私の最初の配属先は、大阪の島本町にある研究所の総務課。「なぜ私だけ研究所に配属なんだろう」と考えることもありましたが、働いているうちに「仕事って面白いな」と感じるようになりました。働き始めて3ヶ月ほどで、「ずっと仕事をしていこう」と思うようになりましたね。仕事では求められることはどんどん変わっていき、それに対して自分がどう工夫するかで全然違った結果になるんです。総務課時代の先輩から「次工程はお客様」という言葉を教えられました。書類を一枚書くときも相手をお客様だと思ってわかりやすく書く。そうすれば仕事がスムーズになるんだ、と。それが直接返ってこなくても、必ずどこかで活きてくるんです。また、仕事にドラマのような面白さも感じましたね。
入社15年目、私に転機がやってきました。サントリー不易流行研究所の準備チームに入らないかと声をかけていただいたんです。入社当初からやりたいと思っていた「ものと関係した新しい文化の提案」ができると感じ、とても嬉しかったですね。不易流行研究所では「生活の中の楽しみ」をキーワードに生活文化の研究をしました。研究所は2005年に次世代研究所と名称変更します。次世代研究所では若い人達が生きやすい社会にするにはどうすればいいのか、などをテーマとしました。なぜなら、今の社会は昔に比べて選択肢が多く、なんでもできる。しかし、選択肢が多すぎるゆえに悩んでしまう。そのような多様な選択肢に溢れた社会を生きるには、若い人たちの自立を支援する必要があると思ったからです。もちろん大人にも柔軟な姿勢が求められます。
その次世代研究所は所期の研究目的を達成し、今年の春に活動を終えました。現在はサントリー文化財団に在籍しています。サントリー文化財団では、学術研究に対する助成や地域の文化向上に貢献した人たちを顕彰しています。私は新しい研究テーマを2つ担当する予定です。1つ目は「これからの“働く”ということ」。昔は働く=労働でしたが、今では好きなことや社会のためになることを仕事にするというスタイルに変わりつつあります。そしてグローバル化も進んでいます。経済原理だけでは解決しない労働の問題を総括的に研究してみようと考えています。もう1つは「社交と交流」です。今の世の中は、一見コミュニケーションを取りやすくなったようで、逆に難しくなっています。メールの返信に縛られるということもその一例だと思います。そうではなく、もっと深く関わり合って、信頼関係を築くにはどうすればいいのかを考えていきたいですね。
仕事をしていると、ばらばらだと思っていたものがつながって見える瞬間があります。答えが出ないと悩んだ末に「ああ、こういうことだったんだ!」とふとした瞬間に問題が解けるんです。そんな時はとても楽しく、やりがいを感じます。また、この仕事では多様な分野の方のお話をお聴きしたり、様々な場所へ行く機会が多いので、勉強になることがたくさんあります。生き方の勉強というのでしょうか。
私が入社当初から思っていたやりたい仕事に就けたのは37歳になったときでした。最近は3年で離職する方も多いようですが、本当にやりたいことには、そんなに簡単に巡り会えないんだと思います。だからこそ、長期的なスパンで仕事をするべきだと思いますね。面白い仕事には信頼関係は必要不可欠です。その信頼関係は、長く仕事を続けないと生まれないものですから。 |