博士(理学)。1961年生まれ。1984年東京都立大学理学部地理学科卒業。1988年同大学院理学研究科地理学博士課程中退。1991年に日本地理学会研究奨励賞を受賞。翌92年から立命館大学。文部科学省が重点支援するグローバルCOEプログラムに選定された「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点」の研究メンバー。「今年はバーチャル京都に関する講演をアジア各国でやりました」。バーチャル京都は立命館大学地理学教室のサイトから見られる。専用プラグインのダウンロードが必要。
 
バーチャル京都
Q and A
京町家まちづくり調査にでかけます。休日はまったくありません。帰宅途中での銭湯が唯一の楽しみ......(→続きを読む)
Q1

AERAでご紹介した研究を始められたきっかけは何ですか?

2002-2006年度文部科学省21世紀COE「京都アート・エンタテインメント創成研究」(立命館大学)でのバーチャル京都プロジェクト。

Q2

今までに運命の出会いはありましたか?

東京都立大学理学部地理学科での学生時代の指導教員、杉浦芳夫先生(当時、助手)に大学院をすすめられました。大学院の時代にいかに研究する人生をおくるのかを先生の背中をみて学びました。先生から学んだことを、立命館の学生・院生に返したいと思っています。大学院の時に蓄えた知識や経験が、現在の研究の種となっています。

Q3

最近の気になるニュースは何ですか?

円高。1995年の夏に1ポンド137円、2005年に1ポンド230円を経験しました。今年は、1ポンド120円台か。

Q4

最近、何かオススメはありますか?

2005年後期、学外研究で英国に1年滞在することになり、愛車のパジェロミニを手放しました。その結果、自転車による生活となりました。安ものですが外車(自転車)で健康的な毎日を過ごしています。

Q5

休日はどのように過ごされていますか?

2008年10月から、休日は、京町家まちづくり調査にでかけています。多くの参加のお手伝いをさせていただいています。休日はまったくありません。 帰宅途中での銭湯が唯一の楽しみ。財布には銭湯の回数券が入っています。

Q6

先生が未来に残したいものは何ですか?

歴史京都のデジタルな地理空間情報を作成し、それを次々世代の空間情報科学の基礎データにしていただきたい。

京都の街並みが3Dで立体的に再現され、その視点も自由自在。「ウォークスルー」を選べば、あたかも自分が街中を歩いているように画像が動く。立命館大学のウェブサイトから入れる「バーチャル京都」では、街の景観に加えて、南座の内部まで見られる他、昭和初期、平安時代の街まで精密に再現されている。「グーグル・アースが登場した頃でしたが、複数の時間軸を持つデジタル地図をウェブで一般公開したのは世界で初めて」と矢野桂司は語る。

「2002年から開発に着手。セスナで航空機から細かくレーザー測量するなど膨大な仕事量でした。普通の都市なら過去は無理ですが、京都には町家など昔の貴重なものが沢山残っているので、現在をきちんと作れば昔に遡っていくことは可能。最も古い空中写真は昭和3年なので、それ以前は大正地籍図、さらに絵図や古地図も参照しました。中でも17世紀の洛中絵図は精度が高かったですね。でも、公開時ウェブではデータが重くなるので明治と江戸時代は残念ながら省略しました」

プロジェクトは06年に終了。現在ではさらにグレードアップが進展中だが、実はビジネスの世界まで大きく変えてしまう可能性を秘めた研究なのである。

「デジタル地図を活用した地理学、GIS(地理情報科学)と呼びますが、ナノテク(超微細加工技術)、バイオと並ぶ21世紀の先端分野といわれています。イラク戦争でピンポイント爆撃を可能にしたのも、GISの技術。住民の氏名や属性などと組み合わせたGISデータは既にマーケティングで活用されていますし、イギリスでは行政も犯罪予防や健康管理などに応用しています。つまり、2次元情報を3次元・4次元に可視化することで、見えなかったものが見えるようになり、既存の学問分野が劇的に変化するわけです。電子顕微鏡によって分子生物学が飛躍的に進歩したのと同じ。僕としては、皆が驚く地図づくりが楽しみなのですけどね」

AERA 2009年1月12日号掲載 (朝日新聞出版)