と同じように安心して授業をサボれること 視覚障害/ 2 回生 ぼくの場合、スクリーンはくもりがかかって見えているので見づらいです。「赤線を見て」と言われても分からない。単眼鏡を使って映像やパワポを拡大して見るけど、見える範囲は狭くなります。 これまで、英語の授業で周りの学生が黒板の板書を見せてくれたことがあって、助かりました。あとは先生が自分のタブレットで映像を見せてくれたのも良かった。 理想の授業は、他の学生と同じように自分も安心してサボることができる授業ですね。 まとめ 自分でできる工夫は自分で行いながら、授業に参加していることが分かります。その際、周りに「○○できなくて困っている」「手伝ってほしい」とは言わず、不便を感じても自分で努力していることが多いようでした。仮に手伝ってもらいたいと思っていても、自分から声をかけることは少ないようです。一方で、先生や学生から声をかけてもらって嬉しかったということが聞かれました。ただ、障害学生によっては、嬉しかったということの内容も異なり、ある学生にとっては良かったことでも、別の学生にとっては逆に「嫌だった」ということもあることが分かりました。 P24 インタビューから分かったこと 各インタビューから、それぞれが自分にできる範囲で工夫をされていることが分かります。教員は、障害学生も他の学生と同じように授業を理解できるようにと考えているし、障害学生も授業を理解しようと努めています。 しかしそうしたなかでも、お互いのすれ違いがあるようでした。教員は障害学生本人からどんな配慮が必要か聞きたいと思っているし、一方で障害学生は、教員や周りの学生から聞いてほしいと思っています。しかし実際には、お互いに話し合う機会があまりないようでした。まずはこうしたすれ違いが生まれている現状を考えてみる必要がありそうです。 ここで生まれているのは、「コミュニケーション不足」の問題です。なぜこのような状況が生まれるのでしょうか。インタビューから分かってきたことは、周囲の遠慮や、本人の目立ちたくないという気持ち、また実際に授業を受けてみないとどんな配慮が必要か分からないという状況の中、お互いに何を伝え合えば良いのか分からないまま時間が過ぎてしまっている状況ではないでしょうか。 こうしたコミュニケーション不足を解消するためには、お互いに思っていることを伝えていかなければなりません。その際、どんな場合もそうですが、まずは何かをしてほしい側が相手に自分自身のことを伝える必要があります。授業の場合であれば、障害学生自身が自分の「障害」を教員や周りの学生に伝える必要があります。そうしてはじめて、実際にどんな配慮が可能か話し合うことができます。 障害学生が自分だけではうまく伝えられないと思ったら、障害学生支援室に頼んで、『障害学生への配慮依頼文』というものを作成してもらうこともできます。これを教員に渡せば、障害についてより詳しいことを教員に伝えることができます。ただ、これだけでは十分ではなく、結局はお互いに顔を合わせて話し合うことが重要です。なぜなら、障害のことを一番よく知っているのはその学生自身だからです。 インタビューでよく聞かれた、「自分には何ができるか分からない」という状況を解決し、お互いのことを知るためには、「お互いの『鎧』」をどれだけ取り払えるかが問われているのではないでしょうか。 また、障害学生へのインタビューで、「他の学生と同じように自分も安心してサボること」を望む障害学生がいました。これは単に授業をサボりたいと言っているのではなく、裏返せば、周りの学生と同じように安心して授業を受けたいということだと思います。 障害学生が「安心して授業を受けられる状況」とは、お互いに気を配り、コミュニケーションがとれている状態です。そうした授業は、「すべての学生にとって学びやすい環境」の実現に近づいていると思います。 私たちがここで述べたことは、インタビューを通して得たものです。これを読んだみなさんはどのように考えるでしょうか。次のPART3 は、私たちがいろいろな人の話を聞く中で気付いたり考えたことをもっと深めるためのPART です。ぜひみなさんも一緒に考えてみてください。 P25 PART 3 私たちが学んだこと 私たちはこの冊子を作るために、何度も話し合い、勉強会や他大学との障害学生支援の会に参加しました。PART3 では、これらの学びや経験を通じて私たちが感じ、考えたことを記しています。障害学生に対してどんな配慮ができるかということだけでなく、そもそも私たち全員が授業の「参加者」であり、障害学生の学びの環境を整えることにも大きく関係しています。そうした気付きに至るまでの記録です。 (校正者注:以下表「私たちの参加した勉強会・交流会」) 日時・テーマ内容 1 2015 年10 月10 日/ 立命館大学生存学研究センター 主催ドキュメンタリー映画『ユニバーシティ・ライフ―聾・難聴学生の素顔―』上映+ 講演「聞こえない/聞こえにくい人にとっての大学と情報保障」今村彩子さん(映画監督)・甲斐更紗さん(九州大学基幹教育院 特任助教)聴覚障害のある今村彩子さんの学生時代の経験から、聴覚障害学生と情報保障について考えるために制作されたドキュメンタリー映画『ユニバーシティ・ライフ』上映後、コメンテーターに甲斐更紗さんを迎え、日本の大学の情報保障の現状と課題についてお話いただいた。 