(表紙)【冊子版】理系ノートの取り方講座 立命館大学学生オフィス P1 はじめに この冊子は、2017年度前期に障害学生支援室のサポートスタッフとサポート利用学生によって実施された『理系ノートの取り方講座』の内容を、同メンバーがまとめたものです。 まず、本企画が始まったきっかけとして、学生の中には同時並行する作業が苦手で授業についていけない人がいるということがあります。 授業がわからないわけではないのですが、「板書を読むこと」と、「ノートを書くこと」を同時にするのが難しく、結果的に理解が遅れがちになってしまうのです。 学生オフィスでは学修指導の一環として、授業のノートを取ることに苦労しているこれらの学生の困りごとを解決したいと考えていました。 これまでにも学生オフィスは、より充実した学生生活のための取り組みとしての学修支援講座を実施しています。 学生オフィスの中でも障害学生支援室では、主に障害学生の大学生活サポートを行っています。 障害学生支援室のサポートの一つに「板書代筆サポート」というものがあります。 視覚障害(弱視)の学生が授業において最も苦労するのは、板書を「見る」という作業です。この見る作業をサポートスタッフが行い、障害学生の代わりに授業のノートを取るのが板書代筆サポートです。 特に理系の授業では板書を使った説明が多いので、重要なサポートのひとつです。 障害学生支援室が取り組んでいる板書代筆のノウハウが、ノートの取り方に困っている学生の参考として役に立つということで、「理系のノートの取り方講座」が企画されたのです。 P2 障害学生に向けたサポートを行っている障害学生支援室が、なぜ「ノートの取り方講座を?」と思うかもしれません。 障害ゆえに顕著に生じている問題を解消することが、障害の有無に関わらず、全ての学生の困りごとを解決するのにも役に立つという事例は、実はよくあるのです。 特に理系授業の板書量の多さには、学生は誰でも多かれ少なかれ難しさを感じるところでしょう。 それならばむしろ、全ての学生が参考にできるような講座にしよう、ということになりました。 もちろん障害学生支援室のサポートスタッフも障害学生も、ノートの取り方に関する困りごとの全てを解決できたわけではありません。 しかし、「いろいろ工夫はしてみたけれど、やっぱりノートを取るのは苦手だな」という学生も、ここで紹介されている工夫を参考にすれば、今までとは違った良い解決策が見つかるかもしれません。 今回は障害学生支援室が関わることで、「障害学生の困りごと」というこれまでと違う着想から企画がスタートしています。 障害学生の視点から問題を考えることが、大学生全体の学修支援へ繋がるという「授業のユニバーサルデザイン化」に結びついたという点で、本企画は大きな意義を持っているのではないでしょうか。 学生の皆さまへ もし授業で何か困りごとがあるなら、ここで紹介する内容をいくつか参考に試してみてください。そのうちのひとつでも役立ててもらいたいです。 教員の皆さまへ ここでは具体的なノートの取り方の他にも、学生が感じる困りごとも併せて紹介しています。学生が日頃どのようなところに戸惑いを感じているかを知っていただければと思います。 P3 目次 Part. I 自分でできること 1. 修士課程に在籍する先輩の体験談 1.1 完璧主義からの脱却 1.2 優先順位を決めてみよう 2. ノートを取る工夫の例 Part. II 後からなんでもできる! 1. 前提条件 2. まずは自分でやってみる 3. 他人に頼ってみる P4 冊子版 理系ノートの取り方講座 Part. I 自分でできること P5 1 修士課程に在籍する先輩の体験談               1.1 完璧主義からの脱却                     授業を受けるというのは、とても集中力が必要です。授業中、僕たちはやることがたくさんあります。 先生の話を聞くこと、板書を読むこと、ノートに写すこと、そして内容を理解すること。これらの作業を、同時に90分間もやり続けないといけません。 でも90分間も、「難易度高けぇな?。」という人も多いはず。 実は米田(執筆者)もそのひとりなんです。授業で、話を聞いて、理解して、ノートを綺麗に写して…。そうしていると、しばしば眠くなってきます。 居眠りしたり、ぼーっとしたりすること多いですよね。 でも、誤解してほしくないのは、別にやる気がないわけではないし、毎日夜更かししているわけでもないことなんです。 自分で言うのもなんですが、むしろ僕はバカまじめで完璧主義でした。先生の話はちゃんと聞かないといけない。 そしてその内容を頭で理解しないといけない。ノートも後から見てわかりやすいように、綺麗に書かないといけない…。 でも、そうやって気をすり減らして、長く机に座ってると、米田の意識はどんどん遠のいていくんです。 原因はまったくわからない!こんなに真面目にやろうとしてるのに! 「居眠りするのは僕のやる気が足りてないからなんだろうか?」周りから見るとふざけたやつだと思います。 