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Q バイオメトリクスとは、何ですか。

A バイオメトリクスとは、生体の特徴をもとに個人を特定するという技術の総称を意味します。代表的なものとして、指紋が挙げられます。この指紋は、人が持って生まれて変わらないものであり、いろんな人で必ず違っているものだからです。昔から犯罪捜査に広く使われてきました。また、目の虹彩(こうさい)は、瞳のパターンであり、指紋と同じような特徴を備えていますので、精度を高く特定することができるのです。最近の試みとして、日本の空港で航空券購入者の目の虹彩をもとに、搭乗の際の個人確認に利用されているという話もあります。その他にも、人の声の声紋や顔の構成要素の位置関係、手の形などが挙げられます。しかし、声紋については、親や兄弟姉妹は似ているといわれますし、顔についても同じ人間でも変化するといわれており、精度的に疑問があります。手の認証については、手の指を計測することによって特定できるようです。以前、アトランタオリンピックにおいて、選手の選手村への入退出の際にこの手の形で個人確認されたと聞いています。

Q 指紋認証についてお聞かせください。

A 指紋認証は、先に挙げた他のバイオメトリクス技術に比べて、個人特定の精度の面で大変優れています。そして、指紋センサのライバルとなるものは虹彩だと思いますが、指紋センサは虹彩に比べて、装置の小型化が有利なため、コストも安くなります。今、パソコンなどにログインするときにパスワードが必要です。しかし、そのパスワードは忘れやすく、安全のために変更する必要性がでてくるのが現状です。指紋センサは、こうした煩わしさを解消し、パスワードの代替として利用できるわけです。その反面、指紋センサが世に出回るようになると、人は人前で指紋認識しない場面が多くなります。つまり、ニセ指を持ってきて、本人になりすますという危険性がでてくるわけです。また、指紋の画像を取る原理は4つほどありますが、なかでも静電型センサという種類は残留指紋に弱いといわれています。指紋は指の脂のパターンなのですが、この指紋センサは一度ついた残留指紋に息を吹き掛けることで、残留指紋を復活させることができるという話もあります。そうすれば、本人になりすましてログインできる恐れがあるわけです。こうした指紋センサの脆弱性を解決して、高いセキュリティーレベルにしたいという動機から、生体識別できる、つまり、生きているという信号を検出する機能を備えた指紋センサの研究をしています。

Q 生体識別できる指紋センサとは
  どのようなものですか。

A 指は圧力を加えることで色が変わります。例えば、透明な板に指を押し付けると、指が白くなることを簡単に確認できます。何もしなければ、指は赤いです。こうした変化をカメラで見て検出すると、それが生体に特有な反応だといえるのです。これは、血液が動いているだけのことです。指は、末梢血管に血液が充満しているから血液の色に近い赤い色にみえているのです。これを押すと、そこにある血液が周辺に移動して少なくなるのでその分白くみえるというわけです。この押すという動作で指が変形し、血液が動き、色が変わります。指の変形の具合を何らかの情報として抽出する必要があるので、現在は指紋画像の面積の変化に注目しています。最初、少ししか当たっていないと指紋画像の面積が小さく、色は赤いです。それを押さえると指紋画像の面積が大きくなって色も白くなるということです。この量の変化をモニターするといいのではないかと考えています。

Q 今後どのように発展するとお考えですか。

A 現代のネットワーク社会において、個人情報の漏洩問題は重要な課題です。でも、パスワードは忘れるし、鍵は紛失するので不便です。こうした背景の中で、バイオメトリクスのニーズが生まれ、注目されてきたのだと思います。例えば、指紋センサで10,000分の1の精度でユーザーを特定することで、4桁のパスワードの代替として利用できます。しかしながら、指紋のデータを盗まれたときのプライバシー問題に神経質になる人があるのも確かです。いずれにしても、便利さを感じずに怖さを感じる人は使わないでしょうし、その便利さが上回れば広まっていくと思います。利用範囲としては、ノートパソコンや携帯電話ではすでに実現されています。また、マンションの入退室や出入国審査にも利用が始まっています。他に、個人の同定としてバイオメトリクスを利用する場合、顧客データをもとに、レストランや医療機関など様々なところで顧客情報に即したサービスが提供できるのではないでしょうか。この場合、指紋よりも恐らく顔の輪郭や瞳などの認識のほうが適しているかもしれません。


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藤枝 一郎
理工学部 電子情報系・電子光情報工学科教授
専門分野:画像情報機器、液晶回折素子、X線イメージセンサ
■主な著書・論文
●『Active optical interconnect based on liquid crystal grating』
  (共著、2003年、Applied Optics)
●『Theoretical considerations for arrayed waveguide displays』
  (単著、2002年、Applied Optics)
●『Fingerprint in put based on scattered light detection』
  (共著、1997年、Applied Optics)


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