2 2015 年10 月31 日/ 立命館大学障害学生支援室 主催トークセッション 学生×講師「障害学の視点と学生支援の課題―大学における、障害学生支援を考える―」星加良司さん(東京大学教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター)『障害とは何か―ディスアビリティの社会理論に向けて』の著者である星加さんに「障害学の視点と学生支援の課題」というテーマで、障害学の基礎知識と障害学の視点からみた学生支援の課題について講演していただいた。その後私たちを含めた障害学生支援に関わる学内外の教職員・学生とともにトークセッションを行なった。 3 2015 年12 月5 日/ 近畿地区障害学生支援協議会 主催 近畿地区障害学生支援交流会(大阪大学、大阪教育大学、関西大学、関西学院大学、 京都大学、同志社大学、立命館大学) 関西の七大学から障害学生支援に関わる60 名近くの学生が集まり、「誰もが主体的に学べる授業とは」というテーマについて、各グループ(「先生」、「見えない学生」、「聞こえない学生」、「その他の学生(サポート学生以外)」役の立場)に分かれケーススタディを行なった。 (構成者注:表は以上) P26 大学と「障害学生」 アメリカで映画を学んだ聴覚障害学生 私たちはこの冊子を作るため、『珈琲とエンピツ』(2011)、東日本大震災後に被災した聞こえない人を取材した、『架け橋 きこえなかった3.11』(2013)など、数多くの映画を撮り続け自身も聴覚障害のある今村彩子さんのお話を聞き、映画『ユニバーシティ・ライフ-聾・難聴学生の素顔』を観ることにしました。そして、ここから大学で学ぶ聴覚障害学生のことを考えました。 今村さんは大学在籍中にカリフォルニア州立大学ノースリッジ校に留学し、映画制作とアメリカ手話を学ばれます。当時、日本の大学では情報保障が十分ではなく、周りの学生と同じように授業を受けることすら難しい状況にある中、単身アメリカに渡るアクティブな学生でした。いざアメリカの大学に行くと、日本とは比べものにならないほど情報保障が充実しており、情報保障を受けることの大切さを実感します。そして帰国してから大学の情報保障を扱う映画の撮影を開始しました。 日本の大学に立ちはだかる情報の「壁」 私たちが観た映画には、授業だけでなく昼食時に友人と手話で話し笑い合っているシーンが多く映し出され、聴覚障害学生のリアルな大学生活が描かれています。ところが授業場面では、聴覚障害学生の前に情報の「壁」が立ちはだかる様子が、当事者へのインタビューから浮き彫りになります。 日常では「障害者」であることよりも、やりたいことに全力で取り組み、友だちと感情を共有する一学生が、授業では「障害者」となって現れます。 P27 「大学で障害者が学ぶ」とは 今村さんは授業を受けるだけでなく、授業が「分かる」ことで初めて、自分も一緒に授業を受けているという実感をつかむことができたと話されました。支援があり、授業が分かるようになって初めて、他の学生と同じスタートラインに立つことができるということです。このことは、大学での授業というものがいかに障害のない学生に向けて作られているのかということをあらわしているのではないでしょうか。 私たちは、聴覚障害学生の状況について、自分の「標準(スタンダード)」に照らし合わせるだけではうまく想像することができていないのだと感じました。自分の「標準」から大きく外れた人がいることを意識しなくては、そうした人の前に様々な「壁」が立ちはだかっている現状にすら気付くことができないのだと思います。大学は、教育の場であると同時に、社会に出る準備をする場でもあります。そのような大学は、障害のある学生にどのように接するべきなのでしょうか。 「合理的配慮」で十分か 個別性を残す 私たちは日本の社会制度や法律、障害学生をめぐる問題を考えるために、『障害とは何か―ディスアビリティの社会理論に向けて』の著者である東京大学の星加良司先生をお呼びし、お話を聞くことにしました。 2016 年4 月から、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」。)が施行され、私立大学である立命館大学は障害学生に対し、差別の禁止、合理的配慮の提供に努めなくてはならなくなります。 合理的配慮とは、国連の障害者権利条約の第2 条に「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整」という定義があります。 星加先生は、「合理的配慮をしないことが差別」と言い、私たちは端的に核心をついたこの言葉に衝撃を受けました。これまでは別の扱いをすることが「差別」だと思っていたけれど、これからは配慮をしないことが「差別」になるということです。 P28 ところが、この合理的配慮について星加先生は、「個別性を残すこと」の重要性を繰り返し述べられました。例えば、「聴覚障害学生には手話通訳をつければいい」といったように、あらかじめ用意されているメニューに機械的に学生を当てはめるのではなく、個々の学生のニーズを知ってからその人への配慮内容を決める必要があるということです。知ったつもりにならず、多様な個性にしっかり向き合うことが重要なのです。 学びの多様化への対応 また近年、大学での学びの変化に伴い出てきた新たな問題についても触れられました。