学部2年生向けの「合成化学でいかに学ぶか」というパンフレットに自己紹介の文章を書けと言われたので、こんな文章書いてみますた…。(2005/2/17)
僕は今、物理化学の研究をしている。しかし、子供の頃、いちばん研究したかったのは「宇宙人」だ。そう、ウルトラマンやウルトラセブンに出てきたバルタン星人やメトロン星人だ。(古いな〜)こんなことを言ってると、後ろ指差されて笑われそうだが、マジで「宇宙生物学」の研究がしたいと思ったこともある。残念なことに日本の大学で、そんなことを研究してるとこなんてない。(当たり前と言えば当たり前だが)ところが世界は広いもので、大真面目に宇宙人について議論している学者が大勢いる。(トンデモさんではないよ。)電波望遠鏡を使って地球外知的生命体の探索(SETI)だって行われている。これを読んでる人の中にも自分のパソコンにSETI@homeのスクリーンセーバーを入れてる人がいるかも知れない。多くの宇宙人ファンは「広い宇宙のどこかにきっと宇宙人はいるに違いない」と思っている。1960年に世界初のSETIに関する討論会が開かれた。この時、銀河系にどれくらい宇宙人がいるか推定する数式が提案された。これはドレイクの式とかグリーンバンク方程式とか呼ばれており、次のような形をしている。
ここでNはこの銀河系にある文明の数、Lがその文明の寿命で、Rが銀河系で1年間に誕生する星の数だ。その他の部分はその星で生命が誕生し、進化して知的生命となり、文明を築く確率なんかだ。もし地球で生命が誕生したのなら、それが地球以外の星で起こったことがない、と考えるのはナンセンスだ。他の星でも必ず生命は誕生してるはずだ。そう考えてカール・セーガン達は楽観的なNの値として約百万という数字を推定した。(こういう大雑把な推定を「フェルミ推定」というらしい。)ところが時は経ち、現在ではNの値はもっと小さいのではないか?と言われている。中には「この銀河系にいるのは我々だけかもしれない」と言い出す学者まで現われた。その理由の一つは、いくら研究しても生命がどうやって誕生したのか、詳しいことは現代科学では未解明だからだ。また、いくら探しても地球外文明の痕跡すら見つかっていない。夜な夜な、世界中のどこかの家のパソコンで宇宙から届いた膨大な量の電波の解析がSETI@homeによって行われている。しかし、宇宙人が発したと思われる電波は未だ見つかっていない。ダイソンスフィアのような超巨大建造物を作れるような超文明が数十光年以内にあるなら、地球から望遠鏡で見えるかも知れない。しかし、これも見つかっていない。みんなどこにいるのだろう?生命が誕生する確率はとても低いのかも知れない。あるいは文明の寿命は非常に短いのかも知れない。ドレイクの式が示すのは銀河系にある文明の平均的な数であって、1万の文明が今あるとすると、百万年前にも1万の文明があったはずだ。その文明はみんなどこへ行ってしまったのだろう?どれ1つとして「銀河帝国」を築くことなく滅んでいったのだろうか?アメリカのシカゴ大学にある「終末時計(doomsday clock)」というのをご存知だろうか?この時計は米ソ冷戦時代末期の1984年には「人類滅亡まであと3分」を指していた。ソビエトの崩壊後、1991年には「17分前」まで延びたが、2002年には「7分前」にもどってしまった。思えば、夢の未来世紀だったはずの21世紀はテロとその報復戦争で始まってしまった。人間の凶暴性はなかなか改善されないようだ。我々が見上げる星空には滅んでしまった文明の残骸がたくさんあるのかも知れない。我々もその1つになってしまうのだろうか?
参考文献
1) 「さびしい宇宙人」R. T. ルード、J. S. トレフィル 著、地人書館
2) 「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミのパラドックス」Stephen Webb 著、青土社