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Q LRTとは、どのようなものですか。

A LRTは、ライト レイル トランジット(Light Rail Transit)の頭文字をとった略称で、「新型路面電車」とか「スーパートラム」といわれています。路面を主に走行する点では従来の路面電車(トラムと呼ばれています)と同じですが、大きく改善され速度が速く車内に段差がない低床車両を使い、走行時の騒音や振動が低く快適性に富んでいるのが特徴です。
 LRTの利点は、地下鉄と違い、建設コストが格段に少なく、開業が極めて早くできることです。線路の幅(ゲージ)が同じであればJR線や地下鉄線などに相互に乗り入れができます。車両編成を長くし、高頻度運行をした場合は時間あたり地下鉄とほぼ同じ輸送人員を運べます。地下のホームまでの乗り降りがなく、アクセスが容易な点も特徴です。
 ところで世界でLRTが導入されはじめたのは1980年に入った頃からです。クルマ社会からの見直しが迫られ、ひとと環境にやさしい公共交通として、路面電車が廃止された都市を中心に、新たに新線建設で導入されてきました。およそ20年間に欧米を中心に55もの都市に導入された潮流は「トラム革命」と呼称されています。LRTは今も続々と開業されています。

Q LRTを導入することは、
  どのようなメリットがありますか。

A LRTは様々なメリットがあります。バスと違い、乗り心地が良く、公害発生の排ガスを出しませんが、LRTを単なる「ひとと環境にやさしい公共交通システム」と矮小化するのはまちがいです。
 高齢社会を迎えて、誰もが生き生きと安心して気楽に移動出来ることが求められます。LRTは街の中を「水平に動くエレベター」として、都市で不可欠な装置となるでしょう。中心市街地の空洞化が著しいですが、それを解決するまちづくりからも欠かせません。
 京都は観光都市です。LRTそれ自体が観光資源ともなり、観光客にとっても極めて魅力的な乗り物となります。
 ただLRTだけで地域全体をカバーは出来ないので、LRT駅や地下鉄駅と接続するコミュニティバスや乗合タクシーが地域内をきめ細かく回るシステムが必要といえます。

Q LRTが注目されているにも関わらず、
  日本ではどうして事業化が進まないのでしょうか。

A 日本では、熊本や広島、岡山など既存路面電車線に低床LRT車両(LRVと呼称します)が続々と導入されています。しかし、新線を建設し新規にLRTを導入したところは残念ながら今のところありません。
 その最大の理由の1つに財源問題があげられます。日本ではLRT軌道財源も含め事業者がすべて調達しなければならず大変厳しい状況です。欧米諸都市でLRTがこれほど盛んに導入された理由は、「上下分離方式」の採用で積極的にLRTの建設が進められているからです。これは、軌道部分である土地やレール敷設を道路建設と同じように、国・自治体の全面出資で進めていくものです。事業者は運行面の資金を調達すれば良いのです。日本でも、道路特定財源を使ってLRT敷設事業を進めていくことができればLRT導入が極めて容易となります。
 また欧米でのトラム導入時に見られた、環境問題に対する人々の意識革命も必要ですが、地方自治体首長の「まちづくりと交通に対する改善意欲」が決め手です。自動車の洪水から引き起こされる都市交通の改善をミニ地下鉄でするか、それともLRTでするか、1989年市長選の最大の争点となったフランスのストラスブールですが、LRT推進の新市長のもとでのモダンなデザインのLRT導入が成功例として世界に発信して、それを契機にLRTが他の諸都市に拡大した点が教訓的です。ここのLRTはストラスブールの顔として、「ユーロトラム」の愛称で市民に親しまれていますが、LRT導入を契機とし新しいまちづくりが行われ、クルマの進入を禁止するトランジットモール(Transit Mall)や郊外駅でのクルマ駐車場併設といったパーク・アンド・ライド(P&R)採用といった、様々な都市内自動車走行抑制策がセットで実施され、大きな成果を勝ち取ったことを見落してはならないでしょう。

Q 過去市電を廃止した京都に、
  LRTを導入する積極理由はありますか。

A 京都で自動車の洪水の中で路面電車が廃止に追い込まれたことは大変残念なことでした。京都は日本で最初に路面電車が走った都市ですが、21世紀の都市交通の主役として日本で最初に新たにLRTが走る栄誉を獲得することが望まれます。まちづくりのためにも、また世界的な歴史都市・観光都市としても、そのシンボルとしてLRTはふさわしいと考えます。観光客にとって交通機関としてわかりやすく、大きな窓から外を見ながら観光もできるLRTの利便性は高いと思われます。
 京都に導入されるLRTは歩道側から乗り降りできるようにし、燃料電池を使用することで架線を不要にし、外見もスマートな姿をめざすべきでしょう。

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土居 靖範
経営学部教授
専門分野:交通経営・政策の諸分野
■主な著書・論文
●『まちづくりと交通』
   (単編著、1997年、つむぎ出版)
●『新版・交通論を学ぶ』
   (共著、2000年、法律文化社)
●『LRTが京都を救う』
   (共著、2004年、つむぎ出版)


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