留学や実習など、大学での学びの多様化にともなって、障害学生の困りごとも多様化しているという問題です。 学外での実習等も合理的配慮の提供範囲に含まれますが、「実施に伴う負担が過重でないとき」は、配慮に努めなければならないことになっています。しかし逆に言うと、実現可能性が極めて低い場合には、「過重な負担」になるので、そこまでの配慮はしなくて良いということになりかねません。 解決策を一緒に考える文化を作る 障害者は無条件に困っている人? 星加先生は、学生のニーズに応えきれないのはやむを得ないが、障害が理由で参加できないプログラムが増え、十分に学べない状況にある場合、それを放置しても良いのか問いかけます。「大学で得る知識が社会に出てからも有用と言うのなら、知識の学修に十分にアクセスできるということを、大学は第一に考えるべき」ということです。 その際考えなければならないことは、障害者は無条件に「困っている人」とされがちですが、実はどんなことで困り、不利益を被るかは、その人の障害種別や程度だけで決まるわけではないということです。環境や、周りにどんな人がいるかによっても左右されます。そのため、「その場面で起こったトラブルや困りごとに対して、どうすれば解決できるかを一緒に考えていく文化や、コミュニケーションのスタイルを普及させる方が、より本質的に重要」だと言います。 P29 時々「情報保障をどこまで手厚くすべきか」という議論が起こりますが、その線引きは難しく、ケースバイケースなのです。相手との関係性を結ぶなかで話し合っていくことが重要で、コミュニケーションによって必要な配慮を考えていくことが、何より大切なのだと思います。 多様な個々にどれだけ向き合えるか それでは実際に、大学で、授業で、私たちには何ができるのでしょうか。 まずは授業を作るもの同士、つまり教員と学生との「対話」が重要だと言えるのではないでしょうか。なぜなら、コミュニケーションの場がなければ、個々のニーズは発信することも知ることもできないからです。 この冊子を作っていくなかで、私たちは「誰もが学びやすい環境」というものを考えてきました。しかし、全員に同じ対応をすれば全員の困りごとが解消するという単純なことではないということが分かってきました。誰もが学びやすい環境や授業というものがスローガンで終わらないためにも、多様な個々にどれだけしっかり向き合えるかが問われてくるのです。 私たちにできること 実際の授業で、どのような配慮やコミュニケーションが大切になるのかを考えるために、私たちは関西にある大学で障害学生支援に関わる学生・教職員が集まる「近畿地区障害学生支援交流会」に参加し、グループワークを企画・実施しました。60 名近くの学生がグループに分かれて、それぞれ「先生」、「見えない学生」、「聞こえない学生」、「その他の学生(サポート学生ではない)」という立場から、「誰もが主体的に学べる授業とは」というテーマでケーススタディを行いました。 P30 教員ができること 私たちは普段、教員の立場で考えるということはほとんどありませんし、その視点が常に抜けていたと感じます。「先生は障害学生に対して具体的にどのような配慮が必要か分からないのでは」、「学生から相談に来てほしいと思っているのでは」という意見が出ました。 またここでもう一つあげられたのは、やはり教員と学生との「コミュニケーション不足」の問題です。教員側が学生に対し、授業態度の改善を求めていたとしても、それは日常的に伝えられることはほとんどありませんし、逆に学生の側からも、教員が納得できる形で要望を伝えられていないように感じます。しかし、本当はお互いの思いを伝え合うことにより、それぞれが考えていることのギャップが解消され、より良い授業につながっていくのではないかと思います。そこには、「学生が教員に声をかけやすい状況」、あるいは、「face to face のコミュニケーション」が作り出せるかもしれません。 実は障害学生も、「他の学生と同じように授業を受けたい」、「自分の頼みごとはワガママではないか」と考えるあまり、自ら能動的に動くことができないことがあるそうです。もちろん「待っているだけでなく、自分から一歩を踏み出すべきかもしれない」と考える障害学生もいて、自分から働きかける大切さは知っています。だからこそ、障害学生が能動的に働きかけたときには、それを受け入れてもらえる、話を聞いてもらえる環境であることが重要なのだと思います。 また、情報を「画一的に与える=平等に与える」とは限らないということにも気が付きました。教員は授業の画一性が学生に対する平等な扱いになると考えていても、障害学生からすると、それでは情報を拾いきれず、不平等だと感じることがあります。教員は授業のカリキュラムや方法を考え進めていきますが、そこに障害学生の視点が抜け落ちていると、それが授業を受ける上で大きな壁になり得ます。例えば、レジュメだけを取って授業を受けずに出ていく学生がいるからレジュメは配らない、映像資料から読み取ってほしいことがあるから授業で映像を多用するといったとき、別で簡単な補足資料を作ったり、映像に字幕をつけたりという配慮があるだけで、障害学生を含めた多くの学生が助かります。 周りの学生ができること 私たちが学生の立場で考えられることは、「障害学生の周りにいる私たちに何ができるか」ということです。