[キーワードからみる現代]
「2002FIFAワールドカップが開幕」

ワールドカップから見る現代社会
●産業社会学部 山下 高行 教授に聞く

サッカーファン待望の「FIFAワールドカップ」が5月31日にいよいよ開幕する。日本はアジアで初めての開催国として、韓国と共同でこの一大イベントに臨む。ワールドカップが日本に与える影響とは何か、韓国ではどうか。日韓関係の将来に対して何をもたらすのだろうか。日本スポーツ社会学会で事務局長を務める山下高行教授にお話を伺った。

Q 5月31日、ソウルでのフランス対セネガル戦を皮切りに、6月30日の横浜での決勝戦まで1ヶ月にわたり日韓各地で白熱した試合が展開されます。過去のワールドカップを見ると、各試合の応援などを通し、各国のサッカーにかける情熱と、ナショナリズムに対する考え方が象徴的に現れていると思われるのですが。今回はいかがでしょうか。
A 新しいナショナリズムの形が生まれるという人もいます。学生を見ているとよく分かるのですが、例えば日本が外国と試合していても、相手の選手を応援していることがある。その理由は現在のスポーツの社会が商品の世界的な連鎖とメディアのグローバル化の上に成り立っているから。特にサッカーはこの動きの影響を強く受けています。EUのクラブチームでは外国人枠が撤廃されるなど、もはや国を超えた選手の移籍は珍しくありません。そしてメディアにとってサッカーは重要なコンテンツ。ケーブルテレビや衛星放送は、国としての枠にとらわれず、人気のあるチーム、選手の放映権を奪い合い、放映しています。このことが、自国の選手を応援するというナショナリズムの意識を薄くしています。今度のワールドカップは国同士のナショナルマッチですが、メディアは商品ブランドを最優先すると思います。つまり、人気のある国と選手。
本来つながりの強かったスポーツとナショナリズムの関係が変わるかもしれません。

Q 日本と韓国の新たな未来に向けて、交流はこれを契機にさらに加速すると言われています。交流が進むキーワードは何でしょう。
A 日本と韓国は現在、とても親しくなってきていると言われています。その表れとして、両国は包括的自由貿易協定を政府レベルで研究することに合意しました。また、日本では観光、大衆文化、食事などあらゆる分野で韓国ブームが起こっていますから。ところで、前回のワールドカップフランス大会予選、韓国サポーターが日本に対して「Let's Go To France Together」という旗を出したことを憶えていますか?韓国ではこの行動について相当の議論があったと聞いています。彼らにとってはとても重い行動だったんですね。でも、日本でその重みを受け止めた人は少なかったのではないでしょうか。日韓の温度差を感じます。日本はやはり戦争責任について忘れてはいけません。
 もうひとつ考えないといけないのは在日韓国人を取り巻く環境。彼らはすでに4世、5世であり、国籍は日本、エスニシティが韓国なので。彼らにとって今大会は、日韓の掛け橋になれる絶好の機会。全国の在日韓国人からお金を集め、日本と韓国両方に等分に寄付したり、日本語通訳として韓国のボランティアに参加したりと様々な活動を行っています。でも、地方参政権がないために、日本や町をなんとかしたいと思ってもできないことがあります。今大会をきっかけに、外国人の地方参政権問題についても考えていくべきでしょう。

Q ワールドカップを目前に控えて、全国各地で様々なことが動き出していますが、そのなかで注目されていることがらは何ですか。
A 私が特に注目しているのは NPOやボランティアの動き。日本のサッカーサポーターは、障害者とのサッカー大会を開催するなど、まちづくりのボランティアに近いとりくみを始めています。もちろんファン活動もやりますが、サッカーという文化をどう町に根付かせていくのか、そして町を豊かにしていこうという意識のほうが強い。また、インターネットを活用し、地域だけではなく、世界中にネットワークを広げています。「新しい社会運動」の形ですね。ある社会学者は、グローバル化が進み、国としての枠がなくなったとき、もしくは対抗勢力がなくなったときにこのような文化的発展を基盤にした社会運動が市民社会を動かしていくと言っています。彼らの活動が今後市民社会を動かしていく基礎となるのか。とても注目しています。


山下 高行 教授 (余暇・スポーツ社会学)
■主な著書・論文
■『スポーツ・レジャー社会学―オールタナティヴの現在』
 (共編著・’95年道和書院)
■『近代ヨーロッパの探求Gスポーツ』(共著・2002ミネルヴァ書房)
■Japan,Korea and the 2002 World Cup(共著・2002 Routledge)









Copyright(c) Ritsumeikan univ. All rights reserved.