2006年度後期第9回全国知事リレー講義 三重県知事 野呂昭彦氏
12月12日(火)、衣笠キャンパスにおいて2006年度後期知事リレー講義を行った。第9回目となる今回は三重県の野呂昭彦知事を迎え、「三重県政の新しいステージ〜質の行政改革を目指して〜」と題して講義を行った。
講義の中で知事は、地方自治が抱える本質的な課題として、「新しい時代の公」の概念を示し、県職員の働き方を効率的にするという内部の視点を中心とした「ニュー・パブリック・マネジメント」から、県民の取り組みも含めた仕組みづくりに主眼を置く「ニュー・パブリック・ガバナンス」への展開の必要性を訴えた。これは、民間企業の経営手法と市場原理・競争原理を導入し、効率と経済性を追及してきた従来型の行政改革によってもたらされた、行政サービスの低下や格差の拡大などの社会的ひずみを、一人ひとりの県民や地域、企業、NPO、行政などの多様な主体が相互に補完しあい協働することによって解決して行こうというものである。野呂知事は「民間企業とは違って、行政は『お客様』を選別できない。しかし、住民に対するサービスをすべて行政が提供することは不可能であって、まず、主体としての『個』を確立し、それを家族や地域、行政が補完していく仕組みが必要だ」と述べた。
こうした新しい行政のあり方への転換を、知事は「質の行政改革」と呼び、その実現のために「文化力」に着目した。ここでいう「文化」とは、人々の生き方や暮らし方そのものであって、文化遺産や伝統的行事に特化したものではないと述べ、「心豊かに生きるためのひとりひとりの『人間力』。たくさんの人たちの力が集まって地域の魅力や価値を高めようとする『地域力』。人間力や地域力の源泉となる新しい知恵や仕組みを生み出す『創造力』。これらの力を総合した『文化力』を政策に活かして、産業、地域、住民を活性化させていこきたい」と語った。その具体化として、日本人のDNAともいえる伊勢神宮や、世界遺産に登録された熊野古道、人と自然が織り成す三重の豊かな歴史・文化、地域特性を活かした「こころのふるさと三重」づくりの取り組みを紹介した。
また、地方自治体が取り組まなければならない新しい課題の前提として、最近、マスコミで大きく取り上げられている知事の談合や職員の汚職についても、多くの時間を掛けて言及し、地方自治への信頼を取り戻すことが何よりも大切だと訴えた。
地方自治体の「改革」が注目されているなかで、さらなるステージを見据えた野呂知事の講義に、学生たちも興味深く聞き入っていた。
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