まず思い当たったのは、周りの学生が障害学生のために配慮をしたり、働きかけたりする動機や機会は圧倒的に少ないのではないかということでした。 P31 その原因の一つとして、障害学生やサポートの存在を知らないということが考えられます。私たちの中で議論をしたときも、「周りの学生には、まず知ってもらうことから始めないと、障害学生への配慮はほとんど生まれないのでは」という意見が出ました。またPART2 のインタビューでも述べられているように、どんな配慮が必要か分からないから、何か具体的に助けを求められたらやる、という話がありました。 ここで少し発想を変えてみたいと思います。私たちは、「障害学生のために」何ができるかということを考えるのではなく、私たちも含めた学生の誰もが、「主体的に学べる環境」について考えてみてはどうでしょうか。なぜなら、障害のない学生や教員は障害学生に対して何か「特別なことをしないといけない」と考えがちですが、それよりも、自分たちも含めた誰もが「主体的に学べる環境」を考える方が、他人事ではなくなるし、障害学生にもつながることがあると思うからです。 例えば、レジュメやスライドが充実している、マイクの音が適切、板書が丁寧、私語がないといった授業は、障害があってもなくても、多くの学生が「困らない」授業だと言えます。そして、こうした授業であるためには、先生だけでなく学生自身の態度も問われてきます。 私たちはただ単に授業を「受ける」こともできますが、知識を与えられて終わりではなく、与えられた知識からより深い問いや答えを自分なりに見出すこともできます。そもそも「授業を受けること」と「主体的に学ぶこと」はイコールではなく、義務教育ではない大学では、学生自身の主体的に「学びたい」という意欲がなければ本当の学びは得られません。 教員に、みんなが「困らない授業=つまずきの少ない授業」環境を作ってもらうことはできたとしても、「主体的な授業」を求めるのは少し違います。学生の側も、どのような態度で受講すれば良い授業となるのかを考えるのはもちろん、学んだことを身につけるためには、「主体的」な姿勢は不可欠です。そこには、障害の有無はあまり関係ないかもしれません。 立ち止まって考えてみるということ 大学での学びの機会は、障害があってもなくても同様にあるべきだと考えます。そのため「誰もが学べる環境=つまずきの少ない授業」は、教員も学生も一緒に考えて作り上げていかなければならないでしょう。でも「主体的に学べる環境」については、学生自身の態度が問われます。そこに障害の有無は関係ありません。 そして、障害のある学生への配慮には、誰にでもできる小さなことがあるはずです。それを主体的にできるかできないかということからも、学びの環境は変わってくるのではないでしょうか。 P32 コラム② 合理的配慮とは - 「配慮の平等」を手がかりに 2016 年4 月から、障害者権利条約に基づいて制定された「障害者差別解消法」が施行されます。 これら条約や法律の中で求められている「合理的配慮」について、全盲の視覚障害者である私の大学生活から考えてみたいと思います。 講義で紙媒体のレジュメが配られても、私はそれを直接読むことはできません。そこで私は、担当の先生にこのレジュメのテキストデータの提供を依頼します。テキストデータならば、視覚障害者もパソコンの画面読み上げソフトを使って内容を把握でき、他の学生と同様の情報をもとに授業を受けることができるからです。パソコンで講義レジュメを作成している先生ならば、そのデータを提供することは難しくないと思います。したがって、この場合の配慮は「合理的」であると考えられます。しかし、視覚障害学生のみに電子データを提供することを特別扱いと感じる人もいるかもしれません。そもそも、なぜ障害学生への配慮が必要なのでしょうか。 社会学者の石川准は、「配慮の平等」という考え方を提起しています。それによると、社会には、既に配慮されている多数の人と、そうでない少数の人がおり、後者の人にも配慮することで平等な社会が実現するということです。 上記の例にあてはめれば、活字を直接読むことができる多数の人には、紙媒体でレジュメが配られるという配慮がなされていると考えられますが、それは視覚障害者には有効ではありません。そこで、本人の要望に基づいてテキストデータが提供されれば、視覚障害者も同じ条件で受講することができます。すなわち、配慮の平等が実現したと言えるでしょう。 合理的配慮は、可能な範囲での支援の提供であり、それ以前に恒常的な環境整備やアクセシビリティの確保も必要なため、それのみで完結するものではありません。しかし、個別のニーズを包摂していくことで、「だれもが学びやすい」環境が実現するのではないでしょうか。 (産業社会学部4 回生・山岸蒼太) P33 付録1 座談会「障害学生の日常あれこれ」 M B F . c o m 立命館大学の障害学生当事者が、大学生活で困っていることや感じていることを座談会の場で話し合いました。障害の内容は違っても、感じている不便、疑問に思っていることには驚くほどたくさんの共通点があることが分かりました。話は盛り上がり、ゆくゆくは障害学生みんなで学内フィールドワークに出たいという話に・・・ ※ MBF.com 2014 年度・2015 年度学びのコミュニティ集団形成助成金団体。立命館大学衣笠キャンパスを中心に、「障害の有無に関わらず誰もが過ごしやすい大学作り」をモットーに活動中。