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構造改革特区 |
●経済学部 古川彰教授に聞く 「構造改革特区構想は地域経済活性化の起爆剤となりうるか」 |
地域を限定して規制緩和を進め、経済活性化を促す国の「構造改革特区」構想に、200余の自治体や民間団体から426の構想が提案されている。内閣府の推進室が8月末に締め切った提案を集計すると、分野別では農業が100件近くで最も多く、研究・開発が70件弱、観光・国際交流や教育、環境・新エネルギーもそれぞれ40〜50件前後あったという。この「構造改革特区」構想、果たして地域経済活性化の起爆剤となりうるのか。 |
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そこで今回は現代日本経済論をご専門に、規制改革など日本の経済構造改革の実証分析を研究されている、経済学部の古川彰教授に「構造改革特区」をテーマにお話を伺った。 |
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Q:そもそも、閉塞した日本経済を活性化させる方策として、何故、規制改革・緩和が必要なのでしょうか。A:日本経済を活性化させる産業の創出・育成のために、既存の規制に対する緩和・改革が必要なことは長く言われ続けてきたことです。規制改革が進んでいる分野もあります。例えば、電気通信、運輸、金融、そして、電力、ガス、石油産業など。これらは、他国の先行事例もあり、幾分進んでいると言えます。しかし、IT、バイオ、環境など、21世紀の産業・ビジネスの発展を担うと考えられる高度技術分野では、企業制度、ベンチャー開業、人の移動性、そして大学との連携などの点で、さまざまな制約が残っています。もう一つ、今後の産業や雇用の伸びがもっとも期待される社会的サービス、つまり医療、福祉、教育、そして道路や文化施設といった社会資本分野などでは、これまで政府がサービス供給の中心だったため、社会への開放度が低く、ビジネスの展開は制約だらけです。こうした分野での雇用も、他の先進諸国に比べると少なく、規制の緩和・改革を通して雇用の拡大は十分可能なはずです。 Q:今回の特区構想は、規制改革を一気に推し進めるものとなるのでしょうか。A:可能性は持っています。今回の構想の狙いとして、ひとつには構造改革のプロセスを見なおす「実験」としての意味があります。自治体が主体となり、地域限定で規制緩和を進め、その後、成功すれば全国に拡大しようと。これまでのトップダウン方式、国が主体となって進めてきた構造改革方式とは逆方向の改革というわけです。アメリカでは企業がむりやりビジネスを始めてしまって既存の規制を形骸化させてしまい、結果として産業の活性化が実現する例が多くありましたが、これまで日本は、政府が主体となって慎重のうえにも慎重に、あらゆる利害関係者を納得させてはじめて、規制改革が動くのが常でした。これでは改革のスピードがとても遅い。「実験」が成功すれば、構造改革を急激に推し進める、根本的な変化へつながる可能性を持っています。 Q:自治体からの提案は400を超えるものとなりましたが、先生が特に注目されている分野は何でしょうか。A:農業分野に対する注目度は高いですね。今まで規制改革がほとんど進んでいませんでしたから。今のままでは立ち行かないことが目に見えていますので、異業種からの新しい経営方式、資本の導入が期待されます。教育分野については、大学の設置認可に対する自由度を高める、初等・中等教育で自由なカリキュラムを認めるなどの提案がされていますが、うまくいけば、育成する人材像も多様に広がるでしょうし、産学連携も一層活発になるでしょう。国際化に関わる分野については、海外企業や外国の有能な人材の日本における活動範囲の拡大につながるなど、グローバル化をテコに経済にカツを入れるには重要な事項だと思います。 Q:特区構想の課題とは。A:まず第一に、今回の構想はあくまで規制などの制度改革に関するものですが、これが実際に地域経済、ひいては日本全体の活性化につながるには、他の制度改革との組合せが不可欠です。ベンチャーをはじめとする新産業創出に関わる分野について考えると、現在の金融システムと税制の仕組みが大きな課題になるでしょう。ベンチャー、新産業の創出にあたって、金融機関、証券市場がきちんと機能し、必要な資金を供給する仕組みが必要です。また、新規企業にとって不利な税制も変わらなければなりません。補助金給付では、一部の政治実力ある企業のみに行き渡ることになり、広い範囲での効果は生まれません。そのためには、地方税に対する地域の権限を高めることが求められます。2000年に「地方分権一括法」ができ、自由度はある程度高まりましたが、まだ不充分です。今回の特区構想では、国が特別に財政支出、税制優遇などを行わないため、地方税の自由度を高め、自治体が独自で減税の方策を打ち出せる仕組みの構築が必要だと思われます。 第二に、地域間の競争についてどこまで許容するのかという問題もあります。政府の経済財政諮問会議や、総合規制改革会議での検討では、ある地域の提案が採択された場合、他の自治体でもその導入を認められることになりそうです。ひとつのところで認めたものを他で認めないということになると、規制改革は広がりません。しかし、自治体にとっては、自分のアイデアをとられるわけですから。難しい問題があります。 最後に、総論賛成、各論反対をどう克服するのか。今回も地方から提案されそうな改革案に対して、各省庁が一斉に反論を出しています。要するに、特定地域といえども例外は認めがたい、ということですね。今までのトップダウン方式にそまっているからでしょう。今後、10月上旬には特区推進のための行動計画が決定され、臨時国会に法案を提出する方針ですが、今後の展開に注目し、また大学人として、産官学連携などの提案には積極的に参加していくことが重要だと思います。
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