RS学園通信「2022年度全学協議会確認文書」 目次 ■本文書の位置づけ この『2022年度全学協議会確認文書』は、2022年10月28日に公開で開催した2022年度第1回全学協議会での議論を中心に、全学協議会開催に至るプロセスを通じて行われた今後の大学づくりについての協議内容をまとめたものです。 本文書は全2章で構成しています。全学協議会で設定された議題にもとづいて、第Ⅰ章は「2019年度全学協議会以降の議論経過と今後の教学・大学づくりに関わる議論に向けて」、第Ⅱ章は「R2030チャレンジ・デザインの今後の取り組みに向けて」とし、最後に、2022年度の協議を重ねる中で確認された全学協議会の意義と将来的な展望の方向性を示しています。 はじめに 全学協議会とは 全学協議会は、本学において、大学という「学びのコミュニティ」を構成する学部学生(以下、学生という)、大学院生(以下、院生という)、教職員および大学が、教育・研究、学生生活の諸条件の改革・改善に主体的に関わり、協議するために設置された機関です。全学協議会は、大学を構成する全ての構成員が自治に参加する「全構成員自治」の考えのもと、学生の自治組織である学友会、院生の自治組織である院生協議会連合会(以下、院生協議会という)、教職員組合、大学(学部長が理事として参加する常任理事会)の4つのパートと、学生生活を支援する立命館生活協同組合(オブザーバー)で構成されています。 2022年度は公開での全学協議会に先立って、2022年6月3日に、各パートの代表者が出席する全学協議会代表者会議を開催しました。 立命館学園の中期計画と全学協議会での議論 立命館大学は普遍的な価値の創造と人類的な諸課題の解明のため、持続的に教育・研究の質向上や多様化を推進してきました。 2010年度に策定した中期計画R2020では、「Creating a Future Beyond Borders ⾃分を超える、未来をつくる」を掲げ、計画期間(2011~2020年度)を通じて、教育と学びの質転換、グローバル化を基軸とした各学部・研究科における教学展開、大学院政策および研究高度化、教育基盤の整備・拡充に取り組んできました。このR2020期間には、2011年度、2016年度、2018年度、2019年度に公開での全学協議会が開催されました。これらの全学協議会では、学生・院生の主体性・能動性を育む「学びと成⻑」を軸とした議論が展開され、学費・財政政策に関しても、中期計画や社会情勢変化とともに「学びと成長」を学生・院生がどのように実感できているかという観点を踏まえた学費の重みが議論の重要なテーマになりました。 大学は、2021年度からスタートする10年間の中期計画R2030として、2018年度には学園ビジョンR2030「挑戦をもっと自由に Challenge your mind Change our future」を定めました。その後、2020年度には、新型コロナウイルス禍によって社会・生活全体に大きな混乱と変化がもたらされる中、学園ビジョンの実現を目指す基本課題としてR2030チャレンジ・デザインを策定しました。新型コロナウイルス禍によってそれまでの当たり前が一変し、確定的な将来像を描くことの困難性が生じました。また同時に、従来は想定していなかったような新たな展開が生まれる可能性も想定する必要があり、これらの観点をしっかりとふまえながら中期計画を策定・遂行することが求められることになりました。 2020年度および2021年度に行われた全学協議会代表者会議では、新型コロナウイルス禍による混乱に伴う学習・学生生活の厳しい実態についての学生・院生からの指摘を真摯に受け止めつつ、緊急事態下にあっても学びを継続するために取り組むべき対応策、そしてその前提となる大学としての基本的な姿勢や考え方について議論を行いました。その議論は、立命館が研究・教育機関として提供する価値や、不確実性の時代の中で、共に学び続け、成⻑し続けることの重要性への認識を深める機会となりました。さらに、大学、教育、研究のあり方に関わる論点のひとつとして、全学協議会の意義や議論のあり方をあらためて捉え直す契機にもなったといえます。 2022年度の全学協議会では、このような議論経過をふまえ、R2030チャレンジ・デザインの具現化に向けた⽅向性を示す議論、今後の教学・大学づくりのあり方に関わる議論が求められることとなりました。 第Ⅰ章 2019年度全学協議会以降の議論経過と今後の教学・大学づくりに関わる議論に向けて 1.2019年度全学協議会と新型コロナウイルス禍の中での全学協議会代表者会議(2020年度・2021年度) 2019年10月に開催された前回の全学協議会では、「学びの実感」が重要なキーワードのひとつとなりました。学びの実感は、新たな挑戦や目標に向かう力の源泉となります。 大学は、この全学協議会の議論において、①学生一人ひとりが確かな学びの実感を得ながら充実した大学生活を送ることをいっそう重視すること、②キャンパス内外において、学びの楽しさと成果を実感できる場を学生と教職員がともに創り上げていくこと、③より一層の大学院教学の充実につながるよう、院生の実態やニーズを十分に把握した上で施策を実践すること、などを確認しました。また、学友会は、学費・財政政策が、教学課題や学生生活をはじめとした学園創造との関わりの中で議論されるべきものであるとの立場を示した上で、①今後の学費について協議するにあたり、前提となる学園財政などについての情報公開・提供といった可視化の取り組みを⼗分に行うこと、②可視化された情報を踏まえた財政に関わる学習会や懇談会といった機会を持つこと、③2030年度にむけた中期計画において学費への依存度を下げる取り組み(寄付、資産運⽤等)を具体化すること、についての要望を出しました。院⽣協議会は、2017年度に大幅に引き下げられた⼤学院学費が維持されたことを高く評価し、この考え⽅を継続することと合わせて、キャリアパス支援制度のさらなる⾼度化に対する要望を出しました。 その直後の2019年度末から新型コロナウイルスが急速に蔓延し、世界的な危機状態に陥りました。