Q 「マニフェスト」とは何ですか。
A マニフェストとは、語源的には「宣言」といった明らかにはっきりものを言うという意味です。その言葉が、イギリス総選挙において、日本語で言う「政権公約(集)」という意味で一般的になりました。イギリスの議会で与党と野党が対面で横一列になり議論するうえで用いられていた与野党の政権公約が、日本の学者たちにより紹介されたことが始まりです。その後「日本フォーラム」でも紹介され、今年に入ってからは北川前三重県知事が提唱し始め、マニフェストの運動として広がってきました。マニフェストには4つの基本要件として、@期限A財源B数値目標C工程表(プロセス)を備えています。今までの日本の選挙公約のように実行されないものとは違って、これだけの要件を揃えることで明確な政権公約となります。そして、情報開示です。
Q 日本において、なぜ今「マニフェスト」が
注目されているのですか。
A 日本では、1990年代まではすべてが右肩上がりで何もしなくても予算も人口も増えた時代でした。失われた90年代といわれるのは、その時何もしなかったことで、今、すべてが右肩下がりの時代となったからです。以前のようにあれもこれもという訳にはいかず、あれかこれかどちらかにしないとやっていけないというのが現実です。要するにお金がないのだから税金の無駄使いはできない。そこで今、マニフェストが注目されてきているのだと思います。それに加えて、予算を分配してその利益に群がった族議員や天下り、ダムや道路の建設、箱ものへの投資など税金の無駄使いともいえる政治のやり方も終わりが見えています。マニフェスト運動の底流には、こうした時代の背景と今までの政治の限界、政治の顕在化が強く求められていること、があるのかもしれません。
Q 「マニフェスト」を実施している外国の
状況などがあればお聞かせ下さい。
A 実施している国にはイギリスがありますが、イギリスではグラフを使った数値などがふんだんに使われており、読めばなるほどと理解できるような内容の50ページ程度の小冊子が、マニフェストとしてコンビニなどで販売されています。イギリスは議会政治の母国ですから、街のいたるところで議論する様子はめずらしくなく、議論するための資料を政党が出すのも当然という風土があります。他の国では、マニフェストという形で行っている国は基本的にはありません。しかし、スウェーデンやアメリカでも州や候補者によって様々ですが自分達の政策をきちんとパンフレットにまとめているようです。フランスはアメリカと同じ大統領制ですので、マスコミ的メディア選挙、イメージ選挙といった感じがあります。
Q 「マニフェスト」で日本の政治や有権者の
意識は変わりますか。
A 変わります。今春の統一地方選挙では、各地で11人程度の候補者がマニフェストを採用しました。統一フォームというものはありませんので、1枚の人や冊子の人もありましたが、マニフェストを作成するにあたって、データがないと数値目標や財源が出せないので、専門家が協力しアドバイスを行いました。そうすることで、有権者も候補者の政策がはっきりわかるようになり、選挙や政治が活性化し、有権者の選択と判断の助けになっています。次の統一地方選挙は4年後ですが、それまでにもっとマニフェストの作り方を勉強して、具体的な都市、町のサイズにあったマニフェストを作って立候補するなら、有権者の判断の材料がより豊富になります。そして、現在の選挙のようなイメージ、フィーリング選挙が変わります。もっとシビアな具体的政策論争を伴いながら選挙や政治を行なえば、ごまかしの政治はできません。政治家のマニフェストと行政の情報公開で日本の政治は大きく変わる可能性があるし、変えていかなければならないと思います。そのために政治家を目指す人には、マニフェストを理解してもらいたいと思っています。
Q 日本の選挙のあるべき姿とは。
A 21世紀最初の解散・総選挙は、今年の11月に行なわれると思います。その選挙の中でマニフェストが採用され、各党が出すことになります。そのマニフェストに、どちらの方がより正確に日本の国の将来像をわかりやすく、きちんと描いているのかどうか。また、抽象的でなく具体的に、いわゆるマニフェストとしてはっきり描いて説得力を持っているかどうか、ということも注目すべき点です。よりよい政治を実現するには、政治家とわれわれ国民の政治に対する意識を変革しなければなりません。そういうものに対して、問題提起ができるようなマニフェストを政党が出してくるようになれば、有権者の意識も徐々にではありますが変化します。政治家と有権者、納税者が互いに関わることがなく、テレビなどで見ているだけの観客デモクラシーから、国民主権のもとで一緒に政治に参加する参加デモクラシーが日本の中に生まれれば良いと思います。その端緒となるのが次の総選挙ではないかと思います。
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福岡 政行 客員教授 |
専門分野:政治学 |
■主な著書・論文 |
●『自治体再生へ舵をとれ』(共著、2002年、学陽書房)
●『日本の選挙』(2001年、早稲田大学出版部)
●『十年後のニッポン』(2001年、講談社)
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