酒田短期大学
最近テレビなどで、時々取り上げられているので、この短大をご存じのかたもいるかと思われる。減る日本人に替わって、中国人を相当の割合で受け入れたのであるが、東京にかなりの数の留学生が働きながらいるとか、奨学金が渡たされないままであるなどで、留学生の受け入れは外務省から禁止、急遽募集した今年度の日本人の応募者はゼロ、しかも、教職員への給与未払いの状態が続くなど,閉校・廃校必死の短大である。
普通の人は、地方の短大は苦しいのでつぶれるところが出てきても仕方がないかという程度であろう。しかしながら、私はほんの3年前の1月に前任校から、編入学の関係で酒田短大に行ったことがある。庄内地方にはまだ行ったことがなかったので、自分から喜んでいったのである。1月の日本海沿いは冬景色で、積雪量こそ少なかったものの、どんよりとした鉛色の空とちらつく雪が私を迎えてくれた。当日飛行機は庄内空港にはなかなか降りられずもうすこしで東京に引き返すところであった。
しかし短大に着くと中は暖かく、建物も新しく清潔であった。その当時対応してくれた短大の先生も親切であり、寒く湿った気候によって憂鬱な気分になっていた私の心を和らげてくれた。対応してくれた先生は、少し東北なまりの言葉で、「ここはいいところですよ、鳥海山がきれいに見えますよ」と満足げな様子で語ってくれたのを今でも覚えている。太平洋側とは正反対の気候を見せる冬はひたすら春を待ちかねているのであろうか。この時期にきたのは間違いで、暖かい季節にくると春の良さがわかるのであろう。
一学年の定員が100名程度の小さな短大は、高校よりも小さく、都会の大学からするとほとんど目にとまらない短大ではあるが、そこにはそれなりに教育をし、卒業生を送り出してきた歴史があるのである。専任教員も7名程度ある。少人数教育とよくいわれるが、これこそまさしく少人数教育であろう。私には、そのときの気候と相まって、私に暖かさと若干の勇気を与えてくれた。
これが3年前の印象であり、ほんとにいろんな意味で行ってよかったと思っている。酒田短大を思い出すと、なぜか気持ちが和らぐであった。それがよりによってこのありさまでである。山形新聞によると、約5億円の使途不明金がありこれが一連の不祥事のもともとの原因ともいわれている。今頃あの先生はどうしているのであろうか。最近では短大のホームページも実質的になくなってしまった。地方の短大が消えていくのは時代の流れかもしれないが、だがそこには、一度しかない青春を過ごした多くの人々の思いがある。またそこで働く人々も同様である。
それにつけても思うのは、経営者・トップの重要性である。この短大の場合、日本人をあきらめて、中国人を無理に集めたことが、経営判断の間違いであったことになる。4年制の大学が最近酒田市に新設されたことを考えると、これに乗る手もあったかもしれない。そうなっても延命策にすぎないかもしれないが、今回の事態よりもましであろう。最近の大学は大きく変容しようとしている。このなかで、沈まないようにあるいは沈みかたを最小限にし、相対的な地位を上昇させるよいチャンスでもある。この中で浮かび上がってくる一つのパターンは、経営戦略・教育方針がはっきりして大学である。予備校や高校から一定の評価を受ければ、かなり違ってくるであろう。トップの経営方針が曖昧であったり元気がなかったりすれば、それは必ず外部に何らかの形で表れるのである。