⼤学は、学生・院生の学びを止めないための緊急対応に取り組むことを表明し、オンライン・ハイブリッドでの授業・教育環境の整備、図書資料の学外(自宅等)利用対応、感染拡大防止の環境・設備整備、学生・院生・生徒等への経済支援等をいち早く実行しました。 新型コロナウイルス禍によって、社会経済活動、学習・学生生活に深刻な影響がもたらされる中で、学生・院生の声、学生・院生実態を直接受け止め、大学と学生・院生が対話する場として、2020年度および2021年度に全学協議会代表者会議が開催され、大学からは総長も出席しました。本来、2021年度は公開での全学協議会が開催される年でしたが、新型コロナウイルス禍による影響などにも鑑みて、2021年度までの学費政策および授業料改定方式を1年延長して2022年度入学者に適用することを大学から各パートに説明し、2022年度にあらためて公開での全学協議会を行うこととしました。 2020年度および2021年度の全学協議会代表者会議における議論の中で、学友会は全学アンケート(学友会主催)において、新型コロナウイルス禍に伴う学習や学生生活の変化・混乱を背景に、学費の返還を要求する声が挙がっていることなど厳しい学生実態を示しました。学友会と大学は、このような事態を重く受け止め、根源から学生の声に応えるために、また「学生の学ぶ意欲を止めない」ために、学生の満足する授業とは何かという本質的な議論が重要であり、大学での学びを充実したものにするための議論の必要性を共通の認識としました。 この議論は、2019年度全学協議会における「学びの実感」についての議論からつながるものといえます。大学、そして大学の教学が過去・現在・未来の時間軸の中で運営されていることや、「よりよい⾃分、よりよい社会を探し求めて、学び、成長し続けることの⼤切さ」を再認識し、人生を通じて学び続ける場としての⼤学の使命や価値の視点に立って、全学協議会における教学や学費・財政政策に関する議論が展開されることになりました。これらの議論を通じて、大学は、学費の重みに応える教学の考え方を各パートに説明してきました。学友会は、それに呼応する形で、「大学が学びの価値提供を止めず、学生の成長実感を促す支援を今後も継続することの観点で学費・財政政策が位置づけられているという理解にある」ことの見解を示しました。この上で、学友会は「大学が学費・財政政策を議決する前に、その決定に関わる考え⽅や背景となる情勢認識について、⼤学側から丁寧な説明を受け、しっかりと理解する機会を設けてもらいたい」という趣旨の要望を2021年度全学協議会代表者会議(2022年1月開催)において主張しました。 2.2022年度全学協議会代表者会議の意義を踏まえた2022年度全学協議会の位置づけ 2021年度全学協議会代表者会議での学友会からの要望を受け、2023年度以降の学費・財政政策の提起・議決に先立って、⼤学は学友会と、学費・財政に関わる懇談会を積み重ねてきました。4回にわたる懇談を経て、大学と学友会は、①私学における学費の性質、②学費の性質を理解した上での⽴命館大学の学費・財政政策、の2点について共通の理解を持つことができました。公費助成の根本的な問題がある中で、私学における学費は現在の学生が受ける様々な教育活動に要する経費の基幹的な財源であると同時に、過去・現在・未来の長期的な時間軸の中で持続的に教育条件・環境を整備する観点で学費・財政政策が運営されています。また、収入の大部分が学費によって支えられている財政構造を踏まえた上で、立命館大学における学費・財政政策の到達として、他大学と比べて低い水準となっている収支差額や収入に対する学費の割合(依存度)等についても、懇談会を通じてしっかりと確認しました。 2023年度以降の学費・財政政策については、2022年6⽉3⽇に開催された全学協議会代表者会議において、検討・審議の過程にある内容について大学からの説明と各パートとの議論を⾏ない、その後、2022年6月15日に大学として決定しました。また、この全学協議会代表者会議以降、財政の公開・可視化への取り組みとして、大学は学友会と複数回にわたって意見交換を実施し、学友会からの意見を踏まえてR2030財政運営や財務状況等についてのホームページを刷新し、学生・院生に広く見てもらい、より理解しやすくなるよう工夫をしました。 全学協議会代表者会議での議論を通じて、大学と学友会は、公開の全学協議会では、学費を財源として実施される教学・学生生活に関する諸施策にいっそう焦点をあてた議論を行うことの方向性を確認しました。学友会は、公開の全学協議会にむけては、現在の学生の学生生活に関わる課題とともに、未来の学生に対する教学創造・教学改善の視点、つまりはR2030チャレンジ・デザインの実践を通じた将来の大学像の視点で、実質的な意見交換ができる懇談等の場を設けることの要請を出しました。また、院生協議会は、2022年度の全学協議会では、過年度から継続する院生のキャリアパスに関する議論を中心に行いたいとの要請をしました。こうした要請に応じて、大学は、懇談会等を設けて各パートとの議論を継続することを表明しました。 全学協議会代表者会議以降、大学と学友会は、教学に関連する懇談会を設け、R2030チャレンジ・デザインについての理解を互いにすり合わせながら、公開の全学協議会で議論するに相応しい具体的なテーマについて、それぞれの意見を出し合いながら検討しました。大学と院生協議会は、身近な課題を解決する懇談会を積み重ねつつ、並行して公開での全学協議会に向けたテーマについて、協議を行いました。これらの中で見出されたテーマについての議論は第Ⅱ章に取りまとめています。 3.今後の教学・大学づくりに向けた学生・院生の参画のあり方について(2022年度全学協議会での議論) 2021年度全学協議会代表者会議以降に実施された各種懇談会、2022年度全学協議会代表者会議、そして公開で行われた2022年度第1回全学協議会を通じた議論は、学園ビジョンR2030の実現にむけて、学生の声を聞きながら大学の施策を検討・具体化するという大学づくりのあり方や、今後の「大学づくりにおける学生・院生の参画のあり方」について模索し、先行的に実践する機会となりました。 