未来をひらく、鍵。

パラ・パワーリフティングも
法律もおもしろいから
夢中になれる

森﨑 可林さん
法学部 司法特修2回生
INTERVIEWER
樋爪 誠法学部長
大西 祥世法学部教授・学生部副部長
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2021年4月に法学部に入学した森﨑可林さんはその後、パラ・パワーリフティングのトップ選手として国内外の試合に出場しながら、法学部の学びにも打ち込んできました。今回は森﨑さんに競技と学びのおもしろさを伺うとともに、樋爪 誠法学部長、大西祥世先生からも法学部の学びの魅力を教えてもらいました。

オンライン授業を受けながら競技と両立した1年

大西

本日は学業と課外活動を両立され、グローバルに活躍されている法学部生の森﨑可林さんにお話を伺います。まず大学に入学されてからの一年を振り返って、いかがでしたか。

森﨑

コロナと変化の一年でした。2021年4月はイギリスの試合から帰国後、成田市内のホテルで隔離生活を送ったため、入学式には出席できませんでした。隔離中は、宅配便の受け取りすらできません。そこで困ったのが、入学書類一式の受け取りです。結局、大学から旅行会社に書類一式を送付していただき、それをホテルまで届けに来ていただきました。受講登録にも苦労しましたが、同じ立命館守山高校出身の友達に電話で教えてもらいながら、何とか登録できました。

隔離が開けて、晴れて大学に入学。法学部での学びは、すべてが楽しかったです。そう思えたことで「私はやっぱり法学が好きなんだな」と改めて感じました。ただ「民法」の授業には苦戦しました。特に最初は、オンラインツール「manaba+R」で行われる小テストの点数が取れず、落ち込んでばかりでした。

6月には東京2020パラリンピックの最終選考を兼ねた試合がドバイでありましたが、初めての定期テストを控えていたため、出場を断念。東京2020パラリンピックへの出場を諦める結果になりました。競技への出場はかないませんでしたが、最終聖火ランナーに選ばれ、2021年8月24日、東京2020パラリンピックの開会式で聖火台に火を灯す役割を務めることができたのは、いい思い出です。その後の11月、パリ2024パラリンピックへのパスウェイ(出場必須)となる試合に出場するため、ジョージアへ向かいました。

大西

2024年のパリ・パラリンピックへ出場するためには重要な大会なのですね。

森﨑

はい。大学では秋セメスターの真っただ中だったので、教授にご配慮いただいて、オンラインで授業を受けられることになりました。ジョージアと日本の時差は約5時間。早朝3時に起き、4時から講義を受けるハードスケジュールでしたが、大学の勉強もしっかりできているという安心感がありました。改めてありがとうございました。現地では、新型コロナウイルス感染対策としてバブル方式が採用され、試合以外はホテルから一歩も出られませんでした。ホテル内でチームメイトと食事をしたり、他国の友達と会話することはできましたが、ジョージアならではの料理や景色を楽しめなかったのが心残りです。帰国後は、東京都内で2週間、自主隔離をした上で京都に戻ってきました。

そして1月、秋セメスターの試験を乗り越えた後、全日本選手権に出場。日本新記録を樹立することができました。春休みの今は、毎週のように合宿で、練習漬けの日々を送っています。

樋爪

大学1年目は、誰しも慣れるまで大変な思いをするものですが、国内外のパラ・パワーリフティングの大会に出場しながら勉強した森﨑さんは、なおさら大変だったことと思います。この1年間、学業もスポーツも計画的に取り組み、着実に成果を挙げられたのは、すばらしいですね。

法学部の1回生は、皆だいたい同じ科目を受講するので、教室には一体感があります。オンラインでの出席だとリズムをつかめないこともあったのではないでしょうか。森崎さんご自身が「皆と一緒に勉強しよう」という気持ちで臨んだから、他の学生にもそれが伝わったのではないかと思います。

大西

コロナ禍でオンライン授業を実施していた間は、オンラインツールを積極的に活用して自主的に学習する学生や、「manaba+R」のコメント欄を通じて教員とやりとりする学生もいました。森﨑さんは、私が担当する憲法の講義も受講しましたが、大会出場のため大学に来られなかった期間はオンラインで指導を受けるなど双方向の学びができたと思います。

