(このファイルは、大学で発行している1回生用の冊子step up経済学に書いた原稿です。作成日、2001年3月)

表1

 

1820年

1992年

比率

1820−1992年

 

 

 

(1992/1820)

年成長率(%)

世界人口(百万)

1068

5441

5

0.95

世界の一人当たりGDP(ドル)

651

5145

8

1.21

世界GDP(億ドル)

6950

279950

40

2.17

世界輸出(億ドル)

70

37860

541

3.73

OECD、Monitoring the world economy 1820-1992 、ドル表示の値はすべて実質、1990年基準)

 

 表1は1820年と1992年の世界のGDP(国内総生産)などを比較したものである。ドル表示の値は物価の要因を考慮した実質値である。世界の経済規模を示すGDP1982年から1992年の間に、40倍にもなり、年平均では2.17%の成長であった。ただし人口も1%弱の増加率であったので、一人当たりに直すと、1%強の増加になる。この結果一人あたりでは8倍にとどまっている。国によっては、国全体の成長が人口増加に相殺されて、一人当たりでは成長が0のところもある。輸出はGDP以上の成長を遂げ、対GDP比すなわち貿易依存度は、1820年では1%程度であったのが、13.5%にまで上昇した。世界は、国際間の相互依存を深めてきたことになる。右2つの項を比較すると、成長率のわずかな差でも、100年以上にもなると、かなりの開きになることがわかる。

 

2

 

名目GDP(1998年)

一人当たり

実質GDP成長率

 

億ドル

シェアー

GDP(ドル)

(1996〜99平均)

世界計

2822252

100.0

4893

3.6

先進国

224350

79.5

24927

3.1

 アメリカ

82304

29.2

30825

4.2

 日本

37830

13.4

30023

1.1

 EU15

83369

29.5

22172

2.3

  ドイツ

21342

7.6

26027

1.5

  フランス

14270

5.1

24603

2.3

 アジアNIES

8388

3.0

11184

4.4

途上国

49836

17.7

1182

4.9

 中国

9590

3.4

780

8.3

 インド

4300

1.5

460

6.2

 中南米

19618

7.0

4028

2.9

 アフリカ

3198

1.1

433

3.5

市場経済移行国

8066

2.9

2017

0.7

 ロシア

2766

1.0

1869

-1.1

(世界経済白書平成12年度より、作成)

 

 

 

 

 

  2は世界のさまざまな地域や国を、最近のGDPからみたものである。左から名目GDP、一人当たりGDP、実質経済成長率(1996年から99の平均)、が示されている。世界を3つの地域、先進国、途上国、市場経済移行国に分けている。名目GDPでみると世界の国内総生産のうち、先進諸国が約80%を占めていることがわかる。その他の国々は、残りの20%を分かち合っていることになる。表にはないが先進国の人口は世界の約15%である。したがって15%の人が世界の8割の所得を占めているもしくは生産していることになる。この結果一人当たりでみると、表にあるように格差はかなり大きいことになる。最も低いアフリカはわずか433ドルである。つまり、1年間で国内総生産が現在の為替レート換算で一人約5万円であり、日本と比べると、70倍もの開きがある。単純計算だとアフリカの人が、日本に来て1年間働くと、アフリカでの70年分の所得を得ることになる。ただし物価の水準は先進国ほど高くなるので、実際の生活水準の格差は一人当たりGDPほど開かない。

かつてアメリカと覇権を争っていたロシアは、軍事大国であるものの、マイナス成長が続いたことにより経済水準では明らかに途上国の分類になる。最近の成長率でも、この表では唯一マイナス成長となっている。市場経済移行国とは、旧ソ連の経済体制下にあった地域で、主に旧ソ連と東欧である。社会主義経済から資本主義あるいは市場経済へ移行しつつある経済地域という意味である。中国は独自の社会主義市場経済国なので入らない。一方アメリカの経済規模は、一国では群を抜いている。日本は人口では2%程度にも拘らず、経済規模は大きい。人口世界一の中国は高度成長を続けており、一人当たりでは少ないものの、世界に占める経済規模は今後徐々に大きくなるものと考えられる。

成長率に目を移してみよう。先進国では、アメリカが経済の好調を反映して比較的高いのに対し、日本は長引く不況から低くなっている。この低成長は近年の日本でも、現在の世界の中でもかなり低いほうである。先進国にはかつては途上国であった韓国や台湾がアジアNIESとして含まれている。成長率は4.4%であるが、アジア危機の年(98年)を除くと7%近くの成長になり、今後もこの程度の高成長が見込まれている。一人当たりGDPの格差すなわち、経済水準の格差は、将来どうなるのであろうか。これは成長論において収束性といわれている問題である。経済水準が低い国ほど高い成長率であれば後発国は追いつくことができ、格差は縮小し同じ経済水準へと収束していく。成長率で見ると、途上国(4.9)のほうが先進国(3.1)を上回っている。この意味では、貧しい国は、豊かな先進国よりも、より成長しより豊かになりつつあるともいえる。しかしながら、これは国全体の話であり、途上国の人口成長率が高いことを考慮すると、一人当たりでは、必ずしも途上国が高いとは言い切れなくなる。詳細な説明は省略するが、世界全体では必ずしも収束性は見られないものの、特定の地域や時代では、収束性はある。

このように世界全体の所得の不平等の問題、すなわち所得分配の問題があるが、同様に国内においても所得の分配の問題がある。中国における沿海部と内陸部との経済格差はかなり大きいものがある。またインドにおいては、富める層は1億人以上いるともいわれている。アメリカにおいては、所得分布の最も低い階層は、ここ20年以上実質所得が増加していないともいわれている。ただし所得分配は平等であればあるほどよいとは必ずしもいえない。

以上GDPの表を中心に見てきたが、ここで述べた他にも表から読み取れることはある。さまざまなことを推測・想像してもらいたい。単なる数値が生きたものになるであろう。

世界経済の成長と格差