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「水」

●理工学部 市木敦之 助教授に聞く

「水質管理の視点から見た、日本における水問題の解決策」
 

1990年代以降、頻発する干ばつや砂漠化、大水害、水質の汚染などの水問題に対する国際社会の取り組みが不十分とする認識が、世界的に広がってきました。この頃から有限な水資源が誤って管理されているという認識も広がり、国連を中心とした取り組みだけでなく、世界の水問題の解決に向けて水関係のあらゆる分野の専門家、あらゆる水の利害関係者が共に活動する仕組みが求められています。そうしたなか2003年3月には、21世紀の国際社会における水問題の解決に向けた議論を深め、その重要性を広くアピールすることを目的として、世界水会議(WWC)により提案された会議「世界水フォーラム」が京都、滋賀、大阪を舞台に開催されます。

そこで今回は、世界の主要な水問題の一つに掲げられており、フォーラムの主要テーマとなるであろう「水質汚濁」の問題について、汚濁物の発生・堆積・流出のメカニズムを研究されている理工学部の市木敦之助教授からお話を伺いました。


 

Q 日本国内で「水」がクローズアップされるようになったのは何故でしょうか?

A 以前から国民の間で関心は持たれていましたし、決して急にクローズアップされるようになったわけではありません。昔から、他の環境、例えば「大気」、「土壌」、「音」などと同様に、「水」に対する国民の意識は高かったと思います。今、世間の関心が一層高まっているのは、人々の健康意識や生活環境意識が向上したことと、水の環境を分析する機器や技術が発達し、以前は分からなかったことが明らかにされてきたからでしょう。例えば環境ホルモンなどの影響で底生生物のメス化が進んだり魚のあごが小さくなるなど、生物の機能の低下が見られることや、重金属などの有害物質、発ガン性物質が環境水中に蓄積し、食物連鎖を通して人体に影響を与える可能性があることなど、様々な水に関わる報告が出されています。

Q 日本では水質を守るためにどのような対策がなされているのでしょうか。

A 水質を守る視点から見た場合、日本の政策は海外と比較して遅れていると思います。日本は急斜面を流れる川がとても多いため、「洪水」への対策は以前から考えられていたのですが、水質問題は置き去りになっていました。現在、雨を介して高速道路から流れる汚濁物について研究しているのですが、PAH(Poly-cyclic Aromatic Hydrocarbon)と呼ばれる発ガン性の疑われている炭化水素が直接河川へ流出し、水域の生態系に一定の被害を引き起こしているのではないかと考えています。道路を作る際に「騒音」「大気汚染」などの問題は一定考慮されてきたと思うのですが、水環境の整備はそれほど進んでいません。アメリカでは、いくつかのインターチェンジに排水を処理する施設、湿地などが設けられ、池の底に汚濁物を沈殿させたり、流出水を浸透させたりして、水を浄化する仕組みを作っています。日本でも道路の側溝に微生物の膜が付着したサイコロ状のスポンジを用いた装置を設置し、有害な有機物を酸化させるといった試みが実験的に行なわれていますが、非常にコストがかかったり、維持管理の問題もあって、実用段階には至っていません。水環境を整備する意識を持つ必要がありますね。

Q 先生のご専門の視点から、水質問題の解決に向けてどのような対策が必要だと思われますか。

A 以前よりノンポイント汚染源、いわゆるポイント(位置)が明確に絞れない場所、例えば、都市の表面、道路、屋根、農業系の水田、畑地で発生した汚濁物の公共用水域(河川や湖沼、海域)への水の流出過程と排水対策を研究してきました。ノンポイント汚染源に関わる排水対策としては、ため池をつくり水を溜め、有害物の付着した粒子を沈降させ、葦などの水生生物や土壌を利用して有機物を取りこみ浄化させるといった方法や、微生物に有機物を食べさせて、その後、放流するという方法などがあります。水質問題の解決には行政との連携も大変重要です。現在取り組んでいるのは、行政機関も含めて、だれもがコンピュータ上で汚濁物に関わる情報を取り扱うことができ、解決にむけた方策を議論できる場、「汚濁物流出管理支援システム」の構築です。近々に実現し、行政の政策決定を支援していきたいと考えています。

Q 生活者が意識すべき点とは?

A 汚濁物を出さない意識はもちろんですが、その流出過程を理解しないといけないと思います。例えば、リサイクル運動として牛乳パックの回収などがさかんに行なわれていますが、自宅に下水道の整備がされていないところでは、牛乳パックを洗った水をそのまま流せば、大量の有機物が流れ出ることになりますから、一概に良いとばかりは言えません。今後は水フォーラムも開催され、メディアを通じて水に関わる情報が多く出されますから、ぜひ積極的に知識を吸収してほしいと思います。また、滋賀県琵琶湖の「富栄養化防止条例」などは市民ボランティアの声から生まれたものです。環境問題の解決に向けて、市民から多くの運動が生まれることを期待しています。

市木 敦之
市木 敦之 助教授
専門分野:土木環境システム
■主な著書・論文
  • "Integrated Stormwater Management", LEWISPUBLISHERS
    (共著・'93)
  • "Prediction of Runoff Pollutant Load Considering Characteristics of River Basin", Water Science & Technology
    (共著・'95)
  • 「集水域における下水道整備進捗に伴う琵琶湖流入汚濁負荷量の変化」
    (共著・『水環境学会誌』Vol.19 '96)


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