2022年度第1回全学協議会において、学友会は、教学・大学づくりや学費・財政政策に関わる議論への参画について、①今後の学費・財政政策の決定に先立って、学友会との議論の場を設けること、②教学施策等の効果検証を行う際、また、それを踏まえた教学維持改善費を適⽤する際には、適切なタイミングで⼤学から学友会への説明の機会を設け、議論の機会を担保すること、③学費使途としての教学や大学づくり等の政策・施策に関して、決定への同意ではなく学友会の参画機会として双⽅の情報共有や議論を行う場を継続的に設置することの3点について要望しました。また、院生協議会からは、全学協議会は院生協議会のみでは解決できない研究環境の整備・充実の課題を前進させる場であるとの認識が示されました。あわせて、全学協議会における課題の前進とは、個別課題の具体的解決策に限らず、例えば学費と教学条件のバランス等、政策を考える上での中期的な方針についての議論が含まれるという見解が述べられました。 これらを踏まえて大学は、2022年度の公開での全学協議会までの議論の到達点を前提として、①学費・財政政策に関わる学友会との議論の場を設けること、②学生・院生のみなさんと教学や⼤学づくりに関わる多層的な議論の場を設けること(学部五者懇談会、⼤学各組織との懇談会の機会)を表明しました。また、これらの学部五者懇談会での議論や⼤学各組織との懇談会での議論は、未来の教学・大学づくりに向けた学生・院生の参画のあり方にも密接に関係するものであり、そのコーディネートは学生部が中⼼となって行うことを確認しました。 不確実性の時代にあって、今後の⼤学づくりにおいては、これまでの⽅法や枠組みを前提としない、新たな価値創造を⽬指すことが必要になります。このために、⼤学があらかじめ今後取り組む施策等を答えとして用意・提示し、その是⾮を問うということではなく、現在の、そして未来の学生・院生にとって何が必要かについて、⼤学と学生・院生がより対等な⽴場でアイデアや考えを交換し、取り組み施策の検討・具体化につなげるプロセスが必要となります。 各種の懇談会を含む2022年度の全学協議会議論では、学友会が実施したアンケートや⼤学が示す各種データ等、現在の課題や実態に関する様々なエビデンスを用いて理解を共有し、今後の方策について意⾒を交換しました。この意⾒交換は、「相互の深い理解に基づいて、将来の大学をかたちづくる創造的な対話」であり、⼤学らしい知的な営みを学生・⼤学とで創り上げることができたといえます。 全学協議会は長い歴史を持つ、立命館が誇るべき大切な財産です。全学協議会における学友会・院生協議会との議論・協議は、外部評価機関である大学基準協会による認証評価(2018年度)においても、学修者本位の観点を踏まえた質保証を推進する仕組みとしてその意義が認められています。もちろん、そのあり様は時代に応じて発展・変化をしてきましたし、これからもそうあるでしょう。新型コロナウイルス禍を経たさまざまな課題や可能性に直⾯している時代にあって、今回の全学協議会では、現在の学生・院生が直面する実態や課題について議論することを通じて、R2030の実現、すなわち未来の学生・院生の教学創造に向けた議論が展開されました。これは、立命館で培われてきた経験と特色を基盤としながら、⼤学と学生・院生のみなさんとの対話のあり⽅、共同的な教学創造、学生・院生支援のあり⽅の構築にむけた第⼀歩になったといえます。 4.今後の教学・大学づくりに向けた2022年度全学協議会における確認点 2022年度の全学協議会は、2つの点で歴史的な意味を持つ全学協議会でした。1つ目は、R2030の実現という未来に向けた取り組みを、各パートが当事者として、まさに探究しながら議論を進めることができた点です。そして2つ目は、立命館がこれまで大切にしてきた全学協議会の役割や機能、価値を改めて認識した点です。 学友会からは全学協議会議論における自身の責任について、以下のとおり再認識・再構築したことが表明されました。 ・大学が考える学費や財政政策の取り組みを理解した上で、学費の使途としての学びのあり方について議論すること。 ・現在、そして未来に予測される状況に共に向き合い、大学と共によりよい大学づくりを考える存在であること。 仲谷善雄総長からは、「2021年度全学協議会代表者会議以降の議論は、立命館が培ってきた全学協議会という制度の価値を、現代的な視点に立って実質的に高める取り組みであった」と述べられ、こうした議論を形成した学友会および院生協議会の真摯な取り組みへの謝意が示されました。 また、他の大学にはない、全学協議会という稀有な制度を持つ立命館大学だからこそできる教学・大学づくりに関して、以下の点を整理し、学友会と確認しました。 ①教学および学費等の諸政策について、大学はその決定と責任を負うことが前提であるが、政策の検討や検証プロセスにおいては、各パートにはそれぞれ大学づくりの当事者としての役割があること。 ②こうした役割認識のもと、それぞれの意見を尊重する「対話」を行うことで新たな価値や共通の課題を発見し、実質的に大学づくりに関わる機会となること。 ③こうした全学協議会の役割や機能を活かし、大学づくりとして共に政策を考え、その取り組みを互いの立場から評価することは、結果として立命館の大学づくりにおける自主的・自律的な質保証を支える仕組みとなっているということ。 2022年度全学協議会代表者会議は、大学が決定した後の学費政策に対して協議するという従来のあり方から転換し、その決定までのプロセスの一環に位置付けて開催されました。ここでの議論は、授業料改定方式や学費額それ自体の良し悪しのみではなく、学費政策の背景となる社会情勢や財政状況、財政運営の考え方についての認識や、それらを踏まえた学費政策の趣意に対する理解を深めるものとなりました。 教学および学費等の諸政策について、大学がその決定の責任を負うことを前提としつつ、その決定に先立つ学生・院生との議論の進め方について、以下の事項が確認されました。 ①教学施策等の効果検証を行う際、また、それを踏まえた教学維持改善費を適⽤する際には、大学は適切なタイミングで学友会への説明の機会を設け、議論の機会を担保する。 ②教学や大学づくり等の政策・施策の展開に関しては、代表者会議等を開催し、各パートとの情報共有や議論を行うことを今後も継続する。 これらは、2021年度全学協議会代表者会議以降に重ねられてきた学費・財政政策に関する懇談・意見交換の到達として、全学協議会における学費政策議論のあり方の画期となる意義深いものであり、公開での全学協議会でも改めてその内容について確認されました。 第Ⅱ章 R2030チャレンジ・デザインの今後の取り組みに向けて 今次の全学協議会における議論は、今後の⼤学づくりに向けたゴールではなくスタートであり、R2030チャレンジ・デザインの実現に向けた⼤切な節⽬の⼀つと位置づけられます。公開の全学協議会では、それまでに学友会・院生協議会と大学との間で積み重ねられてきた懇談会等での協議を踏まえ、特に以下の主要なテーマに関して議論を行いました。この議論では、それらのテーマがR2030チャレンジ・デザインの各施策との関係でどのように位置付けられるのか、また各テーマにかかわる現在の検討状況や今後に向けた論点がどのようなものであるかなどについて、学生・院生のみなさんと意見交換し、本学が今後進むべき⽅向性について理解を深めました。本章では、この内容を取りまとめます。 <学友会から出された主な議論テーマ> ○英語運用能⼒が⾝につくことにとどまらず、学生が⾃信を得られるほどの成⻑を実感できるような英語教育をどのように行うか。 ○新型コロナウイルス禍のもとでICTツールの活用やこれにかかわる環境整備が一定の進展をみた現在の教学の実態をふまえ、コロナ禍への対応としての「緊急避難」的な措置と切り分けつつ、今後の教学におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のあり方についてどのような展望を持つのか。 ○R2030チャレンジ・デザインで掲げられている「次世代研究大学」の実現に向けて、特に学士課程における学びやキャリアをどのように展開するか。 <院生協議会から出された主な議論テーマ> 院生協議会は、グローバル化の中で院生・若手研究者の研究活動を促進するための、語学学習講座について、2022年度から大学が始めたgoFLUENTの活用状況等を含め、継続して懇談等で議論をすることを求めました。その上で、主に以下の点について議論を求めました。 ○従来から、グローバル化の中で、研究施設・設備の適切な規模や利用時間の設定について議論を進めてきたが、新型コロナウイルス禍において、その課題のもつ性質や背景が変わってきている。改めてそれらの課題を再認識した上で、どのように充実した研究環境整備を進めるか(特に情報通信環境、利用時間、座席数等)。 ○院生のキャリアパスに関わるこの間の本学の取り組み(「NEXT学生フェロー」、「RARA学生フェロー」等)を一定評価しつつ、魅力ある大学院での研究環境の構築に向けて、他大学等と比較しても好条件となるいっそう高度な研究支援・経済支援制度の新設、既存の制度の出願資格等の条件緩和、院生にとって業績(職歴)を積みつつ経済的な面での支援を受けられる学内雇用の促進などに、どのように取り組むか。 1.「英語教育」やグローバル化について (1)学部における英語の教育と学びについて 今回の全学協議会において、より良い「英語教育」の実現とそれに関連する諸課題についての議論を主要な論点のひとつに設定したことは、大学・学友会が共に有する「これからの時代を見据えた上での大学の学びに対する危機感」の表れであるといえます。グローバル化、ICTの急速な進展など、変化の激しい、また先行きの見えない困難な時代を生きていく上で、自ら世界に挑戦し、多様な価値観を持った人々と協働していくための基盤となる力が求められていることが背景にあります。こうした現状において、英語は基本的なツールとして必須であるという認識や、もはや大学教育において「読む・聞く・書く・話す」という従来的な4技能の枠組みのみに依拠し、各技能のレベルアップを目的とするような時代ではないという認識は、大学・学友会ともに一致しています。 立命館大学には、大学入学の時点で上記の4技能について一定の水準に到達している学生から、まずもって英語運用のための基礎的なスキルの習得・向上が必要な学生など、多岐に渡る到達度やニーズを有する学生がいます。このような状況を前にして、一方で上述の基礎的スキルの習得については、必要に応じてオンラインでも学ぶことができる時代になってきています。他方で本学では、PEP(Project-based English Program)と呼ばれるプロジェクト発信型の英語プログラムが⼀部の学部で展開されています。このPEPに関連して、学友会からは、教学部との懇談会を通じて「なぜ、実践的な英語学習のプログラムの導入が4学部に止まり、他学部では導入が検討されないのか」という疑問も示されました。たしかに一方で、学部・学問分野の特性や個々の科目特性により、英語をそれほど利用しなくてもよい場合や、英語と同様あるいは英語以上に他の言語が重視される場合もあることは事実です。しかし他方で、英語は学問の世界における汎用的なツールであって、あらゆる学問分野において身につけておくことが望まれます。「次世代研究大学」を目指す本学における英語教育というものを俯瞰的に捉えた際に、より実践的で有効なツールとして英語能力を習得・ブラッシュアップし、そのことによって専門分野等における学びが深まり、ひろがることを学生は望んでいる、という点を学友会の指摘から受け止め、今後の英語教育についての検討と実践に取り組む必要があります。 2019年度の全学協議会以来、現在までの各年度の全学協議会代表者会議においても論点となったように、この間、運用能力の指標としているCEFR B1以上といったスコアの向上という意味では、本学学生の英語力自体は伸びているにもかかわらず、「学びの実感」がないと受け止めている学生も一定数存在することが指摘されています。この「学びの実感」を高めていく手立てのひとつとして、探究型の英語プログラムは有効な手段の一つとなります。