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メッセージ

永田 稔 教授

専門分野:人的資源管理、異文化マネジメント、キャリア開発

組織経営に欠かせない人材行動・組織行動を最先端テクノロジーで研究

私は人の行動を分析し、人の発言や行動などを解析し、能力開発を支援するAIを開発する企業を経営しながら、立命館大学大学院経営管理研究科で教鞭を執っています。私の研究対象は、簡単に言えば「人はなぜ行動するのか」ということです。例えば、皆さんが会社で働いているときにお客様からクレームが入ったとします。この時のリアクションは人によって全く違います。すぐに謝罪をする人、状況を客観的に整理して事実確認をする人、お客様に寄り添う形でフォローをする人など、同じ状況でも人の行動は多種多様です。人間一人ひとりの価値観や行動パターンには差異があるので、組織マネジメントが難しいのは当たり前です。私はそうした能力開発の難しさや組織運営の難しさを解消するAIの開発に取り組んでいます。人間のさまざまな行動パターンを収集し、AIに学習させることで、発言や行動からその人の性格や行動能力を把握できるようになるのです。先ほどの例を用いると、クレームが入った際のお客様への対応を分析し、どこに問題があり、どのように改善すべきかを教えてくれたり、自分の性格を踏まえて最適な対処方法を提案してくれたりする、いわゆる効果的に仕事を遂行するためのAIコーチの開発を目指しています。こうした人の行動そのものを研究する分野は行動心理学や組織開発と一般的に言われますが、そこに最先端のテクノロジーと、組織経営の視点を取り入れているのが私の研究です。心理学と経営学は大学の学部が分かれてしまうので、それぞれ独立した学問と捉えられがちですが、実は密接にかかわりのある分野です。会社や学校など、人間が生きていくうえで属する組織は、当然人で構成されています。それは人の行動の集合体であり、人がなぜ行動するのかというところを少しでも理解できると、組織運営も格段にスムーズになるでしょう。このように、私は実務家教員として、学問の視座と実践的な視座を交えながら、MBAで人的資源管理に関わる講義を担当しています。

ジェネレーションギャップを知ることが、相互理解には不可欠

会社など組織を経営していくうえで活用できる資源、人やモノ、金を経営資源と呼びます。この資源の活用方法を学ぶのが経営学ですが、中でも人的資源の管理が私の担当分野です。人的資源管理とは人事のことを指します。社員の採用などを担う入社管理、どの部署に配属するかを考える配置管理、仕事の成果を適切に評価する評価管理、評価に見合った報酬を支払う報酬管理、さらなるスキルアップのための研修などを行う育成管理、主にこの5つのフローで、会社の人的資源は管理されています。モノや金の管理は、数字に基づく客観的な分析が主になるので把握しやすいのですが、組織を構成する多種多様な人はつかみどころがありません。だからこそ、綿密な管理が必要となるのです。

また、人的資源管理について学ぶ際には、「異文化マネジメント」と「キャリア開発」の視点が欠かせません。異文化マネジメントと聞くと、人種間での文化の違いに着目する分野を想像する方も多いかと思いますが、ここでいう異文化とは人種間の文化に加え、企業における文化や世代間における文化、すなわちジェネレーションギャップも対象にしています。会社にはさまざまな世代の人が属しており、持っている価値観は世代によって大きく違います。昭和世代は、一つの会社で勤め上げることが美徳で、会社は疑似家族的なコミュニティと捉えます。一方で平成・令和世代は、転職などを念頭に置いたキャリアアップを考えていたり、会社をあくまで仕事をする場として割り切った欧米的な価値観を持っていたりします。特に、現在のコロナ禍においては、会社や職場に対する価値観の差が拡大していると観察しています。お互いの価値観を知らないことには、関係性の構築はうまくいきません。経営する側は、若い人をマネジメントするうえで、キャリア開発の知識は欠かせませんし、若い人も上の世代がどのような価値観を持って仕事に臨んでいるかを知ることで、その発言や行動を受け入れやすくなるでしょう。

最先端の人的資源管理を学び、社会課題の解決を目指す

昭和世代は会社という組織をコミュニティとして捉える傾向があります。平成・令和的な価値観を持つ人が社会に増えてきてはいますが、高度経済成長を果たした昭和の成功体験、疑似家族的な関係性は多くの企業に残っています。新型コロナウイルスの影響で対面でのコミュニケーションが難しくなった今、世代間での分断が進み、日本の会社は大きなダメージを受けています。人的資源管理と異文化マネジメントとキャリア開発。これまではそれぞれ別で研究されてきた分野ですが、現代日本の状況を考えると、3つの分野を統合しないことには本当の意味での人的資源管理は実現できません。MBAエッセンシャルズの人的資源管理コースでは、各分野が三位一体となった人的資源管理の概要をお伝えしたいと考えています。

MBAはビジネスリーダーや創造的人材の育成を目的にしているので、現在経営に関わる職にいる人はもちろん、これから経営を担ったり社会的なリーダー、大小を問わずコミュニティを引っ張ったりする立場を目指す人など、広く受講していただきたいです。人間はだれしも、生きていくうえで何かしらの組織には所属し、価値観の違う人と人間関係を築くことになります。前述のような世代間の価値観の違いを知り、相互理解を試みながら人を動かしていく。そのヒントを知ることができるのは、どのような立場の人にとっても有意義です。エッセンシャルズでお話できるのは人的資源管理の触りの部分になりますが、これをきっかけに人や組織への関心を高めてさらに詳しく学んでもらったり、得た知識を実務の中で活かしてもらったりできるような講義にしたいと考えています。