理工学部 応用化学科 小島 一男 教授に聞く

有害物質を炭酸ガスに、注目されるエコ技術

 「光で除菌」「光で防臭」というキャッチフレーズの製品を、最近よく目にする。一体どのような仕組みなのかと疑問を持つ人も少なくはないだろう。これらは光触媒の技術を使ったもので、強力な酸化力を生かした空気の浄化や有害物質の分解、超親水性を生かした外壁などの防汚コーティングなどに使われ、今後様々な分野での活用が期待されている技術のひとつである。
 今回は光触媒のメカニズム・応用例について、理工学部の小島一男先生にお話をうかがった。

光触媒のしくみについてお聞かせください
 「触媒」とは「それ自身は変化せず、他の物質の化学反応を促進させる物質」ですが、光触媒は、触媒へ光をあてると有機物(主な構成元素は炭素と水素)を分解し炭酸ガス(二酸化炭素)や水に変えるというものです。ここでは最も一般的な光触媒である酸化チタンにおける原理について説明します。
 紫外線を酸化チタンに当てると、電子の抜け孔であるエネルギーの低い正孔とエネルギーの高い電子の対ができます。正孔は酸化チタンの表面で水(H2 O )と結びつき、水酸ラジカル(・OH )という活性酸素を生成すると考えられます。この活性酸素は非常に酸化力が強く、有機物を分解して二酸化炭素(CO2 )を生成します。これが光触媒の大まかなしくみです。
 このしくみを使うと、有機物からできている有害物質や細菌を、分解・死滅させることができます。
 このように、酸化チタンを使った光触媒では、どのような光でも有効であるわけではなく、紫外線を当てなければ光触媒として働きません。そのためごく微量の紫外線を含んでいる蛍光灯の光を当てた室内でも光触媒の効果がでますが、室外の太陽光の当たる場所の方がより大きな効果が得られます。
光触媒技術が実用化されるまでの経緯についてお聞かせください
 光触媒がもてはやされるようになったのは1990年代半ば以降なので、新しい技術のように思われがちですが、基礎研究は1910年代から行われていました。60年代後半、光化学電池の実験で光触媒のしくみの原型となるものが発見され、70 年代には著名な学会誌などで取り上げられました。これがその後の酸化チタン光触媒ブームのきっかけになったと言われています。水や空気浄化の応用研究が80年代以降活発になり、90年代になると技術上の様々な工夫がなされ、人々の環境問題への関心の高まりとともに無毒で安全な酸化チタンを用いた光触媒製品への実用化が急速に進みました。
 90 年代後半には、酸化チタンの超親水性現象も発見されました。超親水性とは水がなじみやすくなる現象で、紫外線を当てた酸化チタンに水滴がつくと膜状に薄く広がります。鏡の表面に酸化チタンをコーティングすると、鏡が曇る原因となる光の乱反射が起こらず曇り止め効果が出ます。この超親水性は紫外線を当て続けなくても効果が持続するため、雨が降っていても鏡が曇りにくく、路上のカーブミラーや自動車のサイドミラーなどに使われています。また超親水性により、汚れの原因となる有機物を分解するのを待たずに、汚れの下に水が入り込み、流して落とす「セルフクリーニング」効果が発揮され、光触媒技術は光触媒性と超親水性の特性を生かして、現在も更に開発が進められています。
光触媒技術はどのような分野で応用できるでしょうか?
 ごく最近、飛行機の座席シートに光触媒が使われるという新聞記事がありましたが、光触媒技術を利用して、消臭・防臭・防汚・殺菌・抗菌効果がある様々な製品が作られ、現在、高速道路のトンネル内照明やビルの窓ガラス、身近なところでは空気清浄機などの電化製品や、カーテンや壁紙といったものに使われています。医療器具や院内感染防止のために医療施設内に酸化チタンのコーティングを行う医療機関も増えてきています。
  また鳥インフルエンザ、SARSなどの病原菌に対する分解作用も認められています。体内に入った病原菌は紫外線を当てられないので分解が難しいですが、室内の空気の清浄や殺菌などに有効とされています。このような病原菌は分解するとベロ毒素という有害物質を生成しますが、光触媒はこのベロ毒素も分解することができます。
 更に、研究が進めば、光触媒技術を大規模に利用する水質の保全・汚染された土壌の浄化、環境ホルモンの分解などの技術が進展するでしょう。比較的小規模での水の浄化や狭い範囲での土壌浄化は行われていますが、大規模・広範囲に光触媒技術を使うには、汚染物質が光触媒に接触しなければ効果がでないという光触媒特有の問題や、費用上の問題などがあります。
 最近、チッソ原子を混ぜた酸化チタンなどで、紫外線だけではなく可視光でも働く光触媒が作られました。可視光が使える光触媒技術が発展すれば、光触媒の利用がさらに拡大すると思われます。
  現在、光触媒に関する標準化、規格化の必要性が強くなり、光触媒技術や得られる効果などは、今後国内のJIS規格を作り、いずれは世界の統一規格であるISO規格の策定へとつながり、日本発といえる光触媒技術は世界標準の技術へと発展していくことが期待されます。

 


                             こじま  かずお
理工学部 応用化学科  小島  一男  教授

専門分野/無機化学・光材料化学
 
◆主な著書・論文
  • 『高効率希土類蛍光体とその応用』
                         (共著、2004年、ティー・アイ・シィー)
  • 『Acid­ Free Synthesis of Poly­ Organo­ Siloxane Spherical Particles Using a W/O Emulsion 』
                         (共著、2003年、J.Mater.Chem )