大学は、より良い英語教育を求める学友会からの問題提起にかかわって、探究型の英語プログラムの教育効果を各学部において検討することや、プログラムの導入を各学部が試みる際に全学的な観点で支援していくことについて、教学部を中心に具体的な検討を進めることを表明しました。探究型の英語学習においては、専門教育と英語教育との架橋、たとえば3回生以降においても専門と結びついた英語を必修とすることについても検討することとしました。なお、この専門教育と英語教育との連携、さらには適切な授業形態やクラス規模だけでなく、教育DXの推進ということまでを意識した「教学ガイドライン」の改定も、大学は課題として認識していることを示しました。 (2)院生の外国語教育やグローバル化について  2019年度全学協議会をはじめ、この間、院生協議会は英語教育ならびに英語以外の外国語の重要性を指摘してきました。語学学習の課題としては、まず英語は学問分野を問わず共通のツールであり、グローバル化のもとでとりわけ英語による発信力の強化がこれからの大学院教学にとって、さらには若手研究者育成にとって必須となります。このことを前提とした上で、それぞれの学問分野や研究テーマの特性に応じて英語以外の外国語が不可欠となるケースや、ときにはその言語がむしろ研究にとっての主要言語となるケースもあります。大学は、こうした理解のもと、院生協議会からの要望をふまえて、自主的な外国語学習ツールとしてgoFLUENTを2022年度に導入しました。まずは全ての院生に対して誰でも・いつでも・簡単に学べる学習環境・機会を提供することが重要です。その上で、さらに学びたいという個別のニーズに対しては、CLA外国語講座の受講料補助やオンライン英語論文個別指導などの支援策を組み合わせることで1人でも多くの院生の外国語運用能力の向上に寄与することができます。今次の全学協議会において、院生協議会は、大学の取り組みに対して肯定的な評価を示した上で、goFLUENTの利用実態等をふまえながら継続的な改善にむけて議論することを求めました。大学は、今後、院生の声を聴きながら、より効果的な活用ができるように適宜改善を図っていくことを表明しました。 グローバル化に対応した施設利用の24時間化については、院生の安全確保、施設管理、近隣との環境保持との関係など多様な課題があり、現状はいずれのキャンパスにおいても解決が困難な状況にあります(BKCの研究室等を除く)。一方、情報通信環境の提供という観点については、オンラインでの学会や研究会に参加することも想定し、キャンパス内の環境整備とともに、自宅等での情報通信環境を確保するための支援(低価格の通信サービス提供)を行っています。座席や個人スペースの問題も含め、「施設利用・情報環境・座席などの課題はすべて、研究環境はどこまで大学によって担保されるべきなのかという議論に集約され、この点について大学との間で、ある程度の方向性を確認していくことを求める」という院生協議会からの主張を大学側としても受け止め、議論を継続することを確認しました。 「英語教育」やグローバル化に関わり、大学は、学部における英語の教育と学びについて、探究型の英語プログラムの教育効果を各学部において検討することや、プログラムの導入を各学部が試みる際に全学的な観点で支援していくことについて、教学部を中心に具体的な検討を進めることとします。また、院生の外国語教育やグローバル化について、今後も、院生の声を聴きながら、より効果的な活用ができるように適宜改善を図っていくこととします。なお、グローバル化に対応した施設利用に関わり、「施設利用・情報環境・座席などの課題はすべて、研究環境はどこまで大学によって担保されるべきなのかという議論に集約され、この点について大学との間で、ある程度の方向性を確認していくことを求める」という院生協議会からの主張を大学側としても受け止め、議論を継続することとします。 2.教学のDXに向けた取り組みについて 2019年度末に発生した、新型コロナウイルスの感染拡大により、我々を取り巻く世界は大きく変化しました。厳しい環境に直面する中で、社会の働き方や人とのつながりが大きく変容し、オンラインでの授業や会議をはじめ、デジタルネットワークの活用が急速に拡大・浸透しました。これら新しい行動様式や意識変化の多くは、コロナ禍以降もそのまま継続することが想定されます。このような時代背景の中、大学はオンラインで提供できることの幅と厚み、そしてリアルの強みを最適な方法で駆使し、その価値を追求していくことを考えています。教学のDXは確実にアフター・コロナにおける大学の前提となります。その上で、多様性の中で学び、人間の成長や知の発展の偶有性を、新しい技術環境のもとでより積極的な価値として示すことが求められています。なお、アフター・コロナにおける新たな教学を支えるDXと、コロナ禍の時期におけるいわば「緊急避難」的な対応としての情報技術の活用とを慎重に切り分けつつ議論を進めていくことが望ましいというのは、すでに過年度の全学協議会代表者会議等で確認してきた通りです。 R2030チャレンジ・デザインを実現するためには、大学としてDXの推進に全力で取り組む必要があります。教育DXは、R2030の掲げる「次世代研究大学」やそのための「研究と教育の拡大的再結合」にとって、あるいはその鍵を握る「探究型教育改革」にとって必須の前提であり、先ほどの外国語教育の改革や、さらには教養教育の改革をより良く実現するためにもDXが欠かせません。大学は、コロナ禍によるオンライン授業実施のため、教室環境整備を先行して進め、その後、アフター・コロナを見据えて「メディアを利用した授業実施ガイドライン」を策定し、DXを推進するための前提条件の整備を進めてきました。その上で、教学上・学修支援上の具体的な取り組みについては、現段階ではまだ実施には至っていない部分や、全学的な承認を受けていない部分も少なくありませんが、実現に向けた準備を大学は日々進めています。たとえば、全学的な基盤として、manaba+Rにかわる新たなLMS(Learning Management System)の導入や、様々な学修支援・教学支援の基礎となるデータを蓄積する「立命館データプラットフォーム」の構築について関連の委員会やタスクフォースで検討が深められています。