「障害学生同士が語り合い、障害学生の生の声を引き出す」目的で本座談会を開催。 P34 座談会 「障害学生の日常あれこれ」 (2015.11.25 以学館にて) 自己紹介 司会 みなさん、この度はお集まりいただきありがとうございます。今回は立命館大学に通う「障害学生」が一同に集まり、普段どうやって学生生活しているの?ぶっちゃけ立命館大学の授業支援ってどうよ?ということを聞き出すための企画でございます。さて、かたいあいさつは置いておいて、自己紹介いきましょうか! O 障害種別は聴覚障害。障害の程度は、テレビの内容は字幕がないと分からないくらいと言えばなんとなく伝わるでしょうか。よろしくお願いします。 M はい。弱視です。キャンパスが違うので人生何度目かの衣笠にドキドキしています。 S 産業社会学部、弱視です。 H 同じく産業社会学部で、障害的には脳性まひです。見た目じゃ全然分からんし、たまに体がしんどくなって車いすを利用するくらいかなあ。自分は障害者っていうか、いわゆる健常者と障害者のちょうど中間にいる存在だと思ってる(笑) N 私も産業社会学部。具体的に言うと右目は弱視、左目が全盲の視覚障害です。 Y 産業社会学部多いなあ。僕は視力ゼロ!視覚障害1 種1 級です! 全員 おおぉ~。 司会 今なんかみなさんテンション上がりました!? 一同 (笑) 本編 司会 さて、さっそくですが最初の質問です。「なぜ立命館大学に入学しようと思いましたか?」マイノリティと言われるみなさんだからこその、進学先の決め手ってありますか? Y 社会について幅広い分野を学び、多様な視点を養いたい。そう思って進学先を探していた時、立命館大学の産業社会学部の現代社会専攻を知りました。 H うちも自分の学びたい分野から進路を決めた。正直、障害に関して支援してくれる機関があるなんて入学前はそこまで気にしてなかった。 O 私も入学してからサポートについて知りました。みなさん入学前に障害学生支援室の存在を知ってたんですか…? S 僕は入試の段階で大学に問い合わせて、時間延長と文字の拡大の特別措置お願いした P35 んです。そのときに支援室の存在は知りましたね。 O なるほど~。 M 私も高校生のときには「学生がサポートしてくれる」という情報は知っていました。でも当時思っていたサポートと実際今受けているサポートはギャップがありますね。 O と、いうと? M 思ったよりもフレンドリーということです( 笑) もっとサポートする・されるというお固い関係だと思ってたんですが、ふつうに友達として仲良くなる人もいれば、勉強を教えてもらえる先輩という感じだったり、今では後輩もいますし(笑) N 私も進路選択は学部の専門性で決めました。でも立命館は「こんなサポートが必要です」って伝えれば、きちんとそれに応えてくれるから心強い。私が今までになかった支援を提案すれば、それはきっと後に続く後輩のためにもつながると思ってます。 司会 では次に普段の生活について話していただきたいと思います。 「学校生活において授業以外の場面で困ることはありますか?」 N 困るというか、ちょっと聞いてもらいたいんやけど、通学途中、駅員さんにホームまで案内をお願いした時のことで。駅員さんが優先座席の前まで案内してくれたんはええねやけど、急に「すいません!誰か座席を譲ってあげてください!」って大声で叫び始めて(笑) H・M えー嫌やー! N せやねん。駅員さんは自分はめっちゃいいことしたと思ってるんやろうけどなあ。私にも優先席に座るかどうかは選ぶ権利があると思うねん。 H・M 分かる分かる。 M 私もこれ聞いてほしい話になるんですけど、この前、白杖持って歩いていた時に親子が私を見て、「あれはな、足の悪い人が持つもんやで」って。 一同 なんでやねん(笑) 司会 学内でもそういうことはありますか?Y 学内ではわりと認知されているように思います。以学館地下の購買では、店員さんから声をかけてくれるくらい。パンの棚の商品を端から端まで読み上げてくれたりします(笑) N そうやね。食堂のおばちゃんも私たちの対応に慣れてきていて、年々認知度は高まっている実感があるね。端から端まではやりすぎやけど(笑) M えー、衣笠いいですねえ。 Y でもそれは以学館だけかも。他の棟の学食に行くと対応が違ってるし、学内全体でなにかをしている感じはないかも。 O あと、声をかけてくれるのはいいんですけど「大丈夫ですか」って言われると、何て返していいのか分からなくて私は困ってしまいます。「どうしましたか」の方が自分の状況を伝えやすいですし答えやすいですね。 P36 S あと弱視の僕にとっては、手元にメニューを渡してくれるスタバや上島珈琲なんかはかなりいいですね。学食で取り入れたらどんな風になるのかな…(笑) M その方法はいいかもしれませんね!私もいつも学食では上の方にぶら下がっているメニューが読めなくて苦労しますし。 M 少し話は戻りますが、学内でも「白..=全盲」という固定観念は感じたことがあります。私は体育の授業では走ってたし、ハードルも跳ぶし、球技もやってました(笑)  白杖を持っている人間がそういうことをすると本当に驚かれます。でもそれって周りの人が勝手に「できない」って判断しているだけで、実際はそうじゃないこともあるでしょう。 司会 えっ、大学でも体育やってるの? 