興味のある法学を思う存分学び、楽しくて仕方ない

大西

法学部に進学しようと思ったきっかけを教えてください。

森﨑

きっかけは三つあります。一つ目は、私が文系人間で、高校時代に受けた適職診断では、いつも弁護士や国家公務員が候補に挙がっていたことです。何度やっても同じ結果で、いつしか自分でも向いていると思うようになりました。二つ目は、約2年前に他界した大好きな祖父が警察官だったこと。たくさんの人を笑顔で支え、感謝されている祖父に憧れ、「こんな大人になりたい」と思うようになりました。三つ目、決定打になったのは、立命館守山高校3年の時、「法学フロンティア」という科目を受講したことです。授業では実際の刑事事件を題材に模擬裁判に挑戦しました。講義も定期テストも楽しくて、初めて専攻コース内でトップの成績をとりました。さらに自分でも初心者向けの法学の本を何冊か読み、自分は本当に法学が好きなのか、気持ちを確かめた上で志望を決めました。

大西

実際に法学部に入学し、高校での学びとの違いを感じることはありますか。

森﨑

高校では決められたカリキュラム通りに学ぶのに対し、大学では、自分が興味のあること、好きなことを学べる自由さを感じています。私は理系科目が苦手で、高校時代は化学や物理、数学に苦心しましたが、大学では興味のある法学を思う存分学ぶことができ、楽しいという気持ちしかありません。入学前、法学部の職員の方に「法学を学ぶことは、新しい言語を学ぶようなものだよ」と聞きました。まさにそんな感覚で、難しいけれど、新しいことを習得するのが楽しくて仕方ありません。さらに最近は、楽しさだけでなくその奥深さにも気づくようになってきました。

樋爪

確かに法律学は、しばしば言語と比べられます。英語の習得では、まず基本的な会話を習い、次に文法が重要になり、最終的には、外国に行って英語を話す人と会話することを目指しますね。同じように法律学でも、最初は基本をしっかり勉強し、英語の文法のような基本的な枠組みを習得します。そして最後は法律を使って誰かを説得したり、助けたりできるようになる。そういう風に法律を使えるようになったら、もっと法律学が楽しくなります。森﨑さんが早くもそのプロセスに気づいていらっしゃるのは、すごいですね。高校時代に受けられた適職診断は当たっているかもしれません。

森﨑

先生にそう言っていただけると嬉しいです。

感情や印象ではなく、根拠に基づいて論述する

大西

1年間法学部で学んで、印象に残っている講義はありますか。

森﨑

いくつかあります。一つは、秋セメスターに受講した「法政特殊講義」です。教授から、「民法」と「憲法」の論述法を学びました。法学を学び始めた当初から論述が好きだったので、その具体的な方法を学んだり、実際に自分が書いた文章を添削していただけるのが、とてもおもしろかったです。この講義を受講してから「民法」や「憲法」の講義も理解しやすくなりました。

大西

法学部では4年間を通じて、自分の主張を組み立て、論述する練習を繰り返し行います。森﨑さんは、論述の方法を学んで理解が深まったことはありますか。

森﨑

論述法を学ぶことで法律独特の言い回しはもちろん、思いもよらない着眼点や自分の思考ではたどり着けないプロセスを知ることができました。法学を学び始めた当初、「民法」の授業で、「私見は必要ない」と教わったことがあります。テストでも、自分の意見を述べるのは最後の数行だけ。それよりもこの事案が何条何項に当てはまるかを指摘しなければならないと学びました。それが私にはおもしろくて、論述が好きになりました。

大西

自分の感情や印象ではなく、客観的な根拠に基づいて主張した上で、最後に自分の意見を述べる。そうした法律学ならではの文章の組み立てや論じ方におもしろさを見出して、積極的に学んでいるとは頼もしい限りです。

「基礎演習」でできた
たくさんの友達がサポートしてくれた

大西

1回生では、講義の他に「基礎演習」という少人数のクラスがあります。30人程度の小集団で、文献の調べ方や論述の方法なども勉強します。「基礎演習」にはすぐ馴染めましたか。

森﨑

先ほど話したように4月は隔離のために大学に行くことができず、終了後はコロナの蔓延によって、大学全体がオンライン講義になってしまったこともあり、最初は「基礎演習」で友達をつくることができませんでした。それを助けてくれたのが、2回生のオリター*さんです。「基礎演習」の受講生でつくるLINEグループに招待してもらったおかげで、オンライン上でクラスの人と友達になることができました。その後、通学が可能になって、初めて教室で顔を合わせた時も、LINEや通話でよく話していたのですぐに打ち解け、楽しんで「基礎演習」を受講できました。

* オリター制度…オリター(エンター)とは、新入生の大学生活に関する不安を取り除けるよう様々な面からサポートを行う、2回生以上の学生で組織された団体。

大西

新型コロナウイルスの蔓延以降、本学でもオンライン講義が定着しました。便利な反面、少人数のクラスでは仲間ができにくいといった困難を感じている学生も少なくないと思います。クラスに馴染むために、森﨑さんが工夫したことはありますか。