また、個別の施策としては、デジタルを活用した新しい教育手法の創出を目的として実施した教育開発DXピッチの受賞アイデアとして、レポートなどのAIフィードバックシステム「Ri:write」や学生の自分探しを応援する探究型AIコンシェルジュの開発・実装にむけた取り組みが進められ、「アフター・コロナを見据えた教学高度化予算枠」によるVR教材の開発やVR環境の構築も進展しています。さらに2024年4月にOICに移転する映像学部・情報理工学部においては、BYOD(Bring Your Own Device)の推進を掲げています。外国語教育のところで述べた本学内の探究型英語教育の取り組みにおいても、同じくBYOD環境とICTによる学習支援が重要な役割を果たしています。 身近な例では、アンケートをもとに学友会が指摘した抽選科目に対する学生の不満も、その解決に向けて教育DXが効果を発揮できる問題といえます。抽選科目が現状では生じざるを得ないことをめぐっては、受講者数や教室の利用状況・教室の座席数、担当体制、あるいは曜日時限に応じた受講者数自体の増減や各教員の担当状況の変化など、多くの変数が影響してきます。これに対し、より多くの学生の受講を可能とするためには――本質的にいえば、学生の「学びの自由」の尊重という観点から希望者全員の受講を可能とするためには――特に対面授業とオンライン受業のベストミックスという切り口から、DXによる改善に期待できるところがあります。教室条件の点からいえば、利用可能な教室が物理的に限定された対面授業のみの場合とは異なり、オンラインでのライブ授業や、対面授業とライブ授業とを併用することによって、受講者数の枠が広がる、あるいは枠の概念が変わる可能性があります。ただし、いかにオンラインであっても教員一名あたりの適正な受講者数という観点から限界はありますし、授業内容に応じて対面あるいはオンラインのいずれが望ましいか、あるいは受講者全体における両者の比率をどのようにすべきかについても慎重に判断すべきです。 授業形態として、対面とオンラインの併用あるいは選択、さらに将来的にデジタルツインの導入も現実としてかかわってくると、単なる対面とオンラインという構図を超えて、さらに状況は変容してくると思われます。この論点を考える上では、対面での受講者とオンラインでの受講者それぞれの利益・立場について熟慮する必要があります。学生一人ひとりに個別最適化された学びの実現という面からいえば、ある授業をどのような形態で受講するのかについても、個々の学生のニーズに即した考え方が求められます。同一の科目であっても対面とオンラインの場合で受講者にとっての付加価値が変わってくるような場合があることをどう考えるか、ということにも留意しなければなりません。そして、同時に、教育DXにともなう成績評価の適切性も重要な観点です。コロナ禍以前は対面のみを前提としていた授業形態が多様化・変容する状況の中で、学生の学びと成長実感の問題としても、単位の実質化や内部質保証の大前提となる成績評価の厳格性についてあらためて検討を深める必要があります。本年度、遠隔授業としてフルオンデマンドで実施された大規模講義もあり、これを先行的事例として丁寧に科目総括を行い、現状の「制限」をどのように改善できるのか、大学は具体的な検討を進めることを示しました。 教育のDXに関わって、学友会から、大学での自立した学び、自主的な学びの創出という観点で、AI等を用いた今後の学修・学生支援を捉える必要があり、立命館大学が目指す探究型の学びのあり方として重要な視点ではないかといった趣旨の指摘がありました。また、教職員組合からは、英語教育における専門教育との連携やDXによる対面とオンラインの組み合わせ等は重要な課題提起であるが、これらを推進・実現するのは「人」であり、新たな手法やツールを活用した取り組みを効果検証しつつ、人への支援が不可欠であるとの見解が示されました。 あらかじめ用意された答え、唯一絶対の答えがない問題を取り上げ、新たな問いを立てる発想・姿勢を養うプロセスを通じて、一人一人の学生が、自らがどうなりたいのかを探し、実現に向かう、そうした学びが重要です。本学には、学びをサポートする多種多様な奨学金や体制、プログラムがありますが、大学は、それらをより適切に組み合わせ、利活用することで、自立的な学びへの展開を促進するという観点で学生支援やDXをデザインしていく考えを示しました。 また、これらの実現に向けて大学は、教員のエフォートという観点からも検討を進めています。これに対し、慣れない形態で授業を実施する必要が出てくるのではないか、職務上対応すべき事項の種類が増えていくのではないかなど、教員側の視点で考えると様々な課題が考えられます。重要なことは、どのように現在の資源を再構築するかにあります。例えば、1教科につき1⼈の教員が授業の設計・実⾏・採点まですべてワンオペレーションでやり遂げることは、受講者数が多いフルオンデマンド授業においては困難である場合も多いでしょう。授業形態に合わせて担当体制を適切に変えていくような工夫も必要であると考えています。 教学のDXに向けた取り組みについて、大学は、学びをサポートする多種多様な奨学金や体制、プログラムより適切に組み合わせ、利活用することで、自立的な学びへの展開を促進するという観点で学生支援やDXをデザインしていきます。これは、学生一人ひとりに個別最適化された学びの実現にむけたものです。加えて、①教育DXにともなう成績評価の適切性(コロナ禍以前は対面のみを前提としていた授業形態が多様化・変容する状況の中で、学生の学びと成長実感の問題としても、単位の実質化や内部質保証の大前提となる成績評価の厳格性について)、②教員のエフォートについても重要な観点として検討を深めていきます。 