全員 いや、わざわざ単位落とすような履修、とくに体育は組まないです。 H うちは興味あるから障害者スポーツなら取ろうと思えるかな。もっと学校から障害者スポーツとかの情報を流してくれたらいいのに。 M よくこういう障害の話をするときに「聞いていいか分からんけど…」っていう前置きをする先生がいるじゃないですか。あれ、必要ないと思うんですよね。 S たしかに! こちらから自分の生い立ちを語った時「あ、おもしろいね」って言う先生はグッときます。 M かわいそう、とか大変って思われてない感じがいいよね。 H しんどいやろ?大変やろ?っていうスタンスで話しかけられるとこっちも身構えてしまうもんね。 H 話変えてしまうねんけど、みんなにこれ聞いてみたい。OIC のエスカレーターは下りが必要やと思うねん。若者の運動を促進するために上りだけエスカレーターつけたらしいけども、うちは下りの方がしんどい。みんなどう? S 上りは物理的に階段が近くにあるけど、下りは足元から遠ざかるじゃないですか。見えづらくてわりと怖い。 N 下りは段差の境目がすごく見づらいよね。 M 私は下りの階段は、場合によっては段差が見えずただの下り坂に見えるときもあっ て、踏み外しそうになる。 N BKCにもツッコミどころはあるよね。図書館のユニバーサルアクセスルームに何も資料がなくて、まったくユニバーサルになってなかったり(笑) Y 衣笠の新しい図書館はどうなるだろうね。 H フィールドワーク行きたいね。 Y 各キャンパスやりたいね。衣笠で言うと、明学館に身長2メートルくらいないと届かないような高さに点字マップがあるよ(笑)(※) N バス停が分かりにくいとかも課題としてあがってきそう。 P37 M 場所は慣れるしかないけど、バスの時刻表は正確な時間が分かるアプリの開発をする とかいろんな方向から解決ができそうですよね。 S 課題を見つけるだけじゃなくて解決策まで一緒に考えたいですね! H フィールドワークやるならうちは車いすで参加します! M あ、そしたら私も白杖持って行きます!(笑) そんなこんなで座談会は大盛り上がり。MBF.com も障害学生のみなさんの生の声に刺激を受け、濃い時間を過ごすことができました。 今回の座談会でMBF メンバーが特に気になったのは以下の3 点でした。 ・ 学内の環境改善には建物のバリアフリーといったハード面と、購買の店員や教職員、また学生の認知といったソフト面の両面が必要である ・ 障害学生支援室やサポートの存在を入試の段階で高校生に向けて広報する必要があるのではないか ・フィールドワークぜひ行きましょう! 今後の学内改善活動の参考にします。ありがとう ございました! 座談会に出席してくれたみなさんの紹介 〔衣笠キャンパス〕 O さん 文学部/聴覚障害 S さん 産業社会学部/視覚障害(弱視) N さん 産業社会学部/視覚障害(弱視) Y さん 産業社会学部/視覚障害(全盲) H さん 産業社会学部/脳性まひ 〔びわこ・くさつキャンパス〕 M さん 理工学部/視覚障害(弱視)  障害学生支援室で活動しているMBF.com のメンバーから声をかけ、座談会に来ていただきました。ありがとうございました。 ※現在は改修されています。 P39 付録2 教員のみんなさんへ 今日からできる配慮例一覧 ここでは、「実際に障害のある学生に対して何ができる?」という疑問に答えるため、障害種別毎に教員のみなさんがいつでも始められそうな配慮例の一覧を載せました。 ただこれらは配慮の一例であって、すべての学生に当てはまるものではありません。実際には受講する学生との間で、より具体的な話し合いが必要ですが、ここに載せている配慮が学生との対話のきっかけになればと思います。 P40 視覚障害学生 レジュメをmanaba+R にアップロードする レジュメやパワーポイントのデータを事前にmanaba+R にアップロードしていただければ、学修スタイルに合わせ、文字の拡大、音声ソフトによる読み上げ、点訳に変換できます。 板書・パワーポイントの内容を事前配布する板書やパワーポイントをあらかじめ紙で配布してくださると、黒板やモニターが見えにくい場合でも、手元で確認しやすくなります。 モニターで板書・パワーポイントを拡大する 板書やパワーポイントを使って説明する際に、該当箇所をモニターで随時拡大していただけると、どこの説明をしているかが分かりやすくなります。 指示語での説明を避ける 板書やパワーポイントを指しながら、「これ・あれ」などの指示語を使って説明を進めず、具体的な言葉で説明してください。先生が何を指し説明しているかが把握しやすくなります。 音声ガイド付きの映像教材を使用する 副音声付の映像を使用してくださると、場面の状況が想像できて内容理解に役立ちます。そのため、あらかじめTV 等の映像を録画する際には副音声付きで録画してください。 レーザーポインターの使用を避ける モニターなどをレーザーポインターで示されると、明るい教室の場合はとくに、光の点が目で追いにくくなります。レーザーポインターのかわりとなる「指示棒」の使用も考えてみてください。貸し出し用の「指示棒」は、支援室でも用意しています。 試験時間の延長と問題用紙の拡大をする 拡大読書器を使用する際や紙に目を近づけないと文章が読めないような場合、問題文を把握するのに時間がかかることがあります。