立命館大学総合科学技術研究機構 教授
1983年、東京大学工学部航空学科卒業、1988年、同大学院博士課程修了、工学博士。日本アイ・ビー・エムで人工知能や自動化工場に関する研究を行う。1990年、東京大学航空学科講師。東京大学先端科学技術研究センター助教授、アメリカでの客員研究員を経て、2004年、東京大学航空宇宙工学専攻教授。専門分野は宇宙工学と知能工学。2003年、世界で初めての1㎏人工衛星の打ち上げ成功後、現在まで超小型人工衛星16機の打ち上げに成功。2012年~2022年まで内閣府宇宙政策委員会委員、基本政策部会長など歴任。超小型人工衛星、宇宙システムの知能化・自律化、革新的宇宙システム、航法誘導制御等の研究と教育に携わる。2026年4月より立命館大学総合科学技術研究機構 教授、立命館大学学長特別補佐。2028年4月より宇宙地球フロンティア研究科 研究科長就任予定。
超小型衛星とは、重量100kg以下の人工衛星です。具体的には100kg以下はマイクロサット、10kg以下はナノサット、1kg以下ならピコサットと呼ばれます。私たちは2003年に「CubeSat-XI(キューブサット・サイ)」、すなわち重量1kgで縦・横・高さ10cmの超小型衛星の打ち上げに、世界で初めて成功しました。その制作費は約300万円と、1基あたり数百億円単位の資金を必要とする大型衛星とは桁違いの低コストに収められています。しかも打ち上げから20年以上経った今でも、バッテリーや半導体に何の支障もなく、宇宙空間で稼動し続けています。
このような成果を達成できた秘密は、発想の転換にあります。既存の大型衛星をベースとして、それを小型化しようと考えるのではなく、最初から完成時のサイズと重量をピコサットレベルに設定し、その実現のためにはどうすればよいかとゼロベースから考えていきました。予算の制限も、それをあえて前向きに捉え、その中でどんな衛星ができるかを考えることで、安価でビジネスにつながる衛星になります。その結果、秋葉原など一般の電子部品点で入手できる民生用部品だけを使った衛星の創出に成功しています。
超小型衛星は、開発期間も大幅に短縮できます。大型衛星が5年以上かかるのに対して、超小型衛星なら早ければ1年で開発可能です。もちろんサイズによる制約はあります。たとえば画像収集に必要なカメラは、コンパクトなものしか収納できないし、搭載できる半導体の数も限られてきます。
だからこそ新たな発想に基づく工夫が求められるのです。半導体については同じ機能を持つものを予備として複数搭載する「単純冗長」ではなく、異なる機能を持つ複数の半導体がお互いの機能をカバーし合う「機能冗長」を導入しています。これにより限られてスペースでも、万一のトラブルに対して柔軟対応できるのです。
100㎏以下の衛星のカメラは現時点でも、地上にある860cmの物体を見分けられる分解能を実現しています。さらに分解能を高めるために挑戦しているのがフォーメーションフライング、すなわち数7基の超小型衛星を宇宙空間で精密に連動させ、その空間に配置したサイズの口径30mクラスの巨大な仮想カメラとして機能させる試みです。同じく4基の衛星を4隅に使い、数百メートルサイズの受光幕を広げる「ふろしき衛星」という太陽光発電ミッションも視野に入れています。
研究開発の追い風となっているのが、マイクロエレクトロニクス分野で進む小型化です。センサなどもコンパクトになったため、現状では重量50kgクラスの衛星でも、その能力を30年前の1tクラスの大型衛星と同レベルにまで高められています。それでも製造コストは大型衛星の100分の1以下です。低コストで人工衛星を提供できれば、さまざまなプレイヤーが宇宙開発に参入しやすくなります。
私たちも複数の課題に挑戦します。たとえば深宇宙までの宇宙科学探索のために超小型衛星の一部機能を冬眠させるシステムや、宇宙での光通信の実現と宇宙空間でのデータセンター構築によるデータの集約と高速処理などアイデアは次々と湧き出てきます。一方では超小型衛星に最適化された製造法の進化から、さらなる低コスト化と高信頼度の両立などの課題もあります。それらの解消と宇宙関連研究を加速するために、モノづくりに強い関西企業との連携を深めるのに加えて、人材育成にも取り組んでいきます。