3.R2030に掲げる「次世代研究大学」について (1)「次世代研究大学(における探究的な学び)」の考え方 まずは「次世代研究大学(における探究的な学び)」という概念を共通認識とすべく、大学から各パートに説明をし、互いの理解を深めました(※「次世代研究大学」およびその実現にかかわる「研究と教育の拡大的再結合」については、両者と学部教学との関係も含め、「RS学園通信特別号2022年度全学協議会に向けてRitsumeikan Style 2022」12~15頁の「R2030チャレンジ・デザインの具体的な取り組みに向けて」もあわせてご参照ください)。 不確実性の時代には、自らの将来を自らで創造する力が求められます。そのためには、自律的に学び続ける力と、必要なときにいつでも学べる場が必要です。ここでいう学びとは、知識習得や正解を出すことを目的とした学びではありません。解の無い問題に向き合い、模索しながら学ぶこと、またそうした学びを通じて、自ら目的や意欲・動機を高める営みです。そして、それらを学生・院生・教職員が同じ立場から関わることが「探究的な学び」の持つ意味合いです。 探究には、少なくとも2つの型があると考えられます。ひとつは「あるものの探究、真理の探究」です。これは「⼈間とは何か、⼼とは何か、愛とは何か、ドーパミンとは何か?」といった、真理の追究ということです。もうひとつは、取り組むに値する「あるべき姿」を構想し、その実現を探究することです。実現にむけて様々な専⾨家やステイクホルダーの知、すなわち今⽇的な⾔葉でいうと「総合知」を活⽤しながら、あるべき姿を「共創:co-creation」していくプロセスといえます。今、問われているのは、真理を追究する観点・活動の価値を踏まえた上で、後者の「あるべき姿」を探究する学びの展開・充実であり、その学びのあり方をどう体系化し、立命館で学ぶすべての学生・院生が経験できる環境を作っていくかを模索することにあるといえます。立命館はこうした観点から、真理の追究に加え、「あるべき姿の探究」の取り組みを拡大するために「研究と教育の拡⼤的再結合」を構想し、「探究学園」というタテの⽷を紡いで一貫した研究・教学スタイルの確⽴を⽬指しています。約5万⼈の児童・⽣徒・学生・院⽣・教職員の多くが、そのような機会に触れることのできる探究的な学びを学園全体で共創していきます。 (2)立命館大学の「次世代研究大学(における探究的な学び)」に向けた実践 考え方を共通にする議論の中で、学友会からは、次世代研究⼤学を目指して、学園として探究力を上げていくためには、自らチャレンジすることが難しい学生や、何をやりたいのかが分からない学生にも目を向けることが重要であり、それぞれの才能や興味関心を引き出すような授業の充実が必要であるという見解が示されました。 この点に関わるひとつの大切な視点は個別最適化であり、立命館大学においては、「探究的な学び」をすべての学生・院生を対象に実践します。さらには学生・院生だけでなく教職員も共に探究します。また、実践するフィールドはこれまでの授業や研究だけではありません。課外自主活動や留学を含め、社会との連携した活動、起業など、大学でのすべての活動を「探究的な学びの場」と位置づけ直すことが大切であると考えています。この探究的な学びの先としての進路を学生の視点で考えると、大学院進学、起業やNGO、NPOでの国際協力、社会貢献活動など、幅広い選択肢を想定しています。つまり、大学で「探究的な学び」を積み重ねることが、学生ひとりひとりの多様な進路実現にもつながると考えています。大学院の質・量の拡充もR2030の目標の一つではありますが、大学の学び方の転換により、探究的に学ぶ動機や意志を持つ学生が増えることで、結果としての大学院の質・量の拡充を目指すものになるという関係性です。また、⼤学院の役割についても、従来の研究者や専門職育成のみならず、さらに広がっていきます。例えば、社会で働きながらの学び直し・リスキリングによるスキルアップやキャリア形成を大学院において担うなど、多様な⽅のキャリアの選択肢となります。今後は人生のさまざまな変化の場面で学び直し、学びを深めるために適した場にもなるよう大学院を創造したいと考えています。この学びの場が、学びの母校(母港)としての立命館の存在です。 こうした大学教育のあり方は、これまでの大学教育のあり方から大きくフェーズが変わるものと理解しており、ターニングポイントとなります。大学は、今回の全学協議会の議論を踏まえ、この動きを加速させる必要性を認識しました。 これらの探究的な学びは既に、EDGEやRIMIXといった取り組みの中でも、先行的に実践されています。私たちは、立命館大学生の学ぶ意欲に応えるには、これまでのスポーツや文化芸術活動といった課外自主活動の分野に限らず、社会連携や地域連携など、もっと多くの分野で、もっと多くの場面で生まれやすい仕組みを作ることが必要であると考えています。これまでは、一つの関心テーマで一つの学びがあるという関係が中心だったように思いますが、一つの関心テーマを切り口に、2つ3つの学びが掛け合わさるような学びを示唆する、コーディネートをすることも想定しています。また、こうした学びの様子を可視化し、多くの学生に届けることにより、他の学生の刺激にもなり、成長の正の循環が生まれると考えています。こうした仕組みで学生の皆さんの学びと成長をワンストップでサポートする仕組みも構想しています。加えて、このような「成長実感」は、在学中にだけ感じるものとは限りません。社会に出てから5年後、10年後に、学生生活で経験した「探究的な学び」が活かされるシーンも想定します。こうした観点で取り組みを進めつつ、これらの取り組みを検証し、改善へと進めていくことも重要です。より多くの学生が「探究的な学び」へと挑戦できること、そして「個別最適化された学び」を実現していきます。 (3)次世代研究大学における大学院生のキャリアパスについて 大学は、次期キャリアパス支援制度を策定するに当たって、学内雇用を増やし、経済支援を手厚くする方向性にシフトすることとしています。次期制度の具体例として、例えば、学会奨学金の定額給付の継続、英語投稿支援制度の外国語支援制度への統合、院生版基盤助成研究費の導入を検討しています。また、博士キャリア支援の専門窓口の設置、研究環境基盤支援(外国語翻訳システム)の導入、院生の研究発表機会の創出、院生向けメンター制度の導入を検討しています。 