そのため、授業内で行う小テストの時間延長等をお願いすることがあります。また、問題用紙を拡大していただけると、テストが受けやすくなります。 P41 聴覚障害学生 発音と口の動きをはっきりするように心がける 聴覚障害学生は、唇を読んで話している内容を理解するため、発音と口の動きをはっきりさせることを心がけてください。黒板に書きながら話すことは避け、学生に口元を見せてください。 字幕付きの映像教材を使用する 字幕は内容理解に役立ちます。さらに、要約・シナリオなどの資料を配布してくださると、ポイントが分かりやすくなります。 レジュメの記載を充実化、スクリプトの事前配布をする 授業内容を記載したレジュメを事前に配布していただけると、授業内容の理解に役立ちます。英語のリスニングなど音声教材を使う際には、放送原稿の提供をお願いします。  重要情報は口頭だけでなく、板書に記載する 重要情報は、口頭と板書の両方で話してください。板書の際は語句のみでなく、それに対する説明も板書していただけると助かります。 肢体不自由学生 板書・パワーポイント内容を事前に提供するノートを自分でとれない学生の場合、板書やパワーポイントに記載した内容を事前に提供してもらえると、予習・復習に役立ちます。 授業中の提出物の提出方法に配慮する 授業時間内に提出物を提出することが困難な場合があります。授業時間内に提出するコミュニケーションペーパーは、提出方法(メールなど)や期限について配慮をお願いします。 移動・遅刻の配慮をする 車いすなどの使用により移動に時間がかかり、授業時間に間に合わないことがあります。グループワークなどで席の移動を必要とする際は、肢体不自由学生を固定席にしていただくなどの配慮をお願いします。 P42 障害学生支援室 F D 冊子の刊行に寄せて このFD 冊子は2006 年に設立された障害学生支援室が10 周年を迎えるにあたり、障害のある学生本人やその学修支援にかかわってきた教員・学生・スタッフ等の手によって、自主的に準備された。2016 年4 月から「障害者差別解消法」が施行されるにあたって、立命館大学でも障害学生支援方針(ガイドライン)の作成に取り組んでいるが、本学の障害学生支援の歩みを振り返り、その到達点を確認しておくことは大切なことだ。 本学の教学では、学生同士のピア・ラーニングを重視しているが、障害学生支援においても多数の学生スタッフがかかわっている。このFD 冊子の発行には、学生スタッフが積極的に貢献しているということだが、支援にかかわる学生スタッフの視点からもFD 活動が取り組まれているということは、とても先駆的な意義があるのではないかと思う。 上記の「障害者差別解消法」は、2006 年12 月に国連で採択された障害者権利条約を批准するための国内法整備の一環として制定された。この法律の制定や障害者基本法の改正が条約の求める権利保障の水準に到達している根拠の一つとされ、日本は2014 年1 月にこの条約を批准することができた。権利条約第24 条には、障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること等を目的とした、あらゆる段階における障害者を包容する教育制度(an inclusive education system)及び生涯学習を確保することを定めている。こうした教育と生涯学習の権利が障害のある人々に保障されるために合理的配慮(reasonable accommodation)が提供されなければならないのである。 この合理的配慮が各教育機関で適切に提供されるように、文部科学省は「障害者差別解消法対応指針」を作成し、学校教育分野の事業者にその理解の徹底を促すとともに、国立特別支援教育総合研究所や日本学生支援機構といった関連機関によって各種の有益な情報を提供している。これらの指針等を受け入れ、実行体制を整備することで、各教育機関は「障害者差別解消法」にある程度対応することが可能となる。 しかし、高等教育機関としては、それだけでは不十分である。大学は学生が学び成長していく場である。障害のある学生の学ぶ権利を保障するということのみにとどまらず、この障害学生支援の学生スタッフの活動のように、障害のない学生をも、支援の過程を通じて共に学び、成長・発達する主体としてとらえるべきであろう。 学生部長 山本 忠 P43 京都における学びの伝統を いかに受け継ぐか 私が大学生であった頃、講義と言えば、黒板をほとんど使用せず、口述筆記が中心であった。現在では、レジュメの配布は当然のことのようになり、画像・動画等を駆使した講義が行われ、より多くの情報が視覚的手法によって提供されるようになっている。こうした授業手法は、学生の多様化に伴い、大学教育の質的充実が重視される中、受講者の理解の手助けをし、学ぶ意識を持たせることを狙いとしたもの、つまり学生の学ぶ意識の多様化や学力格差に対応することを狙いとした授業改善の一つである。ただ、これは、受講者が五体満足である場合を無意識的に前提としたものであった。真の学生の多様化に対しては、大学そして教員が、十分に意識していたわけではなかったように思う。 日本は、2014 年障害者権利条約批准を契機に、「障害者差別解消法」が2013 年に制定され、2016 年4 月より施行される。これによって、日本でもなんらかの障害を抱える学生の学ぶ権利の保障が正面からとらえられ、具体的な措置が講じられるべきものとされた。