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特別コレクションの紹介

立命館大学の漢籍
―選りすぐり三点―

紹介者:芳村 弘道

白川静記念東洋文字文化研究所 所長
(衣笠総合研究機構 招聘研究教員)

プロローグ
特別コレクション紹介

衣笠キャンパスの平井嘉一郎記念図書館には、8つの文庫、3つの旧蔵書からなる特別コレクションがあります。これらの資料群は、地下1階の貴重書庫・準貴重書庫に収蔵されており、閲覧や複写の申請を行うことにより利用できます。

本稿で言及する資料は、特別コレクションの1つである西園寺文庫に収蔵されているものです。西園寺文庫には、学祖・西園寺公望が生前、大学に寄贈した有職故実(朝廷内や武家などにおける儀式や習慣のこと。また、それらを研究する学問。)、書翰、書幅などに、その後、初代総長をつとめた学園創立者の中川小十郎が収集した資料(「学宝」ほか)、および図書館が特別に補充した資料などが収蔵されています(詳細は、「立命館大学図書館蔵西園寺文庫目録」(1990年10月30日発行)参照。

なお、この文庫目録には漢籍413点、和書2,884点、洋書174点、逐次刊行物39点、諸資料161点、学宝類317点(軸物24点)が収録されています(一部未収録のもの有))。

さて今回は、立命館大学には漢籍古書(漢文で書かれ、糸綴じなど古来の装訂による書籍)も豊富に収蔵されていますが、その中でも、とりわけ古い本を三点選りすぐって紹介しましょう。

李善注『文選』古筆切

 第一番に古いのは、唐の時代あるいは奈良時代に書写されたと推定される『文選もんぜん』の古筆切こひつぎれです。
 古筆切は、鑑賞や書道のお手本のために筆跡美しい巻物や冊子の一部を切り取った断簡で、時には掛軸にしてお茶室に飾られることもありました。
 『文選』は、六世紀前半の梁の時代に編纂された名作詩文選でして、日本でも古くより読まれ、『枕草子』に「書ふみは文集、文選」と記されています。もと三十巻でしたが、唐の李善が注釈した本は六十巻になっています。中国では十一世紀になって、唐代以来の写本を整理して出版されると、李善注『文選』の唐代の写本は失われてゆきました。
 今では日本に伝来して断簡となったものと中国のシルクロードの敦煌の石窟から出現したものしかありません。本学所蔵とは別の箇所を所有する研究者が放射性炭素年代を測定して書写時期を調べた結果、中国で書かれたのならば唐代、日本ならば奈良時代になるとのことです。
 まさに本の切れ端ですので、通常の書籍とは言えないかも知れませんが、唐写本の李善注『文選』は、現行の本と文字の異同が見られ、高い学術的価値をもっています。裏側には未詳の仏典が書かれています。

李善注『文選』古筆切

李善りぜん注
『文選もんぜん』古筆切こひつぎれ

南宋版『錦繍万花谷』

 次は中国で出版された書籍として最も古いものです。中国では遅くとも唐代の末期には出版が行われるようになり、次の宋代(北宋九六〇―一一二六、南宋一一二七―一二七九)になって本格化して、多方面の書籍が出版され文化を向上させてゆきました。
 この時期の版本は宋版と呼ばれ、たいへんに貴ばれています。また宋代は科挙を経た文官による政治体制が確立し、主として彼らによる文学が盛んになった時代でした。
 科挙受験のため、あるいは詩文創作のための参考書として、古人の名言や故事をさまざまな書籍から抜き出して事項別に編纂した書籍(類書といいます)が続々と出版されました。『錦繍万花谷』も宋代の類書の一つで、編者は未詳ですが、原編本の後に増補版も相継いで出版されました。
 本学所蔵本は、文字の特色から南宋末期の福建省で出版されたと推定されるもので、続集の巻十七から十九からなる一冊です。この部分の宋版は他の存在を確認できません。このような世に二つとない本を「天下の孤本」といいます。本学設立の祖、西園寺公望の旧蔵本です。

南宋版『錦繍万花谷』

南宋そうはん版『錦繍万花谷きんしゅうばんかこく』

五山版『景徳伝灯録』

 確認しうる日本最初の出版物であり、また現存する世界最古の出版物は、法隆寺などにある奈良時代の『百万塔陀羅尼』とされます。
 その後、日本では出版事業が影をひそめ、平安時代の中期を過ぎる頃から、再び仏教経典が印刷されてゆきました。鎌倉時代に禅宗が盛んになり、その末期から室町時代には京都の有力な禅寺(五山)を中心にして、仏典のほか漢詩文の書籍までも出版が行われるようになります。この時期の版本を五山版といいます。
 本学には五山版の『景徳伝灯録』三十巻があり、これが本学所蔵の日本出版の書籍で最古のものです。
 『景徳伝灯録』は、北宋の景徳元年(一〇〇四)に撰者の道源が時の真宗皇帝に進呈したことに因んで命名された、仏法の継承を軸にして禅僧の伝記を編集した書籍です。
 五山版の『景徳伝灯録』は、中国の元の延祐三年(一三一六)刊本の覆刻本です。もと貞和四年(一三四八)に刊行されましたが、文和四年(一三五五)に大半の版木が焼失したので、延文三年(一三五八)に補刻を加えて重版され、さらに応安(一三六八―一三七五)に補刻されました。本学蔵本は応安の補刻が加わった版本です。
 室町時代のものと思われる朱・墨両筆の書き入れが多く見られる本と上層に「丹波何いか鹿るが郡上髙津隠龍禅寺公用」と墨書のある本とが取り合わされています。丹波何鹿郡は現在の京都府綾部市、その高津町に曹洞宗の隠龍寺があります。

五山版『景徳伝灯録』

五山ござん版『景徳伝灯録けいとくでんとうろく』