院生協議会からは、そうした経済支援や基盤的な研究活動支援が大学院進学の裾野を広げる上で重要であるとの認識とともに、「NEXT学生フェロー」「RARA学生フェロー」といった日本学術振興会特別研究員に類する制度が新たに実施されたことへの評価が示されました。その上で、よりいっそう研究者養成に焦点を当てた博士課程後期課程における課題として、現行の支援制度の支援金額等をベースに考えると、同年代の社会人の収入等と比較しても十分と言い難い水準にある点を指摘しました。この比較は、社会保障や福利厚生等の諸条件を踏まえる必要があり、一概に単純比較できる性質のものではないものの、そうした状況に鑑みても、さらに高い水準での重点的・集中的な「突出した研究支援制度」の必要性が指摘されました。 院生に対する経済支援を充実することの重要性については、2022年度中の大学と院生協議会との懇談会等の場で、基本的な理解が一致しています。その上で、経済支援とは異なる視点で院生協議会から要望された「突出した研究支援制度」については、在学中の院生を励ましモチベーションを高めるとともに、進学希望者や社会に対して「大学院進学」や「若手研究者」の魅力を打ち出していくという趣旨を含むものであると大学は理解しています。日本学術振興会の特別研究員の場合など、特に学外の機関等による制度については他制度との併給が難しいところが少なくないのが実情です。大学は、院生協議会からの主張を、R2030に掲げる次世代研究大学としての研究の厚みや先進性を視点に含みながら、支援金額や受給の条件を含め、より充実したものとなる「突出した研究支援制度の新設」を求めるものとして受け止め、今後のキャリアパス支援制度全体のあり方もふまえつつ、院生協議会との協議を続けていくことを表明しました。 R2030チャレンジ・デザインの今後の取り組みに向けた各テーマがR2030チャレンジ・デザインの各施策との関係でどのように位置付けられるのか、また各テーマにかかわる現在の検討状況や今後に向けた論点がどのようなものであるかなどについて、今後も学生・院生のみなさんと意見交換し、本学が今後進むべき⽅向性や課題について引き続き検討することが確認されました。 なお、これらの取り組みの具体化に関わっては、第Ⅰ章でも確認した「学生のみなさんと教学や⼤学づくりに関わる多層的な議論の場を設けること(学部五者懇談会、⼤学各組織との懇談会の機会)」の中で、具体的に確認を進めます。 おわりに 今後の全学協議会に向けて これからの時代での大学づくりには、2022年度全学協議会の議論のように学生・院生が大学づくりの議論にそれぞれの役割を自覚して参画し対話する中で進めることが求められます。また、学部五者懇談会や大学の各組織等の懇談の場といった様々な懇談の機会も同様に、学生・院生が大学づくりに実質的に参画する機会として位置づけられます。こうした様々な機会での対話の積み重ねが、今後の立命館の強みとなり、学生・院生の皆さんの学びと成長を将来にわたって支えることにつながります。 2022年度全学協議会での議論の到達点を踏まえ、次回は2026年度に公開での全学協議会を開催する予定です。 2023年1月25日 学校法人立命館 総長 立命館大学学友会 中央常任委員長 立命館大学院生協議会連合会 会長 立命館大学教職員組合 執行委員長 立命館生活協同組合 理事長(オブザーバー) 2022年度全学協議会確認文書調印式で調印をした各パート代表者 【用語集】 ●EDGE イノベーション創出を担い得る次世代の育成を目的とした正課外の実践型プログラム(「EDGE+Rプログラム」)のことです。多様な受講生メンバーから作るチームで行うPBL(Project-Based-Learning)を主軸とし、チームメンバーと協働して新たな価値創造(イノベーション創出)の面白さを体感する中で、課題を創造・実行・達成する為に必要なマインドとスキルを実践的に身につけることを目指しています。 ●RIMIX RIMIXとは、Ritsumeikan Impact-Makers Inter X (Cross) Platformの略称で、立命館学園で実施する社会課題解決に貢献する人材・マインド養成から起業支援までの取り組みをひとつのプラットフォームとして見える化し、学園内外の連携等によって拡充を図ることを目的とする「立命館・社会起業家支援プラットフォーム」です。SDGs達成の担い手を育む立命館における実践的な教育プログラムをつなげ、社会起業家(Impact-Makers)に必要な資質・能力を向上により、ダイナミックな社会変化を実現していくことを目指しています。 ●NEXT学生フェロー 「立命館大学NEXT(New Educational Xross-Training)フェローシップ・プログラム」に採択された院生(博士課程後期課程)のことです。このプログラムは、文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」の採択を受け、2021年度から実施しています。学際的で先端的な研究に専念できる環境を提供することにより、後期課程修了時までに高度専門人財としての資質(研究力+企業等でも活躍できる力(トランスファラブルスキル))を獲得することを支援しており、研究専念支援金として月額18万円(年額216万円)、および研究費として年額最大34万円(いずれも3年間)を大学より支給しています。 ●RARA学生フェロー 「立命館先進研究アカデミー」(Ritsumeikan Advanced Research Academy (RARA))に採択された院生のことです。RARAは、大学院生を含む若手研究者から中核研究者までの研究者のキャリアパスに応じた研究環境の抜本的充実を図っており、RARA学生フェローはRARAの構成員として、将来を担う若手研究者として必要とされる力量形成につながる機会(RARAコロキアム、RARAコモンズ)が与えられます。また、研究活動支援金として月額18万円(年額216万円)、および研究費として年額最大34万円を大学より支給しています。