森﨑

私も初対面の人に関わる時には「少し怖いな」と思ってしまいがちです。でもせっかく大学という新しい場所に来たのだから、自分自身も新しくなった気になって、思い切ってLINEの個人のアドレスに「初めまして」と送ってみました。そうやって勇気を出したおかげで、たくさんの友達ができました。

大西

隔離期間や海外遠征中、学習を継続するのが大変だった時などには特に友達の助けが大切になると思います。
法学部では、「ピアサポート」といって、学生同士で助け合い、高め合っていく学びを重視しています。先ほど森﨑さんがおっしゃったオリターもそうです。オリターは、上回生が1回生の学習の進め方や学生生活を一緒に考え、サポートします。

森﨑

オリターの先輩が「基礎演習」の講義が終わった後にサブゼミを開き、レクリエーションや話をする機会をつくってくれました。クラスの皆と打ち解けられたのは、そのおかげです。関わったことのない人ともオリターの先輩を介してLINEを交換し、仲良くなることができました。また海外遠征中にオリターの先輩に連絡し、「基礎演習」で取り組んでいることや試験対策を聞いたこともあります。最初は緊張で固くなっていましたが、優しい先輩たちのおかげで、皆に心を開くことができました。

樋爪

立命館大学では、大人数の授業が主流だった時代から小集団授業を取り入れ、学生同士が話し合いながら学んでいくことを重視してきました。多様な人と友達になったり、意見の違う人とも話をし、課題を解決する力を身につけていく。小集団の授業はそうしたトレーニングの場でもあります。さらにそれをサポートする仕組みとして、オリターやES(エデュケーショナル・サポーター)、TA(ティーチング・アシスタント)といった学生の団体・制度があります。森﨑さんはそれらをフル活用し、「基礎演習」を満喫しているようですね。

パラ・パワーリフティングに魅せられ、競泳から転向

大西

長時間のフライトや時差のある海外での試合が続く毎日では、体調管理も大変だと思います。どのようなことに気を付けて日々を過ごしていますか。

森﨑

体調が悪くならないよう常に気を付けながらの毎日です。体調を崩した時のためにドーピング禁止薬が入っていない処方薬を常に携帯しています。

大西

北京2022冬季オリンピックでも、選手のドーピングが大きな問題になりました。トップアスリートは非常に気にするでしょうね。

森﨑

万が一、ドーピング検査で禁止薬物が検出されたら、パラリンピック出場の道は完全に断たれてしまうので、日々の生活から細かく気を配っています。ドーピングの有無を判断するのは本当に難しくて、漢方薬も摂ることができません。種類によっては、飴もダメ。禁止薬物に関する規定も毎年のように変わるので、常に確認する必要があります。

大西

パラ・パワーリフティングの活動についても聞かせてください。競技を始めてどのくらいですか。

森﨑

4~5年になると思います。

大西

これまでに転機になったできごとがあれば、教えてください。

森﨑

一番の転機は中学3年生の時、スポーツ庁などが主催した、未来の五輪・パラ選手を発掘する「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」に参加したことです。実は私はそれまで競泳をやっていました。ところがその頃タイムが思うように伸びず、練習を楽しいと思えなくなっていました。新しい道を探したいと思っていた時に立命館守山中学校の先生から紹介されたのが、このプロジェクトでした。「新しい競泳のコーチに出会えたら、また泳ぐことが楽しいと思えるかもしれない」。最初はそんな気持ちで申し込みました。書類選考後の運動能力測定会で、車いすでの5分間走をご覧になった日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田 進理事長(当時)に声をかけられたんです。「腕や筋肉の使い方がパラ・パワーリフティングに向いているよ」と言われ、試しに体験してみたのがこの競技との出会いです。バーベルを上げた瞬間、「気持ちいい!」と思い、いっぺんに引き込まれました。「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」に選ばれるより前に、「パラ・パワーリフティングの合宿に参加させてください」とお願いしていました。

大西

そこから始まって、パラリンピックを目指すところまで成長してきたのですね。

「楽しい」「好き」「諦めない」
三つの気持ちで学業と競技を両立

大西

学業と競技活動を両立する上でのモチベーションは何ですか。

森﨑

一つ目が、楽しい、二つ目が、好き、三つ目が、諦めない。これだけです。法学もパラ・パワーリフティングも、どちらも好きだから続けています。もちろん大学の講義や試験と試合のスケジュールが重なり、辛いと感じる時もありますが、どちらか一方を諦めることは絶対にしたくありません。

