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GIS(地理情報システム)
新時代
ワールドワイドに展開するGISの
これまでとこれから
●文学部 矢野 桂司 助教授に聞く●




 昨今のめざましいIT分野の進展とともに、国家・地域・環境・災害対策・軍事・商用、日常生活といった社会のあらゆる場面でGIS(地理情報システム)が普及し開発・活用されている。様々な業態で行動計画を立案するための情報分析をおこなう上で、戦略的システムとしても必要不可欠とされるGISについて、地理学科で地域情報コースを担当されている矢野桂司先生に、概要をご説明いただいた。


Q 最近の新聞や雑誌で、近年官公庁や地方自治体、民間企業のエリアマーケッティングの戦略ツールとしてGISが積極的に開発・活用されていると報道されています。GISの理解を深めるために、その歴史的背景についてお教え下さい。

A  あらゆる科学技術の発展は、軍事利用と平和利用の目的という二つの側面を持っています。それは人類の未来に向けて、常に諸刃の剣となりうる可能性を有しています。コンピュータで地図(地形)情報を扱う最初の試みは、米軍によって第二次大戦後間もなく開発された北米防空システムであるといわれています。飛行機の位置をデジタル地形図上に表示するシステムでした。記憶に新しい湾岸戦争は、本格的なGIS戦争であったといわれていますね。
 アカデミックなレベルでは、1950年代後半の北米での、地理学における計量革命が出発点となってその取組みがなされてきました。現代のGISのルーツとなるような研究、コンピュータで地図を描くという最初の試みは、1966年のカナダで開発された森林管理のためのCGISです。
 コンピュータの処理能力、特にグラフィック能力が急速に進化すると、民間レベルでもGISが開発・導入されるようになります。日本で最初にGISが導入されたのは1970年代後半、施設管理情報システム(Facility Management:FM)としての東京ガスによるTUMSYでした。東京ガスのガス管は地球一周分の約4万キロ以上に達します。約3万枚にもおよぶ設備図面の道路、地形、ガス施設をデジタル化し、マンホールやガス管の設備管理、維持管理がおこなえるようになりました。


Q 最近のGISブームとの直接的な関連でいいますと?

A  現在のようなGISブームの最大の原動力となったのは、1988年の米国における全米科学財団(NSF)の巨額の基金による国立地理情報分析センター(NCGIA)の設立です。NCGIAは産官学プロジェクト型複合研究組織であり、その使命としてより広いアカデミックと関連分野への知識の普及がありました。ほぼ同時期に同様の目的で英国でも地域研究ラボ(RRL)が設立され、全世界へのGISの普及に大きく貢献することとなりました。
 日本での本格的なGISの普及は、1995年の阪神・淡路大震災時に用いられた被害実態の把握や復興・防災におけるGISの有効性が社会的に認知されてからのことです。その後建設省・国土庁・自治省・郵政省といった官公庁レベルで、自治体を含めた官庁GISあるいは自治体GISが盛んに取組まれます。こうしたGISの普及とともに日常生活レベルでもカーナビという形で、調査研究とは異なる場面で、デジタル地図が浸透しました。


Q 先生はこの分野における第一人者として、GISによる地理学的現象のモデル化を手がけてこられました。GISはこれからも様々な分野で大衆的に拡がりをみせるわけですね。

A  社会のあらゆる分野と地理学を結びつける試みは、GIS革命により決定的になっています。とりわけ応用地理学はGISを介して社会に貢献する地理学として展開されつつあります。教育におけるGISの大衆化は、私の使命とする、学問としての地理学の復興をもたらし、東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)での活動にみられるような、空間情報科学としての新しい空間認識のとらえ方のさらなる進化が予想されます。
 社会地図の作成、災害対策や商圏調査、住宅問題や環境保全、土地利用の時・空間の3D化など、実際に私たちが手がける活動も多岐にわたります。
 また、GISは単独で開発するには非常に高額であり、その利用方法も高度化されていますので、私たちの取組みとして、研究者・学生に対して膨大なデータを加工し標準化して公開しています。RGIS(立命館地理情報システム)は日本で質量ともに優れたデータベースとして評価されていますが、特にRGISではCSISと連携を取りながら、全国の官庁統計等の地図化をおこなっています。


Q GISをめぐる環境のこれからの方向性についてお教えください。

A  国内では産業経済省が年内を目処に、GISの規格をG-XMLとして国際標準化することに取組んでいます。またインターネットでも、モバイル化を含めWEBブラウザを介して様々な地理情報を提供するWEB GISが普及してきています。このような動きは社会のあらゆる分野を対象として広がっていくものと思われます。空間に時間次元を取り込み四次元GISとして、パソコン上でデジタル地図が動態化され、地図をみる人の視点を自在に変えることができるようなものが近い将来必ず到来します。
 また、昨今のGIS需要から専門家育成のための様々な教育的プログラムも開発されるでしょう。実際に欧米各国では、GISマスターを養成する大学院コースが海外の拠点校を中心として次々と創設されています。GISマスターは、時代の要請に応える高度職業人として就職分野も多岐にわたります。日本でも数年以内には先端的なものが創られることとなると思われます。



矢野桂司助教授(都市地理学、数理地理学、地理情報システム)
東京大学空間情報科学研究センター客員助教授
■主な著書・研究論文
  • 「地理情報システムの世界」
    (ニュートンプレス、1999年)
  • 「地理情報システムによる生物の多様性と
    景観プランニング」共訳
    (地理書房、1999年)
  • 「GIS−地理学への貢献」高阪他編
    「計量地理学とGIS」
    (古今書院、2001年)









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