寝るなんて、前で一生懸命話している先生には申し訳ないですし、クラスの他の学生の雰囲気を悪くしてしまうかもしれない。 一体こいつは(僕ですけど)、「何しに大学に来ているんだろうか?」「大学まで昼寝しに来てんのか?」そうやって一時期、本気で悩んでいました。 そして、大学に入学して1年ちょっとたった頃に、悩むのにも疲れちゃって、もう諦めました。授業を聴きながら、板書読んで、写して、理解する。全部やるっていうやり方 P6 は、僕には合ってないんだと、言い訳して、全部を完璧にやるってことを、諦めました。 とはいえ、「高い学費を親の金で賄って、働きもせず、無駄に4年間過ごすわけにはいかんぞ!」と、僕は結局、またかなり悩んでました。 大学生は「やっぱり自分で勉強していかないといけない」と言われますが、本当に一人だけで学修できるなら、大学に来なくても良いわけです。 せっかく授業で、大事な部分を先生がまとめて説明してくれているのだから、できれば授業をうまく活用して学修したいわけですよね。 今問題になっているのは、授業中の様々な作業を全部、完璧にこなそうとしているから、つまずいて、ついて行けなくなって、全部ができない状態になって、 「やばい!」となっていることですよね。 じゃぁ、思い切っていくつかの作業を諦めてしまったらどうかと思いました。 1.2 優先順位をつけてみよう                優先順位をつけて、自分にとって大切なことに絞って、「これだけは少なくともやる」ということを決める。思い切ってこうしたらどうでしょうか。 もちろん、全部やれるに越したことはないんですよ。 でも、大学の授業内容ってすごく沢山あって、ぶっちゃけ、授業内だけで理解できるようなカリキュラムにはなってません。 もっと上回生になってから、実際に応用してみて初めて理解できる概念もあるので「そういうものがあるんだなー」というくらいのザックリした理解の方が良いこともあります。 だから、授業でできることを、何個かに絞ってみましょう。例えば、内容が難しくて理解できないなら、ノートをとることだけは最低限やると決めて、後の2つの作業は余裕 P7 があるときだけにするとか。例えば、ノート取るのがどうしても苦手なら、先生の話を聞き逃さないことだけに集中する。 そして単語だけ、数式だけ、ノートにとっておくとか…。 でも、何を優先的にやるべきかは、授業内容によっても、先生によっても、 受講する皆さんの状態によっても、違うと思います。 具体的にどんな優先順位をつけて、どんなやり方があるのか?ノートの取り方をメインにして、参考になりそうないくつかの授業の受け方を今日は紹介します。 完璧じゃないなりの工夫をしましょう。  例えばどんな優先順位をつけて、どんなやり方があるのか、「ノートの取り方」をメインにして、ご紹介します。 2 ノートを取る工夫の例                ここでは、次のような3つの例を紹介します : とにかくノートを取ることに集中する例 予習をすることに重点を置き、メモを取ることに集中する例 先生の話を聞くことを最重視する例 2.1 とにかくノートをとる                      授業でやるべき作業で一番大切なことは、「ノートを取る」こと。 内容を「理解する」ことは、授業中にはできない。 「話を聴く」ことは大切だが、聞いたことをメモしておかないと、すぐ忘れてしまう。 先生が黒板に書く板書は、授業の内容がある程度まとめられている。 板書をノートに取っておけば、わかりやすい参考書が、手元にできたのと同じ。 そのノートを見ればいつでも復習できる。 例えば、『微分ってなんだったっけ?』と、わからなくなったとしても、『たしか?、数学1とかでやったかな?』っていうことだけ覚えておけば、数学1のノートを読み直して、その解き方なんかも探すことができる。 「レポート課題がわからない!」というときも、ノートがあれば、友人や先生に、「授業でこんな風に勉強したんですけど、ここはどういう意味なんですかね?」と質問できる。(Part. IIも参照) P8 ノートは、授業後復習するときに、内容を思い出す手がかり。自分が読めれば良い。 あまりじっくり時間をかけて丁寧に綺麗にノートを取る必要はない。 ノートを丁寧に取りすぎると、板書の早い先生にはついて行けない。 板書を写すことを優先するなら、綺麗さは諦めることが大切。 自分が読めれば良い。汚い字で構わない。 書くスピードを上げるために、シャープペンではなくボールペンを使う。その色も2色だけ。間違えたら「ぐちゃぐちゃ」と消しても良い。 注意することは、余白は必ず多めに取ること。 例えば、図の部分に先生が説明しながら板書を付け足すことがある。そのような場合には、例のように赤ペンで書き足している。 基本は書くことだけに徹するが、余裕があるときには赤ペンで簡単にメモする。 (とにかくノートを取ることに集中したノート例の図あり) P9 とにかくノートをとる場合のポイント 自分が読めれば良いので、綺麗に書く必要はない。 図も定規などは使わない。 注意することは、余白は必ず多めに取ること。 