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Q 『環境保全型社会』とはどのような社会ですか。

A 一言でいえば、物的資源については消費量と廃棄量を出来るだけ減らして有効に活用するような社会だと認識しています。一般的に日本ではリサイクル社会といわれますが、それだけでは『環境保全型社会』とは言えません。資源を利用する原則として「3R」といわれるものがあります。それは@リデュース(無駄に使わない)Aリユーズ(製品状態のまま何度も使う)Bリサイクル(原料に戻して再利用する)といったもので、『環境保全型社会』ではこの順番を優先した物の利用システムを備えることです。こうして可能なかぎり消費する資源を減らすことが重要です。エネルギー資源についても無駄なく有効に使用することです。ただ、地球温暖化を止めるにはCO排出量を大幅に減らす必要がありますので、省エネだけでは充分ではありません。21世紀には、再生不能な地下資源である石炭、石油などの化石資源や原子力用ウランなどの使用を減らし、太陽光・熱、風力、地熱、バイオマス(生物資源)などの再生可能な「自然エネルギー」を中心としたエネルギー構造へと転換することが不可欠です。

Q 日本と世界の状況と、具体的な運動や事例など
あればお聞かせください。

A 日本では、例えば容器包装リサイクル法施行後、ペットボトルのリサイクル率は上がっているものの生産量も増え、結果的に廃棄量も資源消費量も増えていました。それでは意味がありません。一方、ドイツではペットボトルは何度もリユーズしていますし、他の容器包装材料も使用量を激減させ、環境負荷の大きい材料から小さい材料へと転換しています。容器包装の回収や分別を日本では自治体が行うのに対して、ドイツでは関連企業が共同で実施します。生産者など関連企業の責任でやっていく「拡大生産者責任」が物質資源利用に関して貫かれているのです。その結果、企業は経済的負担を減らすために容器包装の利用量を減らし、環境負荷の少ない材料に転換しているのです。エネルギーについても、日本では消費量もCO排出量も増え、原発を拡大し続けています。ヨーロッパではエネルギー消費を抑制しながら、原発を減らし、自然エネルギーを大幅に拡大する計画をもっています。日本では2010年の総電力に占める自然エネルギー電力の割合を1.35%にするという目標ですが、EUでは22%にする予定です。たとえば、デンマークは風力だけですでに20%近く生産しています。また、ドイツではCOを大きく減らしつつあります。

Q 今春導入された高知県の「森林環境税」につい
てはどのようにお考えですか。

A 一般的には、環境税には色々なものがありますが、中心的なものとしては炭素税があります。温暖化を促進するCOを減らすためにエネルギー資源に対してCO排出量に応じて課税しています。残念ながら日本には炭素税はまだありません。スカンジナビア三国やデンマーク、ドイツ、オランダなど北欧諸国を中心に導入されています。高知県の「森林環境税」は森林を保護するための環境税で、いま35都道県で導入予定あるいは検討され始めています。また、県外から持ち込まれる産業廃棄物に課税する産廃税も、青森、秋田、岩手県で導入を決めたのをかわぎりに、宮城県や福岡県など次々に導入を予定しています。このように自治体レベルの環境税が増加してきています。『環境保全型社会』の取組みでは大変遅れている日本ですが、国の政策として動かすためには地域主導で推進していくことが重要です。こうした高知県のような動きがもっと増えて、地域主導で『環境保全型社会』に向けた取り組みが増えることが重要だと思います。

Q 今後、環境をめぐり、政治、行政、経済活動
など、日本はどのような方向に進んでいくとお考
えですか。

A 日本での『環境保全型社会』の実現は、まだ見通しが立っているとは言えません。しかし、先程述べたように、地域からの変革は起き始めており、住民も支持しています。いまは環境保全先進国であるドイツも最初は自治体から住民参加型の取組みがはじまり、国の政策として実施され、その結果、環境保全型産業が伸び、その分野の雇用が増加しているのです。最近、日本でも次第に市民の環境意識が向上しつつあり、それを反映した地域レベルの取り組みも現れてきています。環境NGOも増加し、住民参加で環境政策をつくり、実行しているモデル的自治体も現れてきています。そういう中で環境保全を重視する企業も増加しています。また、若者の環境保全活動も活発になってきています。たとえば京都では、温暖化防止をめざす環境NGO「気候ネットワーク」で立命の学生、院生、卒業生などが中心的な役割を担っていますし、自治体の住民参加型環境政策づくりや環境教育などにも貢献しています。過去10年間を振り返ると、日本もずいぶん変わってきました。私たち市民の取り組みがもっと強まれば、将来、日本でも地域からの環境保全型社会づくりの広がりを通じて国政でも環境保全型社会に向けた制度整備を実現できる可能性があります。そうすれば環境保全型産業も成長し、働きがいのある仕事も増えるでしょう。
 
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和田 武
産業社会学部教授
専門分野:環境保全論、資源・エネルギー論
■主な著書・論文
●『地球環境論』『新・地球環境論』(単著、1990年、1997年、創元社)
●『地球温暖化を防止するエネルギー戦略』(共著、1997年、実教出版)
●『環境問題を学ぶ人のために』(編著、1999年、世界思想社)


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