Q 介護サービスを取り巻く環境が今も大きく動いています。果たして利用者にとって介護サービスは改善されてきているのでしょうか。
A 充分であるとは言えません。
まず、介護サービスを受ける利用者とは利用者本人だけではなく、その家族や地域の人々も含むこと、そしてそれぞれの経済性や住宅環境が異なることを踏まえる必要があります。現在の介護サービスはこうした広い利用者層を充分に踏まえたものとはなっていませんから。
一方で、ホームヘルパーが適切な介護サービスを行なえない状況もあります。これは例えば、利用者が糖尿病などで食事制限が必要な場合でも、通常食を求めた場合にその指導が困難であることや、他人の世話になりたくないと介護サービスを受けない場合があるからです。この問題を解決するには行政の積極的なコミットはもちろんですが、利用者が快適な生活を送るためには「どのような介護サービスを行なうべきか」を判断できるホームヘルパーの育成、すなわち高い質を持ったホームヘルパーが必要になっていると言えます。
高齢者のニーズは生活援助にも及んでおり、ホームヘルパーにはより幅の広いサービス提供を行なうことが求められています。
Q そのホームヘルパーの課題として具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
A とてもやりがいのある良い仕事にもかかわらず、定着率が非常に低いことを危惧しています。その大きな理由としては、やはり低賃金であることです。多くの民間事業所が厳しい経営を続けており、そのしわ寄せが人件費の圧迫につながっています。大部分のホームヘルパーがパートとして働いているため、ホームヘルパーという職業の社会保障が充分になされない状況が続いているのです。また、短い実習時間で現場に赴くケースがあるため、一部に専門性を欠く部分も見うけられます。効率的な介護サービスも必要ですが、画一的であってはならないと感じています。
ホームヘルパーは、現場のプロとして働いていくために、専門的な知識をもって、その場に臨機応変に対応していける力が必要です。ヘルパーとしての原理をよく踏まえたうえで、利用者への適正な指導ができるということが、とても重要だと思います。そのためには専門性を兼ね備えたヘルパーの「育成」にもっと力をいれなければならないですし、ヘルパーとしての「地位の確立」が何よりも重要なのです。
Q 今後、より良い介護サービスを作り上げるうえで、先生が重要とされている視点はどのようなものでしょう。
A 自治体のイニシアチブです。
社会福祉基礎構造改革による規制緩和で民間企業が参入し、まだまだ不充分ではありつつも、以前と比較すると介護サービスの量は向上しています。ですが、市場原理にまかせない公共性も必要です。自治体は非営利セクター、民間企業と連携し、そのノウハウを高めあい、民間企業だけでは補えない福祉の公共的要素を含む部分について支援する必要があります。
介護保険導入を契機に全国的に自治体直営ヘルパーのリストラが強行されましたが、介護サービスの拒否をはじめとした「困難ケース」に対する自治体直営ヘルパーの対応力は非常に高いものがあります。これは公的責任が果たす役割の大きさを示しています。こうしたことから、東京23区では5区が居宅介護支援事業者、12区が居宅介護支援事業者と訪問介護事業者の指定を受け、保健婦や町のヘルパーが「困難ケース」に対応しています。また、京都府や福井県のある町では、介護保険導入時に社会福祉協議会ヘルパーを町の直営ヘルパーとし、訪問介護と居宅介護の両方を自治体が直営しています。しかし、こうした例は全国的にまだそれほど多くはありません。自治体のノウハウは民間企業に転移すれば良い、という考えもありますが、自治体のノウハウは公的責任の発揮というノウハウであり、単なるワザではありません。自治体のヘルパー活動、ケースワーク活動を民間企業に丸投げすることは、住民の生活に対するノウハウを放棄することを意味しています。自治体が直接援助活動を行い、住民、非営利セクター、福祉従事者の共同を基礎に公共性の再構築を目指すことが必要だと考えています。
また、自治体の取り組みとともに、根本的な社会保障制度への財政制約の問題を解決することも重要な視点です。
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小川 栄二 産業社会学部助教授 |
専門分野:高齢者在宅ケアにおける社会福祉方法論 |
■主な著書・論文 |
- ●『これからの在宅福祉サービス』
(共著・1990年 あけび書房)
- ●『ホームヘルプにおける援助「拒否」と援助展開を考える』
(共著・1999年 筒井書房)
- ●『自治体は高齢者介護にどう責任を持つのか』
(共著・2002年 萌文社)
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