基本は書くことだけに徹するが、余裕があるときには赤ペンで簡単にメモする。 2.2 予習をする                       書くことだけに集中しても、それでも授業スピードに追いつけない。 そんな人は予習をしっかりするという方法がある。 大学の授業の多くはシラバスを見れば、次の授業の内容がわかるので、その内容を授業日までに予習する。 大学3回生までの授業なら、指定教科書か、図書館で参考書を探して読めば、だいたい授業内容は書いてあるはず。 それを、あらかじめ自分でノート(メモ用紙などでも良い)にまとめてみる。 文章を丸写しする必要はなく、箇条書きで要点でだけ控えておく。 予習をすると、わからないことがたくさん出てくる。そこで、わからないことはノートにメモしておく。 それにより、「どこがわからないところか」を事前に把握できる。 授業では、その箇所を特に集中して聞くようにする。 P10 (a)予習ノートの図あり (b)授業内での書き込みの図あり 予習をする場合のポイント 予習ノートはある程度綺麗に書いても構わない。(汚くてOK!) 箇条書きで、流れを把握するように書いておくと良い。 どこがわからないところか、をはっきりメモしておく。 授業中はとにかくメモに徹する。 2.3 聞くことを最優先にする場合                      板書を写すことよりも、「聞くこと」を最優先にする場合 ここで紹介する例は、目に障害があって、黒板の字を認識するのに時間がかかってしまう障害学生が実践しているノートの取り方。 P11 一言で言えば、「聞くことに徹する」。 書くことに徹する場合のノート例図あり 先生が話していない時や、余裕があるときは板書を写すが、追いつかなくなったら、すっぱり書くことはやめる。聞くことだけに集中する。 ただ聞いてるだけなら忘れてしまうので、先生の話のメモを、ノートに書く。 特に、図や数式に関してのメモはしっかり書く。 図と数式は厄介。先生の口頭説明では、板書を指差しながら、「この式をここに代入して、この図のこの部分がこうなるから」という説明もよくある。 指示語だらけで、これをそのままメモしても、意味がわからなくなるので、最低限わかる程度に式と図の板書を写しておく。 余計な黒板の情報は、どんどん削って写す。 まず、「先生が喋ったことをメモ」する。ただし、メモだけではよくわからないので、「数式」も簡単に写す。 数式について、授業で途中計算をすることが多いが、あとで復習してなんとかする。 途中式だと思ったら、書かなくても良い。 P12 Fig.3 に示したノート例の空白部分 : 黒板には何か書いてるが、途中式なので空白にして、写していない。 こんな虫食いだらけのノートで、復習できるのか? → 安心してください、大丈夫ですよ。 友人にノートを見せてもらうなど、復習の仕方次第でいくらでも取り戻せる。 あとからなんとでもなる。 聞くことを最優先する場合のポイント 余計な黒板の情報は、どんどん削る。 教科書に出てるような、長い説明も、教科書を読めばわかるので、写さない。 何が大切で何を削るか、の判断はちょっと難しい 思い切って、写せるところだけはしっかり写していくスタンスで P13 Part. I のまとめ 本節ではノートの取り方の例をいくつか紹介しました : 1 ノートをとることに徹するやり方 2 予習してきて、わからない部分を集中して聞くやり方 3 先生の話に集中して、そのメモをノートに書くやり方 そして、次のようなこともお話ししました : 授業中は綺麗にノートを書く必要はないこと 余白は必ず大きくとること イイ感じの文房具を使ってみること 重要なことは、 授業中、すべての作業を完璧にやらなくても大丈夫だ ということです。授業を有効に活用するために、自分にとって大切なことを、優先順位をつけて、できることからやってみてください。本節で紹介した工夫の中から、自分に合ってそうな部分を組み合わせたりして、自分にベストな授業の受け方を是非見つけてみてください。 P14 Part. II 後からなんでもできる! ~授業後の工夫とリソースの活用~ P15 1 前提条件                   大学の授業は、その場で全て理解することは難しい。 教員も、学生が授業時間内に理解できるとは考えていない。 内容が授業中に理解できないことは悪いことではない。 その代わり、授業後に復習することが必要になってくる。 復習の方法にはいくつかある : 1 自分でノート・教科書を読み返して考えてみる。 2 自分で図書館・インターネットなどを使い調べてみる。 3 教員に質問に行く。 4 物理駆け込み寺、数学学修相談会などを活用してみる。 まずは、その中でも「自分でできること」を紹介します : 2 まずは自分でやってみる                  自分が授業中に書いたノートには、情報がたくさんある。 例えば、自分で予習をしたところ、板書を写したところ、先生が話した内容をメモしたところ。 早いうちに復習しないと、ただの「情報の羅列」になってしまう。 