松本:反面、今まで携わった仕事の中で辛かったことや衝撃を受けたことはありますか。
辛いのはキャパシティー以上を求められること
浅川:自分のキャパシティーを超えて、高いレベルの仕事を求められる時は辛いですね。出張で現地を訪れた時などには、どんなに若手の職員でも「日本のJICAの代表」として見られます。先方関係者にとって、私たちJICA関係者は日本を代表している存在なので、自分のキャパシティーが伴っていないと感じる時は、プレッシャーを覚えます。
もちろん仕事が量的に多い繁忙期などは、「もっと寝たい」、「もっと自由な時間が欲しい」という辛さもありますが(笑)。
提言が実を結ぶことは少ない
矢口:先程やりがいについて話しましたが、実は、提言したことが成果として結実することは、めったにありません。自分のやっていることが、何かより良い変化につながっていると実感できる機会が少ないことが、辛いですね。
浅川:私も同じように思うことがあります。書類仕事が非常に多く、「コンピュータを相手に仕事をしているのかな」なんて思うこともあります。
矢口:また現実的なことで言えば、時差! ジョイセフが東京連絡事務所を務める国際機関の本部がロ
ンドンににあるため、仕事が終わった頃に本部から連絡があって、遅くまで帰れないということがしばしばあります。世界中でのスカイプ会議の場合、たいてい始まるのは日本の真夜中。深夜に家でコンピュータを立ち上げて、眠気をこらえて会議に参加する時も辛いですね。
現地スタッフの真摯な姿勢に嬉しい衝撃
不破:海外に赴任すると、文化や考え方の違いに、誰でも少なからず衝撃を受けるでしょう。嬉しい衝撃もあるんですよ。パキスタンに駐在していた時のこと。現地雇用のドライバーさんに、英語はもとより、アラビア語や数字を読むこともできない人がいたんです。ある時、翌朝5時に迎えに来てくれるようお願いしたんですが、今一つ伝わったという手ごたえがなくて。でも翌朝、職場に行ったら、ちゃんと待っていてくれたんです。「伝わったんだろう」と思っていると、他のスタッフから「待ち合わせ時間を理解したか、あなたが心配そうにしていたから、彼は一晩中ここで待っていた」と聞かされたんです。申し訳ないと思うと同時に、頼んだことに真摯に応えようとしてくれる現地スタッフに感動しました。
辛いというより悔しいのは、目の前の仕事に忙殺されて、チャンスを逃した時です。ある時、メディアに出て私たちの活動について広報できる機会を得たんですが、仕事が忙しすぎて、時間を調整することができませんでした。現地の人に私たちの活動を理解してもらえるチャンスだったのにと思うと、悔しかったですね。もっと自分のキャパシティーを増やしたいと強く思いました。
思い込みや偏見の目をもった人がいる現実に直面
藤善:私の場合、基本的に国際協力について知識も興味もない人を相手にしていたので、そういう人たちとの意識のギャップに驚くことがありました。ホストファミリーを募集し、海外からの留学生とマッチングするという業務を担当していた時のこと。ある時、フランスからの留学生を受け入れてくれるホストファミリーを募集したところ、「フランス人の人種は?」という問い合わせの電話を受けたんです。真意は、白人なら受け入れてもいいけれど、黒人だったらいやだということでした。そんな風にあからさまに人種差別的な態度を示されたのは初めてだったので、衝撃を受けました。
そこまで直接的でなくても、欧米からの留学生に対する受け入れ希望は多いのに、アジアや中東からの留学生を受け入れてくれるホストファミリーは極端に少ないといったことには、しばしば直面します。実際受け入れてもらうと、「すごく楽しかった」と言ってくれる人が多いので、そうした経験を経て理解が広まればいいなとは思っているんですが…。
松本:僕自身も異文化にふれるのが当たり前の環境で学び、国際理解の乏しい人と接する機会はあまりないので、今の話は衝撃的でした。
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