ところで、京都という街は、日本で初めて盲唖院が設立された地である。国民皆学の政策に反発がまだ残る頃、多くの町衆は、すべての児童に教育をと、就学率や教育の向上を競い合い、障害者教育にも取組む学問の街に京都を創り上げていった。立命館大学は、こうした伝統をいかに受け継ぎ発展させていくのか。 立命館大学では、いち早く障害学生の学ぶ権利の保障を全学的な課題としてとらえ、障害学生支援室を設置し、先進的な取組みを行ってきた。ファカルティ・デベロップメントだけでなく、教育改善に学生の意見を反映させる仕組み、教育を受ける側の主体性を尊重する仕組み、さらには学生同士の学び合いやサポートの取組みを教学的伝統としていたからこそであった。 本冊子の発刊は、立命館大学の特徴である学生同士の学び合いやサポートの中から、仲間として障害学生とともに歩み成長することの重要性を学生自身が認識したことがきっかけである。本冊子は、学生が学外も含め熱心に調査して、学生目線から、障害学生の学びをサポートすることを意識したものである。こうした試みは、すべての者が学ぶことができる環境を創るという京都の伝統を受け継いだものであると言えよう。ここから、学生同士の学び合いが新たな成長プロセスへと飛躍することを願っている。 教学部長 德川 信治 P44 編集後記 市地 美菜実 国際関係学部/ 3 回生 実際にインタビューを行い、協力してくださったみなさんから直接意見を聞くことができ、改めて主体的に受けることができる授業を作るために自分に何ができるか考えさせられました。この冊子がみなさんの考えるきっかけになればうれしいです。 植松 洸佑 政策科学部/ 2 回生 本冊子の編集に関わった事で、自らの授業に対する姿勢について考える機会を多く持つことができました。先生方による工夫だけではなく、授業を受ける私たち学生も主体的に取り組んでいくことで、よりよい授業を作っていくことができるのではないかと考えています。 小出 優子 文学部/ 4 回生  教育にしても支援にしても、人に対してどこまで本気になれるかなんでしょうね。制度やシステムがどれだけ整備されても、本気の想いがなければ人の心を動かすことはできないと思うのです。さて、もっと人を愛そう。素敵な仲間と作った、自慢の卒業制作です! 古閑 円佳 政策科学部/ 3 回生 障害という視点で考えた時の授業の現状をまず知るだけでも、何かが変わる第一歩になると思います。この冊子は、障害への配慮や授業における主体性について考えたものです。この冊子を通して授業を取り巻く人たちの様々な声を届け、今後の授業作りに貢献できれば幸いです。 中村 夏子 文学部/ 3 回生 私にとって障害学生は先輩、後輩ですが「友人」です。だから友人が困っている時はお互いに話して出来ることを実行出来るようにしています。みなさんも「障害学生」ではなく、「教え子」「授業仲間」など以前と違う関係性で互いに「思いやり」を持ってほしいと切に願います。 P45 難波 巧 理工学部/ 2 回生   今回の冊子編集作業を通じて、立命館大学を構成する教員/ 障害のある学生/ 障害のない学生の、様々な思い・考え方を知ることが出来ました。この冊子が、障害の有る無しに関わらず、誰もが主体的に参加出来る授業を作るための、一つの起爆になれば良いと思っています。 穗苅 実加 経営学部/ 3 回生 思いやりや気遣いは素敵なものですが、その形は相手の気持ちによって形を変えます。傾聴やコミュニケーションによりはじめて、思いやりがあるべき姿となることを、この冊子に関わるメンバーから教わりました。微力ながらも編集に携わらせて頂けた事を、心から感謝致します。 松波 実咲 理工学部/ 2 回生 私はこれまで、障害学生が授業を受ける際の配慮は、障害学生、教職員、サポート学生で完結すると思っていました。しかし、本冊子の制作に携わることで、良い意味で周りを巻きこむ重要性を学びました。本冊子が「障害」を通して誰もが主体的に学べる環境について考える架け橋となれば嬉しく思います。 栁平 大樹 法学部/ 3 回生 FD 冊子の作成を通じて、いろいろな人と出会うことができました。そんなつながりを与えてくれたのは、障害学生支援の輪だと思います。この冊子がそんな輪を広げる懸け橋になってくれたらうれしいです。 山岸 蒼太 産業社会学部/ 4 回生 本冊子のテーマであるだれもが学びやすい授業を実現することの必要性は頭でわかっていても、それを具体化することは非常に難しい。編集会議や勉強会を通して、この問題を改めて考えさせられた。決まった答えがあるわけではないと思うが、この問題を考え続けることの大切さを感じた。 米田 大樹 理工学部/ 3 回生  授業改善のこと、障害のこと、意思疎通のこと、配慮のことなど、私はこの企画でたくさんのことを知り、考えてきました。編集後記の字数制限内では書ききれない程です。これを読む人にも沢山のことを考える機会になれば幸いです。そして日々の生活が良い方向に向かえば良いですね。 大学と障害学生 二○一六年三月三一日 執筆者一覧 市地美菜実 植松洸佑 小出優子 古閑円佳 中村夏子 難波巧 穗苅実加 松波実咲 栁平大樹 山岸蒼太 米田大樹 編集者 障害学生支援室(牧野容子 木谷恵 小泉雪奈) 発行 立命館大学 障害学生支援室 〒六〇三―八五七七 京都市北区等持院北町五六―一