樋爪

わずか数秒に勝負をかけるパラ・パワーリフティングの集中力があれば、法律学の学びもしっかりやっていけると思いますよ。
今、スポーツの世界にも、法律的な発想が必要とされるようになってきています。ドーピングに関しても、選手生命にかかわるだけに、法律的な手続きや善し悪しの判断があるべきです。スポーツを経験した人が法律の専門家になったら、また新しいものが生まれるかもしれません。森﨑さんが歩んでいく道は、新しい法律の世界を開くことにつながるかもしれない。これからもスポーツと法律学の両方を好きでいてもらえたらと思います。

大西

競技でもまた学業でも、スランプを感じた時は、どのように対処していますか。

森﨑

競技と学業の両立という面では、あまりスランプを感じたことはありません。勉強に疲れたらスポーツをして、スポーツに疲れたら勉強をするという風に、気持ちを切り替えやすいところは楽ですね。

でも競技の面では、最近まで初めての、そして長いスランプに陥っていました。原因は新型コロナウイルスと、大好きな祖父の他界です。その影響から、2020年秋に京都で行われた試合では、初めて失格を経験しました。自分ではいつもと変わらず、今回も新記録を樹立できると信じていましたが、最初の試技からバーベルをまったく上げることができずに潰れてしまいました。「こんなにも力が出ないものなのか」と絶望したのが、スランプの始まり。その後は試合のたびにあの失格が頭をよぎり、自分を100%信頼することができなくなってしまいました。1年以上も苦しんだ末、ようやくスランプを克服できたのが、2022年1月。前回の全日本選手権で、約2年ぶりに自分自身の記録を塗り替え、日本新記録を樹立。やっと納得できるパフォーマンスを取り戻すことができました。

大西

どのようにスランプを克服したのですか。

森﨑

一つにはコーチと綿密に連絡を取ることです。また試合でメンタルを維持するために取り入れたのが、「笑顔」です。どんなに辛い局面でも、笑顔でいることで、感情をプラスに変えられるようになりました。それによって、以前に比べて試合の質が上がったように感じています。

大西

コーチとのコミュニケーションが重要だという点は、学業とも共通するところがあります。本学には、学生同士の学び合いの他、教員とも双方向コミュニケーションを取り、学びを深めていく仕組みがあります。ぜひ法学部の学びに活用してください。

司法試験合格、
パリ2024パラリンピック出場、
両方の夢をかなえたい

大西

将来の夢を聞かせてください。

森﨑

2回生から「司法特修」コースに進むことが決まりました。文武両道の道はさらに厳しくなると思いますが、勉学の面では将来の司法試験突破、競技の面ではパリ2024パラリンピック出場を目指し、努力し続けていくつもりです。

樋爪

「司法特修」は、司法試験などの特定の目標に向かって集中的に取り組むコースです。司法試験は決して手の届かない試験ではありませんが、プロセスが極めて重要です。「司法特修」ではそれを力強く後押しします。競技との両立は大変でしょうが、計画的に取り組めば、きっと両方の夢がかなうと期待しています。パラ・パワーリフティングでは、コーチと選手が教える・教えられるという関係に留まらず、一緒になって目標に取り組んでいるという印象を持っています。「司法特修」でも、目標を持った学生と、そこに必要なものを熟知した教員が一緒に学んでいきます。

大西

論述練習なども含め、教員と接する機会も多いですね。

樋爪

パラ・パワーリフティングでコーチとの共同作業に慣れている森﨑さんなら、きっと力を発揮できると思います。ぜひ頑張ってください。

森﨑

頑張ります。

大西

最後にこれから立命館大学法学部への進学を目指す受験生に向け、メッセージをお願いします。

森﨑

大学は自分の学びたいことを学べる自由な場所です。私は法学が好きでしたが、それに加えて本を読んだり、少し法学を学んでみて、自分なりに向いているかを確かめた上で選びました。その結果、今、本当に楽しみながら充実した大学生活を送っています。皆さんも、「楽しい」「好き」、あるいは「興味がある」という気持ちを大切にしながら、自分に向いているかも含めて未来を想像してみてください。法学を学びたいと思った人ならきっと、立命館大学法学部は充実した大学生活を送れる大切な場所になると思います。いつか一緒に学べることを楽しみにしています。

樋爪

高校生にとって法律学は、堅苦しいイメージがあるかもしれません。でも多くの法律家は、「正しさ」や「平和」など案外シンプルな思いから法律に突き進んでいます。高校生の皆さんも、自分なりの法律学の夢を抱き、法律に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

大西

本日はありがとうございました。

[収録日:2022年3月7日]

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情報と好奇心。その先の出会い。 情報と好奇心。その先の出会い。