授業後はなるべく早く復習することが必要。 復習するときには、「自分でノートの内容が説明できるか」に注意しながら行うのがオススメ。 いくつか、復習の例を示す : 復習の例 まずはノートを読んでみる (お茶でも飲みながら・・・) 授業中に、「後で書こう!」と思ったことを書いておく 紙1枚に授業の内容を箇条書きにしてみる まとめノートを作る まとめノートを作るときは、「綺麗にまとめすぎない」ことに注意。 まとめノートにもある程度余白を用意しておけば、後で「ここはこういう意味だったんだ!」と気付いたときに書き込める。 P16 その他の方法としては : 1 他人に説明するように読んでみる                        式変形のやり方を、言葉で説明してみる。 ・・「式(1)に式(5)を代入して、近似をすると式(6)が得られる。」 専門用語の意味を、簡単に言い換えてみる。 ・・「“線型”というのは、“正比例”みたいなものだ。」 先生がどういう風に説明をしていたか?を思い出しながら。 2 数式を日本語や図で表現してみる                        教科書には「式」しか載っていないが、授業中に「図」やその「意味」を教員が説明することは多々ある。 難しい数式を見たら、「自分に一番しっくりくるような言い換え」を考えてみる。図や日本語を使って表現すると、少し考えやすい。 この作業はとても難しいが、「自分がわからないところ」を発見するのに役立つ。 何度か練習するうちに、どういう「イメージ」が自分に合うかをなんとなくでもつかむことができるかもしれない。 例えば、「数学」の場合。 線形写像の「像(image)」という概念が出てくる。 数式による定義は、次のようなもの: この式では、理解しづらいときは次の図のように考えてみると良い: (解説の図あり) 日本語で表現すると、「 T というルールでUの中身 u を全部 V 側へ写したときにできた集まりが Im(T) 」とか。 余談 ここで挙げた「線型代数」は、数学「III/IV」に該当する。 よく「線型代数」は「初めて習ったときにはよくわからないけれど、後々その重要性に気づく科目No.1」と言われる。 P17 私 (執筆者) も、初めて習ったときはよく意味がわからないところが多かった。 (これに限らず) 学習を進めて行くうちにわかってくることもあるので、焦らずに。 このように、自分で復習して行くと必ずわからないところが出てくる。 例えば、A = Bのような式でも、「なぜ A と B は等しいんだろう?」と思うことがよくある。 例えば、可能性として、 1 ゴリゴリやればわかる単純計算が省略されている。 (算数みたいな) 2 何か数学的な定理を使っている。 (例えば、テイラー展開) 3 何か物理的な法則を使っている。 (例えば、「運動方程式 ma = F」) この2. と3. の場合には、「自分が知らないと気づかない」可能性が高い。 そういうときは、他人に頼りましょう! 3 他人に頼ってみる                   自分で復習をしてみてわからないときには、次のようなことをしてみてはどうでしょうか : 1.本やインターネットで調べてみる 手軽だが、合っているかが自分ではわからないことがある。 条件や設定が授業と異なっていて、混乱することがある。 情報が間違っていることが多々ある。 (書籍であっても!) 2.先生に聞いてみる 例えば、授業前後に教室で。あるいは個人研究室を訪ねてみる。 授業内容/質問内容に直結した回答が得られる可能性が高い。 話しづらい。怒られるかもしれない。 (?) 先生の言っている内容がわからないかもしれない。 多くの先生は質問してほしいと思っている。 先生はすぐ怒る悪魔ではない! わからない点をはっきりさせる、事前にアポイントメントをとる必要があることも。 3.物理駆け込み寺 / 数学学修相談会を利用してみる 自分と同じ授業を受けていた先輩がいる可能性が高い。 P18 入りづらい。 (よくわかります) 物理駆け込み寺には、「物理科学」などを担当する本職の先生の他に、博士課程の卒業生や修士課程/学部学生講師がいる。 物理駆け込み寺ではあるが、電子系、機械系、都市系などの質問も対応。 P19 結言 先生に質問をしたり、駆け込み寺に行ったりしても、 自分の満足いく回答が得られないことも多々あるはずです。 先生や学生講師の中には、「自分に合わない」人もいるものです。ですが、 その人が質問できる地球上で唯一の人ではない! ことを忘れずに、諦めず、他の人にも聞いてみることをお勧めします。 「頼れる他人」はきっと見つかるはずです! Never give up... 学生オフィス 「冊子版・理系ノートの取り方講座」 編集 米田 大樹(理工学研究科 基礎理工学専攻 修士1回生) 難波 巧(理工学部 電気電子工学科 4回生) 松波 実咲(理工学部 物理科学科 4回生) イラスト協力 : 松本愛未 【発行】 立命館大学 学生オフィス 【発行日】 2018年3月31日