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メッセージ

鳥山 正博 教授

専門分野:マーケティング戦略、マーケティングリサーチ、エージェントベースシミュレーション

デジタル時代の今、マーケティングはすべての人が知るべき知識に

このコースは「デジタルマーケティング編」と題しており、「デジタル時代」が講義のキーワードとなっています。デジタルによってマーケティングは大きく変わりました。広告分野だけを見ても、4大マスメディアと呼ばれるテレビ・ラジオ・新聞・雑誌の広告費の合計をインターネット広告費が上回るなど、ここ数年で時代は急激に変化しています。

そして、デジタル化以前はマーケティングの知識を本当に使える人といえば、宣伝や商品開発に携わる部門の人や、BtoCのビジネスに携わる大企業の人たちだけでした。その他の多くの人たちにとってマーケティングは、「一応知っておかないといけないけど、自分では使えないもの」と認識されてきたのではないかと思います。しかしデジタル化が進んだ現代においては、誰もが情報を発信でき、個人でも製品やサービスを提供できるようになりました。そして、BtoBの分野であってもデジタルマーケターが必要とされるようになってきています。今まではほんの一握りの人しか役に立てることのできなかったマーケティングが、もう世の中のほぼ全員が知るべき知識体系になってきた、ということをまず強く言いたいと思います。

その点を踏まえて、今回のMBAエッセンシャルズの講座ではデジタル変革の全体像をしっかりと示し、デジタル時代のマーケティングの視座を与えられるようなものにしたいと思います。すでにマーケティングに関わってきた人たちの知識をデジタル版にバージョンアップするというよりも、あらゆる人を対象に「デジタルマーケティングがこれからの基礎になる」という話をしていく予定です。中小企業や零細企業、または大企業で働く人、BtoBのビジネスに関わる人、そして伝統的なマーケティングを中心に学んできた学部生など、皆さんにとって価値のある講座を目指します。中にはデジタルに苦手意識を持っている方もいるかもしれませんが、そんな方にもぜひ受講していただきたいです。この講義でデジタルに対して感じていた抵抗感を取り払い、「簡単に使えるものなんだ」と思ってもらえるようにしたいと考えています。

デジタル化によってマーケティングはどのように変わったのか

デジタル化がもたらしたマーケティング思考体系の変化として、具体的にはまずインタラクティブ化が挙げられます。今では企業から消費者へ一方的に何かを伝えるだけではなく、消費者から企業に向けて発信する場合もありますし、消費者同士も自由にコミュニケーションを取るようになっています。そうしたインタラクティブなネットワークを観察しながら、打つべき手を考えることが必要になりました。

そして、消費者の購買行動プロセスも変化しています。以前はAIDMA(Attention:認知、Interest:興味、Desire:欲求、Memory:記憶、Action:行動)と呼ばれるモデルが主流でしたが、インターネットの普及に伴いAISASというモデルが生まれました。これは、インターネットでその商品の存在に気がつき(Attention)、それに興味を持ち(Interest)、情報を検索し(Search)、商品を購入し(Action)、他の人にシェアする(Share)という流れを表しています。こうした購買行動の変化も、デジタル化による代表的な影響と言えるでしょう。

また、講座の中ではプラットフォームについても触れる予定です。ビジネスの基盤を提供するプラットフォーマーが躍進を見せていますが、こうしたビジネスモデルもデジタル時代だからこそ生まれたものと言えます。昔は「物を与えて、その対価をもらう」といった単純なビジネスモデルか、少し複雑なものでも「広告を見せて、広告主から料金を取る」という程度のビジネスモデルしかありませんでした。そうした普通の取引の体系しかなかった時代と比べると、現代のマーケターは考える必要のある課題が一つ増えました。どのようなビジネスモデルを構築すべきなのか、どのプラットフォームをどう使えばよいのか。そんな新しい問いに対しても、答えを見いださなければならない時代になっているのです。

未来のマーケティングを考える上でも、デジタルへの理解は不可欠

私がここ最近力を入れてきた取り組みとして、フィリップ・コトラーの著書『H2H Marketing』の監訳があります。H2Hは「Human to Human」を意味しており、本書では、企業に関係するすべての人、あらゆるステークホルダーを幸せにする人間中心のマーケティングの重要性が述べられています。目先の利益を追求するだけではなく、周りの人たちを含めた長期的な繁栄をしっかり考えてマーケティングを行わなければならない、というのがコトラーの主張です。こうした監修の活動を行いながら、私自身もマーケティング全体がこの先どうなっていくのかに考えを巡らせています。

ここからは私見ですが、「何が見えるか」によって人々の考えや意思決定は大きく変容し、そこに着目するともっと普遍的なマーケティングの体系が構築できるのではと考えています。例えばデジタル化ですべてのものがインターネットにつながって、あちこちに埋め込まれたセンサーから大量の情報が取得できるようになり、AIでなんでも処理できるようになったとしましょう。すると今まで誰も見えなかった、分かっていなかったことをちゃんと最適化できるようになります。今は目先の利益しか見えないので、そこだけを最適化して他の部分を犠牲にするようなこともあるかもしれません。しかし、もっといろんな物がつながって見えれば、どれだけ環境に負荷をかけているのか、どの程度人を不幸にしているのかという部分まで含めたフィードバック系を構成でき、そこまで考慮した最適化ができるようになるはずです。デジタル化で見えるものが増えることで、世の中が変わっていくのではと私は思います。デジタルマーケティングと聞くと、インターネット広告の手法や効果測定を思い浮かべるかもしれませんが、実はもっと深く広い世界なのです。そこに足を踏み入れる第一歩として、今回のMBAエッセンシャルズを活用していただければ幸いに存じます。